CANDLE JUNE氏×高橋一聡氏インタビュー(後編)~追悼復興イベント「SONG OF THE EARTH 311」を語る~
- 2020/02/21 ● Interview
フジロックや朝霧JAMがスペシャルサポートする、CANDLE JUNE (キャンドルジュン/以下、JUNE) さん主催の「SONG OF THE EARTH FUKUSHIMA 311」(以下、SOTE311)が、3/8(日)・3/9(月)・3/11(水)に福島で開催されます。
SOTE311について、大将ことスマッシュ代表日高正博さんとJUNEさんの話をお届けしたインタビュー前編に続いて、後編では、ペットの災害支援や警備犬の育成・普及に携わり、フジロックではどん吉パークを運営している高橋一聡(たかはしいっそう/以下、一聡)さんと、JUNEさんの話をお届けします。
一聡さんからは、SOTE311で行うワークショップ(ペットの防災、ラグビー体験など)、災害支援現場での体験談、災害救助犬といったワーキングドッグなどについて話していただきました。
JUNEさんからは、福島をはじめ被災地の支援を継続して取り組んできたからこそわかる切実な課題や、SOTEシンポジウムで話し合いたいこと、SOTE311を開催するテーマなどを話していただき、日本で一番、福島の復興を真剣に考えて動いている人のひとりなのでは、と強く感じました。SOTE311に参加できない人に向けたメッセージもありますので、ぜひ最後まで読んでいただければと思います。
実際に、被災地の現場に入って活動しているお2人のリアルな話は、私達が知るべき現実の厳しさを教えてくれますし、防災について考えさせられる内容ばかりです。
記事の最後には、JUNEさんのラジオ出演情報も掲載しているので、ぜひチェックを。
ペットの災害支援を行なう原点
■一聡(いっそう)さんに、お聞きします。ペットの災害支援を行うきっかけについて教えてください。
一聡さん: まず最初に、フジロックのことからお話しますと、どん吉パーク(旧ドッグワンダーランド)で、ドッグランの運営などを行いながらフジロックに関わらせてもらっているのは、日高さんから色々なことを学びたいと思っているからでもあります。
東日本大震災が起きて、JUNEくんがLOVE FOR NIPPONを立ち上げて支援活動を始めた時、僕達も何かできないかと思って一緒に支援活動をさせてもらいました。JUNEくんのやっているSOTE311が始まるきっかけは、新潟中越地震の支援ですが、自分が被災地でペットの支援を行っていることの原点は、ペットが自分にとって身近な存在だったからです。
動物に関わる仕事を始めた頃に、その当時、日本で殺処分されている動物が約36万頭という事実を知ったんです。単純計算で、毎日1,000頭近くの犬や猫といった動物を人間が処分しているんですよ。様々な理由があるので、今現在は、この現状が全て悪いとは思っていません。でも最初、この事実を知った時に「これって大丈夫なのかな」と思って。
同じ時期に、放置されて回収される自転車が約38万台あるということも知ったのです。この数字って、殺処分されている動物と大きく違わないですよね。回収された自転車を取りに行かずに、また新しく買ってしまうってどうなの? これって、世話ができなくなったから捨ててしまう動物にも言えることで、問題は同じだなと思ったんです。
人間が自分達の都合だけ考えて行動したことによって、大きくは、日高さんが先ほど話していた地球の環境が壊れていくことにも繋がっていくのだと思います。僕が学びたいと思うことの入り口として、人間にとって身近な動物の存在があり、一番最初に違和感を持ったことが動物の殺処分なんです。
このままにしていたら、数日後には殺されて処分されてしまう動物達をどうにか助けたくて。どうしてこんなことが起きるんだろう、と。災害ではないけど、この異常事態を人間がどうにか解決していく必要があると思ったんです。
ペットと「同行避難」する考えがなかった東日本大震災
一聡さん: 東日本大震災が起きた時、福島には犬や猫と一緒に暮らしている人たちや、家畜もたくさんいました。でも当時は、災害時に動物と一緒に避難するという考え方がなかったんですよね。だから、避難所は人に対する支援は準備しているけど、動物に対しては一切できていませんでした。
