• “地中海のビック・ウェーブ”BOOM PAMがフジに到来!中東音楽の伝道師・サラーム海上に直撃取材!(後編)


    サーフ・ギターと中東のエキゾチシズムが危険な融合を遂げて誕生したイスラエルのサーフ・ロック・バンド、BOOM PAM(ブーム・パム)。インストの多い楽曲群から繰り出されるタイトで豊かなサウンド、カラッと晴れた中東の雰囲気と波しぶきまで感じられそうな陽気なヴァイブスにたちまちノックアウトされてしまう。26日にフジロックに登場する彼らとの親交も深いサラーム海上(うながみ/以下、サラーム)氏に行ったインタビューの後編。

    前編では、BOOM PAMとの出会いやイスラエル周辺の音楽事情、さらには黒人・白人だけではくくり切れないロックンロールの源流の話にまで触れることができた。後編では、世界を股にかけ、民族音楽の現場に飛び込み続ける謎多き(笑)サラーム氏の経歴や多岐にわたるライター活動、フジロックや海外のフェス事情を中心に訊いた。もしかして今最もアツいかもしれない(?)中東・東欧の音楽シーンに、是非この機会に注目してもらいたい。BOOM PAMが初フジロックで魅せるライヴ、きっとすんごい波がやってくるに違いない!

    前編はこちら

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    子供のころから民族音楽的なものに惹かれるんですよ

    ― 後編になってからで恐縮ですが、サラームさんのことを知らない方もいるかと思いますので…

    サラーム: 当然です。僕は単なる音楽ライターですよ(笑)!

    ― そんな!“よろずエキゾ風物ライター”として、音楽ライター、中東料理研究家、DJ、バックパッカー…など多くの肩書きがあり、明らかにキャラの濃い経歴もお訊きしたいなと。

    サラーム: はい、ありがとうございます。

    ― サラームさんが世界の音楽、特に中東というか、そういった地域の音楽に興味を持ったきっかけというのは。

    サラーム: 子供のころから、ずーっと中東とインドの音楽に惹かれて…何か惹かれるんですよ。ハリウッド映画『レイダース』で、中東のアザーン(イスラーム教徒に礼拝の時刻を知らせる呼びかけ)が鳴っていて、それに惹かれて、何なんだろうと。ザ・ビートルズを聴いても、インド音楽の部分に惹かれたりとか。

    ― 子供のころというのは。

    サラーム: 小学校5年ぐらいから。

    ― もう小学生から。

    サラーム: あと、クラシックの授業とか嫌じゃないですか、聴かされるの(笑)。

    ― (笑)。

    サラーム: でも、チャイコフスキーの“くるみ割り人形”やヘンリック・イプセンの“ペール・ギュント”とかだと、何故だか惹かれるんです。そういう民族色の強い曲に…“ペルシャの市場にて”とかね。中学になると、坂本龍一さんがNHK-FMのラジオで『サウンドストリート』をやってたりとか、亡くなった民族音楽学者の小泉文夫先生も『世界の民族音楽』という番組をやっていて、そこで世界中の音楽を知ったり。あ!僕、今その番組やってるんで、ありがたいことですね!そうだ、あははは!

    ― そこに繋がるわけですね(笑)。

    サラーム: そうそう。それでインドネシアのガムランとかブルガリアのコーラスとかを紹介していて。図書館にあった民族音楽のレコードを堀って。僕はYMO世代で、もちろんロックやニュー・ウェーヴも同時に聴いてたんだけど。でも何を聴いても、やっぱり民族音楽的なものに惹かれるんですよ。アフリカのリズムとか、中東やインドのメロディとか。

    それで当時はWAVEっていうレコード屋さんがあって、僕は大学を卒業してから、そこに就職して働いてたんです。WAVEの六本木店と渋谷店に行くと、フランスを経由したアフリカ音楽のCDとかレコードがあったんです。そこで、僕はフランス語を覚えなきゃいけないと思ってフランス語を覚えたんですけど。

