キャンプを楽しむ僕らが主役 〜朝霧JAM’23 初参加体験記
- 2023/11/16 ● Report
ご来光にラジオ体操!全身で実感する気持ちのいい朝
例年より2週間後ろ倒しで開催された今年の朝霧JAM。僕は初参加なので比較はできませんが、「いつもは昼間はTシャツだったけど今年はきついな」とか「寒くて目が覚めちゃったよ」とか、寒さに関する声も色々聞こえてきました。僕はというと、それほどは堪えませんでしたが、かなり寒かったのは事実。-15℃まで耐えられる寝袋と、キャンパーの先輩に教えてもらった100均の防災アルミシート&アルミポンチョが効いたのかもしれません。話を聞くと、ずっと快晴なのは珍しいとのことで、雨がまったく降らなかったのも大きかったのでしょう。来年以降に洗礼が待っているのかもしれませんが、初参加の今年は終始快適に過ごすことができました。
2日目は6時頃に起床し、ご来光に備えます。辺りは既にかなり明るいというのに、太陽はまだ見えないのがなんだか不思議な感じ。寒さに震えながらカーニバル・スターの展望エリアで待っていると、富士山の右の方からお日様の姿が現れ、ばーっと照らされる朝霧アリーナ。その光景もさることながら、はっきりと暖かくなっていくのを肌で感じる体験はとても感動的で、早起きした甲斐がありました。「いつも遅くまで飲んでるから見たことないわ」と話す友人もいましたが、それはもったいないぞ!来年はぜひ一緒に見ましょうぜ。
それからまどろみながらうだうだと過ごし、のんびりとレインボー・ステージへ。朝霧JAM実行委員長の体操おじさんこと秋鹿博さん主導のもと、ラジオ体操の時間です。みんなよく知っているあのラジオ体操ですが、本門寺重須孝行太鼓保存会の皆さんも一緒になって、広大な野原で数千人が一緒に体操するのは格別に気持ちいい!腕を左右に振る運動では、斜め後ろに振り上げた腕の先に富士山。なんて贅沢で清々しい時間なんでしょう。
そしてすぐさま本門寺重須孝行太鼓保存会の演奏が始まりました。曲紹介のMCは、発表会を見守るような微笑ましさもありつつ、総勢20人ほどの見事な佇まいは圧巻の一言。伝統的な奉納太鼓の音曲を起源としつつ現代的に編曲しているそうで、西洋音楽に近いリズムも随所に感じられるのは冥丁やKASSA OVERALLのライブとも通じるところがありました。これが伝統を今に伝えるってことなんだなとしみじみと感じながら、気持ちよく一日がスタート。今日もゆったり楽しんでいきましょう。
朝っぱらからクラフトビール片手に、骨太ながら軽快で楽しいtoconomaの演奏で奔放に踊ったり、ギターの鳴りだけにゆったり浸れるTOMMY GUERREROの演奏を遠くに聴きながら木札作りワークショップに参加したり。渋いアクトが多めな朝霧JAMですが、Helsinki Lambda Clubの明快なギターロックのチャキチャキした感じもよく映えてたし、いろんな表情が似合いますね。もちろん最前列まで行って、かじりつくのもいいのですが、無理せずゆったり過ごしていても最高の音楽が鳴っている不思議な信頼感。それは、素晴らしい富士山麓の景色とキャンプを楽しむみんなの姿があってこそなのだと自然と感じます。まさにit’s a beautiful dayな体験をみんなでつくっている一体感は、フジロックや他のフェスティバルとも一味違う特別なものに感じました。
昼過ぎからは持ち前のダウナーなトーンがより深く感じられた、さらさのバンドセットに重心低く揺られたり、音圧は抑えめながら色々自分でやっちゃう一人バンド感が軽妙な、CHET FAKERの演奏を楽しんだり。ふらっと奥地のカーニバル・スターに顔を出してみると、NOZOMUやKOICHI HANAFUSAのDJタイム。フジロッカーズ・バーに集まる面々も大集合で、陽気なサウンドで談笑しながら踊ったり、いつの間にか置かれていた大きなボールを子ども達と転がしたり。居合わせたみんなが好きなように楽しむ、大きなステージにはないゆるいレイヴ感。これもまた朝霧JAMの表情なんですね。素敵な時間はまだまだ続きます。
今に受け継ぐ古き良き伝統を体感する20回目の朝霧JAM
