『フェス旅』刊行記念・フェスを愛するフジロッカーへ贈る! カオスと秩序が保たれた「日本のフェス」の歩き方とは?
- 2024/07/21 ● Interview
音楽フェス情報サイト「Festival Life」の編集長の津田昌太朗氏。以前フジロッカーズ・オルグでも取材させていただいたとおり、20年以上にわたり世界各地のフェスを巡っているという、無類の“フェスティバル・ジャンキー”である。そんな彼が、今年4月に『フェス旅 日本全国音楽フェスガイド』(小学館クリエイティブ)を上梓した。日本のフェスティバルを150以上掲載した本書から紐解く、日本のフェスの面白さとは?フジロックの魅力とは?
「コロナ禍のフェス」を乗り越え生まれた1冊
─ まず、本書の発売のきっかけを教えてください。
津田:前作『THE WORLD FESTIVAL GUIDE 海外の音楽フェス完全ガイド』(いろは出版)を出したのが2019年です。その後に国内版も出したいと思っていて、色々とお声掛けもいただいたりしていましたが、コロナ禍で話がなくなっちゃったんですよね。フジロックも2020年の延期を経て、2021年にあの空気の中で、開催されたじゃないですか。
─ 他の大型フェスは軒並み中止でしたよね。
津田:自分の言動や発信が批判されたり、叩かれたりするのはある程度受け入れられますが、自分が好きなもの──フジロックも含めたフェスティバル全体が叩かれるという状況はとても辛かった。今振り返れば、2021年に開催した意義はもちろんあったと思うんですけど、当時は本当にやっていいのかなとか、参加する側の人やメディア側もどう発信したらいいか迷いがあったと思います。
参考:FUJIROCK EXPRESS ’21
─ あの年は、私も覚悟の気持ちで参加しました。苦しかったですよね。
津田:「不要不急だ」「好きなことをやるのは今はやめたほうがいい」という意見も多かったと思います。でも、日常とは違う場所で、精神的に安らいだり楽しむことは大切で、フェスにはその価値もある。実際にコロナ禍で様々な行政主導のイベントが開催に踏み切れない中で、各地域の音楽フェスから催しがスタートしていって前例を作っていった。そういったことからもフェスがこんなに日本にはあって、社会的にも意味があるものなんだということを、ウェブとは違う方法で、読者や社会に届くかたちで発信したいと思ったんです。
─ なるほど。本書はコロナ禍の壁があってからこそ生まれたものだったんですね。
津田:2021年、22年はまだまだ制限のある中での開催が多かったですが、、23年は、コロナ禍以前の状態に戻って、市場規模的にも2019年を越えました。このタイミングで小学館クリエイティブの編集の方から声をかけていただいて。フェスの復活は、社会的にも注目されていたんだなと思いました。
編集の担当者さんも、とてもフェス好きの方なんです。特定のフェスが好きというより、「フジロックやサマーソニックにも行くし、邦楽フェスにも行く。さらにローカルな小さいフェスにも興味がある」みたいな、バランスのあるタイプの方で。だから本書では、僕がもともと発信してきた、日本のフェスの豊かな文化そのものを発信できると思って企画がスタートしました。
─ 本書はフェスだけを紹介するのではなく、旅を合わせた「フェス旅」として紹介していますね。
津田:音楽フェスガイドだけにするのではなく、旅を組み合わせることによって、音楽ファン以外にも届いてほしいと思ったんです。もちろん音楽ファン、フェスファンに届いてほしいですが、フェスに行ったことのない音楽好き、旅が好きでフェスのことは知っている人に向けた内容を目指しました。僕は旅も好きなので、「旅目線でフェスって、どうですか?」という提案もしたくて。地域に行く、ローカルを楽しむ手段としての“フェス”みたいな。
─ つまり、どこか旅行に行く際に1個フェスを加えることで、違ったローカル体験、景色が見られるということですね。
津田:フジロックも今年は「金曜ナイト券」を発売したりとか、新しい楽しみ方がありますよね。僕は4日間行きますが、初めて行く人は金曜日だけ行くとか、温泉旅行のついでに土曜だけ行ってみるとか。はじめはライトな感じでもいいので、旅とフェスを組み合わせて楽しんでもらって、興味が出たら次の年はもっとフェスを楽しむというような流れが作れたらいいなと。
