• 週刊フジ 〜分析編〜


    「フジロックが好きか?」と訊かれれば、正直わからない。だけれども、「リスペクトしているか?」と訊かれれば、その答えはわざわざ改めて書くまでもない。考えれば考えるほど、とてつもないことをやっている。きっかけは音楽なのかもしれないが、「音楽を忘れさせる環境を創る」というのは、途方もないことだ。

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    所謂、「ワールド・ミュージック」でくくられることの多いライヴに顔を出す身としては、たびたび現場でフジロック、特に、オレンジ・コートの話題がのぼる。そして、そのほとんどが、「(オレンジは)復活するべき」という内容だ。確かに、新たな音との出会いがあったり、レジェンドがトリをつとめたりと抜群に面白い場所だったし、無くなったことには一抹の寂しさを感じる。だけれども、(それぞれの想いはあるだろうが)個人としては、「オレンジの廃止」が間違っていたとは露ほども思わない。主催の側にしても、ひとしきり悩んだうえでの決断だったと思うし、結局のところ、我々は受け身でしかない。やれることといったら、フジでなんらかの遊びを見つけて、それを精一杯楽しむぐらいだ。

    フジロックに行くのは金がかかる、だからいろいろと言いたいし見たい、というのは当然だし、わかる。ひとまずそれは置いておいて、どこにも肩入れせず冷静に考えると、フジを満喫するには現地で滞在しなければならない、ということだ。要は、苗場で一時の生活をし、さらに交通とフジそのもののチケット代がかかる。出発前にはパッキングをするという、旅行にも似た準備が必須となる(いっぽうで、こういう連中もいる)。

    かたや、運営の側も考えてみる。そもそも、一度に音楽の二大発信元(アメリカとイギリス)から、様々なアーティストを呼ぶということ自体が大変なこと。はるばる極東まで招聘するためにかかる費用など想像もつかない。向こう(現地)ではけっこうな割合で、「国内」や「近隣」のアーティストだったりする。フジロック初年度、前例がないことをやる=フェスティヴァルを興す、というのは会社生命をかけた決断だったと思う。天神山でダメージを受けた、それでも、自然の中へと回帰するという野望を秘め、ようやく、「苗場」という場所を見つけた。諦めの悪さではない、なにか、「新しいことを『続けよう』」という意思や、気概があったはずだ。

    ライヴのためのインフラが整っていない山野を巡り、見つけられたなら自治体を説得して、さらに交通や宿、駐車場といった、「地図」を作ることにとりかかるなど、プロモーターにとっては専門外のこと。他にも実に様々なことや、問題が横たわっていたのだろうが、すべてを乗り越えた。フェスを興したことのみならず、20年近く継続して開催しているというのもまた、並大抵のことではない。

    継続という面において、フジは、なにひとつブレていない。「継続は力なり」というが、継続は文化をも創る。現在、全国各地でフェスが開催されている状況を見るにつけ、フジは、「フェス文化」という種を蒔いた存在で間違いないだろう。そして、未だにその文化を牽引していること、土地に根付き、地元の人たちも大きな期待を寄せてくれていること、日本のフェスの有象無象にとっては、すべての面において、偉大な先輩であり、精神的支柱と呼べる存在だ。

    そもそも、フジとは予想を超えた出来事を体験する場所なのだと思う。あさっての方向から楽しみがやって来るような、なにか、新しい扉を開くきっかけみたいなものが転がっている。そんなきっかけが醸造されるには、ただ一回の開催では成り立たないはずだ。フェスというものは、体験したことを下界に持ち帰り、話のネタにするような、正解も、間違いもないもの。オレンジがあるからフジ、であるはずはなく、フジがあるからオレンジもあった。そこでなにかしらの影響を受けたのであれば、ステージが増えようが減ろうが、今後も足を向けるのだろう。そして、ぞっこん極まったなら、開催期間中ではない、「オフシーズン」の苗場に訪れたりもするのだろう。

    ミュージシャンなら、「いつかはフジで…」と夢を見て、活動を続ける原動力となるかもしれない。また、昨今復活したザ・イエロー・モンキーも、真意のほどはわからずとも、フジ開催中のスケジュールを開けて、「初年度のリベンジをしたい」などと考えているのかもしれない。成り上がりのきっかけ、大一番…それぞれに思惑があるだろうが、フジがあることで、受け手も存分に夢を見ることができる。去年のフジで目の当たりにした、「縮小」も、理由があるならやむなし。数歩下がってでもいいから、続けられるべきもの、無くなってはならないもの、なのだと思う。

    行ったことがない人は、「フジロッカー」と呼ばれる人々が、どうしてそんなにフジに入れこむのか、鼻を明かすつもりで一度、覗いてみればいいのではないかと思うのだ。完全にフジの色に染まらないにしても、どこかのアイツが言っていたことに膝を打つことはあるだろうし、ミイラとりがミイラになる、なんてこともあるんだろう。

    諸行無常、カタチあるものはいつか終わる。そんな世の中の大前提からツラツラと駄文を綴ってみたけれども、20回を跨ぐこれからのフジは、親子三代が顔を並べて遊ぶ真夏の三ヶ日、なんてものになりつつある。子育てでフジを離れた者が戻ってきたりと、だんだんと敷居も下がるだろう、などと思ったりもするのだ。

    Text by 西野タイキ
    Photo by Masami Munekawa


    icon-weeklyfuji「週刊フジ」はフジロッカーズオルグのスタッフがそれぞれの観点で、フジロックへの思いを綴るコラムです。毎週水曜更新!一覧はこちら

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