『The World Festival Guide』発刊記念インタビュー。津田 昌太朗に迫る〈前編〉
- 2019/06/25 ● Interview
津田昌太朗という男をご存知だろうか。知る人ぞ知るフェスティバル・フリークのこの男。フジロッカーズオルグとしても各所に取材するたびに、彼の名前が出てきたりして、知ってはいたのだが、なかなか彼への取材のタイミングを図れないでいた。今回、海外フェスをテーマにした「THE WORLD FESTIVAL GUIDE」を発刊するということで、いよいよオルグでもインタビューを行うことになったのだ。話を聞いてわかったのが、フェスティバルを好きになるきっかけはフジロックだったということ、世界各国のフェスティバルを回る理由は、初めてフジロックに行ったときのあの感覚をまた体感したいから。だと言う。そんな彼自身を作ったきっかけと今回の新刊の話をたっぷり聞いてきた。
フジロックとの出会いそれから─
─ まずは発刊おめでとうございます。ちなみに掲載されているフェスに全部行ってるんですか?
巻末に掲載されている小さい扱いのものは、これから行きたいフェスも入っていますが、大きい扱いのものは全部行っています。その中で唯一行っていないのは、バーニングマンなんです。
─ あ、そうなんですか?
そう。これは周りのみんなが、普通のフェスじゃないから、最後に取っておきなさいって(笑)。楽しみとして、これだけ一個取っておいているんです。
─ へぇ!
全部行っちゃうとやめちゃう(フェスに行くのを)かもしれないんで(笑)。だからそこの写真は宇宙大使☆スターさんの写真を借りて。実際に行った人に話を聞いて、書きました。これも編集者と相談して、載せるか載せないかっていうのを悩みました。バーニングマンはフェスなのか? っていう。フェスで載せると違う! って人もいれば、それこそフェスだ! って人もいるし(笑)でもそれを言い出したら、キリが無いなと思って。だから全部入れようってなりました。
─ どのフェスが一番好きとかあるんですか?
フェスという文化自体が好きなので、どのフェスも好きなんですが、一番影響を受けたのがフジロック。世界中回ってもフジロックはやっぱりおもしろいしと思うし、その次を探しているって感じです。
─ まだ見つかってない?
グランストンバリー(以下グラスト)はそれに近いものがあったから、移住(後述)することになったんですけど。でもこれだけ海外フェスに行っていても、やっぱり一年に1回は、フジロックに帰ってきたいって思うんですよね。
─ 2013年に初めて、グラストに行かれてますよね? それまでにフジロックは?
大学に入ってからフジロックに行っているので、2006年から行っています。
─ 僕は2007年からで。それで初めてフジロック行ったら、この世界観に感動した記憶があります。そのときにグラストとかの存在も知ったんですけど、いつか行きたい世界中のフェスをエクセルにまとめたりしていたんですよ。それでこの本を読んだときに、ああ、やっぱり実現させる人はいるんだなぁって。
この本もまさにそうで。誰かのためにというより、自分で行きたいフェスを300個くらい挙げていったんですよ。それで、現実的なやつ、あ、そもそもフジロックの裏のフェスは絶対行けないじゃないですか?(笑) フジロック行きたいから。
─ 一同(笑)
それで、そのリストで、何かできないかなぁと思っていて。それでそれを一つずつ行く作業をやっていて。
─ 初フジロックの2006年から初グラスト2013年の7年の間に妄想しつつ?
そう、情報を貯めていました。海外のライブにはたまに行っていたんですけど、なかなかフェスに行く勇気はなくて。ロンドンの街中の公園でやっているようなやつには行ったことあったんだけど、バックパック背負って“フェス”っていうのは、2013年が初めてでしたね。
─ 2013年の時点では、会社員だったわけですよね? よくグラスト行けましたね。
たまたま夏休みを1週間取れるみたいなときがあって。そのときは5日間くらいで行きましたね。木曜から入って、月曜帰ってくるみたいな。
─ なかなかハードですね(笑)
それまでは日本のフェスによく行っていたんですけど、平日働いて、金曜の夜現地に入って、月曜出社っていうのを繰り返してました。
だから、会社員時代フジロックの前夜祭に行けなかったんですよ。一番好きなんだけど。
『The World Festival Guide』ができるまで
─ さてでは新刊のお話を。本書を出すきっかけを教えてもらえますか?
イギリスに住んでいたころに海外フェスにめっちゃ行ってて。それをWEBに情報発信していたんですよ。
─ Festival Junkie?