特に福島の原発付近では、ペットを連れて避難しようとすると、「2~3日で戻って来ることができるからペットを置いて行け」と言われて、止む無く置いて行った結果、自宅が警戒区域に指定され、結局迎えに行けなくなってしまい、人間と動物が離されてしまったんです。
その結果、何が起きたかというと、動物達は野生化していくんですよ。人が管理していないので、どんどん数が増えていったり、人に危害を与えるようにもなってしまった、という別の問題が起きてしまうんです。被災した時点で、飼い主が同行避難をして自分のペットを管理することができていたら、こうした問題は起きなかったと思います。
被災地でペットの支援活動を続けている中、避難所にペットを連れて行くと、すごく煙たがられてしまう現状があります。それでも連れて行く人はたくさんいて。一緒に車中泊している人も多かったですね。避難所の中には入れないので。でも、狭い車の中で避難生活をしていると、人が病気になってしまうことも少なくないんです。
おにぎり1個を人間とペットで分け合う現状
一聡さん: そういった状況があり、僕たちは動物のためだけに物資を運んだんですよ。中には、それを非難する人達もたくさんいました。避難所にトラックで入っていくと、人がバーッと寄ってきてくれるんです。物資が来たと思って。でも、僕達は、ペットフードやペットシーツといった動物のための物資しか持ってきていないんです。厳しい避難生活を強いられている方からは、「そんなものより、もっと必要なものがあるだろう!」ってすごく怒られました。
物資を届けるために、ボランティアの人達をたくさん連れていって、いざ到着したら、避難している人達から、そういった言葉を言われてしまって、みんな落ち込んでしまうんですよ。でも、そこで僕が間違いなく自信を持って言えたのは「これは、ちゃんと人のためになっているんだ」ってことです。
その時に支援に入った現場は、1人の人間に対して、おにぎり1個しか1食で配給されない状況だったんです。だから、飼い主さんは、おにぎりを半分にして、半分を犬にあげるんですよ。人が、おにぎり半分しか食べられない状況なんです。だから、動物にエサが行き渡れば、人間が、おにぎり1個を食べることができるんです。だから、「動物のためだけじゃなくて、ちゃんと人の役にも立っているんだよ」と、一緒に手伝ってくれたボランティアの人達を励ましながら、ペットのための物資を運び続けました。
いつのまにか動物がコミュニティの中心に
一聡さん: 避難所から仮設住宅に場所が変わると、動物を飼っている人達は散歩に出るんですよ。そうすると、飼ってない人が声をかけて会話が生まれるようになって、いつのまにか動物がコミュニティの中心になっていることが割と多いんです。避難所にいる時はすごく煙たがられていたのに、仮設住宅になると人の癒しになって。同じ動物なのに、環境が変われば役に立っているんですよ。
だから、ここさえ乗り越えれば、という思いで支援活動を続けていましたね。
こういった支援が発展していくと、SOTE311といった形になると思っています。きっかけがないと、気になっていても、なかなか被災地まで足を運ぶことができなかったり、僕達のように無償で動物のために動くのはハードルが高いじゃないですか。
でも、SOTE311という、被災地のことや災害支援について発信する場を設けてもらうことによって、そこに参加することで、災害支援について考えるきっかけ作りができたり、支援活動の疑似体験もしてもらうことができると思っています。
被災地で「ご縁」をつなぐ大切さ
一聡さん: 僕は、災害が起きたら真っ先に現地に行って、何かできることはないかなって、探り探りで支援を始めていくんです。災害が起きた直後って、受援側に受け皿があるので支援に入りやすいんですよ。時間が経つごとに、その受け皿が少なくなっていくので、結果的にJUNEくんのように支援活動を続けられる人が少なくなってしまうと思います。
だから、僕達が支援に行く時は、「支援じゃなくてご縁だ」「縁を結びにいくぞ」と言って現地に向かうんですよ。結局は、被災地の人たちと縁ができないと支援を続けられないと思うんです。後から支援のために被災地へ入っていこうとすると、思ったより難しいんですよね。現地の人との縁がないと。
