湯沢・苗場地区の方々による、グラストンバリー・フェスティバル体験談!フジロックの苗場開催20回目を祝福する「アンフェアグラウンド」に迫る
- 2018/04/29 ● Interview
今年のフジロックは、英国のGlastonbury Festival of Contemporary Performing Art(通称・グラストンバリー・フェスティバル。以下、グラスト)の移動遊園地「アンフェアグラウンド」が、苗場開催20回目を記念して昨年オレンジ・カフェがあった場所に出現します。フジロックのモデルとなったことでも知られるグラストは、48年の歴史を誇り、広さは1100エーカー(東京ドーム95個分以上)の広大な農地で開催されています。2017年はレディオヘッド、フー・ファイターズ、エド・シーランをヘッドライナーに迎え、名実ともに世界最大級のロック・フェスティバルとして知られています。
アンフェアグラウンドは、ヘッドライナーの演奏が終了した深夜~明け方にかけて、グラストで最も賑わう場所のひとつ。夜通し音楽が鳴り響き、建物内や通路に仮装した人や大勢のお客さんがひしめき合う、キッチュさとカオスに満ちたエネルギッシュなエリアです。グラストの、もっともグラストらしい表情に触れられる、コアな場所とも言えます。
毎年フジロッカーを迎えてくださる立場の湯沢町や苗場の方々が、昨年、大将ことスマッシュの日高社長のお誘いで、グラストに参加されました。苗場スキー場の今泉超利さん、湯沢温泉旅館組合の井口智裕さん、湯沢町議会議員の高橋五輪夫さん、苗場観光協会の新井一州さんに、グラストを実際に体験した感想と、湯沢・苗場地区の方々がアンフェアグラウンドの誘致へどのような関わりをされているかについて、グラスト参加歴7回のオルグ・スタッフがお話をうかがいました。4月5日に公開した日高大将のメッセージ、「フジロック2018最初の挨拶 後編:20回目の苗場にグラストからアレが!」と合わせてご覧ください。
─ 簡単に自己紹介をお願いします。
今泉:苗場スキー場で働いております。フジロックは苗場開催が決まる前の下見のときから、なんとなく記憶しています。途中から会場の係になって、フジロックの運営担当の人だとか、ステージ設営さんと親しくさせてもらっています。
井口:越後湯沢の駅前で、HATAGO井仙という旅館を営んでいます。地元では湯沢温泉旅館組合長をやっています。10年前ぐらいに旅館組合の若手で鮎茶屋っていう鮎の塩焼きの店を出さないかという話をいただいて、それ以降フジロックには毎年参加させてもらっています。
高橋:自分の家も旅館(湯沢温泉・雪国の宿高半)を営んでいて、井口さんと鮎茶屋も一緒にやっています。鮎茶屋をやる前ですが、湯沢町で若い人たちが何人か集まって「地域に何かできることを考えようよ」という会があったんです。越後湯沢駅の東口にバスの発着場がありますが、昔は駅のロータリーからではなく、裏からフジロックへのシャトルバスが出ていたんです。「これはだめだよね、駅のロータリーを全部解放できるようにしよう」って言って、町長を引き込んで、フジロックの皆さんが楽々駅前から出発できるように、街を説得しました。それ以来フジロックに地元で何か協力できることがあるか色々考えてきて、鮎茶屋というところで今落ち着いています。
新井:苗場観光協会の役員をやらせてもらっています。自分はグラストとは一切関係ないことで日高さんにお話を聞きに行ったことがあったのですが、その時にいきなり日高さんから「パスポート、持ってるか?」と聞かれて、「持ってます」って答えたら、行くことになりました。もちろん強制で行ったわけじゃないですよ。望んでいきました(笑)
─ それまで、グラストのことはご存知でしたか。
新井:フジロックのきっかけとして、グラストがあるのは知っていました。何の前触れもなくパスポートがあるか確認されたときは、どこに行って何をするんだかよくわからないけど、「わかりました」と答えました。あの人数があのエリアでテント泊しているグラストの世界は全然想像していなかったけど、「まあ、なんとかなるだろう」と思っていました。
─ 他の方々はどのようなきっかけで、グラストに参加されましたか。