    ― え!?いきなりそこまでできなかったりしますけどね(笑)。

    サラーム: うん(笑)。初めて行った海外がモロッコで。そのころ、1980年代末にアルジェリアの“ライ”っていう音楽が流行ってて。ライが聴きたいなと思ったんだけど、アルジェリアに行くにはビザや推薦状が必要と面倒で、なかなか行きづらかった。「地球の歩き方」も出てなかったし。それと比べると、モロッコはビザも要らないし、スペインから船で行けるんで、そこでもライがあるはずだからと思って行ったんです。するとライはカセットで買えたんだけれど、ライヴ会場までは辿り着けず…。初めて訪れた海外で言葉もできないし、勝手も分からないし、いろいろ騙されたりもして結局辿り着けなかったんです。そのことは、拙著「21世紀中東音楽ジャーナル」にも書いたんですど(笑)。

    ― 騙されたり(笑)。

    サラーム: だから悔しいので、フランス語を覚えようと思って覚えたんです。

    ― 覚悟を決めてと。サラームさんが海外へ出て行くモチベーションになっているのは、やはり新しい音楽に出会うためですか?

    サラーム: 音楽ですね、全部。

    ― それを生で体験したいっていう。

    サラーム: そうですね。だって、僕が行かないと誰も行かないし。

    ― 誰も行かないし(笑)。

    サラーム: ええ、日本人は僕だけというのはしょっちゅうです。それでも、自分で行かないと。自分が聴きたい、自分が体験したい。そうですね、それはずっと変わんないです。

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    ― レコード店を辞められた後は、バックパッカーの旅に。

    サラーム: はい、2年半も旅に出てました。1990年代に六本木のWAVEで、6年働いていたんですけれど。うーん、何だろうな…やっぱりそこにいるより、直で音楽に触れたかったんですよ。

    ― やはり音楽を聴く旅を、ということですか。

    サラーム: いや、当時はそこまではできなかったんです。まだインターネットもできたばっかりだし、どこに行けば何の音楽が聴けるかって分かんなかったし。あと、音楽を聴くことって普通のバックパック旅行とは違って、お金のかかることなんですよ。例えば、普通のバックパック旅行だったら、ただ観光して飯を食べるだけ。音楽を聴くとなると、夜中にタクシーをチャーターしたり、それどころかミュージシャン自体をチャーターするってことも時々あるわけですよ(苦笑)。

    ― ミュージシャンをチャーター(笑)!

    サラーム: ミュージシャンを我々だけのためにチャーターして、砂漠で演奏してもらうとかになると(笑)、金銭的にバックパッカーには不可能なんです。

    ― そこまでゴージャスな旅となると、バックパッカーとは無縁ですね…。

    サラーム: そうなんです。だから、バックパック旅行はバックパック旅行として2年半やりました。それで1998年に帰ってきて、あるインディーズのレコード会社に入ったんです。そこ半年で潰れちゃって。さらに、残ったメンバーで作ったインディーズのレコード会社もやっぱり半年で潰れて(笑)。それで、渋谷のクラブ「WOMB」の社長に拾われて、開店スタッフを1年半やって。そしたら、ちょうど1999年くらいにキューバのブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブが流行って、ワールド・ミュージックがいろいろと盛り返したんです。

    ― ありましたね。

    サラーム: すると、フランス語が喋れると得することが多くて。英語圏以外のアーティストの仕事が僕のところへ来るようになったんです。例えば、ダフト・パンクやエールだとか、そのころはフランスのテクノがいっぱいあったんで。そうすると、僕、通訳要りませんから。

    ― 鬼に金棒(笑)。

    サラーム: うん。だけど、普段は会社で働いていたので、「直接話せるサラームさんでお願いします」って仕事が来ても断ったりしてたんです。だけど、僕を指名してくれる仕事とサラリーマンの仕事、どっちを選ぼう?と思ったときに、そこでフリーランスになっちゃいました(笑)。

    ― あはは!

