意外にハードルは低い? 「テクノの祖父」クラフトワークを苗場で観よう!
- 2024/07/01 ● Column
今年のフジロック2日目のヘッドライナーはクラフトワークである。結成からすでに50年を超えて長く活動していて、シンセサイザーなど電子楽器を使用して作られた音楽--テクノ、ヒップホップ、ハウス、EDM--に多大な影響を与えている。「エレクトロニック・ダンス・ミュージックの祖父」なのだ。もちろんクラフトワークがいなかったら電気グルーヴもいない。
ドイツ(デビュー当時は西ドイツ)出身のクラフトワークと黒人音楽、とりわけヒップホップやハウスとのつながりは各所で語られているので検索してもらうとして、当時新しいテクノロジーであるシンセサイザーやシーケンサーによる自動演奏を導入したパイオニアとしてさまざまな実験的なことをやっていたのだけど、「あれやってみよう、これやってみよう」と子どものような好奇心がクラフトワークの根本にある。取り上げる題材が自動車、鉄道、ロボット、コンピュータ、自転車レース……というように子ども、特に男の子が好きそうなものである。その好奇心が海を渡り黒人の男の子たちを刺激してヒップホップが誕生する触媒となっていったのではないか。
その実験精神は音だけでなく、ステージの視覚表現でも発揮されていて、近年ではステージ背後のスクリーンに3D立体映像を映し、専用のメガネをかけてライヴを体験できるようになっている。立体的に映しだされたロボットやスペースコロニーやヨーロッパ急行などが目の前に迫ってくると、音との連動で没入感がすごい。単独公演やソニックマニアでも体験した人も多いのではないか。それが今回、苗場の高原でどのような効果を生むだろうか。3Dメガネはみんなに行き渡るのだろうか。
予習用おすすめアルバムとして、何よりも1991年にでた『THE MIX』だろう。過去の曲を新たにアレンジして録音されたもので、ベスト盤的な性格もあるし、現在のライヴはこのアレンジされたものを基本としてさらに磨き上げているものが多いからだ。『THE MIX』以外からのライヴの定番曲(例えば“The Model”とか“The Man-Machine”とか)はサブスクなどで補うようにしよう。しかし、スクリーンにでてくるのが数字、自動車、パソコン、電卓、鉄道、ロボット、自転車なんで予習せず何も知らなくても楽しめる敷居の低さはあるので好奇心だけで観ても問題ない。
そして、おそらく近年のレパートリーとして頻繁に演奏されている強力なメッセージを持つ曲があり、それは科学を無邪気に礼賛してきた彼が、科学がもたらした厄災を目の当たりし、その責任の取り方を原曲からアレンジして表現したのではないかと感じる。これは直接、苗場で耳と目で体験して自分なりの答えをみつけてほしい。
Text by イケダノブユキ