井口:日高さんと地元の観光協会から「フジロックの苗場開催20回目を迎える機会に、若手が実際にグラストの現場を見てみては」と話がありました。多少なりとも海外の経験があって、フジロックの流れをわかっている人間が地元でも少ないなか、声がかかりました。
─ これまで海外はどんな国を回りましたか。
井口:フランス、ドイツ、スペイン、チェコ、オーストリア、スイス、ニュージーランドに行きました。去年はイタリアという感じですね。海外へ行くきっかけもフジロックで鮎を焼き続けて上がった売上で世界を見ようということで行くようになり、フジロックが縁で、世界から湯沢を見るきっかけができました。
グラストはイベントの運営というより、フェスと地元自治体とのつながりや、交通インフラがどうなっているのか、地元の皆さんとどういった連携をしているのか、街としてどうサポートをするべきなのかというのを見るつもりで行ったんですけど、実際は次元が違いすぎて・・・参考になったような、ならないような(笑)
─ グラストの会場に入って、どう感じましたか。
高橋:もうすごいですよね。グラストは農場主が自分の農地でドーンとやっているので、着いて第一印象が「なんだ? この広さは!?」で圧倒されましたね。テント張る場所までの間は、「突如としてでっかい街ができちゃうんだな~」と不思議に思っていましたね。何十万人って人が会場外に泊まりにいくわけじゃなくて、中に全部が集約しているからすごいですよね。
─ ちょっとした国みたいな感じですよね。
今泉:グラストは基本的にみんながテント泊だから、高台から見るとステージも見えるけど、テントエリアも、ものすごく大きかった印象です。フジロックでも沢山の方がテント泊されていますが、自分の中のイメージだと湯沢からバスに乗ったり、宿から会場へ通うイメージだったので、何十万人の人がみんなずっと会場にいる。あれはすごい。
井口:一番びっくりしたのは、ボランティアとお客さんがシームレスなこと。どっちがボランティアなのかお客さんなのか、あんまり垣根がない気がしました。フジロックは働くところと、遊ぶところの線引きがきちっとしているけど、あっちは割と緩やかで、こういうのもありなんだなと思いましたね。
今泉:私はフジロック開催地の代表という気持ちで行ったので、スケジュールを立てて、全エリアの写真を撮り、メモをとりながら回りました。
─ ライブはみましたか。
今泉:ステージの近くを通りかかったときに、演奏しているライブを観ました。特定のアーティストを観るためにステージに行くのではなく、一番大きなピラミッド・ステージのヘッドライナーだったら、どれくらいお客さんの数が集まるのか等、少し違った目線で見ました。他にもセキュリティ、フード店舗、衛生面、スタッフなどの運営の部分をメインに歩いていました。毎日20kmくらいは歩いてましたね。
全員:そうそう、広いから、すぐそれくらいになっちゃう。ずっと歩いていたイメージ。
─ 他に印象的なことはありましたか。
今泉:ゴミがすごかった。自分たちはお客さんたちより早く会場入りしていたにも関わらず、ゲートからゴミの山でした。「あれ、もう終わったの?」みたいな。フジロックの最終日が終わった後くらいの量のゴミが、初日が始まる前からある。ゴミ箱としてドラム缶が置いてあるけど、みんなその中へあまり入れないし、缶はグシャッと踏んでそのまま。決して比べるわけじゃないですけど。フジロックのお客さんの素晴らしさを改めて実感しました。
井口:僕はオーガナイズという視点と、旅館をやっていたり、フジロックで飲食店をやっているので、会場の雰囲気とか、飲食が気になりましたね。面白いなと思ったのがオーガニックとかヴィーガンの店が結構多かった。日本のフェスの食事はガッツリ系ですけど、ヨーロッパはかなりバリエーションが広い。
─ 屋台の食事はどうでしたか。
井口:「イギリスはまずい」というイメージがありますけど、全然そんなことはなくて、クオリティーはそれぞれだと思いました。
─ どんなものを食べましたか。