    サラーム: まだ、そのころは出版社やレコード会社の仕事がいっぱいあったから。まさか、こんなに雑誌やレコード会社がなくなるとは思わなかったですけどね(笑)。

    ― そうですねぇ(苦笑)。フリーのライターになろうと思ったのは、ワールド・ミュージックと言われる音楽がやはり自分のメイン、中核になるかなと思われたんですね。

    サラーム: はい。それで、フリーランスになってすぐ、幸いことに仕事で何とか食えるようになって。そしたら、そのころ、またインドの音楽を見つけてしまって。

    ― 見つけちゃったと(笑)。

    サラーム: 年に1回、インドに行き始めてしまって(笑)。そのころはまだ暇だったんで、1ヶ月間とか行きましたね。それと、トルコとか中東にも毎年毎年行ってたら、いつの間にかこういう仕事になりました(笑)。

    ― (笑)。その開拓した先が、これからの世界を担う音楽の最先端なのかも知れませんね。

    サラーム: 最先端かどうか分からないですけど、面白いです。例えば、レバノンのベイルートまで行って、「アンタの音楽が大好きなんだよ」って言う日本人が来たら、大抵のミュージシャンは喜んでくれますよ。「イスラエルまで自費で来ました」とか。

    ― 自費で(笑)。

    サラーム: ええ、自費ですよ。そういうことを毎年続けていると、ミュージシャンやオーガナイザーも覚えてくれて、ネットワークがいつの間にかできて。どこの国の、どこのワールド・ミュージックのフェスティバルに行っても知り合いがいるような状況になってきました。「今度トルコのコンヤでスーフィー(イスラーム神秘主義)音楽のフェスティバルが10月にあるんで来てくれ」とか、そういう風に言われるようになると次々と広がっていきます。

    Boom Pam “Alakazam”

    今まで世界がノー・マークだったところをフジロックを通じて観れたらいい

    ― なるほど、ありがとうございます。それでは改めて、イスラエルのサーフ・ロック・バンドBOOM PAMの出演が決まった今年のフジロックについてはどう感じていますか?

    サラーム: いや、嬉しい。単純に嬉しいです。ホントに!最初は僕と久保田麻琴さんだけが言ってたのに、いつの間にか僕の周りもみんな「いいね」って言ってくれたり、都内のライヴハウスのマネージャーたちがイスラエル音楽をすごく気に入ってくれたりと、だんだん広がってきている。やっぱり「間違ってなかったなぁ」と感じていて。

    そういえば、近年フジロックって、スペイン語圏の人たちのラインナップが少しずつ強くなってるじゃないですか。オゾマトリとか、チェ・スダカとか。毎年1つくらいは出てるでしょう。マヌ・チャオ系のああいう…。

    ― はい、出てますね。ギター系の。

    サラーム: それに、フランスのバンドもいっぱい出てるんですよね。フェニックスやタヒチ80とかフランス語で歌わないから気が付かないだけで。あとはアフリカ系の人も、実はフランス政府のお金で来てたりします。イスラエルは、中東諸国の中で例外的にアーティストを支援する予算があるんです。フジロックには出てないけれど、イスラエルのジャズ・アーティストは年間10組近く日本に来てるんです。だからフジロックでも是非もっとイスラエルのバンドが…イスラエルだけじゃなく中東全域、それプラス、僕はインドのバンドが来てくれるともっと嬉しいんですけど。そんな風に欧米勢だけじゃないミュージシャンが来てくれることを期待しています。

    ― 中東勢に期待したいですね。フジロックは、ちょくちょく観ているんですか?

    サラーム: ワールド・ミュージックが充実してるときにしか行かないので、まだ5~6回くらいです。すみません!フジロックと言えば、僕の好きなゴーゴル・ボルデロ!!(多国籍のメンバーが揃ったジプシー・パンク・バンド。2008年のフジロックに出演) 彼らを取材に行ったときなんか、僕しか取材するメディアがいなかった。

    ― (笑)。

    サラーム: で、彼らが2時間くらい時間取ってくれて。

    ― あははは。ゴーゴル・ボールデロも、初めは会場に人がすごく少なかったんですよね。

    サラーム: 2カ所やったけど、どっちで観ました?

