フジロック、最近どうよ!? シリーズ その2 –オフィシャル・フリーマガジン『Festival Echo』編集長/キャンプよろず相談所・滝沢さんインタビュー
4月 2nd, 2010

フジロックの移り変わりを検証するインタビューシリーズ、第二弾は、毎年6月、 フジロックのチケット一般発売と同時に発行されるオフィシャル・フリーマガジン『Festival Echo』の編集長でもあり、キャンプサイトに来るお客さんのサポートを行なうアウトドア協賛ブース「キャンプよろず相談所」の滝沢守生さんに登場していただいた。 よろず相談所は、フジロックや朝霧JAMにも開設され、お世話になった人も多いだろう。そうしたところからみた参加者の気質の変化や、これからの野外フェスの可能性など、フジロックや夏フェスをキーに語ってもらった。
【お客さんがタフになった?】
お客さんがタフになったとは思わない。でも、昔よりも多くの情報が事前にあるから、ちゃんと準備してくるお客さんは増えたよね。以前はなんの情報も準備もなく、フラっと来て、雨風に祟られたりしたお客さんが多かったけど、今は、マーケットもできて、基本的な装備を揃えれば、少々雨が降っても快適に過ごせるという知識を持っている。だけど、基本的な人間としてのタフさみたいなものは、もしかしたら昔よりも落ちてるような気がする。
なんでかって言うと、昔はロックフェスだからけっこうロック? な人が多かったんだよね。ベロベロになってひどい奴もいっぱいいたんだけど、今はひどいやつがいなくなった反面、決してタフになった人が増えたんじゃなくて、事前の情報でしっかり準備してくるようになった子が多くなった。昔の方がタフなおじさんたちが多かったように思える。問題を起こして「何だよオメエ」みたいに食ってかかる手に負えない困ったちゃんがいたけど、今は、みんなおとなしいというか、聞き分けがいいというか、ロックな人がもしかしたら少なくなってるのかもしれない。
【アジアからの人が増えた】
それとアジア圏から来る人が増えたような気がする。日本人みたいな顔だから、会話をしてみないとわからないけど。いざ話してみると、英語と片言の日本語だったりする。アジアからの人たちは、潜在的にけっこう来ていると思うよ。ap bank fesにも関わっているんだけど、意外とap bank fesみたいなフェスもけっこう多いかもしれない。台湾や韓国の人たちにもJ-POPカルチャーは浸透しているしね。
あるとき、テントを持っていないと相談に来たアジアの人には、どうしようもなかったら、近隣の宿もまだあるかもしれないし、ドミトリーみたいに開放している宿もあると思うので、探してみたらと。もし、お金がないようであれば「3日間いるの? 1泊だけなの?」って聞いて、1日だけだったら、「レッドマーキーとかは朝までやってるからずっと踊っていればなんとかなるよ」と励ましたり。
意外とアジアの人たちに向けて、意識的にインフォメーションを発信してはいなかったよね。
【最近の相談事情】
よろず相談所って名のっていると、何でも相談に来るんだよね。ちょっとは自分で考えろよっていうこともある。だから看板を掲げるのはどうなのかな? と最近思うときもある。「なんとなくいる」というぐらいでいいのかなと思ったり。
残念なのは、最近は盗難にあったかもしれないという相談も多い。勘違いかもしれないけど、それで思うのは、意外とそれぞれが隣のテントに無関心だということ。キャンプサイトに着いたら「3日間ここにテント張ります。東京から来た○○です」って、周りと友達になってしまえばいいんだよね。あいさつしておけば、お互いに気にするようになるし、盗難の予防にもなる。ちょっと留守にするにしても隣の人に声かけたり。
でも、みんな無関心だから。「うるさい」とか「人の場所取った」とか「狭い」とか世知辛い。そうじゃなくて、3日間なり4日間なり寝食を共にする、向こう三軒両隣っていうじゃない。そういう意味でも、近所づきあいは大切だよね。気持ちよく過ごすためにも、周りに「よろしく。酔っ払って迷惑かけるかもしれないけど、そんときはビールおごります」みたいなこというだけで、快適になるんだよね。変な疑心暗鬼になるよりは。ただでさえ知らない人があれだけ集まるんだから。
それと、いいテント、いい装備が増えている反面、激安量販店とかで売られている格安のテントも一方で増えている。日本のメーカーが中国とかで安く作らせて、量販店専用で展開するわけ。立てにくくて、壊れやすいの。そうなるのは大概、同じ商品で、某メーカーか某メーカーなわけ。一度この会社の担当者に来てもらって、「明日から、ここに座って、よろず相談所やってみてくださいね」って、テントが張れない、壊れたというお客さんの対応をして欲しい。だって、たいていは、そのメーカーのテントなんだよね。そのぐらいの現実をみせておかないとダメかもしれない。いいテントを買って、ひとつのモノを大事に使って、「ここでも楽しかったから、次に使う」とか、「今度は違うところへ遊びに行きたい」って思わせるような物作りをしないとメーカーは自分の首絞めると思うよ。アウトドアが楽しくなくなって二度とアウトドアには行かなくなってしまうとこっちも迷惑。