高橋:ヴィーガン用のナチョスとか、グレービーソースがかかったソーセージとマッシュポテトや、フライドポテトにルーがかかってるものとか。サイダー(Cider、シードル。りんご酒)にハマって、フジロックでも鮎茶屋でサイダーを出しました。今年も出す予定でいます。
─ グラストのサイダー専門の屋台で、温かいサイダーを飲んだことがあります。日本でもサイダーを手軽に買えるようになってきましたね。
今泉:会場内のビールはほとんど冷たくないから、途中から常温でも違和感なく飲めるようになっていましたね。けど帰国して冷えたビール飲んだ時は「やっぱ冷えてなきゃだめだよな」って思いましたね(笑)。フジロックはぬるいビールを提供しているお店無いですよね。
─ 新井さんはどういう風に会場を回りましたか。
新井:一番印象的だったのが、グラストの世界観の作り方ですね。エリアごとに違う特徴を持った街や国のような世界ができていて、人々がそこで楽しんでいる。それがこの場所で何十年も続いているって凄いですよね。自分のいる場所からどの方角へ行っても全然別の世界がある。それがすごく楽しかったし、今まで生きてきて感じたことがない空気でした。アンフェアグラウンドの昼間は、カメラ片手にのんびりできる感じでしたが、夜はびっちり人がいて歩くのも大変。あそこまで昼夜でまるっきり違う顔になるって、すごい。ああいう空間の作り方がすごく魅力的でしたね。自分はアート的なものが大好きなので、刺激をたくさんもらえました。
─ お客さんの様子はどうでしたか。
高橋:結構年配の方も多かったよね。
今泉:電動カートに乗って来ているおばあちゃん見たときは微笑ましかったですね。もちろん年配の方だけじゃなくベビーカーに乗ってイヤーマフしている赤ちゃんも居ましたし、3世代って感じがしました。
新井:老若男女幅広くて、そういうところが街だと感じるところかもしれませんね。
高橋:年配の方が集まっているエリアでは、年配の人ウケする曲がかかっていて。皆さん楽しそうに踊っていたりしてとてもいい雰囲気でしたね。
今泉:会場が広いだけあってキッズエリアは遊園地って言えるくらいのスペースがあったな~。
井口:音楽だけじゃなくて映画があったり、ヨガをやっていたりホント様々な場所がありますよね。その中でもカレーを無料で配っているところはびっくりしました。「なんで無料なの?」って思いましたね。今思えば食べればよかったですね。
新井:自分、そのカレーじゃないですけど、日本風のカツカレー食べたんですがおいしかったですね。
井口:新潟県十日町市・津南町に「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」というイベントがあるのですが、あそこでしか体感できないアートっていうのがあると思うんですよね。モナリザみたいに何百年も色褪せない美しいものもあるかもしれないけど、大地の芸術祭のように道中の自然の風景、人との出会いを経て作品を見るのと、無機質な美術館で見るって言うのとは全然感じ方が違うんですよね。フジロックもグラストも、場所に居合わせた空気感とか、音楽で盛り上がったこととか、その場所でたまたま出会った人たちの話とか、そういうものがミックスされてインスピレーションを受けるっていうのが面白い。こういうイベントはすごい地域が豊かになるなと思います。
─ 確かに場の持つ力の影響は大きいかもしれないですね。
井口:すごいことだと思うんですよね。フジロックにしても大地の芸術祭にしても、世界からいろんな方々が来られるし。このエリアにこれだけ人、アートが集まるのが、地元としては非常に誇らしいですね。
─ グラストのアンフェアグラウンドが、今年はフジロックで見られるということなんですけれども、経緯を教えてください。
井口:地元としては苗場開催20回目なので何かやろうということと、僕らが実際にグラストを見に行ったベースがあったので、たまたまタイミングよく呼べそうだという話をスマッシュから話があり動き出した感じです。
同席していたスマッシュ社員H氏:経緯はアンフェアグラウンドのディレクターたちが(パレスのスタッフでフジにも来たことがあって)「今年はグラストがないから、フジでなにかできないか」と連絡が来たことから始まっていると思います。真意は日高のみぞ知るということになります。
