フジロック 苗場20th特別インタビュー「フジロックと苗場を繋ぐ人」佐藤高之さん編
- 2018/06/11 ● Interview
苗場でのフジロック開催が今年20回目の節目を迎えます。そこで今回、節目を迎えた苗場とフジロックを繋いでいる人たちにインタビューを敢行しました。20年という歳月を経て、苗場の人々が見ているフジロックの姿は一体どんなものなのか。そして苗場にやってくるフジロッカーに対しては、どんな思いなのでしょうか。第5回目は苗場観光協会・協会長の佐藤高之さん(以下、佐藤さん)。フジロック会場にも近い宿、グランブルーも経営されています。また、フジロック会場における危機管理も担当されており、知られざるフジロックの裏側のお話や、ボブ・ディラン出演決定による客層の変化、さらに苗場食堂ステージの誕生秘話など、貴重なお話を聞くことができました!
─ 初めて苗場でフジロックが開催されたときのことを教えていただけますか?
佐藤さん:フジロックの話が苗場に来たとき、ちょうど苗場観光協会の役員をやっていました。フジロック開催に反対の人も確かに多かったですよ、僕は賛成でしたけど。「まずやってみて、ダメだったらやめればいい」という考えでした。毎年夏の時期は、サッカーの合宿の予約が入っていたので自分の宿に余裕はなかったのですが、それでも僕は賛成でしたね。
─ それでも賛成した、という理由は何ですか?
佐藤さん:っていうか僕、そもそもフジロック自体が好きだったので。チケット買ってたんですよ、1997年に初めて天神山でやったときのを。絶対に行きたかったのですが、サッカーの合宿の予約が入って、結局仕事で行けませんでした。もう、とにかくメンツがすごかったですよね。だから苗場で開催した初年度、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが来たのでもちろん見に行きましたよ。めっちゃ良かったです!
─ そうだったんですね。その頃のお客さんの様子はどうでしたか?
佐藤さん:フジロックに来るお客さんについては、良くない噂も聞いていたので、すごい人たちがやって来るんじゃないか、と心配していた面もあったけど、実際にはあまりに行儀が良くてびっくりしました。それから、苗場での初年度は今より宿泊する人が少なかったと思います。その頃は、フジロック中に合宿のお客さんの予約も入れていましたし。まだ、フェス自体のスタイルができていない時代だったから、わざわざ宿をとって行くことが定着していなかったんだと思います。日帰りで来ていたお客さんも結構いたんじゃないかな。東京なら新幹線で帰ることもできるし。3年目くらいから宿の予約が増えてきたと思います。
今年、苗場で20回目を迎えますが、フジロックをずっとやってきてマイナスに感じたことはひとつもないですよ。昔からお客さんのマナーはいいと思っています。4万人オーバーの人が来るイベントであのゴミの少なさは異常ですよ(笑)。海外の人からするときっと信じられないんじゃないかな。例えば、海水浴場とか本当にゴミが酷いところもあるから、そういうところと比べたら、僕はマナーはすごく良いと思います。
フジロックにボブ・ディラン、その影響力!
佐藤さん:最初の頃はステージも少なかったけど、日高さんから「ステージ増やしたいんだよね」という話があって。お客さんも増えると思うので「じゃあ、協力しますよ」と言って、そこからフジロック中は合宿の予約を入れないようにしました。
─ 苗場で20年間お客さんを見てきて、何か感じることはありますか?
佐藤さん:最初の頃って、ルーキー・ア・ゴーゴーに結構売れてるバンドも出ていたんですよ。アジカン(アジアン・カンフー・ジェネレーション)とか。場外のステージだからチケットは必要ないのに、当時はそれを知らないお客さんもいて、ルーキー・ア・ゴーゴーのステージを見るためにチケットを買ってきた人がいたときは驚きましたね。
─ 場外はチケット無しで見れることが、まだ浸透していなかったのかもしれませんね。
佐藤さん:苗場で始めて数年後からは、アーティストによってお客さんの層もちょっと変わるようになってきたと思っています。一番そう感じたのは、2005年にファットボーイ・スリムが来たときですね。苗場食堂でずーっと飲んでいるお客さんがいて「何しに来たんだろう?」と思ってたら、どうやらファットボーイ・スリムだけ見に来てる様子でした。そうやってアーティスト目当てで来る人も増えてきているな、という印象ですね。
─ 今年はボブ・ディラン目当てのお客さんが多いような気がします。
佐藤さん:多分、客層がちょっと変わると思いますよ。年配の人たちが増えるんじゃないかな。ボブ・ディランが決まってから、年配の人から電話での問い合わせが多くなったんですよ。おそらく70歳前後の方々なんじゃないでしょうか。多分、来日するのがこれで最後だと思って見に行こうとする人も少なくないのでは?と思います。70歳前後の方って、元々スキーで苗場に来ていた世代でもあるので、苗場に宿があることは知っているから「とりあえず問い合せてみよう」という人もいるんじゃないかと。宿の予約を取りつつ、ついでにフジロックの情報も聞いておこう、という感じがしています。若い子たちはスマホで調べると思うけど、そうじゃないので。「(苗場の)どこでやるの?」なんて聞かれたこともありますよ(笑)。
─ 現在、宿の空き状況はいかがでしょうか?