そう。Festival Junkieという海外フェス横断プロジェクトみたいなのを2014年に立ち上げて、WEBで好き勝手に情報発信していたんですけど、それを2017年くらいに一回閉じたんです。なぜかというと、これをWEBでやっているのがもったいないと思って。もっと違う形で世の中に発信したいなって。なんとなく本にしたいなって気持ちもあったんですけど。
─ なるほど。
こんな時代だからこそ、海外のフェスに行くっていう不便をやる人には、本を買うっていう不便とか、わざわざ紙にするっていう不便の方が、響くというか、おもしろいんじゃないかなと思って。そういう違う形を見せたいと思って。今、WEBに載せないと世界に存在しない、みたいなところあるじゃないですか。でも逆説的にそんな時代だからこそ、モノとしてやりたいなって。
─ あとがきにも書かれていますが、一人でも多くの人に海外フェスを味わってほしいという意向を感じます。それだとやはりWEBの方が強くないですか?
もちろんWEBの方が拡がりはあるとは思うので、本も出せたことだし、またWEBで発信していこうかなとは思っています。ただ、WEBでこの本より詳しく海外のフェス事情を全部調べて行くのってつまらないと思うんですよ。この本くらいちょっとの情報で、これでも多いくらいだと思いますけど、ワクワクして行ってもらう方が、僕はおもしろいと思っていて。
─ なるほど。
海外のフェスに行きたいって思う人なんて、好奇心旺盛な人が多いですから(笑)。そういう楽しみは取っておくというか、執筆する上でもそこは注意しました。僕も海外フェスに行き始めた当時はこういう本なんてなかったし、自分で調べて行ったんですけど、やっぱり調べていたことと違うことがあるんですよ。そういうワクワク感は残したかったんです。ご飯とか、ここで食べたら大丈夫! とかも良いんですけどね。そうじゃない世界も見てもらいたい。きっかけは提供するから、あとは自分で考えて、自分で楽しんでもらいたいなって。それで本というフォーマットがバシっとハマったっていうのがありますね。
─ 編集はどのように進んでいったんですか?
もともといろんな編集者さんに会う機会は多かったんですけど、地球の歩き方の編集部にフェス大好きな伊澤さん(本書編者伊澤慶一氏)という方がいて。その人を紹介してもらう機会があったんですよ。それで僕がこういう本を作りたいんですって話したら、意気投合して。伊澤さんは、ウルトラとかトゥモローランドとかEDM系のフェスによく行っていて、フェスの本をいつか出したいと思っていたらしく。そのタイミングで伊澤さんに出会ったっていう。
─ すごい偶然ですね。
そしたら、トントン拍子に話が進んでいって。しかも伊澤さんがちょうど独立するタイミングで。独立するからこそ、記憶に残るような本が作りたいっていうのがあってそういうところが合致して、二人でいろんな出版社に声をかけていこうってなったんです。
─ それでいろは出版さんが見つかったと。
そう。TABIPPOという旅系のメディアがあるんですけど、伊澤さんがもともとそことつながりがあって、TABIPPO経由でいろは出版さんを紹介いただいて。僕もいろいろプレゼンとか行こうと思っていたんですけど、伊澤さんが「もう決まったよ! やりましょう!」みたいな。
─ 一同(笑)
ええ!? 僕の人となりとかそういうの見た上でとかないんですか? みたいな(笑)。
─ 本当にトントン拍子ですね(笑)
そうなんです。
─ 今回、フェス×旅というのがテーマとしてありますね。
そうですね。SNSのハッシュタグとかで、#フェス旅とかって、昔から僕と伊澤さんがつけていたんですよね。僕もフェスと旅っていうので、やりたかったんですよ。フェスからいろんなことを学んで、その街に行って、いろんなことを知ったりだとか。それこそ、フジロック行ったら苗場が第二の故郷になるみたいな。そういう感覚になれるのが、僕はフェスの中でも好きで。フェス+街みたいな。そういう本にしたくて。
─ そもそも海外フェスに興味を持ったきっかけって?
