【FRF’22 Pickup vol.3】DINOSAUR JR.
- 2022/05/14 ● Column
今年のフジロック7月30日(土)に出演が決まったダイナソーJr.は、今年日本でも公開されたドキュメンタリー映画『ダイナソーJr./フリークシーン』が作られたようにグランジブームの重要なバンドのひとつとして存在感は今なお増している。
映画のなかで、キム・ゴードンやサーストン・ムーア、ブラック・フランシス、ヘンリー・ロリンズ、ケヴィン・シールズなどが証言し、バンドの中心人物であるJ・マスシス(実際はマスキスと発音するようだ)はデイヴ・グロール加入前のニルヴァーナに誘われたとあったというエピソードが示すように80年代後半から90年代前半のグランジシーンの真っ只中にいて、多くのミュージシャンと交流し、影響を与えた。
80年代、アメリカ・マサチューセッツ州て結成され、ギター&ヴォーカルのJ・マスシス、ベースのルー・バーロウ、ドラムのマーフで活動を始める。3rdアルバムが出たあとでJとルーが対立して(映画ではステージ上で殴り合いの喧嘩を始めるシーンがある)、ルーが脱退し、のちにセバドー(※)を始める。5thアルバム時にマーフも脱退して、実質的にJのソロプロジェクトのようになる。バンドは1997年に解散した。
2005年にJとルーが和解して再結成。フジロックやサマーソニックにも出演し、以降はコンスタントにアルバムを出し、ライヴもおこなっている。2022年には前述のドキュメンタリー映画も公開され、今が一番充実しているときではないかと思えるのだ。
激しくノイジーなギターとやる気の無さそうな歌声が同居し、音と精神はパンクを受け継いでいるのに、曲はニール・ヤングをはじめオールドなロックの構造を持つというもので、それがのちにグランジと呼ばれるジャンルになっていった。映画や実際のJ・マスシスの仕事ぶりをみていると、Jは決して無気力な人ではなく、才能が溢れでてどんどん仕事をしてしまう人だということがわかる。最新アルバムの充実ぶりを聴くとそれが感じられる。
(※)ペイヴメントらと並んでローファイ・サウンドを確立したUSインディー・ロックバンド。
おすすめアルバム
『Dinosaur』
まずはデビュー作。今に至るまでのダイナソーJr.のすべてが詰まっている。80年代の半ばであるので、このころにはまだ地下に潜っていた感じであるけど、いまだにライヴで取り上げられている曲も多く、彼らの出発点を確認できる。
『You’re Living All Over Me』
2ndアルバム。クレイジーな轟音ギターと疾走するベースとドラムで殺伐としたロックを提示した。冒頭の“Little Fury Things”からして相当頭のおかしい音楽なんだけど、ヴォーカルが入るとメロディアスでポップとさえ思える不思議さがある。3人の力が発揮された傑作。
『Green Mind』
グランジブーム真っ只中に出たアルバム。このアルバムは1991年2月に発売され、ニルヴァーナの『Nevermind』がその年の9月だったので、その空気感が伝わる。自分は1曲目に入っていて歪んだギターが疾走する“The Wagon”のシングルを買った日に何度もリピートして聴いていた。Jマスシス主導になり、曲のバラエティが増えてアコースティックな領域まで広がっていった。
『Sweep It Into Space』
最新作。轟音ギターはそのままに年輪を重ねただけある種の「熟成」を感じられるものになっている。一緒に歩んでいた人たちからすれば、すごくしっくりくる。中でもルー・バーロウ作の“Garden”はゆったりと時間が流れて貫禄さえ感じる。最近のセットリストをみるとこのアルバムから多く演奏されているようなので、予習をしてフジロックに備えよう。
ちなみにザ・キュアーのカヴァーである“Just Like Heaven”はライヴの定番曲であるので、こちらも押さえておきたい。何千何万と世の中にあるカヴァーの中でも最高のものだと断言できる。特に曲の終わり方。初めて聴いたときには爆笑してしまった。
text by イケダノブユキ