• 【FRF’22 Pickup vol.7】MOGWAIという体験


    MOGWAI (Photo courtesy of SMASH)

    MOGWAI (Photo courtesy of SMASH)

    「あなたは、モグワイ体験したことありますか?それとも、まだ、ですか?」モグワイとは、スコットランド、グラスゴー出身のポストロックバンドであり、同時に、一つの体験そのものを指す。目の前で彼らの奏でる静寂と轟音に包まれ、何度も昇天しながら自らの精神を解放する一連の体験──それはライブを通じた一種の儀式であり、自宅のスピーカーやヘッドフォンでただ聴くだけの、「Listen to the Music」とは根本的に異なる。モグワイ経験者にとって、それは至極当然な事実であり、常識ですらある。

    そんな刺激的なバンドを体験できるチャンスが今年のフジロックにやって来る。11年ぶりに彼らが苗場に帰って来るのだ。2000年レッド・マーキー、2001年、2003年、2006年のホワイト・ステージ、2011年グリーン・ステージに出演し、今年6度目のフジロック出演は、日曜レッド・マーキーのヘッドライナーを務めることが決まった。フジロックの他にも、朝霧ジャム、メタモルフォーゼやサマーソニックなど、積極的に日本のフェスティバルに出演してきた彼ら。メンバーたちも日本好きを公言しており、単独のライブでも何度も来日している。古参のフジロック参加者たちにとっては、もはや常連的ポジションに位置するバンドだし、そのライブを何度も経験したことのある人も多いと思う。「11年ぶり」と聞いて意外だと感じた方も筆者だけではないはずだ。今回は、主にまだモグワイを経験したことのない人に対して、その素晴らしさを理由とともに再確認し、結果1人でも多くのモグワイ体験者が増えることに繋がるのを願っている。

    美しい旋律

    モグワイを語る時、まず最初に「轟音」というキーワードで語られることが多い。しかし、その轟音を支えるメロディラインの美しさこそが、モグワイサウンドの根底にあることを忘れてはならない。このどこまでも美しい旋律があるからこそ、この後に押し寄せる轟音が、ただの暴力的なノイズにならずに私たちの胸に迫って来るのだ。一つ一つ丁寧に紡ぐ様な単音。ミニマルに構成されたギター、ベース、そしてドラムスの音が徐々に重なり合い、心地良く我々の心を少しずつ紐解いていく。この美メロの前戯によって、聞き手は気づかぬうちに、その後に待ち受ける音の嵐を受け入れる態勢を整えられてしまっている。完璧に計算し尽くされた構成から、モグワイは戦略的バンドだと形容されることも多い。

    “Helicon1”
    一つ一つの音が美しく響く、初期の名曲。リンク先のMVは後年になってから日本で撮影されたもの。モグワイの日本贔屓が垣間見える。

    有機的轟音

    「来るぞ、来るぞ。」 緊張を含んだ甘美な予感。一瞬の浮遊感、直後にやって来る爆風。美しい旋律から一転、自ら一気に破壊するノイズを帯びた轟音。これらはモグワイの代名詞とも言え、決して鼓膜だけで聞くことはできない。全身で浴び、そして撃たれるのだ。しっかりと踏ん張らないと、意識と共に体ごと吹き飛ばされてしまう錯覚に包まれる。朝霧ジャムでは、その轟音から酪農の牛たちに配慮して、元々深夜に予定していた出番を早めたという噂もある。またフジロックのキャンプサイトにいた筆者の友人は、ホワイト・ステージのモグワイの音が、ずっと聞こえ続けていたと証言した。キャンプサイトにより近いグリーン・ステージやレッド・マーキーでも他の演奏が行われていたにも関わらず、である。

    ギターノイズを含んだ轟音というと、どうしても無機質で硬質、そして冷たい音感を想像してしまう。しかし、モグワイの場合それが当てはまることはない。むしろ逆である。圧倒的な音圧と音量が、熱と優しさを帯びて会場を一気に包み込む。実際そこにあるはずもない、やわらかな光を感じ始める頃には、あなたは最初の昇天を迎えているはずである。目を瞑る、天を仰ぐ、ゆっくりと体を揺らす、聞き手の反応はそれぞれだが、顔の表情だけは皆同じである。恍惚。それ以外の単語を私は知らない。

    “Mogwai Fear Satan”
    1stアルバム『Young Team』に収録されている。現在でもライブのラストソングとして演奏される事も多い代表曲。音の洪水、その迫力に視聴注意。

    静と動、その先にある解放

    「アリガート。」フロントマンのスチュワートは、一曲演奏が終わるたびに、律儀に片言の日本語を発する。催眠術師が指でパチンッと音を鳴らす様に、その片言がオーディエンスの目を覚ます。拍手の後、誰もが一つ深呼吸を挟む。次の曲が流れるまでの、完璧な静寂。そして夢から覚めた会場に、再び単音が響く。繰り返し、繰り返し。静と動、緊張と弛緩。繰り返し、繰り返し。そして何度も天に召されたあなたは、もう自分が後戻りのできない体になってしまったことに気づく。心も体も、勝手に次のモグワイを求めてしまっている。さらなる快楽を、自分に正直に、素直に求めている自分がいる。

    彼らのライブ終了後は、何とも言えない不思議な感情に包まれる。心の中に溜め込んでしまって捨てることもできない、本当は自分にとって不必要だと知っている何かが跡形もなくなくなっているのだ。あの爆風によって全てが洗い流された様な感覚。心地良い疲れが残る肉体と比例して、心は、全てが軽い。生まれ変わり、再生、再起動。人それぞれ表現は違えど、ライブの後に長く残る余韻の本質こそ、モグワイ体験のラストに位置する「魂の解放」である。このカタルシスが、モグワイ中毒者を次々に生み出してきた理由そのもの。きっと同じ体験が、貴方にも訪れるはずだ。

    “2 Rights Make 1 Wrong”
    3rdアルバム『Rock Action』収録。聴き終えた後の脱力、曲の美しさにいつも放心状態になってしまう。哲学的な意味深タイトルも秀逸。

    最新のセットリストから

    現在ヨーロッパの各都市で連夜ライブをおこなっているモグワイ。その最新セットリストから、フジロックでも演奏する可能性の高い曲をリストアップした。やはり昨年リリースされ、全英No.1を獲得した10thアルバム『As the Love Continues』からの曲が中心となると思われる。初体験に予習など不要だが、モグワイの場合、免疫を備える意味でも一度くらいは聴いてみることをお勧めする。

    入場規制必至のレッド・マーキーに降臨するモグワイ。屋根と壁が存在し独特の閉塞感のあるステージで、その磁場力を活かした特別な空間へと誘うライブ。キャパ5000人の「ハコ」ごと、どこか異空間にトリップする、そんな不思議な箱舟体験。さあ、日曜夜、あなたも一緒にモグワイ体験しませんか?

    text by takuro watanabe

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