ちょっと遠くのフェスティバルで出会える特別な時間。今年もウンカイナチュラルキャンプへ。
- 2023/12/14 ● Report
数年前から仲間うちで、「めちゃくちゃ楽しいよ!」と聞いていた、岡山県美作市大芦高原キャンプ場で行われる「UNKAI NATURAL CAMP(以下、UNC)」にやっとの思いで初参加できたのは昨年2022年のことだった。「岡山の山奥」という、東京で暮らす筆者にとっては足を運ぶだけで大冒険に感じるその場所で、個性豊かなライブやマーケットと、そこでしか味わえない自然豊かなロケーションを満喫し、全てが瑞々しく美しく感じたことをレポートで伝えさせてもらった。
今年は飲食物に関するルールが少し変わったことなどもあり、会場のど真ん中に陣地をかまえた昨年とは違って、会場から少し離れた丘の上にある「HILL」というキャンプサイトに滞在場所を決め、また新たな過ごし方をしてみることにした。キャンプはキャンプとしてしっぽりと楽しみつつ、見たいライブがあるときには会場に滞在するといった感じ。あえてノー予習で挑んだ昨年に比べると、フェスの特色を理解した過ごし方ができたかもしれない。
10回参加している朝霧JAMですら、未だにベストな過ごし方の答えは出せていないくらい、キャンプインフェスの過ごし方はさまざまだ。運営規模や歴史の差を考えればUNCで感じるその感覚は、このフェスが未だ完成形ではないという、なまなましさも伴う。過ごし方に自分のフォーマットが出来てしまったら、それはただの音楽イベントに過ぎないんだろうな。ここに求めているのはそういったものではない。キャンプ地を作りながらそんなことを感じ、今年はまた新たな感覚で3日間を楽しもうと思った。
今年は11/3が祝日であったこともあり、昨年は内々のパーティーとして行われていたという前夜祭が公式にオープンし、11/3〜5の金土日3日間開催となった。初日から午前3時まで続くDJや、落語に和太鼓などの興味深いアクトがたくさんある。
オープン時間に合わせるため、木曜夜に東京を車で出発し12時間ほどの大移動をしてきた。へとへとだった体を休めに、会場から車で数分の場所にある温泉に行ったりと、時間を気にせず過ごしながら19時頃にフラフラと会場入りした際に行われていたのは「毎日どこかがダンスホール」と銘打たれた盆踊り。今年のフジロックで民謡クルセイダーズを見て以来、民謡や盆踊りがプチブームになっている筆者も秒で輪に入り込みオーガナイザーの方のレクチャーを受けながら踊った。
「苗場音頭」も岡山県の山奥で踊ることができたのは嬉しいサプライズ。気が付けばまさかの汗がじっとりで、貼ったばかりのカイロをはがすはめになった。今年は寒くなるのが遅かったこともあり、この期間中寒さに苦しめられることは予想外にほぼなかった。盆踊りの盛り上がりと、この日の温度感が伝われば嬉しい。
盆踊りの後には、UNCではおなじみのエンバーンが登場。ライブの最中に空をライトで照らし、お仲間を呼び寄せようとしていたようだが、一般人のわれわれにはUFOの姿は確認できず。このフェスおなじみのUFOを呼ぶワークショップもこの晩密かに行われていたようだが、なぜ今年から少し密かになったのか…。お宙の彼らと打ち合わせでもしたのだろうか…。ほんのちょっとミステリアスなこの宇宙ネタもまた、このフェスの色である。
UFOを発見することは出来ずとも、見上げれば満天の星空だ。「晴れの国おかやま」とうたわれるこの土地の空気というのは不思議とよどみがなく、心も晴らしたまま前夜祭のこの日は早めに就寝した。
さて2回目の参加となった今年はというと、音楽フェスに行くのに出演者もほぼ調べず、いきあたりばったりでのぞんでみた昨年とは逆に、公式プレイリストを聞き込み、このフェスのブッキングの個性をしっかり心得た上で見たいアクトをピックアップしておいた。
