【FRF’22 Pickup vol.2】VAMPIRE WEEKEND / FOALS
- 2022/05/03 ● Column
今年のフジロックで初のヘッドライナーを飾るアメリカ・ニューヨーク出身のヴァンパイア・ウィークエンドと、準ヘッドライナーのポジションを担うイギリス・オックスフォード出身のフォールズ。この2組のバンドは2000年代中盤の同時期に生まれ、それぞれの成長プロセスを経て、今や海外のフェスティバルでもヘッドライナーを務めるほどのビッグ・バンドへと成長した。ここでは2組のポストパンクバンドが歩んできたストーリーと2022年地点の話について書きたいと思う。
この2組の共通点は、ポストパンクをベースにした初期サウンドから、その後オリジナリティある進化を遂げていったバンドであるということと、理知的なバンドであること、そしてメンバー脱退のプロセスを経ていることだ。まずは、彼らの経歴を年代順に振り返ってみる。
<VAMPIRE WEEKENDバイオグラフィー>
2006 | エズラ・クーニグ(Vo./Gt.)、ロスタム・バトマングリ(Gt./Key./Per.)、クリス・バイオ(Ba.)、クリス・トムソン(Dr./Per.)により結成。 |
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2007 | デビューアルバム『Vampire Weekend』リリース。 |
2010 | 2ndアルバム『Contra』リリース。 |
2013 | 3rdアルバム『Modern Vampires of the City』リリース(グラミー賞 オルタナティブ・ミュージック・アルバム賞 受賞作品)。 |
2016 | ロスタム(Gt./Key./Per.)脱退。 |
2019 | 4thアルバム『Father of the Bride』リリース。 |
<FOALSバイオグラフィー>
2005 | ヤニス・フィリッパケス(Vo./Gt.)と旧メンバーであるアンドリュー・ミアーズ(Gt./Vo.)によって結成。そこにジャック・ビーヴァン(Dr.)、ジミー・スミス(Gt.)、エドウィン・コングリーヴ(Key.)、ワルター・ジャーヴァース(B.)が加わり、間もなくアンドリューは脱退。 |
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2008 | デビューアルバム『Antidotes』リリース。 |
2010 | 2ndアルバム『Total Life Forever』リリース。 |
2013 | 3rdアルバム『Holy Fire』リリース。 |
2015 | 4thアルバム『What Went Down』リリース。 |
2018 | ワルター(B.)脱退。 |
2019 | 5thアルバム『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 1』リリース。 |
6thアルバム『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 2』リリース。 | |
2021 | エドウィン(Key.)脱退。 |
2022 | 7thアルバム『Life Is Yours』リリース予定。 |
リリースしたアルバムの枚数や、USとUKの土地柄的なところからくる音楽性の違いみたいなものこそあれど、この2つの成長プロセスは似ているように見える。以下では、その成長プロセスとサウンドの魅力について書いていきたいと思う。
インディーロックシーンに生まれ落ちた2つのバンド
2000年代、インディーロック界から次世代を担うバンドが続々とデビューした。UKからは正統派UKロック系のアークティック・モンキーズやカイザー・チーフス、USからはガレージロック・リバイバルの主役となったザ・ホワイト・ストライプスにザ・ストロークス、ポストロック界の異端児バトルスなど。そんな時代にヴァンパイア・ウィークエンドとフォールズはデビューした。
ポストパンクをベースにアフロビートの要素を含ませポップなサウンドへと昇華させたヴァンパイア・ウィークエンドと、ポストパンクをマスロックやダンサブルなビートに乗せて鳴らすフォールズ。彼らの存在を印象付けたのは、なんと言ってもアンセムの存在だ。ヴァンパイア・ウィークエンドの“A-Punk”に、フォールズの“Cassius”と“Hummer”、どれも当時の屈指のアンセムであり、初期の彼らのライブには欠かせない曲だ。
VAMPIRE WEEKEND “A-Punk”
FOALS “Cassius”
2枚目のジンクスを打ち破った意欲作
2000年代後半、ポストパンク・リバイバル系のバンドは本当に多くて、当時それらをできるだけ網羅しようと時間を捻出しながら聴いていた。ただ、それだけの数のバンドが皆生き残れるはずもなくて、僕は彼らに対して「彼らは次も安定したクオリティの物が出せるんだろうか?」と懐疑的に見ていたところもあったし、実際淘汰されていったバンドは多かった。
しかし、それは彼ら2組には全く関係なかった。僕の疑念を払拭してくれた彼らの2ndアルバムはどちらも秀作だ。ファンタジックな世界観をグレードアップしたポップネスで鳴らしたヴァンパイア・ウィークエンドの『Contra』と、マスロック色を薄めて悠久のサウンドスケープとエモーションを手に入れたフォールズの『Total Life Forever』。どちらも1stアルバムででき上がったパブリックイメージを上書きするブレイクスルー作品となった。
VAMPIRE WEEKEND “Cousins”
FOALS “Spanish Sahara”
バンド第1章の完結
ヴァンパイア・ウィークエンドは、2013年に3rdアルバム『Modern Vampires of the City』をリリース。『Contra』のファンタジックな世界観から一転、愛や死や憧れなどの普遍的なテーマをシンプルなサウンドで鳴らした本作は、紛うことなき彼らのマスターピースとなった。リードトラックとしてリリースされた“Step”と“Diane Young”のMVを初めて観た時の震え上がるようなあの感覚は今も忘れないし、9年経った今も全く色褪せることはない。このアルバムでグラミー賞オルタナティブ・ロック部門も獲得した彼らは、一気に世界のメインストリームに立つ存在となった。
VAMPIRE WEEKEND “Step”
VAMPIRE WEEKEND “Diane Young”
