• フジロック 苗場20th特別インタビュー「フジロックと苗場を繋ぐ人」梅沢英夫さん編


    苗場でのフジロック開催が今年20回目の節目を迎えます。そこで今回、節目を迎えた苗場とフジロックを繋いでいる人たちにインタビューを敢行しました。20年という歳月を経て、苗場の人々が見ているフジロックの姿は一体どんなものなのか。そして苗場にやってくるフジロッカーに対しては、どんな思いなのでしょうか。最終回となる第6回目は苗場観光協会・理事の梅沢英夫さん(以下、梅沢さん)。フジロックでもおなじみの苗場食堂の立ち上げメンバーであり、食堂の管理をご担当されています。そんな梅沢さんに苗場食堂の歴史やあの大人気メニューの誕生秘話、フジロックまで約一ヶ月に迫ったところで、早く苗場に行きたくなるようなお話をたくさんお聞きしました!

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    大人気、苗場食堂の歴史

    ─ 梅沢さんは苗場食堂の管理を担当されていたとのことで、苗場食堂の誕生は2002年でしたよね?

    梅沢さん:そうですね、私が苗場食堂に関わり持ったのは2002年。仕入れから衛生管理、色々なものの手配まで担当していました。今のシフト制の運営体制をやろうと最初に言ったのは私でして、去年くらいから当時の副会長(佐藤高之さん)を中心に協会の全員で苗場食堂の運営をしています。去年は高之君をメインに、我々が今までのノウハウをお伝えして「こういうときはこうやってやるんだよ」と、アドバイスしながら運営していました。

    (旧)苗場食堂の様子

    (旧)苗場食堂の様子

    ─ 2014年にもインタビューさせて頂きましたが、そのときと変わったことはありますか?

    梅沢さん:そうですね、一番変わったことは設備ですね。当時は簾とかがかかっているテントの仮設で、冷蔵庫も外から運んできて、今はもう建物がしっかりと建っている。冷蔵庫も設置されたままになっていて、ガス水道も全部揃っている。それが全然違いますよね。やっぱり始めて何年かっていうのは、お客さんに苗場食堂自体を浸透させるのに時間もかかりましたし、最初は私たちも忙しくなかったんです。ただ裏にステージができましたよね?苗場食堂ステージ。そのステージをやるようになってからはお客さんの量が圧倒的に増えました。とにかく、それ以前は作るのも観光協会や旅館組合の役員がほとんどやっていて、人数にすると20人前後くらいが交代+ボランテイアの方も何人か頼んでやっていたのですが、とても追いつかなくなってきたんです。そこから、ちゃんと協会員の人たちにも出てもらって、みんなで苦労を分け合おうじゃないかと(笑)。

    ─ ははは(笑)。

    梅沢さん:みんなフジロックの恩恵は受け取っているので、「1シフトでいいので出てください」、「前夜祭も含めて4日間の間に、1回5〜6時間やってもらって交代しましょう」というシフト制をとってやることにしました。それで1日4シフトくらいやって、運営時間を長く組めるようになっています。こういう形になった理由としてもうひとつ。ステージが遅くまであるんですけど、終演前に店を閉めたことがあるんですよ。始めた当初はもう在庫がなくて売るものがないから、12時前に閉めたこともあるしね。そしたら出店管理の方に「せめてステージが終わるまでやってもらわないと困る」と言われて、「それにはちゃんとした人員が必要だよね」ということになって、今のような形になりました。先ほども言ったように、テントだったときは雨が降ったら本当に大変で、足元がグチャぐちゃでみんな大変ですよ(笑)。かと言って、サンダルではいられないし、靴をはいてもビショビショで。今はもうちゃんとしたお店になっちゃったんで快適です(笑)。

    (現)苗場食堂の様子|Photo by 阿部光平

    (現)苗場食堂の様子|Photo by 阿部光平

    ─ 今のお店の形になったのは2015年くらいですよね。

    梅沢さん:2015年か確かそれくらいからだと思うんだけど。ストックヤードも窓を開ければすぐそこにあったりして、移動距離が短くなったのですごく楽になりました。前はもうテント、テント、テント….って感じで、さらに食材を濡らしちゃいけなかったりで大変だったんですよ。

    ─ メニューも変わりましたか?