─ そんな本書では、国内フェスが150箇所も掲載されているんですよね。この情報量、すごいです。
津田:「Festival Life」のWEBサイトには、毎年4〜500以上のフェスを掲載していますが、本書は、会場が変わっていないとか、継続して開催されているとか、“旅”や“地域”という視点でも楽しめるかなど、ある程度の基準を設けて厳選したフェスを掲載しています。フジロックやロック・イン・ジャパンなど、4大フェスと言われるものは前のページに配置していますが、あとは開催時期で並べました。どのフェスにも全部同じくらいの愛情があるので、本当はどれも同じ大きさで取り上げたいくらいです。
ピックアップしたフェスのページには、「YORIMICHI」と称して、フェスの開催地付近の観光情報も掲載しています。たとえば「FUJI&SUN」なら「富士サファリパーク」、「ap bank fes」ならハンバーグで有名なレストラン「さわやか」など、自分が実際によく行くスポットやエリアを紹介しています。家族連れにとっては、フェスよりもサファリパークがメインになる場合もありますよね。フェス以外の余白も楽しむ感じで使ってもらえると、フェスティバル文化自体が盛り上がるかと思いました。ちなみに「京都大作戦」のページでは、10-FEETの皆さんから直々に紹介された「10-FEET結成の地であるびっくりドンキー」が掲載されています(笑)。
─ (笑)。フェスに参加するならば、地域ならではのものを楽しみ、お金を落としたいですよね。
津田:フェスは開催する地域があってこそじゃないですか。コロナ禍で、改めてそう感じました。地域に少しでも貢献できたらなと思って書きました。
カオスと秩序が保たれた日本のフェス
─ 世界のあらゆるフェスに行かれている津田さんから見た、日本のフェスならではの魅力について知りたいです。
津田:そもそも、日本全体にフェスが多いんです。僕はイギリスに住んでいましたが、各地域にあるフェスの数はイギリスやアメリカに劣らないと思います。そして、よく言われるのは綺麗だということ。なんといっても会場がクリーン。これはオルグの花さん(花房浩一)から聞いた話なんですけど、グラストンバリー・フェスティバルを主催するエミリー・イーヴィスさんは、フジロックの会場でゴミが一切落ちていない様子に衝撃を受けたと。それからグラストンバリーでも、以前に比べて会場が清掃されて、綺麗になってきているんじゃないかというんです。もともとフジロックはグラストンバリーをモデルにしてスタートしたわけで、そのフェスに影響を与えてるって、とても素敵な話ですよね。
僕、フェスティバルっていうのは、chaos(混沌)とorder(秩序)のバランスが大事だと思っているんですよ。フジロックも、夜のあのカオスな感じが好きなんですけど、トイレではちゃんと並ぶとか秩序はあって。お祭りで羽目は外すけど、マナーは守ろうみたいな暗黙の空気がある日本のフェスは、とてもバランスがいいと思うんです。
─ 確かに。日本人のどこか真面目なところが出ていそうです。
津田:音楽をちゃんと聞くし、グッズも買う。推しで言うと「箱推し」みたいな考えで、推しのフェスがあるから、“フジロッカー”という概念も出てくるわけです。海外フェスでは、日本ほど物販にに列ができません。もちろんTシャツなどを買う人はいますが、日本人のほうがアーティストやフェスに貢献しようみたいな思いは強い気がします。
とはいえ外国のフェス全部がそうというわけではなくて、国民性があるんですよね。先日参加してきたドイツの「ロック・アム・リング」というロックフェスでは、Tシャツをみんな買っているんですよ。列にもちゃんと並ぶし、仕組みがしっかりしているんです。あとはコーチェラもここ数年でレジャー化したこともあり、数時間並ぶみたいなことが普通になってきています。
─ 時代の変化や国民性が出るんですね。
津田:アメリカのフェスではお酒を飲めるエリアがちゃんと区切られていて、意外に酔っ払いが少なかったり。イギリスのフェスでは、ヘッドライナーが終わって駐車場やキャンプサイトに戻っていくときに、必ず大合唱が起こったり。ノルウェーのフェスは、環境意識の高い人が集まっているので、みんな使い捨ての合羽ではなくて、登山用のパーカーを持っている。フジロックで雨が降ったときのあのカラフルな光景と同じものが見られるんです。観光地に行ってもわからない国民性やその地域のことが、フェスに行くとわかったりするので、とてもおもしろいです。