例えば、JUNEくんと一緒に支援活動をしている人達は、JUNEくんとの縁があるから、災害から月日が経っていても福島へ行けるわけじゃないですか。だけど、そういった縁は、JUNEくんだけでは抱えきれないと思うんです。でもSOTE311に参加することで、福島の人たちと今更でもつながることができると思うんですよね。
まさに、僕達が取り組んでいる熊本地震の支援も、ずっと行き続けてきたから、ある人との縁がきっかけで、最終的には熊本県との縁を繋いでいただいて、今でも支援を続けることができています。縁が結ばれないと、せっかく「支援したい」という気持ちがあっても、現地に行っても何していいかわからなかったり、行っても迷惑になるんじゃないかって遠慮してしまうこともあるので。
だから自分は、例えば「犬が好き」という縁でつながった人たちに声をかけて、今でも熊本へ支援に行っているので、SOTE311は、そういった縁をつなぐことができる規模が大きい場所なのかなと思っています。だから、JUNEくんと繋がっていない人でも「何かしたい」という気持ちを持っている人が、SOTE311に参加することで、福島の人たちとの縁を結ぶことができると思います。
僕も、フジロックで日高さんやJUNEくんと縁ができたことで、今年のSOTE311でワークショップをやらせていただくことができるので。
JUNEさん: 被災地に縁を作っていくことは、被災地での支援が続いていくために本当に大切だと思います。
台風19号で、長野県も大きく被災しましたが、何十万人ものボランティアの方が訪れているんですよ。でも、ボランティアセンターでは、通り一辺倒の対応になっていて、今日は鈴木さん宅の泥掻きです、次の日は齋藤さん宅です、といった感じで、被災者の家を訪れて片付けをするのですが、「家」というプライベートスペースに入っているにも関わらず、鈴木さんとも齋藤さんとも、その後のつながりを持つことなく、帰っていく人も少なくないんです。
現地との絆ができていないと、支援が1回きりになってしまうんですよ。ボランティアで行ったことがある人が、「もう一度行ってみようかな」と戻ってくる場所を作ることが大事なんです。
そうすれば、支援を続けている人と、そうじゃない人達がコミュニケーションする場になるので、支援を続けている人から、ここは大丈夫だけど、あっちはまだまだ人手が必要、といった現状を教えてもらうことで、それじゃあ今度はそこに行ってみようかな、といったように、次に繋げていくことができるんです。
支援活動の難しさ
JUNEさん: でも、支援活動って難しいですよね。また新たに災害が起きても、もうあんまり行きたくないんです。福島の支援だけで、まだまだ必要なことがたくさんあるので。
一聡さん: それ、わかる。本当にもう災害起きて欲しくないですよね。
JUNEさん: どうして福島の支援がまだまだ必要なのかというと、福島の人達は、原発事故の「被害者」だと思うんです。「東日本大震災」として、ひとくくりになっていますが、自然災害に遭った「被災者」とは、意味合いが違うので、分けて考えないといけないと思います。
何か自然災害が起きた時に、福島の人たちが別の地域の被災者のために、寄付金や物資を集めて「JUNEさんやってくれるよね」「JUNEさんなら長く面倒みるでしょ」って言われるんです。
福島の人達に言われたら、もちろんやりますよ。でも、支援する理由が変わっちゃうんです。被災地域の人を救いたいから行く、というのが一番の理由じゃなくて、福島の人達からのお願いだからやります、ということになるんです。
だから、災害が起きた場所からたくさん学んだことを、もっと今後のまちづくりや防災に活かしていかないといけないと思っています。
例えば、津波被害の起きた場所に、ある音楽家から被災地の子供たちに楽器を寄付しよう!という支援について、これは無駄が無くて美しいストーリーなので、たくさんのメディアが取り上げて、もちろん子供たちもすごく喜ぶと思います。
ただ、楽器を運び終えたスタッフが、子供たちの親からこんなことを言われたら?