しかも、そのメーカーのものは一回使ったら、捨てて帰るんだよ。一回でも元取れちゃうほど安いから。そんな捨てられたテントは、最後に建てままキャンプサイトに放置されている。回収すると軽トラック一杯分ぐらいになるんだけど、その中から使えそうなパーツは、「テント壊れたんですけど」って相談所に来たときのスペアパーツ用にとっておく。大体ポールが折れるのはそのメーカーだからね。
【フジロック全体の感想】
ひところに比べて落ち着いてきているんじゃないかな。自分でもナチュラル・ハイっていうイベントも主催しているけど、フェスが多様化していると思うんだよね。4?5年の間に音楽ジャンルに合わせた中規模や小規模の野外のイベントが増えてきたから、選択肢が広がったと思うんだよね。選択の幅が広がったから、フジはピークと比べると、どのステージでも入場規制みたいなのがずいぶんなくなってきて、非常に適正だし、別に人数増やすことが目的じゃないから、持続可能な形で、常に新しい出会いをしながら面白いことやっていればいいと思う。フジロックには、こういうときに着実にやり続ける力を感じるよね。
ここ苗場もそうだけど、日本の山岳クラシック・リゾートっていわれるようなところ–蔵王とか赤倉、野沢など、昔ながらのいいスキー場は規模もでかいし、それなりにいいインフラを持ってるんだよね。駐車場もあって、ホテルもあって、でも夏場はなかなかお客さんが来ない中で、フジロックの成功事例はすごい気にしてるし、フジロックほどじゃないにせよ、地元の観光協会やホテル・民宿の2世3世の若い連中が、夏にイベントを始めている。コンテンツ的には、地元の若い連中から始まっているから、大きなプロモーターやレコード会社やテレビ局はついてなくて、なかなかアーティストのブッキングという面からすれば弱いけど、まずは手作りフェスから始まってだんだん大きくなってきている。例えば、蔵王の龍岩祭や上田ジョイントなんかは、地元の若い連中が手作りで始め、いまではフリーフェスとして、相当な規模になっている。今は試行錯誤してやっているけどそういう可能性はいろいろあると思う。
フジロックはフェスティバルカルチャーが日本で定着していくためにも、いい成功モデルなんだよね。これだけの人を収容できて、新たにインフラを整備しなくても、道路はしっかりしているし、駐車場あるし、宿泊もあるし、郷土色もあるし、こんなにいい場所はない。そういう意味でも、もっともっと日本のスキー場の夏の利用を目を向けていったら、おもしろいと思うんだよね。
【朝霧JAMについて】
朝霧はソールドアウトであのキャパでしょ、詰め込みすぎじゃないかとも思うけど、ひとりでも多くのお客さんにキャンプをしてもらいたいと思うと……、うれしい反面だいぶ手狭になってきたので、今後どう改善できるのかが課題かな。
本栖の駐車場からあれだけバスでピストン輸送しなきゃいけないわけじゃない。そうすると帰りの撤収のときも大変だし、バスの中に大量の忘れ物があるんだよね。これをなくす意味でも、運営側でいっているのは、全部東京発のツアーバスだけにする。そうしたらみんな心置きなく最後まで飲んで帰れるし、ビールの売り上げも倍になるよね。そのぐらい実験的なことをやってもいいんじゃないかなとも思う。
あとは、ふもとっぱらぐらいまでキャンプサイトとして開放する。グリーンパークの駐車場に車止めてるんだから、(グリーンパークの近くにある)ふもとっぱらと会場を結ぶバスを常時走らせればいい。それができればいいよね。
【理想のフェスとは】
理想的にはキャパはMAX5000人くらいで、いい森があって、たき火ができて、近くに川か湖があるといいね。そんなロケーションでなんかできたら。で、音楽だけじゃないコンテンツがもっと自由にあって……でも自分たちがやっているナチュラル・ハイなんか、まさに自分たちのやりたいところでやっているんだけど。
あと、今いってるのは、海でやりたいねって。朝霧もフジも山じゃない? スマッシュの人と話してて海ヴァージョンをやりたいねって。全然違うコンテンツが作れるし、そういうロケーションでぜひやりたいねって。海での楽しみ方もいろいろあるだろうし。夏だと炎天下で暑いから、気持ちいい5月とかに。
【フジロックに望むこと】
やりつくした感はあるんだけど(笑)。フジロック10年で培ったノウハウを今度どう伝えていけるかってことかな。フジロックといういいものを、文化として、日本の社会の中でテーマになってくるような、いい種を残したと思うんだよね。だからこそこのソフトを苗場だけに完結しないで、フジロックがやったノウハウをしっかりと、いろんなところに持っていってほしい。社会に還元していくことが次の課題。そうすることで10年、20年経ったときに、フジロックってこういうイベントだったんだって、いわれるようになるのかな。
text by org-nob, photo by org-maru,org-natsuki