    ― ホワイト・ステージです。ライヴ開始直後は人が少なかったんですけど、だんだん通る人々が「なんか…アレすごい」みたいな感じで、どんどん足止めて。どんどんステージ前の方に行って、最後は盛り上がりがすごかったんです。まだまだ、日本では発見されてないアーティストが多いということですね。

    サラーム: そうですね。ゴーゴル・ボールデロはもう世界的なスターだし、BOOM PAMのウリが脱退した後のバルカン・ビート・ボックスもものすごく大きくなってるし。日本では、エイジアン・ダブ・ファウンデイションがフジロックを通してすごく大きくなりましたよね。

    ― そうですね。

    サラーム: これからは、もっとそういう肌の茶色い人や黄色い人たちが大きくなってほしい。もちろん、日本のバンドでもいいし。黒でもない白でもない、今まで世界がノー・マークだったところにもユース・カルチャーがあるっていうのを、フジロックを通じて観れたらいいと思います。

    フジロックは一体感があって「来年も来よう!」と思う

    ― 海外のイベントやフェスなどもかなり観ていると思うんですが、“フェスとしてのフジロック”をどのように感じていますか?

    サラーム: 一言、天気が悪い(笑)。

    ― あああ(笑)。

    サラーム: あと、山の上り下りがあるの、やっぱり辛いと思うんだけど(苦笑)。でも、行くと一体感がある。「来年も来よう!」「無理して来てよかった!」と思いますよね。

    ― ちょっとした修行感というか…

    サラーム: それがツラいですよ(笑)。若いころだったらテントでいいんだろうけど、最近は無理。

    ― (笑)。今は日本もフェスが乱立してる状態で、隣の韓国でもフェスが増えていて。世界的にもやはり増えてる傾向にあるんですか?

    サラーム: うん、すごく増えてる。今、ものすごく多いですよ。

    ― イギリスのグラストンベリー・フェスティバルとか、そういう有名どころの情報なら音楽好きの人だと結構知ってたりするんですけど、中東となると途端に分からない…

    サラーム: そうそう!フジロックはたぶん、手本がグラストンベリーだから泥だらけになることが平気なんですよ。僕は、どちらかっていうと地中海や中東のフェスを観てるから、夏は晴れてるっていうのが基本です(笑)。

    ― 夏は晴れている(笑)!

    サラーム: そうです。だから、フジロックとグラストンベリーは夏でも雨で泥だらけっていうイメージ。

    ― もうフェス感の圧倒的な違いに…。

    サラーム: 夏は晴れでしょ!

    ― 晴れてた方が気持ちいいですよね…。

    サラーム: うん。中東だけでじゃなくて、地中海性気候の夏は基本的に雨が降らない。フランスのフェスに行くと、グラストンベリーとほぼ同じラインナップで晴れている。あと、スイスのニヨンという町で行われている「パレオ・フェスティバル・ニヨン」がフジロックとほぼ同じ開催タイミングで、毎年両者がラインナップを奪い合ってるんです。2005年に観に行って、ジュネーブのすぐ隣の街で、そこはスイスらしく山がちなところなんですけど…やっぱり晴れてました。

    ― 同じ山でも晴れてる(笑)。

    サラーム: そういった意味でも、中東や南ヨーロッパのフェスは、フジロックと比べるとホント修行度は低いですね(笑)。それに、ヨーロッパのフェスはロックやポップ以外のワールド・ミュージック系が充実している。まぁ中東もアフリカも近いし、ヨーロッパに住んでるアーティストも多い。それに夏の間はヨーロッパにいて、毎週末どこかのフェスに出ている出稼ぎアーティストも多い。

    ― ラインナップ的にも自由も利くと。

    サラーム: そうそう、自由が利くんですよ。わざわざ“呼ぶ”んじゃなくて、周りに“いる”だけだから。

    これからはドバイやアブダビなどの“アジア”の町がフェスをやりたがってる

    ― 最近行った面白いフェスはありますか?