そろそろ終盤に差し掛かるレインボー・ステージには、KITTY, DAISY & LEWISが登場。なんの臆面もなく古き良き時代への憧憬がほとばしるロックンロールを歌い鳴らしながら、すべてがフレッシュでキラキラ輝く姉弟の演奏。みんなが薄々感じている現代社会の歪さとプリミティヴなものへの渇望に触れてくるライブは、誰よりもまっすぐにオールディーズで、それ故に一番先鋭なパンクスにも感じました。「新しい発展は病気だ」とMCで故郷ロンドンのことを語りながら、“Going Up the Country”で晴れやかに繰り返す「Baby, don’t you wanna go?」は、都会を離れて訪れた朝霧JAMだからこそ感じ入るものがあり、思わずボロ泣き。本門寺重須孝行太鼓保存会でも感じましたが、これもまた伝統を今に受け継ぐということなのでしょう。
夕方には、主催の京都音楽博覧会を終えたばかりのくるりが満を辞して登場。BADBADNOTGOOD、OGRE YOU ASSHOLE、折坂悠太とともに出演予定だった2019年(台風で中止)を経て、なんと2009年以来17年ぶりの出演。どよめきが巻き起こった冒頭の“ワールズエンド・スーパーノヴァ”や、やたらとエッジィなアレンジが施された人気曲“琥珀色の街、上海蟹の朝”など、わかりやすいフェス映えなど考えない彼らの真骨頂が光ります。
オリジナルメンバーの森信行を迎えた最新作『感覚は道標』がノスタルジーごと今に刷新するような作品だったように、攻めることがアイデンティティのような岸田繁と佐藤征史の姿。この日のドラムを担当した石若駿のプレイも冴え渡っていて、KITTY, DAISY & LEWISから続く流れだったからこそより一層グッとくるものがありました。圧巻は最初期の名曲“虹”で、長尺のアウトロセッションでは、佐藤のベースソロや岸田のスキャットにも唸りましたね。くるりはいつだって思い出ごと鮮やかに塗り替えて、僕が何に夢を見ていたのかを思い出させてくれる。そんなことを感じた胸が熱くなる時間でした。
そして日も暮れて、大トリはNight Tempo。タイムテーブル発表の時は若干意外な感じもありましたが、想像以上に朝霧JAMの夜が似合っていて、クロージングのようにはちゃめちゃに楽しいDJタイム。ほとんど知ってる曲だから疲れてるみんなもすぐぶちあがるし(とはいえ日本育ちの僕でも聞いたこともない楽曲もあり彼のディグには脱帽です)、“君に、胸キュン。”や“め組のひと”、“Digital Love”など、フジロッカーの心をくすぐる選曲にも惹かれたものです。クラブDJのクールさとはかけ離れたぶっきらぼうな煽り方も、なんだか愛らしいんですよね。最後は松田聖子の“SWEET MEMORIES”
でみんなでスマホのライトを掲げ、決めポーズで締めたかと思えば即座に「朝霧終わった!帰れ!」と叫ぶNight Tempo。これは痛快でした。踊り倒した僕らも清々しく切り替えられた、絶好の大トリでしたね。さあ、“本番の”オーバーナイトに繰り出しましょう。
仲間たちと過ごす夜のひと時と、しんみり眺める翌朝のご来光と
キャンプでは気心の知れた仲間達と焚き火を囲みながら談笑。2日間のライブや常連の先輩から聞く朝霧JAMのエピソード、はたまた赤裸々な打ち明け話をしたりと、普段から会う友人でも朝霧JAMの雰囲気だからこそ話も弾みます。僕はこれまで宿泊は手段としか捉えてなかったのですが、それ自体が目的で主役なキャンプインの魅力を存分に味わうひと時。更けていく夜の宴は焚き火の薪がなくなるまで続きました。ああ、これが朝霧JAMなんですね。
翌朝も6時頃に起床し、見晴らしがいいと聞いていたレインボー・ステージ手前の展望台にご来光を眺めに向かいます。Aサイトのみんなが帰ってテントもすべて撤収された朝霧アリーナを眺めていたら、この光景を歌っていたのかとさえ思えるくらい、前日観たくるりの“虹”の歌詞が自然と浮かんできました。「何もない広い野原 戻ることも嘆くこともない」。そんなかけがえのない3日間でした。
フジロックでもそうですが、疲れているし眠いのになんだか活力に満ち溢れてる翌朝がすごく好きで、まだまだ自分の意欲と工夫と努力次第でもっとキャンプが楽しくなりそうで、わくわくしたことをよく覚えています。ここは非日常だけど、それぞれの人となりやこれまで生きてきた人生が色濃くあらわれてるようにも感じて、誰にも恥じない自分としてまたここに帰ってきたいなと素直に思いました。その日を目指して悔いなく過ごして、また来年の朝霧JAMでお会いしましょう!
Text by Hitoshi Abe
Photo by 森リョータ、白井絢香、HARA MASAMI(HAMA)、リン(YLC Photograpghy)、おみそ、安江正実
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