地域超密着型ゆるフェス、shimafes SETOUCHI体験記 Part.2
- 2012/10/05 ● Report
shimafesレポート第2弾は、五感のうち視覚と聴覚がメイン、ライヴの様子から。初日の15日に行われた鬼ヶ島(女木島)での七尾旅人ワンマンと、16日の小豆島会場でのライヴをいくつかピックアップしてみた。そして最後は触覚。shimafes初体験の筆者がこのフェスで触れたものとは…?
ライヴ・レポート
9月15日 七尾旅人ワンマン@鬼ヶ島
高松からフェリーで15分ほどのところに位置する女木島は、桃太郎伝説が残る鬼ヶ島としても有名なところ。昨年もライヴが予定されていたが、台風の影響で中止…。今年はなんとしてもやりたい、瀬戸内に縁のあるアーティストで。ということで白羽の矢が立ったのが高知出身の七尾旅人だった。主催者とマネージャーとで「鬼ヶ島で七尾旅人やったら相当やばいことになるんじゃないか!?」と話が盛り上がり、開催が決まったとのこと。しかし、このライヴ、なかなかストレートには行かなかった。
まず、小豆島から鬼ヶ島へはこの日のためのチャーターフェリーが出航していたのだが、この船が海面に手を伸ばせば届きそうな小型サイズのもの。救命胴衣などが渡されるでもなく、安全面への配慮はとても十分とはいえない。船酔いする人もでつつ、やっとの思いでたどりついた場所は、本会場の道の駅と違ってトイレなどの設備らしきものが見当たらない海水浴場。スタッフの誘導もなかなか行き届かず、運営のゆるさが目につく。それでもなんとか砂浜に機材が設置され、オープニングの島音流(しまねり)の演奏後、サウンドチェックが始まる。何度も調整を繰り返し、やっとライヴが始まったが、1曲目にはどうしても納得のいく音が作れなかった。
しかし、ここからが七尾旅人のすごいところだった。電気系の機材が頼りにならないとみると、それらすべてを放棄して、ギターと自分の声だけでライヴをやることにしたのだ。真っ青な空と海、砂浜、ロケーションはばっちり。しかもかなりの至近距離で歌う姿を観られるという、結果的に非常に贅沢な状況となったのだ。さらに、「ここまぶしいよね。あっちでやろ」と七尾氏誘導でみんなで日陰へ移動。なんて自由!こういった状況でも柔軟に対応できるアーティストで本当に良かった。寄せては返す波の音をバックに「星に願いを」「圏内の歌」と体中にしみ込んでくるような歌が流れた。
曲の合間には「聞こえなかったら遠慮なく前にきて。その方がオレも歌いがいがあるから。ただし、ここ(自分の目の前)は女性限定ね(笑)」と気さくにお客さんと話をしたり、トイレ行ったり、差し入れのぶどうをまわして食べたり。その場にいた人とひとつのサークルになってライヴを作っていった。波、鳥、猫、汽笛、こどもが遊ぶ声、誰かが砂を踏む音。すべてが音楽だった。そんな中みんなで歌った「どんどん季節が流れて」の合唱は気持ちいい以外のなにものでもない。このシチュエーションでなければ絶対に体験できない、神聖ともいえる気持ちになる瞬間だった。
日が沈んでいくのが名残惜しい。そんな思いが巡るなか、「今日は来てくれてありがとう。さすがに鬼ヶ島までくるのは勇気がいりました」と感謝の言葉とともに最後は「リトルメロディ」を。その場にいた人、全員で歌った「小さなメロディ」のコーラスの美しさは筆舌に尽くしがたい。スタートするまでにはいろいろ問題もあったが、最終的に二度と経験できない、とても貴重で大切なライヴとなった。
最後に苦言を少々。七尾旅人の機転と、なんとしてもいいものを見せたいという気持ちで、素晴らしいライヴにはなったが、主催者側には「これで良かったんだ」と思って欲しくない。前半にあった運営のもたつきに加え、帰りの高松行きのチャーターフェリー(件の小型船)にスタッフが誰も乗っていない(全員小豆島行きに乗ってしまった)というのもどうかと思う。「自己責任」という言葉が何度も頭に浮かんだが、万が一何かあった場合、本当にそのひと言で済ませられるのだろうか?企画内容は良いだけにそういった点は残念。来年は最初から最後までアーティストもお客さんも気持ちよくすごせる準備をして、当日を迎えて欲しいと切に願う。