    サラーム: 今年は6月に2年連続で、モロッコで行われた2つのフェスに行きました。1つは、アラブ中のセレブが集まる「世界宗教音楽祭フェスティバル」。昨年はパコ・デ・ルシアとか、あとパティ・スミスも出てたんですけど、今年のメインはユッスー・ンドゥールとかで。そこは有料の会場にはアラブ中のセレブがスーツ姿で来てるんだけど、夜中になると、無料の会場に地元のオバちゃんたちが子ども連れてきて、2000人が頭振ってトランス!

    ― ぶはははっ!

    サラーム: 宗教音楽で。2000人がグワングワンになってて(笑)。

    ― それは壮絶…いや壮観ですね(苦笑)。

    サラーム: そうなの!その次の週には、観衆50人限定のフェスティバルっていうのに行きました。「ジャジューカ・フェスティバル」といって、やはり宗教音楽“ジャジューカ”をやる世界最小の音楽祭でね。

    ― 50人だけ?

    サラーム: ザ・ローリング・ストーンズの最初のリーダーだったブライアン・ジョーンズが死の直前に、ジャジューカ村にしかない民族音楽をレコーディングしたんです。彼の死後にローリング・ストーンズ・レコード名義で出たアルバム『ジャジューカ』(原題:Brian Jones Presents The Pipes Of Pan At Joujouka/1971年リリース)なんですけど、その民族音楽をみんなで演奏するんです。ただ、村ではどんどん高齢化が進んじゃって、ミュージシャンたちが今13名しかいなくなってしまって。みんな年寄りになっちゃってるから、その音楽を何とか残そうとして始まったフェスティバルなんです。

    ― おお、またロックと民族音楽の歴史が…。

    サラーム: でも、村には電気は来てるけど、水道はない。ホテルもないから、観客はミュージシャンの家に泊まるしかない(笑)。

    ― なるほど、だから50人限定!

    サラーム: で、フェスティバルなんだけど、出演するミュージシャンは、その村のザ・マスター・ミュージシャンズだけで、曲もジャジューカだけ。しかも3日3晩!ずーっと3日3晩音を浴びるっていう、それだけのフェス。僕は昼間なんか、村人がゲストのために仔牛をさばくところとか料理の取材もしてるんです。昨年は僕と、赤塚不二夫さんの娘さんの赤塚りえ子さんを含めて、日本人は5人だけだったんです。

    ― またコアなメンツ!

    サラーム: りえ子さんは旦那さんがイギリス人で、マシュー・ハーバートなどのイギリスのテクノ・シーンとすごく繋がってる人なんです。何年か前からモロッコ音楽にハマってて。で、昨年、彼女が撮影してきたジャジューカ・フェスティバルのビデオをDOMMUNEで2回流したんです。そしたら25000人が観てくれて、今年はナント50人中20人が日本人ということに(笑)!

    ― ある意味ヒドい(笑)!

    サラーム: 日本から来るなんてすごい。だってモロッコなんて遠いんですよ…。会場にはPAがなくて、完全に生音なんですけど、僕たちはチャルメラ笛に向かって頭突っ込んで、聴いている。まるでゴア・トランスのレイヴみたいなことになって。

    ― あははは!ヒドい!

    サラーム: そうそう(笑)!5人が太鼓で、8人がチャルメラを“ビャーッ”って吹くんですよ。その音がもう突き刺さるんですよ(苦笑)!

    ― (笑)。

    サラーム: そういうフェスもありつつ。ちゃんとエスタブリッシュされた50万人規模のフェスも、中東とかで行われ始めてます。ヨーロッパでは毎週末何かしらフェスがあるんで、もうすでに飽和状態でしょうね。それに不況も長引いていて、「これからはドバイとかアブダビ、ムンバイなど“アジア”の町がフェスをやりたがってる」と、知り合いのフランス人のオーガナイザーが言ってましたね。