本番1日目となるこの日は、朝ごはんをゆっくり食べ、二度寝までして昼過ぎに会場に降りた。「しっかり予習していた」とは言え、認識していたのはおおまかな音楽性となんとなくアー写くらい。インストでチャカポコした感じの音が楽しそうだなと思っていたMonaural mini plugを見るために、森の中にあるメインステージFOREST STAGEで待ち構えていたが、開演時刻になってもリハーサルが行われているし、ついには引っ込んでしまった。序盤なのにおしてるなー、とちょっと不穏に感じていたら、外のどこかでドンチャンと演奏されている音が聞こえる。ゲリラライブとかもあるのか、と見に行ったらステージ場外ではじまっていたのがまさにお目当てのMonaural mini plugのライブだった。
車輪のついたサウンドシステムをスタッフやお客さんやらで引っ張って動かし、行きついたところで演奏する。規模の小さい会場ならではのこの演出にはとてもワクワクして心を掴まれた。
ちなみに上述したタイミングでリハをやっていたのは、この後のGeGeGe。金沢発という彼らは、インディーでちょっとサイケなバンドサウンドがクセになる。
このフェスには、新しい情報にうとい筆者からすると、どこから見つけてきているのだろうかと思うようなアーティストがたくさんいて、そのそれぞれが小さな枠におさまらない独自性とパフォーマンスの精巧さを持っていて目を見張る。
その存在感も鳴らす音も、神聖な雰囲気に満ちたステージを見せてくれたインドネシアのStars and Rabbitは、どんな巡り合わせがあってこのフェスに来ることになったのだろう。はたまた、客席に随時話しかけながらステージを飛び出してパフォーマンスし、地元の友達のようなフレンドリーさを漂わせる岡山出身のcocuriなどもいる。かなり敏感なアンテナを張り巡らせている人がブッキング陣にいるのではないだろうか。よくありそうな「ローカルでゆるくてチルできるイベント」におさまらないのは、この辺の技がなせるものだと思う。
技の効かせ方は、出店の個性でも感じることができる。出演者がMCで「なんかこの辺りはシルクスクリーンとか刺繍を伝統として町おこしでもしてるんすか?え、違いますよね??」と全面的にポジティブな意味で揶揄していたが、その手の出店がかなり充実している。
オリジナルグッズの販売がない代わりに、手持ちアイテムを思い出の品にしてくれるシルクスクリーンや刺繍のショップたちを昨年初めて体験して、そのためにまたUNCに行きたいと思うほどにちょっとハマった。
今年もTシャツにオリジナルUNCロゴのシルクスクリーンを、キャップにUNCを彷彿とさせてくれるUFOの刺繍を入れてもらってきた。
絵柄や色を自分の好みで選べるのが楽しくて、出来上がるまでの1時間程度ライブを見たりごはんを食べて過ごした後、自分のその子をピックアップしに行く行為そのものがなんだか愛おしく感じるのだ。
一緒に行ったスタッフは去年入れた刺繍の下にまた今年新しく刺繍を入れていた。そこで得た幸せな体験や記憶を投影したモノが、フェスと共に育っていくことに妙な嬉しさを感じる。これ、いろんなところでやってくれたら嬉しいけど、この規模のイベントですらスタッフさんの残業を引き起こすほどに人気だったので、ここだけのとっておきにしておくのがいいのかもしれない、とも思う。
そんな感じで、絶妙にローカルなゆるさを匂わせながら他のフェスにはないスパイスを感じるUNC。地元のお寿司屋さんや餃子屋さんなどよそではあまり出会わないようなフードや、食材として地場の野菜を売る店があったりするのもおもしろい。
暖を取りながら出店者の方とお話しできる焚火処もなんかもあって、こういう風に場所を提供するという出店の形もおもしろいなと思った。ここで非公式ライブ的に行われていたコンテンポラリーなショーも印象深く記憶に残っている。