「楽器の寄付、ありがとうございます!子供達とっても喜んでいます」
「でも、私達、いま食べるものがないんですよね」
そんな言葉を言われたら、楽器を運んだ自分達って一体何だったんだろう?って思いますよね。
メディアでは美しいストーリーとして扱われますが、現実には、食べるものがない、ガソリンがない、という、もっとシビアな問題がたくさんあるはずなんですよ。先ほど一聡さんが話していた、1個しか配給されないおにぎりを半分にしてペットにあげている話もそうですよね。
支援したい気持ちがあっても支援活動って難しい面もあるんですよ。それから、ボランティアの鏡のような方がテレビで紹介されて、ボランティアは、ああじゃないとけいけない、といってハードルが上がってしまう面もあります。そうなると、災害は増える一方なのに、支援は難しいからといって減っていくという良くない流れも生まれてしまいます。
自分は、災害が起きて被災地に入ると、とりあえず色々な物資を提供させてもらいつつも、現場のニーズを聞いて回ります。仲間達である支援側と被災地域の受援側のニーズを聞いて、それをマッチさせることが自分の仕事だと思っています。例えば、ペット関連で支援が必要なら一聡さんに声をかけたり、炊き出しが足りないという声があったら炊き出しチームを呼んできたり、一つのアクションを行うときに、その周りに必要なものを付属させてマッチングするように徹していますね。
被災地の様々なニーズに応えるためには、フェスティバルチームはとても大切な存在になっています。多種多様な業種が集まっているのがフェスティバルなので。
一聡さん: 確かに。フジロックが始まる前の準備期間って、本当に色んなことやってますもんね。
JUNEさん: そうそう。トイレが足りないって言われたら、じゃあ仮設トイレ増やします。電源ないよって言われたら、じゃあジェネレーター(発電機)持って来てください、って、すぐ動けるんですよね。
SOTE311でペットとの「同行避難」について知ってもらう
■一聡さんにお聞きします。今年のSOTE311ではペットや動物関連でどういったワークショップを考えているのでしょうか?
一聡さん: 災害が起きて避難する際に、ペットと一緒に避難する「同行避難」が浸透していないので、そのことについて、まずは多くの人に知ってもらいたいと考えています。
災害が起きると、SNSを始め様々なメディアで、避難所ではペットを受け入れない、という声があるんですよ。去年の台風19号で、自宅から近い場所で一人亡くなっているんです。その方は、ペットと一緒に避難所に行っても周りの人に迷惑をかけることになるし、避難所で受け入れてもらえないと思って、マンションで犬を抱えたまま亡くなりました。
それから、別の災害地域の話になりますが、ペットと一緒だから避難所に行けなくて、最終的にはレスキュー隊に救助された人がいたのですが、本来なら自分の足で避難所に行くことができたんです。レスキュー隊の出動は、貴重なんですよ。だから、自分で避難所に行くことができる人をレスキュー隊が救助することになると、その出動が無駄になるというか。
例えば、足が悪くて一人では避難所に向かえない、一人の力では避難できない、といった本当にレスキュー隊の救助が必要な人達のために出動できるようにしておくことがベストだと思うんです。
だから、ペットを飼っている人が被災した時には、責任を持ってペットと同行避難する必要があるんです。それを大前提に考えると、避難所といった受け入れ側の認識も変えていく必要があるし、それ以上に、避難所に頼らず、ペットと一緒に避難できる場所を自ら決めておくことが重要です。
今年のSOTE311では、僕たちが実際に被災地でペット支援を行った経験で得たものを紹介したいと考えています。そして、来てもらった人達と、また縁を繋いでいくことができたらいいなと。
犬を役立てることに遅れている日本
一聡さん: 犬は人間を助けてくれる役割をちゃんと持っているんです。ただ、世界と比べて、まだ日本は犬をしっかりと役立ててないんすよ。だから、SOTE311では、災害救助犬と警備犬を紹介する場も設けようと考えています。
例えば、土砂災害が起きて人が生き埋めになってしまうと72時間以内に救助する必要があるのですが、世界と比べて、日本では人海戦術で探すケースが多いんです。