    ― フジロッカーは、アウトドア好きとか旅行好きの人が結構多いと思うんです。今までなら、海外だとグラストンベリーのような有名どころだけが選択肢でしたが、これから中東でのそういったフェスが盛り上がっていけば、BOOM PAMの音楽を聴いて、彼らが架け橋となって中東を訪れる人も増えるかもしれませんね。

    サラーム: そうですね。イスラエルでも、トルコでも、レバノンでもすごく大きいフェスがありますし。ヨーロッパからなら飛行機で3時間とかで行けますから、フェスのプログラムも欧州と同じにできるんですよ。

    フジロックの安くて美味しい屋台飯はイギリスなら倍の値段払っても食べられない

    ― それでは、BOOM PAMのメンバーは、フジロックについてどう思っているのでしょうか?

    サラーム: こないだ、アルバムのライナー・ノーツを書くためにメールでやり取りしてたら、すんごいもうエキサイティングだと、フジロックが夢だったと。

    ― あ、ホントですか。

    サラーム: イスラエルのバンドって初めての出演なんじゃないの?(※ヤエル・ナイムが2012年に出場している) 若いイスラエルのバンドたちも、みんなフジロックに出たいと言ってるみたいで。

    ― フジロックはイスラエルのバンドたちにもちゃんと知られてるんですね。

    サラーム: もちろん知られてる。バルカン・ビート・ボックスでも出てないんだから、イスラエルから出るってことは、BOOM PAMにとってみればすごく嬉しいんじゃないかな。

    ― それぐらいフジロックの認知度って世界中で…

    サラーム: もうフジロックの認知度ってすごいですよ。ヨーロッパを中心に。実際、西洋人のバックパッカーがたくさん来てるでしょ。イギリス人は、わざわざフジロックのために来ていますよ。だって、チケット代はフジロックのほうが高いかもしれないけど(グラストンベリーの通しパスは215ポンド=約37,000円)、食事代なんてグラストンベリーの半額じゃないですか。

    ― イギリスの半額だと。

    サラーム: フジロックの屋台飯は平均700円でしたっけ?イギリス人にしたら700円=4UKポンドであんな良い飯が食えるの!?信じられない!って。イギリスなら倍の1400円払ったってあのレベルのものは食えないよ、量は多いけど(笑)。

    ― 700円で良い飯!逆にそこは日本人が感覚麻痺してるかもしれないですね。

    サラーム: 食事安っいよ!!

    ― (笑)。このオルグでも「フェスごはん」をやっていますが、フジロックの魅力の1つとして、食べ物っていう部分も海外から見て結構ポイントなんですね。

    サラーム: そう思いますね。現代の日本人にとってみれば700円って結構な値段なのかもしれないけど、ヨーロッパ人からしたら700円って半額ですからね。もちろん交通費やチケット代は高いけど、帰りに東京寄ったら、1000円で回転寿司食えて、1万円以下で東京の真ん中のホテルに泊まれるじゃないですか。ロンドンから来たら超安いですよ。

    Boom Pam Boiler Room Tel Aviv Live Set

    これからもっとBOOM PAMのような面白いバンドが出てくるんじゃないかな

    ― 確かに。BOOM PAMも世界から注目を集めるフジロックに来て演奏するんだから、お客さんにはやっぱり是非聴いてもらいたいですよね。

    サラーム: そうですよね。彼らにとってみれば、フジロックに出たっていうのは、すごく自信、自慢になると思うんで。

    ― バンド編成の面で言うと、サーフ・ギターと、やはりチューバを使われているのが特徴的です。

    サラーム: バルカンのブラス・バンドなども使っていて…あ、もう1組、今年ファンファーレ・チォカリーアもフジロックに出るでしょ。チューバって、エレキ・ベースが開発されるまでは低音の主役の楽器だった。だけど、アタックが弱いから、エレキ・ベースによって駆逐されちゃった。ピックで弾くわけじゃないから、仕方ないんだけど、ロックではやっぱりアタックが命だったし、そのせいで置き換えられちゃったんだろうね。でも、生の音量はエレキ・ベースよりデカいじゃないですか。

    ― そうですね。ベースの音域を完全にカバーしつつ、しかも管楽器だから、ふくよかな音が出ますよね。グルーヴもアツくて、ダンス・ミュージックとしても非常に盛り上がりそうです。

    サラーム: そう、音のふくよかさはチューバの方が全然ふくよかだし、身体に響きますよね。例えば、アメリカのバンドのベイルートとかも、ベースはチューバでやっているでしょう。だから、そういう“先祖返り”は今後もいろんな形で起きるんじゃないですかね?