    梅沢さん:基本的には変わってないですよ。ご存知のように山菜のメニューって地場のものを使ったものが多いです。ただそれを採ってくれる人が歳を取ってきてしまって、高齢になってしまっているんですよね。もう80歳くらいの人が多くて。さらに使う量が半端じゃないもんですから、今年はもう採れないという方がちらほらいらっしゃってる中、これから先はもう出せないものも出てくるんじゃないかなと思ったりしてます。だから、ごはんとそれに付随するもの、例えばとろろ、きりざい、汁物とかそういうところを中心に、今後もブレないでやっていくしかないんだなと思っています。だけど、山菜が今までのようにいかなくなってきちゃって、そこが悩みの種なんですよね。会場近くの筍山で再来週からたけのこWEEKが開催されるので、そこで参加される宿の方にちょっとお願いできればと思っています。

    大人気、とろろ飯の誕生秘話を大公開!

    大人気とろろ飯|Photo by 安江正美

    大人気とろろ飯|Photo by 安江正美

    梅沢さん:最初、日高さんに出店を頼まれたときは、僕らもほかのお店で売っているようなものが売れると思ってたから、それをやればいいのかなと思ってたんです。クリームチーズにカナッペとか。そしたら日高さんに何度も怒られましたよ(笑)。

    ─ どうしてですか?

    梅沢さん:「それはどこにでもあるだろう!苗場でしか食べれないものを用意してくれ」って。山菜なんて僕らの感覚だと、日常の一コマでしかないんですよ。若い人たちは本当に食べるのかな?なんて思ってました。お肉とかの方がいいんだろうと勝手に思い込んでたんです。それなので最初はご飯に生卵を提供してたんですよ。でも生卵って衛生的に管理が難しいので「ちょっと微妙だよね」って話になったときに、取引先が浅草にいたのでたまたま東京に行くことがありました。神田に美味しい鰻があるっていうんでそこを目指してたんですけど、その途中にあるお店にものすっごい人が並んでたんです。

    ─ 気になりますね。

    梅沢さん:それで思わず並んでる人に「何食べるんですか?」って聞いたら「麦とろ定食です。」っていうんです。麦飯にとろろですよ?「ここじゃなきゃ食べれないじゃないですか、家で食べたくても買ってとろろなんて自分で作りませんから」って言われてそのときに「これだな!」と思って、早速会議で「とろろをやりたいんだ」と言いました。最初はものすごいみんなに反対されたんです。「そんなの売れるわけないじゃん」って(笑)。だけど当時「つくし亭」の店主が役員だったので「とろろをやりたいんだけど、なんか作ってくれる?」って言ったら「おう、それじゃ出汁と合わせて、なんか作ってやるよ」って言ってくれて、1日50人前くらいのタッパーを2つだったけな、作ってくれたんですよ。それで多分足りるかと思ったら、もう1時間もかかんないうちになくなっちゃって(笑)。最初は山芋を手おろしだったので全然間に合わなかったんですよね。正直、僕らもそんなに売れると思わなくて、気になったのでお客さんに聞いたんですよ。「なんで食べるんですか?美味しいですか?」って。そしたら「やっぱり朝はさっぱりとご飯をさっと食べて、すっとお味噌汁を食べたくなるのが日本人だから」って言われて。なるほど、じゃあもっと量を増やそうってことで業者さん探してもらって、多く仕入れることになりました。

    Photo by 千葉原宏美

    Photo by 千葉原宏美

    ─ どれくらいの量がフジロックで食べられているんでしょうか?

    梅沢さん:(とろろは)最初は多分1キロパックが10個入っているものが40-50個くらい(400-500kg)あれば足りるだろうって感じだったんですけど、今は1トンでも足りなくて、1.2〜1.4トンとか使ってますね(笑)。お米もすごい量なんですよね。30kg袋が28体出ます。