佐藤さん:今はもう宿が埋まってしまってるんですよ(※2018年4月)。会場に歩いて行ける苗場・浅貝エリアはリピーターでほとんど埋まっちゃうんですよね。会場から徒歩圏内のエリアで宿のベッド数が約3,000くらい、プリンスホテルが約4,000弱くらいかな。でもお客さんは数万人いますからね。
─ 苗場で20年続けてきて、苗場観光協会として気をつけていることはありますか?
佐藤さん:やっぱり、天候ですかね。天候が悪化したときに、宿としてどう対応するか。スキーとは勝手が全然違うので。例えば、夏は合宿の受け入れをしていなくて、フジロック期間だけ営業する宿には「お客さんが帰ってきたときに長靴を洗う所を作った方がいいよ」とアドバイスしたり。そうすると、水の出るホースや泥を落とすブラシを用意してくれたりしていますね。
会場の危機管理、フジロックフェスティバル連絡協議会とは
─ フジロック中、佐藤さんはどんな仕事をされているのでしょうか?
佐藤さん:まずは、オアシスにある苗場食堂の運営ですね。それから、会場の危機管理も担当しています。「フジロックフェスティバル連絡協議会」という組織が設置されているんですよ。
─ 初めて知りました。具体的にどんなことをしているのですか?
佐藤さん:例えば、大雨が降ってきたときは、それに対応するための協議を本番中に随時やっています。だから「雨量が増えてくると忙しくなるぞ!」といった感じですね。雨量が増えすぎると、国道17号って閉鎖されるんですよ。もし、そうなった場合、取り残された人たちをどうするのか、とか。だから、そうなる前にどれだけの人を避難をさせられるのか、とか。新幹線が動いてないときは、越後湯沢駅でどのくらいの人数が過ごせるのか、といった話し合いをしています。
あとはキャンプをしている人たちが1万人以上いるので、臨時で避難できる場所も考えています。レッドマーキーには3,000人くらい、プリンスホテルのロビーや通路、空いている店舗には5,000人くらい、公民館に2,000人とか。三国小学校も使えるようになったので、じゃあ2,000人くらいは入れるだろうか、といった数字を拾い出しています。避難場所が遠いと輸送が発生してしまうので、輸送しなくても避難できる場所から案内できるように考えています。
─ そこまで考えていらっしゃるんですね。
佐藤さん:避難する事態にならないに越したことはないですが、そうなってしまった場合はどうしようもないですからね。だから事前にしっかりと対策は立てています。ご存知だと思いますが、2009年にものすごい大雨が降って川が増水してしまったことがあって。ホワイト・ステージ前にかかっている橋の補修工事をしなくてはいけないので、オレンジコートでのオールナイトフジが中止になったことがありました。
─ あのときは本当にすごい大雨でしたね。
佐藤さん:そのとき、日高さんから「何とかできないか」と相談されたのですが、さすがに無理でしたね。日高さんは前向きな考え方なので「中止をしないでなんとかやれる方法はないか」という話はありました。もちろん、やれることがあれば協力しますが、どうしてもできないことは「できない」とちゃんと言わないと。人命があるので。
─ 他にフジロックで大変なことはありますか?
佐藤さん:ハードだなと思うのは、しっかり寝れないことですかね。気持ち的にも寝れなくなっちゃうんです。睡眠2時間とか。ただ、それは自分だけじゃないと思っています。でも、昔に比べてトラブルは減りましたよ。夜中に電話がかかってくることが限りなく減っているので。最初の頃は、車が路肩から落ちたとか、会場のどこどこを直して欲しいとか、本当に色々な電話がかかってきましたから。会場の補修ってお客さんが入っていないときにやるしかないんだけど、その時間に合わせて起きて行くという器用なことはできないので、寝ずに朝4時くらいから直すこともありましたね。まあ、それも含めてフジロックだと思っています(笑)。でも、大変だと思ったことはないですよ。多分、冨士男さんもそうなんじゃないかな。朝、一番初めに会場で会うのはだいたい冨士男さんですから(笑)。
─ そうなんですね(笑)。
佐藤さん:でも20年も続けていると、毎年改善されていくので色々上手くやれるようになりましたよ。去年は置き引き対策で会場に派出所もできましたし。やっぱり(警察官が)制服で巡回してると違いますね。被害は極端に減ったと感じています。
─ 逆にフジロックで楽しみにしていることはありますか?