そして、夜のアクトにもぬかりがない。中心エリアにある公式バーの横で、昼から常にDJ陣が気持ちいい音を鳴らしてくれるSUNSHINEステージの他に、夜が深くなると全容を現す野外ステージがMOONSHOT。もうひとつ、HUTという謎のプレハブ小屋(大きめの部室、小さめの体育館みたいなやつ)にもDJが登場して、朝5時までどこかしらで音が鳴っている。
この夜は21時過ぎに登場したカナダからの刺客Demskyの耳なじみのいいビートで少し体を揺らした後、謎の小屋を覗いてみたら、imai(group-inou)がバッキバキにキメにかかってきていてとんでもなくアガった。
圧強めのプレイにもはや爆笑しながら外に出て、600円というハートフル価格が嬉しいKawazu Brewingのクラフトビールで喉を潤し、束の間クールダウンをしたら、超注目だったKEN ISHIIのおでましだ。90年代を代表するテクノDJと言って過言ではないあのKEN ISHII。鋭い眼光のアー写は何度も目にしてきても本物を拝むことはこれまでなかったあのKEN ISHIIと、2023年に岡山の山奥でめぐり合うなんて…なかなかおもしろい。
かくいうKEN ISHIIはアラフォーのそんなノスタルジーなんて感じとる意味もなく、涼しい顔で安定のプレイをしていた。そして中年の体が2時間ぶっ通しで踊れるわけがないので、中一時間ほどは焚火にあたって酒を飲みながら身の程話をしていたわけである。KEN ISHIIを前後に拝みながら合間にしっぽり焚火トークを挟む経験は、後にも先にもなかなかない、今だけの時間だろうなと思った。
こんな風にUNCの夜はふけていく。昨年初めて見て感動した雲海を早起きして見に行くこともなく、朝らしいヨガやラジオ体操に参加するわけでもなく、ただこのロケーションと流れていく時間に身をまかせ過ぎていった3日間。
とんでもなく心待ちにしていたアクトがいるわけでもない、何かこの土地に特別な因果があるわけでもない。それでもわざわざ10数時間かけて東京から足を運んでみて得られるのは、非日常なのかそれとも日常の延長にあるのかわからない、ちょっとノスタルジックで特別な時間だ。そこでは生活の愛おしさを底上げしてくれるようなシーンにたくさん出会うことができるのだった。
語りはほどほどに、あと少し印象的なライブたちを写真で振り返ってみる。
思った以上にイカついアツいプレイに釘付けになったneco眠る
浮遊感ある演奏とボーカルで夢見心地だった、んoon(ふーん)
「京都発のお上品なおジャズをお届けします」といいながらエモーショナルな爆音ジャズで圧倒させてくれたkott
そして、森がダンスホールと化して今年イチ盛り上がっていたように見えた馬喰町バンドの「わたしたち」という曲が、帰ってきてからも脳内再生され続けている。
「そうさ、歩きませんか。わたしたちの歩き方で。そうさ、踊りませんか。わたしたちの踊り方で。」
自然と気持ちを明るくしてくれるような演奏とシンプルな言葉が妙に突き刺さる。森の空気を感じながら、普段は悲観してしまいがちな自分の日常のことも、じわりと賞賛したくなったあの瞬間が、今年のUNCのハイライトだ。
前述したcocuriがMCで「洗濯物を洗うように、畳むように、これからも音楽を続けていきます。」と言っていた。それぞれの生活の中で、行き着いた先にあるこんなフェスティバルの存在に喜びをもらって救われる。またここに来られてよかった、そんな気持ちを噛み締めながらまた10数時間かけて東京に戻り、仕事に向かうのだった。
Unkai Natural Camp(ウンカイナチュラルキャンプ)
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Text by 東いずみ
Photo by HARA MASAMI,Ryota Mori