アメリカのハリケーン被害を例に挙げると、被害が起きた場所には、真っ先に災害救助犬を入れるんですよ。72時間という制限の中では、人海戦術でカバーできる限界がわかってしまうので。災害救助犬が入ると、そこに人がいるかどうかの当たりがわかるんですよ。人から出る臭いを探知できるように訓練されているので、人を救助できる確率が上がるんです。
実は東日本大震災の時、アメリカからFEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)が、災害救助犬を数十頭連れて、福島に降りたんです。でも、検疫の問題で足止めをくらっているんですよ。これを見ても、まだ日本は犬を使って救助することへの意識が低いことがわかります。
その後、熊本地震や北海道地震で民間の災害救助犬が活躍するシーンがメディアに取り上げられたりして、だんだん、被災地で救助犬が認められてきたように感じています。
SOTE311では警備犬の紹介も
一聡さん: それから、警備犬の活躍についても、SOTE311で紹介したいと思っています。
ちょうど10年ほど前から、警備犬の育成を始めて、2年前に一般社団法人日本警備犬協会を立ち上げました。今年のオリンピックでは、警備犬の仕事をすることが決まったのですが、「犬と一緒に仕事をする」ということが、日本に根付いていないので、何とかそこを根付かせたいという思いがあります。災害救助犬を含めて、ワーキングドッグはペットとは違って、人に役に立っている、ということをSOTE311で紹介して、1人でも多くの方に知ってもらいたいなと考えています。
オリンピックの警備の中には、爆発物の危険を回避する必要もあり、ロンドンオリンピックでの爆発物の警備は、犬が活躍していました。350頭くらいの警備犬を使ったと思います。それから、例えば、アメリカのディズニーランドでは、爆発物が持ち込まれないように犬が警備をしています。お客さまがいる園内だけじゃなくて、従業員用の通路や控え室などバックヤードも警備の対象になっているみたいです。
熊本地震では、テント村を作ってテント避難している人達がいたんですけど、皆さん、夜は不安ということで、警備犬がテント周りの警備をしていたんですよ。
SOTE311で気軽に「ラグビー体験」も
■一聡さんは、SOTE311でスポーツ関連のワークショップも開催されるとのことですが、どういった内容になるのでしょうか?
一聡さん: 自分がラグビーをやっていて指導者でもあるので、ラグビーのコンテンツを考えています。去年はワールドカップで日本のラグビーがすごく盛り上がりましたし、今年のオリンピックでは「7人制のラグビー」があり、ラグビーへの関心が高まっているので、タイミングも良いと思っています。
JUNEさん: SOTE311の会場になっている「Jヴィレッチ」は、サッカーだけじゃなく、ラグビーとも関わりがある場所なんです。去年のワールドカップでは、アルゼンチンチームのキャンプ地になっていたんですよ。だから、ラグビーもできる場所なんです。SOTE311開催にあたって、福島県のラグビー協会にもお願いをしていて。サッカーだけじゃなく、ラグビーにも気軽に触れてもらえる機会を作りたいと思っています。
一聡さん: 日本のラグビーに大きな貢献をしている岩手県釜石市の出身の人達もたくさんいらっしゃって。ラグビー関係者の中には、今でも福島や宮城へ支援に行き続けている人達もいるんです。東京のクラブチームと向こうのチームで交流を続けている仲間がいるので、そういった仲間にも声をかけて、SOTE311でラグビー体験をしてもらえたらいいなと考えています。
SOTE311を未来の福島の産業に繋げる
JUNEさん: SOTE311を続けている本当のテーマは「福島県の未来の産業をどうしていくか」ということなんです。
青森県の六ヶ所村の話をすると、核燃料の再処理工場ができるまでは、工業地帯を誘致するために六ヶ所村は動いてたんですよ。でも手を挙げる企業がいなくて。じゃあ原発関連にする?という動きになったのです。
福島の未来を考えた時、原発が必要なくなったら、その土地はどうするんだろうって。今は、大きなロボット産業を呼ぶという動きがありますが。自分が組織のトップだったら、もし最初は法人税がタダという条件でも、大きな港がなくて海外と輸出入もできない福島で、そんな工場を建てることを決断するかなと思ってしまうんです。
使えなくなった時のことを考えると、選択肢は多い方がいいですよね。だからエンターテイメントを含めて、様々な業種の人達が関わっているフェスティバルを開催することで、将来、福島第一原子力発電所が廃炉になり、跡地の活用をどうするか、となった時に、フェスティバルでの多種多様な繋がりがあれば、無限大の可能性があるんじゃないかと。業種が多い分、色々なアイデアが出てくるだろうし。