    ― そう考えると、世界で大きなムーヴメントにある極めてエレクトロで肉体的なEDMと、それに対して生音に回帰するダンス・ミュージックの2極化を感じます。デジタル技術が進んだロックやヒップホップ、さらには“人力テクノ”なんて言葉が生まれたように、改めて生音でやるというのが出てきて。先鋭化するエレクトロに対し、音の先祖返りもどんどん進んでいっている印象があります。

    サラーム: そうですね。今の時代は、情報が何でも手に入る時代だから。例えば、日本の寺内タケシを、ウリはレコード屋で一生懸命探したって言ってたけど、今はYouTubeで誰でも見られる。イスラエルからでも見られるわけです。音源を掘ることは誰でもできる時代だから、掘れば掘るほど面白いものが出てくるわけだし。そうすると、そういう先祖返りが…これからもっとBOOM PAMのような面白いバンドが出てくるんじゃないかな。

    ― いわゆるサーフ・ミュージックですが、どういったお客さんに聴いてほしいですか。

    サラーム: 意外と女性が多いですよ。前回の2年前も7割ぐらいが女性だった。やっぱりベリー・ダンス絡みというところもありますね。

    ― 女性が多いんですね。なんとなく男女半々くらいかなっていうイメージがありました。

    サラーム: うん。バルカン・ビート・ボックスのライヴもそうだけど、やっぱり中東のメロディは何だか日本の演歌みたいな感じじゃないですか。だから、男性的というより女性的なんだろうなと、そういう気がします。

    ― なるほど。女性はもちろん楽しめるし、フジロックではさらに男性にもたくさん遊びに来てもらいたいですね。

    サラーム: そういうことです。楽しみです…だから、26日はタイミングが悪すぎるんだけど、グリーンとかホワイトとかレッドとか行かないで、ジプシー・アヴァロンに来て!って感じです(笑)。

    ― 来てと(笑)。ヘッドライナーのアーケイド・ファイアとちょっとカブっちゃうという。

    サラーム: みんなアーケイド・ファイア観たいに決まってるじゃない(笑)、BOOM PAMのメンバーだって、アーケイド・ファイア観たいんじゃない(笑)?それなら、17:15からのカフェ・ド・パリに来てください。あそこは僕も2年前にDJで出演したことがあるんです。暑いんですよね。

    ― ムシッとするというか。

    サラーム: そうそう。でも、カフェ・ド・パリってちょっとエキゾチックな感じのバンドが出るところだから、ちょうどいいのかもしれない。フジロック初出演だから是非観てほしいな。

    ― 雰囲気としてもいいかもしれないですね。

    サラーム: ホントは、フィールド・オブ・ヘブンでやってほしかったけど…(笑)。オレンジ・コートとかね。

    ― そうですね! 僕もメチャメチャそっちの方が似合うと思いますし、大きい会場でも観客を魅了できると思います。アーケイド・ファイアとカブっても…。

    サラーム: 観に行かないといけないです。アーケイド・ファイアはどっかでまた観れますよ、うん。たぶん、今観るべきバンドで一番いい時期でしょうけど。でも、アーケイド・ファイアは僕が観なくても、みんな観る。

    ― ということですね(笑)。サラームさんだからこそBOOM PAMを観ると。世界の最先端を、先に。

    サラーム: いやいや(苦笑)。そうですね、僕はBOOM PAMを観ますよ。

    boompam09

    イスラエルの雰囲気をパッケージしたい

    ― 最後に、フジロックが終わった直後には、青山でBOOM PAMのライヴがあります。サラームさんもDJとして出演しますが、フジロックから流れてのイベントになるんですけれども、それも楽しみです。