一方フォールズは2013年に2ndのゆったりとした悠久のサウンドスケープに緩急というスキルをアドオンした『Holy Fire』を、2015年にはより強靭なフィジカルのグルーヴを手に入れた『What Went Down』を比較的短いスパンでリリースしていった。着実に支持を集めていった彼らのスケールはどんどん巨大化していく。ロンドンで1万人規模のアリーナを埋め、フェスではヘッドライナーも飾り、アメリカでは全米オルタナティブ・チャートで1位を獲得するなど、まさに鰻登りの活躍を見せた。
FOALS “My Number”
FOALS “What Went Down”
着実にキャリアを積んでいった彼らだが、ここでターニングポイントを迎えることになる。それは「メンバーの脱退」だ。ヴァンパイア・ウィークエンドはバンドの核でもあるロスタム・バトマングリが脱退、フォールズからはベースのワルター・ジャーヴァースとキーボードのエドウィン・コングリーヴがそれぞれ段階的に脱退した。
メンバーの脱退が及ぼす影響は言わずもがな大きい。それは、構造の変化だったり、そもそもの音楽との向き合い方の変化など、多岐に及ぶ。しかし、そんな環境の変化という壁もまた、彼らは糧として血肉に変えていく。
メンバーの脱退をきっかけに生まれた大きな変化
ヴァンパイア・ウィークエンドは、ロスタムの脱退を期に、自らを見つめ直し、最終的にオープンで自由な音楽を『Father of the Bride』で獲得した。そこには、より確固たるものになったポップネスと、圧倒的に広がったサウンドスケープ、あとは迎え入れた多彩なゲスト陣(ハイムのダニエル・ハイム、ジ・インターネットのスティーヴ・レイシー、ダーティ・プロジェクターズのデイヴ・ロングストレスなど)の彩が添えられている。そう、彼らの音楽を取り巻く世界自体が大きく広がっていったのだ。
VAMPIRE WEEKEND “Harmony Hall”
VAMPIRE WEEKEND “Sunflower ft. Steve Lacy”
それに対し、フォールズは2回(実際は3回)に及ぶメンバーの脱退の事実をポジティブに捉え、それをエネルギーに変え作品へ昇華させていった。そこから結実したものが『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 1』と『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 2』だ。この2部作はフォールズ初のセルフ・プロデュース作品で、全てを自分たちでコントロールすることで、フォールズの強みである知性と肉体性をより確固たるものにした。結果、『Part 2』ではキャリア初となる全英チャート1位を獲得した。
FOALS “In Degree”
FOALS “Black Bull”
新章、新たなマスターピースを求めて
そんな彼らの気になる新作だが、フォールズは今年6月12日に7枚目のアルバム『Life Is Yours』をリリースする。先行してリリースされた“Wake Me Up”と“2am”、“Looking High”から読み解けるのは、フォールズの古今融合。1stアルバム『Antidotes』のマスロック的なリズムとグルーヴにポップネス、『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 1&2』で獲得した強固な知性と肉体性、それらが合わさったマスターピースが生まれる予感大だ。
FOALS “Wake Me Up”
FOALS “2am”
ヴァンパイア・ウィークエンドの方は、『Father of the Bride』に収録されている“2021”のグース及びサム・ゲンデルによるリミックス盤(その尺なんと合計40分42秒!)と、細野晴臣とのスプリットシングル『Watering a flower 2021』がリリースされた以外、バンドとして特に目立った動きはないが、2018年のフジロックでサプライズ出演したハイムのダニエル・ハイムが新作のレコーディングに参加しているという話もあるので、そこも含めて楽しみに待とう。
VAMPIRE WEEKEND presents Goose – 2021 (January 5th, to be exact)
VAMPIRE WEEKEND presents Sam Gendel “2021 (in the space between two pieces of wood)”
ライブにおける注目ポイント
彼らが今のポジションまで上り詰めたのは、作品のクオリティももちろんあるが、それ以上にライブの良さにあることは間違いない。そんな彼らのライブの魅力を一言で言うなら、ヴァンパイア・ウィークエンドの「楽しさ」と、フォールズの「没入感」だ。
まずヴァンパイア・ウィークエンドは、“Horchata”や“Unbeliever”、“M79”のようなミドルテンポのポップチューンを演りつつ、“A-Punk”や“Cousins”、“Diane Young”をはじめとするライブアンセムを挟み込んでいく。そこに2018年のフジロックで披露された他アーティストのカバー曲なども大きなアクセントになって、ステージには色鮮やかな世界が広がっていくところが、彼らのライブの大きな見どころだ。さらに、2018年のようにサプライズゲストが出演したら最高だよねというのと、あと、個人的には“White Sky”などに見られるベースのクリスの個性的なステップの取り方にも是非注目してほしい。このステップを見ていると、思わず自分もそれに合わせて踊りたくなってしまうのだ。
フォールズの方は、なんと言ってもプログレッシブな圧倒的グルーヴがセットリストを通して、緩急を持って感じられるところが何よりも大きい。“Inhaler”、“Providence”、“My Number”、“In Degrees”、“Mountain at the Gate”など、盛り上がる曲を挙げ出したらキリがない。そこに新アンセムの“Wake Me Up”や“2am”などが加わると考えると、もう今から気分の高揚が止まらない。ライブの最後の方では、“What Went Down”のヤニスの客席に突入するパフォーマンスも相まって、興奮は最高潮に達すること必至だ。ちなみに、前回の出演は2013年のグリーン・ステージ、夕方頃の出演だったが、個人的な思いとしては、今年は是非ホワイト・ステージのトリを飾ってあの空間をフォールズ色に染めてほしい。
text by 若林修平