廃炉になった跡地に一つの大きな産業を立ち上げるのではなく、複合的で、且つ、テーマとして、自然との共生を入れたものが良いと考えています。福島での取り組みが上手くいけば、それを熊本や長野といった別の被災地にも取り入れることができて、全国の復興に役立つと思うんです。
次々と災害が起きているので災害地域の風化がすごくて。各地に問題はたくさん残っていて解決できていないのに、また別の地域で災害が起こっちゃっているので。そうすると、支援団体は次々と新しく起こった災害地域に移動しちゃうんですよ。第一フェーズの復旧支援団体は、メディアで取り上げられた地域に行くんです。メディアに取り上げられると、団体の集金活動ができるので。例えば、アフリカの子供が大変ですといって、お腹がポコッと出ている子をプロモーションに使って、寄付してください、と訴える手法と似ていると思います。私たちは大変な場所に支援に行っているので寄付してください、っていう。
そうなると、第二フェーズ、第三フェーズといった、その後の精神的ケアまで行う支援団体のところまで、寄付金が集まらないんですよね。支援団体が活動できないと、世間から忘れられていく被災地の人たちがどんどん増えていくんです。だからこそ、フェスティバルを立ち上げて、忘れられている地域に足を運んでもらう機会を作って、現状を知ってもらう機会を作る必要があるんです。
渋谷でもSOTEシンポジウムを
JUNEさん: SOTE311で今年開催するシンポジウムは、渋谷区でもやりましょうと話をしていて。4/22(水)に世界中で地球のことを考えて行動する記念日「アースデイ」があるので、そのタイミングで行う予定です。その次は、長野県に台風被害から一年のタイミングで開催できるように打診しています。
「防災」と聞くと、「防災リュック買っておこうか?」という発想になる人は、まだいいんですけど、「災害が起きても行政がなんとかしてくれるでしょ」と思ってる人が多いんですよね。
でも、その行政って、4年すると異動!!みたいなシステムがあって、意識高く防災に取り組んでいても担当が変わってしまうと微妙になることが多いんです。だから、その行政の防災システムの情報って、更新されてない場合もあるんですよ。
防災への関心度が高い市町村のトップの方であれば、災害が起きた地域に職員を派遣して、そこで起きていることのノウハウを勉強して、自分の市町村の防災システムに活かしています。でも、全国に1500以上市町村がある中で、全ての市町村が絶対にそういうことをしているわけではないので、防災システムが古いままの市町村がたくさんあるんですよ。
災害が起きた時に、やるべきことがわかっているトップの方がいる自治体は、すぐに関係各所に連絡して、メディアを呼んで記者会見を開いて義援金窓口を立ち上げる、、、といった早い動き方ができるんです。そうすると、被災地域の中でも、その市町村だけに関心や義援金がたくさん集まって、支援団体もたくさん来てくれるんですよ。でも、初動が遅かったり、何をやるべきか把握していない市町村は、全てにおいて出遅れてしまうんです。
という事実を、多くの国民が知らないんですよ。
だからこそ、渋谷区は、防災の日だけに防災のことを考えるのではなくて「365日いつでも防災を考えていることを訴える街にしませんか?」ということを5年前から伝えていて、この春には新しい動きがスタートするんです。渋谷区は災害が起きても、行政だけではなく、企業も協力して対処しましょう!という動きを始めています。
「SDGs」というアクションがありますが、社会貢献を「世界に」ではなく、まずは「自分たちの会社がある街に!」と訴えていて。それぞれの点が線になって行く動きをしたいなと考えています。
自分のことは自分で
一聡さん: 個人の意識を変えることも大切ですよね。行政の防災システムが、すごくしっかりしていても、行政に期待しすぎて任せきりもいけないと思うんです。大前提として、自分のことは自分でできないと。
被災した時って、ペットは何もしてくれないんですよ。だから、ペットと一緒に避難するためには、とにかく、自分で何ができるかということを事前にしっかりと考えておくことが必要です。行政は、その手助けをしてくれる。そういう仕組みに切り替えないと、いざ、災害が起きて自分が避難する立場になったら、みんな混乱すると思うんです。平常心ではなくなるので、どんどんストレスも溜まっていくし。