    サラーム: 青山の「月見ル君想フ」という、少し小さいハコでやります。あそこはベリー・ダンスのパーティーがいっぱいあって、そういうお客さんがすごく根付いてるところだから。

    ― より中東寄りの雰囲気に。

    サラーム: うん。僕は最初にやる横浜でのライヴには行かないんですけれど、横浜は土地柄サーフ・ギターが強いらしくて、地元のサーフ・ロックのバンドが出るらしいですよ。

    ― 苗場・東京・横浜と場所によって、BOOM PAMの切り取り方が違って楽しくなりそうですね。

    サラーム: そうですね。青山のイベントは、彼らも2度目の東京なんで、BOOM PAMのメロディを存分に楽しめたら。日本で何か影響を受けてくれると面白いなと思います。

    ― DJサラームとしての見所は。

    サラーム: 僕はDJつってもね、普通に曲をかけてるだけですから、大したことないっす(笑)。イスラエルの雰囲気を持ってきて…そうですね、僕もイスラエルの音楽を中心にプレイしますから。BOOM PAMのライヴとベリー・ダンスと、イスラエルの音楽とお酒で全体的にイスラエルの雰囲気をパッケージできればと思っています。是非遊びに来てください。


    ● サラーム海上(さらーむ・うながみ)
    1967年2月12日生まれ、群馬県高崎市出身。明治大学政経学部卒業。“よろずエキゾ風物ライター”として“伝統音楽とエレクトロニック音楽の出会い”をキーワードに、中近東やインドを定期的に旅しながら、現地の音楽シーンをフィールド・ワークし続けている。ラジオやクラブのDJ、中東料理研究、海外ツアー企画、WEBマガジン発行など、その活動は多岐にわたる。著書に「21世紀中東音楽ジャーナル」、「エキゾ音楽超特急 完全版」、「おいしい中東 オリエントグルメ旅」など多数。NHK-FM「音楽遊覧飛行 エイジアンクルーズ」のナビゲーターを務める。
    オフィシャルWEBサイト:http://www.chez-salam.com/
    Salam’s WEB Magazine「SOUQ」:http://www.chez-salam.com/souq01
    Twitter:https://twitter.com/salamunagami

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    ● BOOM PAM(ブーム・パム)
    Uri Brauner Kinrot(Vo&Gt)、Yuval “Tuby” Zolotov(Tub)、Itamar “The Kid” Levi(Dr)からなる、イスラエルを代表するサーフ・ギター・ロック・トリオ。2003年にイスラエル・テルアヴィヴで結成。エレキ・ギター、チューバ、ドラムスというユニークな編成で、1960年代のアメリカのサーフ・ロックのテイストと中東の民族音楽を有機的にミックスしたような、新鮮なようでどこか懐かしいメロディが特徴。2014年2月に通算3枚目となるアルバム『Alakazam』の日本盤を、7月に懐メロのカヴァー曲と新曲を組み合わせた最新作『MANARA AND SUMMER SINGLES』をリリース。2012年に続いて2度目の来日では、『FUJI ROCK FESTIVAL ’14』出演を含めた日本ツアーを予定している。
    WEBサイト:http://www.boompam.org/

    【BOOM PAM ライヴ情報】
    ●BOOM PAM JAPAN TOUR 2014
    2014年7月28日(月) @東京・青山 月見ル君想フ
    『BOOM PAM ONE-MAN SHOW』
    ・料金:adv . 3500/door. 4000(共に+1d)
    ・時間:19:00/20:00
    ・LIVE:BOOM PAM
     Belly Dance:Nourah
     DJ:サラーム海上
    ・URL: http://www.moonromantic.com/?p=19748

    boompam06


    取材・文:ノグチアキヒロ、青木大輔
    写真:森リョータ(サラーム海上)
    取材協力:EL SUR RECORDS(エル・スール・レコーズ)
    ・ホームページ:http://elsurrecords.com/
    ・Twitter:https://twitter.com/elsurrecords

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