    ─ す、すごい…

    梅沢さん:とろろは運ぶのも大変で。 よく業者さんも対応してくれるよね(笑)。ほんと頑張ってくれていて私たちも発注が遅くならないように対応してます。

    苗場だから食べられる味、全てはおもてなしの為に

    Photo by リン

    Photo by リン

    ─ 県外の人たちはやっぱり地元の料理が食べたくなるんですかね。

    梅沢さん: 私の息子も今大学で東京でてるんですけど、こっちにいた頃は全然地元料理を食べなかったんですよ。だけど今は「帰ってこないと食べれない、この時期しか食べれないから」と、すごくありがたがって「いや〜、ほんとうまいんだよね」って。そんな姿を見て「あ、これがフジロックにきていただいている若い人たちの感覚なんだ」って感じるようになりました。特にここ何年かは芸能関係の人がここにきて、食べたものをツイートしてくれたり、テレビで言ってくれたりするじゃないですか。その影響力がすごくて、フジロックに来たら食べなきゃいけないみたいになってくれてるんですよね(笑)。「ご飯ってなったらここ(苗場食堂)」っていう方もいるみたいで。ご飯なんて売ってるところはいっぱいあるのに、ここで食べてもらって本当にありがたいです。だから、ちゃんとこちらもブレないようにやっていかなきゃいけないんだなと思っています。途中まで串に刺した豚肉とかも売ってたんですよ、それも一切やめよう。とにかくご飯で一汁一菜にこだわろう、苗場にきたなら、苗場でしか食べれないものを食べてもらおうと思っています。

    ─ 一番手作り感が感じられるのが苗場食堂ですよね。

    梅沢さん:日高さんから「苗場食堂はおもてなしということでやってくれ」「500円でみんなのお腹をいっぱいにしてくれ」と最初に言われたことがありました。その方針があったので、「じゃあ最後に雨降った中だったらあったかい味噌汁でも100円で出してやろうよ、200円で出してやろうよ」っていう世界でやっていこうと思ったんですよ。だから売れる量は半端じゃないと思うんですけど、儲からないのも半端じゃない(笑)。

    ─ 苗場食堂だけじゃないですかね、大盛りで追加料金取らないのって。

    梅沢さん:そうそう、ご飯を多めにしますね。 上にきりざいがかけられない、とろろがかけられないくらい(笑)。周りのお店からすると苗場食堂の値段の安さと量の多さはよくやめてくれって言われるんですよ(笑)。でも、私たちはお客さんに望まれるからやっている、食べたいって言えば出してあげる、くらいのつもりですね。東京からわざわざお客さんが来てくれているんだからそれくらいはしなきゃっていう感じです。

    苗場食堂から見た20年の変化

    FUJI ROCK FESTIVAL公式サイトより

    FUJI ROCK FESTIVAL公式サイトより

    ─ 20年っていうのはすごい長い歳月だと思うんですけど、お客さんの変化はありましたか?

    梅沢さん:もちろん変化はありますね。ここ5年くらいは、ごみの捨て方ですかね。カウンターに置いていってしまう人がいるんですよ。よそで食べたものも置いていったりとかして。5・6年くらい前まではだいたい皆さん片付けてくれて、あんまりそういうことはなかったんです。あとは苗場食堂で提供するものは量が多いし、熱いものが多いのでトレーに乗せて出すんですよ。大体4日間で200名分くらいトレーを用意するんですが、最終日になるとトレーがほとんどなくなってしまうんですよ。それが捨てられてしまったのか、持って帰っていただいたのかわかないんですけどね。ただ苗場食堂ってシールが貼ってあるだけなのに(笑)。リユースすることを前提に出してるのに、終わる頃にはほとんどなくなってしまうのは少し残念ですね。

    ─ 今年はマナーを向上させるようなコンテンツや動画もできていますね。

    梅沢さん:俺らがいうことじゃないかもしれないけど、多様性というか、フジロックのお客さんの中身がだいぶ変わって来たんじゃないかな。もちろんステージのアーティストも変わってきたしね。フジロックのオリジナルのルール(ゴミ捨て、など)みたいなものを知らないのでそういう風になってしまっているのかなと思います。悪い人が来てるとは全く思わないけど、ほんのちょっとした心遣いだと思うんですよね。

    やっぱり美味しいフェスごはん!今年の苗場食堂はどうなる?!

    サバサンド倶楽部 サバサンド

    サバサンド倶楽部 サバサンド

    ─ 忙しい中でもフジロック期間中で楽しみにしてることはありますか?