佐藤さん:フジロックが来ること自体が楽しみですね。だって、お祭りですから(笑)。苗場食堂に毎年来てくれる人の顔を見るのも楽しみだし、芸能人の方も長蛇の列に並んで買ってくれているのを見たりすると嬉しいですね。苗場食堂のメニューは、落ち着くまでいろいろ試したんです。日高さんからは「安い料金でお腹いっぱいにして欲しい」とリクエストされているので、盛りも多くしていますし、大盛りは追加料金とってないですから(笑)。
─ 大盛り無料って太っ腹ですね!
佐藤さん:それから、他の楽しみといえば、知らないアーティストはやっぱり自分の目で確かめたいですね。だから状況を見て、行ける時はチラッと見に行きますよ。フジロックは初めて見るバンドでも、これはないんじゃない!?っていうのは意外となくて。「こういうのもアリだな」っていつも思います。
苗場食堂ステージの誕生秘話
─ 会場で色々な方にお会いしていると思いますが、アーティストさんとの思い出はありますか?
佐藤さん:色々忙しいこともあり、アーティストの方とお会いする機会はほとんどないですが、(忌野)清志郎さんとは、日高さんと一緒に苗場食堂で飲んだことがあります。僕、RCサクセションのライブを結構見に行ってたりしてたんですよ。で、飲んでいるときに、清志郎さん、日高さんにいきなりライブさせられてましたよ(笑)。「清志郎くん、ちょっと今からやる?」って。また急に思いついちゃって(笑)。実は、それが苗場食堂でライブをやるようになった始まりなんです。
─ その時は、まだステージなんてなかったですよね。
佐藤さん:それで次の年からは、ちゃんとステージを作ったんですよ。最初の頃は、確かギャズ(・メイオール)とか、日高さんが知っている人が出ていたと思います。その後、スマッシュのNさんがステージの担当になって、そこから関西のコテコテのバンドがやるようになったよね(笑)。「赤犬とか、スカまでやっちゃうのー!?」って感じで。あのステージの作りで飛び跳ねてライブしたら大変でしょ(笑)。
─ 確かに(笑)
佐藤さん:今はもう大丈夫ですけどね。苗場食堂のステージにもたくさんお客さんが来るようになったので、去年リニューアルして大きく作り直したんです。レッドマーキーからお客さんが流れてきて、多い時はあそこに2,000人近く集まっちゃうから、もうビックリするよね。
─ 最後に、今年も年に一度のお祭りを楽しみにしているフジロッカーに向けてひと言お願いします!
佐藤さん:シンプルな言葉になっちゃうけど、今年も苗場で待っています!フジロックは、実際に足を運んでみないとわからないことがたくさんあるので、ライブを見るだけじゃなくて色々な体験ができることを考えたらチケットは格安だと思いますよ。社会人の方は、ぜひ仕事の夏休みをフジロック期間にとってもらって、テストがある学生の方は…まぁ、あと1年多く学校に行ってもらえれば(笑)。冗談ですが(笑)。3日間ずっと雨が降っちゃうと「もう二度と行きたくない!」って思う人もいるかもしれないし、それでも楽しいから「また来たい!」って思う人もいたり。人によって感じ方が違うので、初めての人は、まず自分自身でフジロックがどんなものかをぜひ体験しに来て下さい。
─ 今日はどうもありがとうございました。
フジロックに雨はつきもの。いざという時の避難場所も確保してあるということを知って、皆さんも安心したのではないでしょうか。普通に考えれば当たり前のことかもしれませんが、佐藤さんのお話を聞いて、改めてフジロックを運営するということの大変さ、そして色々な苦労をしながら、実行できているという凄さを垣間見たような気がします。フジロックが毎年あることはもう当たり前だと思っていますが、苗場に移って20年も続いていることに改めて感謝します。
雨の話に関連して、初めてフジロックに行く方は、雨具をどうしようか迷うと思うのですが、長靴は保険だと思って持って来ることを強くおすすめします。何せ山の天気なので、急変することもあって、突然の土砂降りも珍しくありません。防水レインウェアを買おうか迷っている方は、今はレンタルサービスもある便利な時代なので、天気予報に頼り過ぎず(これ本当に)、かしこく準備して雨でも楽しめるフジロックにしましょう!
Text by Eriko Kondo
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