(編注:真意は、日高大将のメッセージ、「フジロック2018最初の挨拶 後編:20回目の苗場にグラストからアレが!」を参照)
─ グラストは5〜6年に1回、お休みの年がありますね。今年、グラストのお休みと苗場開催20回目が運良く重なって、日高大将からのオファーを、地元の方が受け入れてくださったのですね。アンフェアグラウンドが来ることに関して、みなさんは現段階ではどのようにコミットされていますか。
高橋:湯沢町全体で、どのように協力できるか考えています。
新井:苗場では、臨時の総会が開かれましたよ。地域でどう協力できるのか、あとアンフェアグラウンドの予定地がサッカー場なので撤収などを考えると学生の夏合宿の受け入れ態勢で影響出たりするかもしれませんが「どう思いますか」って聞いたら、意外とみんなが賛成だった。すんなりいかない話も多いんですけど、その場でやることが決まりました。
高橋:アンフェアグラウンドの作り込みはすごいよね。演出がすごい。あれをフェスのために作っちゃったのが、びっくりでした。フジロックのために、イギリスから持って来ちゃうのも凄いですよね。これは是非見てもらわないと。
─ 当日の関わりなどもあるのでしょうか。
井口:スマッシュやアンフェアグラウンドチームの考えもあるでしょうから、言われれば協力をする準備をしようと思います。
新井:地域でひとつのエリアを作り上げたというのが大事ですよね。
─ どれぐらいの規模なんでしょうか?
スマッシュ社員H氏:自分が聞いている範囲ではDJ・パフォーマー・設営スタッフなどで50名ぐらい来日します。機材は、20トンぐらいになるようです。
高橋:50名の20トンって凄いですよね。
新井:フジロックに来て音楽が嫌いな人はいないと思いますが、音楽だけじゃなくアートを見るだけでも今年フジロックに参加するようなら見に行った方がいいし、昼夜で見え方が全く違うので、2回は行った方が良いと思います。自分も時間が取れれば行きます。今年だけなんですもんね。
今泉:自分も時間が取れれば鮎茶屋で買ったサイダー片手に行きますよ。
井口:苗場地域の皆さんは、ボードウォークみたいに直接フジを作ることに関わっているものがあるんですけど、湯沢町の皆さんの中では、フジロックが20年間いろいろと地域に貢献してくれたことへ何かやりたいという感謝の気持ちが強いんだと思います。20回目という節目もあるので、地元が何か協力できることがあれば是非、という気持ちだと思います。ほら、新潟県人は花火をあげるのが好きじゃないですか。(※有名な花火大会に、長岡花火や片貝花火がある)どか~ん!っと、それに近い感じだと思いますよ。アンフェアグラウンドに関しては、僕らは本流ではなく、あくまでサポート。ですが、せっかく本場のものを見てきているので、なんかやっぱりもっとそれ以上にコミットしなきゃいけない部分があるかなと思っています。
─ 湯沢・苗場地区の方々の全面的な協力によって、湯沢・苗場20回目の開催年に今年限りでフジロックにグラストの一部が出現するんですね。地元の方々の想いをうかがえて、温かい気持ちになりました。実際にどんな風に地元とアンフェアグラウンドがコラボしてしまうのか、当日までワクワクしながら待ちたいと思います。ありがとうございました!
2003年から2014年まで、ジャズやワールド・ミュージック中心のラインナップと、初日の深夜はオールナイト・フジで盛り上がった、フジロックの奥地のステージ、オレンジ・コート。オレンジ・コートが廃止された2015年は、ボード・ウォークの廃材を利用したキャンプファイヤーが燃え上がり、2016年・2017年はオレンジ・カフェとして生まれ変わりました。その場所でグラストのエッセンスともいえるエリアが体感できるとは!フジロッカーの想像の斜め上を行くスペシャルなアナウンスに、今年のフジロックへの期待がさらに高まります。3日通し・2日参加の方はもちろん、1日参加の方もぜひ奥地まで足を延ばして、フジロックの湯沢・苗場開催20回目を一緒に祝福しましょう!
文:平川啓子
写真:アリモトシンヤ(fujirockers.org / Festival Life)