時代の流行とともにフェスがある
─ 津田さんの考える、2024年のフェストピックや傾向について教えてください。
津田:今年は福岡「Sunset Live」、静岡「頂 -ITADAKI-」など、終わってしまうフェスも結構多くて寂しいです。ひとつの時代が終わるような、転換点になるのかなと思います。コロナ禍が明けて新しく始まるフェスもあれば終わるフェスもある。
明るい話題だと、「森、道、市場」、「Creema YAMABIKO FES」のような“市場みたいなフェス”が以前にまして盛り上がっている気がします。フェスのなかで買い物をして、出店のお店を音楽と同じくらい楽しむ。フジロックでも当たり前にワークショップとか買い物はできますが、その部分が充実してきているのはおもしろい傾向かなと思います。お子さん連れも多いし、年齢層も幅広い。出店するお店にファンがいますから、そのファンたちが集まれば集客にもつながりますよね。
あとはコロナ禍以降の傾向ですが、「POP YOURS」とか「THE HOPE」のような、ヒップホップのフェスが盛り上がっています。お客さんは若くて、誰かに連れられて初めてフェスに来たような、エントリー層も多い。アメリカでも「ローリング・ラウド」やラッパー主催のフェスが盛り上がっているように、日本でもその盛り上がりは感じます。BAD HOPが解散を発表したのは「POP YOURS」で、舐達磨とBAD HOPの騒動も「THE HOPE」がひとつのきっかけになったわけだし、フェスという場所からいろんなトピックが生まれているのも興味深い現象です。
─ それほど若い人の間でヒップホップが浸透してきているのですね。
津田:時代の流行とともにフェスはあって、進化していくと思うんです。10年ほど前にダンスミュージック、EDMが流行って「ウルトラ・ミュージック・フェスティバル」が日本に入ってきたときも、今までそういうフェスに行ったことがなかったような人まで巻き込んでいきましたよね。あのときにいろんなフェスが日本にできて、淘汰されていって、「ULTRA JAPAN」は残っている。そして今はヒップホップが流行ってきていて。とてもおもしろいと思います。
─ 津田さんは、フェスきっかけで興味を持ったジャンルはありますか?
津田:ワールドミュージックの楽しさや、ブルース、ジャズのよさはフジロックに教えてもらいました。フジロックに行かなければ、今年も出演される上原ひろみさんのライブを生で観てなかったかもしれない。アイドルや声優さんも、普段は守備範囲ではないですが、西川貴教さんが主催する「イナズマロックフェス」でライブを観て、その歌唱力とパフォーマンスに圧倒されたり。そういう感動と出合えるのもフェスならではですよね。フェスは自分の既成概念を崩してくれます。
─ 同じアーティストでも、フェスで見るたびに良くなっていったりしますよね。
津田:ありますね。残念ながら今年解散してしまったけど、CHAIはデビューした頃からライブを観てきました。はじめ日本のフェスの小さなステージで観た、それこそROOKIE A GO-GOで観たアーティストが、アメリカやヨーロッパのフェスで数千人を前に演奏している姿を観ると、自然と涙が出てくるなんてことも。Vaundyのライブも、コロナ禍以降、徐々に復活してきたフェスで何度か観ていましたが、去年のフジロック、さらに今年の「VIVA LA ROCK」のライブが本当に素晴らしかった。コロナ禍ではあまりライブができていなかったと思いますし、観客とのキャッチボールも難しかったと思うんです。数年経ってそういう部分も進化して、フェスで見せるショーとして完成されたものが観れてとても嬉しくなったのを覚えています。去年から話題になっているNewJeansも、8月のサマソニより10月に開催された「Coke STUDIO SUPERPOP JAPAN」でのパフォーマンスのほうがよかったり、そういった変化や違いを観られるのもフェスのおもしろいところですよね。
主催者自体がフェスティバル
─ 読者の中には、フジロックやサマソニにしか行かない人もいると思うのですが、フジロッカーにこそおすすめの国内フェスがあれば、教えてください。