9月16日 shimafes 2日目@小豆島ふるさと村
T.C SPEAKER
初日に続き、お天気に恵まれた最終日。会場に着くと「海の見えるステージ」で徳島の女子高生バンド、Hacky-MEIが演奏していた。彼女たちの後には「太陽と月のステージ」で小豆島高校吹奏楽部の演奏もあり、いきなり地域密着感全開なのがこのフェスならでは。追い打ちをかけるように、メンバーの4人中3人が小豆島出身というT.C SPEAKERが登場する。観客も「おかえりー!」とばかりに炎天下のなか踊り出す。最前列で盛り上がっていた親子グループに話を聞くと、なんとメンバーの同級生とのこと。「彼らが凱旋できるステージを作ってくれてうれしい!」。shimafesはそういう場にもなっているのだ。タイムテーブルを見るとわかるのだが、他の出演者も瀬戸内に近い中国、四国地方出身だったり「島」に関係するこだわりのアーティストがブッキングされている。フェス常連の強者から、地元の女子高生バンドまでを同じ会場で観られるのが非常に興味深い。
島音流「一番大きいステージ」に出演していた島音流(しまねり)は東京の新島と青ヶ島出身。ふるさとに眠っている島の唄を伝えていきたいと活動している、まさに「島に縁のある」バンドだ。和太鼓を叩きながらの唄や、ベーシストがふんどしスタイルだったり、雰囲気もばっちり。このフェスの常連になりそうな匂いのするステージングはお見事だった。
トリ前に登場したのは、フジロックでも初出場ながら圧巻のステージを見せた奇妙礼太郎トラベルスイング楽団。shimafesでも、お客さんに「誰観にきたんですか?」と聞くと、ほとんどの人が「奇妙礼太郎!」と答えていたほどその人気は確実に全国区になっている。今年はフジ以外にも各地のフェスにひっぱりだこだが、そうなるのも当然だろう。ギター、ベース、ドラム、ピアノにトランペット、トロンボーン、サックスのホーン隊を含むバンドがイントロを陽気に鳴らし、それにあわせて奇妙礼太郎がステージに飛び出してくると、それだけでその場の空気が「お祭り」の明るさに変わるのだから。
いきなりマイクをスタンドから外し、ステージ前ギリギリまで出てきて「元気ですかー!」とお客さんの気持ちをグッとつかみとる。自由気まま、感情おもむくままのパフォーマンスと、溜め込んでいた力を全部はきだすような圧倒的な歌。「すっげえな、この人…」と思わず目で追ってしまう、「エンターテイナー」とはこういう人のことをいうのだ。瞬きするのも忘れてステージに釘付けになるけれど、ふっと力を抜く瞬間には幸福感に満たされるという不思議な感覚。後から聞いた話によると、同時刻に海の見えるステージで演奏していた七尾旅人が「奇妙くんがいい感じでやっていたから」と、漏れ聞こえてきた音でセッションを始める一幕もあったとのこと(これはちょっと観たかった…)。場外まで巻き込んでしまう、奇妙礼太郎の人を惹きつける魅力は尋常じゃない。最後は「オー・シャンゼリゼ」で、最初から観ていた人も、後から走ってきた人もみんな一緒になって手を振った。もっと観たい。また観たい。この陽気な楽団が魅せる幸せな音楽は、何度目にしてもそう思う。
奇妙礼太郎トラベルスイング楽団
大トリの曽我部恵一バンドが盛況のうちに幕を閉じ、祭りがすべて終わる頃、島はすでに真っ暗になっていた。撤収が始まってからも、ステージ上に残された「shimafes SETOUCHI」のバナーを記念撮影していくお客さんがたくさんいた。みんな、このフェスが終わってしまうのが名残惜しいのだ。そういう気持ちが、来年、再来年の開催に繋がっていくのだろう。shimafes SETOUCHIは100年続けるという目標があるらしい。本当に実現するのか?私たちはそれを見届けることはできないけれど、ホントに続いちゃうかもね、と想像できるようなフェスになったらおもしろいなと思う。
Smiling People!
文・写真:輪千希美