だから、「行政は人間の食事は用意してくれるかもしれない。でもペットの食事は自分でちゃんと備蓄しておこう」とか。一人で備えるのは難しいから、複数人でグループを作って日頃から準備をしておいたり。そんな話もSOTE311ではしたいなと思っています。
民間で取り組むレベルを超えている
JUNEさん: こういった災害支援の仕組み作りって、本当は民間でやるレベルではないと思います。災害が起きた直後の緊急の時って、みんな人助けだと思って救助活動に関心があるんですけど、本当に大変なのは、被災した人達のそれからの人生をどうしていくか、なんです。
普段の生活に戻るまでの支援ができてない現状なんです。だから、この支援を民間が全て補っている状況は、おかしいと思っています。それもゆくゆくは訴えていかないと。
「人助けで儲けてはいけない」これはとてもよくわかりますが、でも人助けって最も大切な仕事であるはずなのにおかしいと感じています。小さな支援活動団体は、みんな給料が出ないので、他で仕事をしながら、空いた時間でボランティアをやるしかないという現状なんです。
若い人たちの中には「社会貢献を仕事にしたい」という方が増えてきていると感じているので、国からも補助が出る高齢者ケアの仕事ばかりではなく、災害支援、復興支援についても、もっと真っ当な仕事になるべきだと思います。
シンポジウムでは現実的で具体的な話し合いを
JUNEさん: だからこそ、SOTE311で開くシンポジウムでは、現実的で具体的な話し合いをしたいんです。支援体制の仕組みとして、自分が今考えていることは、災害が起きた時に、最初に動く支援団体がすぐ現地に入った際に、被害状況の情報収集をするフォーマットを統一した方が良いなと。
統一フォーマットで収集した情報は、例えば、ヤフーの災害情報のページで随時公開していく、といったイメージです。各市町村の現在の被災者数、半壊・全壊の戸数といったデータを公開して、全てのペイシステムで個人がこのページの市町村に寄付できるシステムにする、とか。
実際、災害にあった市町村に義援金がたくさん集まる仕組みを作ります。
それぞれの町に義援金がしっかり集まるようにして、その市町村が必要な支援団体に発注をかけて、支援してもらう、という体制が理想だと考えています。例えば、「3ヶ月間、自分の街で復旧支援活動してください」という依頼ができれば、継続的な仕事になります。現状は、どの市町村に支援に入るかは支援団体の自由意志で決めているので。でも、市町村から期間を指定した支援活動を受注すれば、その期間はしっかりと仕事を行うことができます。
それから、一次フェーズの支援が終わったときに、二次フェーズの支援団体へ状況の引き継ぎをマストにしておけば、メディアを通じて、1年の活動報告やありがとうの感謝を伝えられる機会を作ることもできると思います。
災害から一年というタイミングでは、必ず多くの関心が返ってきます。その時に、例えば、ヤフーのトップから各市町村の復旧状況のページを見ることができるようになっていれば、「まだ体育館が壊れたままです」といった状況を広く伝えることができ、それに向けてまた寄付を集めることもできるし。それぞれ被災した町の状況を比較しながら見ることもできます。
あと、思うんですけど、世の中の多くの人達が、「できないのは当たり前」と思っている催眠術にかかってるんじゃないかなって。でも、フェスティバルチームには「みんなが当たり前と思っていることを、まず疑ってかかれよ」と考えることができる人達がいて、そういう人って、物事の本質を見極めることができると思っていて。もう少し問題を深堀りしたら、色々なアイデアが浮かんでくると思うんです。一人ではできなくても、各分野が得意な人達が集まって、考え方を変えていったら、良い方向に大きく変わるんじゃないかと思っています。
自分の頭の中で考えていることはたくさんあるのですが、SOTEシンポジウムを開くことで、自分のアイデアに対して、「これが足りない」「こうする方がいい」と意見をもらって、支援についての統一見解を作っていきたいです。民間でそういう動きをしていかないと、行政は担当者がどんどん変わっていってしまうので。
SOTE311に参加できなくても協力できること
■SOTE311に足を運びたいけど参加できない人や、何か支援をしたいけど具体的に何をしたらいいかわからない人は、どうすればいいですか?