津田:先ほども話にあがった「森、道、市場」は、フジロックのようないい意味での“無駄”があります。自分たちでラジオをやっていたり、餅つきをやっていたり、サウナがあったり、ゲリラライブが突然はじまったり、同時多発的にどこかで何かが起こっている感じ。みんなができることを持ち寄って自分たちで進化させていく感じは、フジロックにも少し似ている気がしました。もちろん形態は違いますし、実行委員会は「これは音楽フェスではない」と言っているんですが、僕の中では広義な意味でのフェスティバルであり、お祭りだと思っているので、「フェス旅」にも掲載させていただきました。
あとは、長野県・白馬村で開催されている「SNOW MACHINE」というフェス。日本のフェスにいるのに、なぜか外国人しかいないんです。初めてフジロックに参加したときの、「日本なのに海外にいるような気持ち」が味わえます。「フジロックしか行ったことない」という方には、「RISING SUN ROCK FESTIVAL」もおすすめ。音楽もアウトドアも楽しめるのはもちろん、夏の北海道は本当に最高です。あと旅目線だと、北が北海道なら、やっぱり南の沖縄もおすすめしたいですね。宮古島で開催される「MIYAKO ISLAND ROCK FESTIVAL」は、ロック勢や沖縄のアーティストが出演する日本最南端のロックフェスです。今年は郷ひろみさんも出演するなど、そのバランスもおもしろいし、なにより宮古島というロケーションでフェスが楽しめるのはまさに唯一無二。各県ごとに紹介したいくらい、日本全国の各地域に素敵なフェスがたくさんあるので、縁のある場所や行ってみたいエリアからフェスを探してみるのも楽しいですよ。
─ 改めて、フェスって本当にいいですよね!
津田:フェスそのものだけではなく、もう主催者自体がフェスティバルだと思います。本書では、フェスを作っている人もフィーチャーしたくて、各フェスのページに主催者のコメントを載せました。フェスって作るのは大変だし、すごい儲かるわけでもないし、でも、ロマンがあると思うんですよ。その場所、空間を作るという意味でアーティストであり、表現者でもある。 もちろん人を集めて、お祭りを作り上げるのはちゃんとした人間じゃないとできないんだけど、やっぱり「フェスをやろう!」という人はいい意味でぶっ飛んでいる。だからこそ魅力的な人が多い。こういう人たちがいるから日本という国がおもしろいんだと思っています。
─ 今年もいよいよフジロックが迫ってきました、楽しみですね。
津田:フジロックのメディアだから発言するわけではないけど、やっぱりフジロックはすごい。世界中のフェスを巡っても、フジロックに似た体験はどこでもできないし、オリジナリティに溢れています。初めて行ったときは、昼は暑いし夜は寒いし、雨でテントも流されるしで、「二度と来るか」と思ったんですけど(笑)、フジロックで味わえるあの快楽は、フジロックでしか取り返せない!ただどれだけその素晴らしさを伝えても、苗場に立ったときのあの感動に勝る宣伝文句なんてないんですよね。だからこそ行ったことない人はまずは一度行ってみてほしい。日本にフジロックがあってよかった!世界中の人に自慢したいフェスです。
Interview & Text by 梶原綾乃
Photo by リン(YLC Photograpghy)(インタビュー写真)
フェス旅 新刊〔日本全国音楽フェスガイド〕
【フェス旅】Festival Life 津田昌太郎さん トークショー レポート
https://voicy.jp/channel/1337/1262473
本の詳細はこちら
https://www.shogakukan-cr.co.jp/book/b10045833.html
著者:津田昌太朗
Festival Life編集長。1986年兵庫県生まれ。慶應義塾大学卒業後、博報堂に入社。英国の「グラストンベリー」がきっかけで会社を辞めロンドンに移住し、海外フェスを横断する「Festival Junkie」プロジェクトを立ち上げ。現在は、音楽フェス情報サイト「Festival Life」の編集長を務めながら、2019年には、これまで参加した海外フェスをまとめた『THE WORLD FESTIVAL GUIDE』(いろは出版)を出版。雑誌連載やラジオ番組のパーソナリティ、サマーソニックをはじめとしたフェスのステージMCなど、フェスカルチャーをさまざまな角度から発信し続けている。ワタナベエンターテインメント所属。
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