    梅沢さん:シフトの時間を調整して、目当てのアーティストがいればそこをめがけていってます!あとは「偵察」という名の食べ歩き(笑)。束の間の時間を楽しんでいます。

    ─ 今までで美味しかったものは何でしょうか?

    梅沢さん:2年くらい前かな、サバサンドが衝撃なくらいすっごい美味しかったんですよ。でも、翌年から「サバはないんです」と言われてしまったんですが。あとは一時オアシスに出てそのあと(旧)オレンジコートに移動してしまったんですがビックママっていうお店。そこのコッペパンに挟んだカツサンド!お肉もものすごい柔らかい上に、ソースがものすごい美味しかったんですよ。オアシスに出店していたときはうちのスタッフはみんなそれ買っていましたね。ところ天国のバーガーも食べに行きたいんですけど、なかなか遠いし、行くと並ばないと行けないしね。(笑)

    天国バーガー | Photo by アリモトシンヤ

    天国バーガー | Photo by アリモトシンヤ

    ─ 以前取材したとき、(天国バーガーは)1日1,200個売れると聞きました。

    梅沢さん:(ところ天国の)お店の人は「並ばなくていいよ」って言ってくれるんですけど、お客さんに申し訳なくて。それは私たちも並ばないといけないなと思ってます。最近ここ何年も食べてないのでまた食べに行きたいです。

    ─ 今年の苗場食堂はどんな感じになりそうですか?

    梅沢さん:今年は昨年と同じ、今までのままで行こうと考えています。新メニューを考えるときはメンバーが会議で発案してみんなの合意を持って決めています。試食会も前はやってたんですが、今は「(きっと)うまいからやろう」って始めてますね(笑)。これやれば絶対お客さんがくるだろうっていう感覚があれば、最初の麦とろみたいなメニューが生まれるんだろうなと思っています。

    ─ 最後に今年フジロックに来る方に対してメッセージをお願いします!

    梅沢さん:変わらず皆さんの胃袋もハートもあっためてやれるような食事を提供したいと思ってます。雨が降っても、槍が降ってもやってますので(笑)。お待ちしてます。

    ─ 本日はありがとうございました!


    フジロックでお馴染みの苗場食堂。そこにはおもてなしというモットーの元、心のこもった食事が提供されていることがわかりました。20年という中で運営方法を変えてみたり、メニューに工夫をしてみたり苗場食堂も色々な変化がありましたが、いつも中心には「お客様を第一に」という変わらない思いも感じました。お話の中にもありましたが、苗場食堂の食事を食べると「苗場に帰ってきたー!」と感じる人も多いのではないでしょうか?かく言う私もその一人です(笑)。梅沢さんのお話を聞いて、「今年も絶対とろろ飯を食べよう!」と心に誓ったのでした。

    画像はイメージです

    画像はイメージです

    また、今年フジロック苗場開催20回目とグラストンバリーからやってくるアンフェアグラウンドのコラボZIPPOライターが苗場食堂で販売されるとの情報をキャッチ!黒メッキ仕様でカッコいいデザインとなっております。300個限定で価格は5,000円(シリアルナンバー入り)。気になる方は苗場食堂へ駆け込みましょう!

    最後に

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    さて、全6回でお送りしたフジロック 苗場20th特別インタビュー「フジロックと苗場を繋ぐ人」。いかがでしたでしょうか?20年という長い間、当たり前のように開催し続けられるフジロックも、縁の下で支えている多くの苗場の方、地元の方の協力や思いがあってこそ実現できるものなんだと改めて気付かされました。インタビューで伺った彼らの苦労や思い出話は、何度も何度も心が温まるとともに感謝の思いでいっぱいになりました。このシリーズを通して、読んでくださったフジロッカーたちと少しでもこの思いが共有できたら幸いです。あと一ヶ月と迫ったフジロック、苗場の人への感謝とともに、20回目の開催を盛大に祝福しましょう!

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    フジロック 苗場20th特別インタビュー「フジロックと苗場を繋ぐ人」佐藤高之さん編

    連載 苗場20th特別インタビュー「フジロックと苗場を繋ぐ人」
    写真:Masahiro Saito、Riho Kamimura、白井絢香、リン
    文:Eriko Kondo、Masako Yoshioka、Masaya Morita、卜部里枝
    インタビュー / 編集:アリモトシンヤ(fujirockers.org / Festival Life

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