もともとずっと洋楽が好きで。中学校に入る前くらいから洋楽を聞いていたんですよね。
─ 早いですね(笑)
父がディープ・パープルとかレッド・ツェッペリンとかの世代で。レコードが家にあったんですよね。中学生くらいになったら、これを聞きなさいって、それが全部洋楽だったんですよ(笑)
─ 一同(笑) 聞きなさいだったんだ。
そうそう。これ聞いてないと男じゃない、みたいな(笑)。そういうのがあって、洋楽雑誌とか読むじゃないですか。僕は出身が兵庫なんで、フジロックには行けないんですよ。遠くて。でも僕が中学生のときにフジロックが始まって、雑誌とかですごいのがあるなって思って。レイジ出るじゃん! みたいな。それで、フジロックとか、サマーソニックっていう単語が中高のときに入ってきて、いつか行ってみたいなって思うようになったんです。それから大阪のサマソニに行くんですけど、もちろんそのときはサマソニのモデルがレディングなんてのは知らない状態で。それから大学進学を機に上京して、2006年に初めてフジロックに行って、のめり込んでいくんですけど、ふとモデルのフェスがあったことを思い出して。グラストンバリーっていうフェスがあるぞと。いつか死ぬまでには行こうと。そのときは、行けないと思っていたんですよね。チケットも取れないって聞いていたんで。学生時代はお金もないし、会社に入ったらも休みが取れないし。だからフジロックに行き続けるわけなんですけど、ずっと心のどこかにあったんですよ。グラストが。
はじめてのグラストンバリーへ
─ そうだったんですね。
「音楽だけじゃない、無駄の多さに惹かれた」みたいなことを日高さんが何かのインタビュー言ってたんですよ。それで、フジロックより遊び(=無駄)があるフェスなんてあるんだ、って思って。 そうしたら2013年に、たまたま友達がチケットを取ってくれて。僕はザ・ローリング・ストーンズが好きなんですけど、イギリスでストーンズを見るって夢があったんですよ。それでグラストに行くっていう夢もあって。それが重なったんですよね。
─ おお!
もうこれは行くしかないと。会社を辞めるとか、そのときはもちろん考えていなかったんですけど、そこまで予備知識も入れず、とりあえず行ったんですよね。
─ その引き合わせは運命を感じますね。
僕はフジロックに初めて行ったときの衝撃を超えるものなんてないと思っていたんですけど、同じ衝撃ではないんですけど、グラストでまたあの感じが来て。10代までは、日本でもサマソニ、フジロックは行くただの洋楽好きって感じだったんですけど、フェスにハマってからは、日本中のフェスを鈍行列車で回ったたりしていたんですよ。グラストを経験してからは、それの世界版をやらねば! ってなっちゃったんですよね。とりあえず住もうって(笑)。
─ すごい発想ですね(笑)
ストーンズの次の日のライブがマムフォード・アンド・サンズのライブだったんですけど、めちゃくちゃ楽しみにしていたんですけど、放心状態になっちゃって、僕ロンドンに帰ったんですよ。テント畳んで。横の若いヤツから、「お前バカじゃないのか? ストーンズより今はマムフォードだよ!」なんて言われて(笑)。でも帰って。それでずっと考えて飛行機に乗って。それで会社辞めようってなって、イギリスに住んだんです。
─ すごい決断をサラッと(笑)
そうそう(笑)。ヒースロー空港で退職届と退職願の違いを調べて(笑)。あ、願で出すんだ! みたいな(笑)
─ 葛藤とかなかったんですか?
そうですね。なんか辞めてやる! みたいなのもなくて、あ〜辞めよ〜。みたいな。特に何するとかも決めずにでした。だからロンドン行っても何も無かったんですよね。結局行ったのは9月くらいになっていたんで、フェス行きまくろう! みたいに思っていたのに、もうシーズン終わっちゃってるみたいな(笑)。何もねぇみたいな(笑)。
(後編へつづく)
前編はここまで。津田氏がフェスティバルに取り憑かれていく様子を聞いていると、フジロックに初めていったときのあの“感覚”が戻ってくるような錯覚を覚えた。彼の中でのフェスに対する熱は今でも燃えているのがわかる。彼の行動力には脱帽ものだが、当たり前のように話す彼からは、おごりや威張りなどは感じない。それがまた彼に惹かれる要因なのだろう。楽しそうに話す彼の言葉を聞いていると、インタビューを忘れ笑ってしまう自分がいた。さて次回は、海外フェスの話と本の話の続きを。乞うご期待。
執筆:紙吉音吉
撮影:粂井健太
津田 昌太朗
1986年兵庫県生まれ。大学卒業後、広告代理店に入社。「グラストンベリー」がきっかけで会社を辞めイギリスに移住し、海外フェスを横断する「Festival Junkie」プロジェクトを立ち上げる。現在は、日本国内の音楽フェス情報サイト「Festival Life」を運営しながら、雑誌連載やラジオ番組のパーソナリティーなど、フェスカルチャーをさまざまな角度から発信し続けている。2019年4月に「THE WORLD FESTIVAL GUIDE」を出版。ワタナベエンターテインメント所属。
FESTIVAL LIFE https://www.festival-life.com/
FESLAVIT https://feslavit.com/
発刊イベント情報
下北沢B&B
2019/07/14 Sun
津田昌太朗×津田大介
「世界の音楽&アートフェスから考える」
『THE WORLD FESTIVAL GUIDE 海外の音楽フェス完全ガイド』(いろは出版)刊行記念
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福岡六本松蔦屋書店
2019/07/15 Mon
津田昌太朗×深町健二郎 “究極の非日常に出会いに行こう!“『THE WORLD FESTIVAL GUIDE』 刊行記念トークイベント
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