JUNEさん: 今は、ツイッターやインスタグラムといったSNSが普及しているので、皆さんひとりひとりがメディアになって、SOTE311について発信してもらえると嬉しいです。「福島でこういうフェスティバルがあるよ」って周りに伝えてくれるだけでも嬉しいです。
そして、できれば、3/11(水)は、自分の大切な人たちと一緒にキャンドルを灯して欲しいですね。
福島の人達への最高の支援とは
JUNEさん: 2011年3月11日から、今年で10年目を迎えますけど、最近は自分の周りで「今更だけど、支援がしたい。福島のことは、ずっと気になってはいたけど、何もできなくて」という人が増えてきているんですよ。
「今、自分ができる福島の人達への最高の支援は何だろう」と考えた時に、そういった人達を連れていくことなんじゃないかなって。
自分は、震災が起きた後からずっと福島に通い続けているので、「JUNEくんいつも来てくれてるよね」って当たり前になっているんですけど、「ずっと気になっていました」という人達を連れていくと、福島の人達は本当に歓迎してくれて。「これ食べな、あれ食べな」って、大歓迎なんですよ。そうやって喜んでもらえるのが嬉しいんです。
新潟中越地震の時と同じで、災害が起きた直後は、色々な人たちが支援に来てくれて賑やかなんです。でも時間が経つごとに、ニュースでも取り上げられなくなって、来てくれる人も減っていって。だから、被災地の人たちは被災した時から今まで「引き算」というアクションを受け続けているんですよ。喪失感をずっと毎日与えられている人達に対して自分ができることは、「ずっとモヤモヤしてたんだって」と、福島に今まで行っていない新しい人達を連れていくことなんです。
自分の周りに増えているということは、あの時、何もできなくてモヤモヤしている人って実は日本にたくさんいるんじゃないかなって。その人達が意を決して福島にやって来てくれた時に、福島の人達がすごく喜ぶっていう支援ができるなと思っています。
福島までの距離が遠い人もいるので、福島まで足を運べなくても、日本中で3/11に福島を含めて東北のことを想ってキャンドルを灯して家族でハッピーな時間を過ごす、ということを発信していって欲しいですね。
もちろん、できればたくさんの人達に、SOTE311に遊びに来て欲しいです。SOTE311に来てくれる人って、今後、被災する可能性のある人たちでもあるじゃないですか。もちろん、福島のために何かしたいと思ってくれている人達かもしれないし。色々な人たちが集まることができる場で、各自ができることを見つけてもらえたら嬉しいなと思っています。
「命日にこそ、フェスティバル」を当たり前に
JUNEさん: それから、日高さんもいつも言っていますけど、フジロックは「このアーティストが出るから行く」という場所じゃないですよね。音楽以外にも色々なことを楽しめたり、新しい世界を知ったり、時には自分が試されたりするのがフェスティバルだなって思うんですよ。甚大な災害を経験したという、大変だけれども大切な体験を教えてくれてありがとう、っていう日をちゃんと作っていかないとだめじゃないかなと。「命日にこそ、フェスティバルをする」という感覚が当たり前になるように、みなさんの気持ちをもっていきたいですね。
以上、インタビュー後編でした。
JUNEさんと一聡さんに話していただいた、SOTE311のこと、災害支援の課題、ペットの防災など、初めて知った内容ばかり、という方も多いと思います。
やらなくてはいけないことがたくさんありますが、まず「自分のことは自分で」を考えた時、被災者になるかもしれないという覚悟というか、心構えを十分にしておく必要があると思いました。そこの意識が変われば、自ずと次の動き方が変わっていくと思います。この記事がきっかけで、色々な点が線になり、線が面になっていく動きが増えていきますように。
SOTE311に興味がある方はもちろん、3.11以降、福島のことが気になってモヤモヤしている、という方は、ぜひSOTE311をきっかけに福島を訪れてみてください。
そして、参加はできないけど何かできることをしたい、という方は、このインタビュー記事をはじめ、SOTE311というフェスティバルのことを、ぜひSNS等で発信していただければと思います。それだけでも、福島の支援につながるチャンスが増えるので、ぜひよろしくお願いします。
Interview & Text by Eriko Kondo
Photo by 藤井大輔
CANDLE JUNEさんラジオ出演情報 ※2020年2月20日現在
■2/22(土)
FM COCOLO(FM 76.5) ※大阪
番組名:僕らは海峡を渡る
時間:20:00-21:00
https://cocolo.jp
■2/24(月・祝)
InterFM897(FM89.7)
番組名:THE DAVE FROMM SHOW
時間:16:00-19:00 ※生放送での出演予定につき、時間未定
https://www.interfm.co.jp
■2/29(土)
J-WAVE(FM 81.3)
番組名:OTOAJITO
時間:18:00-18:54
https://www.j-wave.co.jp
■3/1(日)
InterFM897(FM89.7)
番組名:Lazy Sunday
時間:11:00-15:00 ※生放送での出演予定につき、時間未定
https://www.interfm.co.jp