名古屋から現地にいくエネルギーのある人たちと、もっとつながりたいーラジオ局が配信するフジロック
- 2019/06/30 ● Interview
もういくつ寝ると、フジロック! 開催まで1カ月を切り、当日の動き方を考えてそわそわしている人も多いのではないでしょうか。
今年もたくさんのミュージシャンが各ステージに出演しますが、ステージ以外でもミュージシャンのライブが見られる場所がいくつかかあることを知っていますか? その1つが、ラジオの公開収録ブース。さまざまな飲食店やブースが立ち並ぶオアシスエリアの一角にあって、プログラムによっては公開ライブが聴ける、なんてこともあります。開局しているラジオ局の中に、見慣れたZIP-FMの文字が。ZIP-FMって、名古屋のラジオ局がフジロックで公開収録してるの? と不思議に思った人もいるかもしれません。名古屋在住の筆者もその1人。どうして名古屋のラジオ局がフジロックで公開収録しているのか。その率直な質問を、仕掛け人であるZIP-FMの平井貴久さんと、実際に番組に出演したこともあり、ゲリラライブも行ったキネマズの宮下さんに伺いました。
洋楽ステーションであることのプライド
─ ZIP-FMがフジロックで公開収録をすることになった背景を教えていただけますか?
平井:現地からの公開収録、放送というものは、2001年くらいからやっているんです。
日本で初めて洋楽を扱う大型郊外フェスティバルとしてフジロックが始まりましたが、私たちZIP-FMは世界中からいい音楽を選んで取り扱うラジオステーションとして発足しています。私たちとしても何か取り組まなければいけないという思いから、当時の若手プロデューサーが中心になって放送していました。当時は、特設テントを借りたり、放送ブースを使ったり、苗場プリンスホテルの一室に回線を引っ張って、そこで放送したりといろいろな型で5年ほど取り組んでいました。それから、いろいろと事情があって、放送できない期間が開いていました。
ただ、現地での収録ができなくても、社内でフジロックに行くメンバーはたくさんいたんですよね。そのメンバーから、もう一度フジロックに取り組めないかという話しが持ち上がってきて。フジロックが好きな営業や編成が動き、私がプロデューサーとして関わらせていただいて、改めて公開収録を再開することができました。いざ仕事として行ってみると、社内の部活のような、そんな感覚が強いです。音楽好きなスタッフ、ナビゲーターが集まって、一緒にフジロックに取り組む、それって楽しそうじゃないですか。そういうメンバーと一緒に番組を作っていける体験は、なかなか他のイベントではできないことなので、とてもありがたいです。
─ キネマズは名古屋で活動するバンドですが、どういった経緯でフジに?
平井:現地で公開収録するなら、トークだけではなくてライブもあったほうがいいよね、と言う話が持ちあがって、以前からお付き合いのあったキネマズに出演をお願いしたんです。
キネマズとは、他の番組を担当していたプロデューサーから、「平井さん、絶対好きだから聞いてください!」と紹介されて。聞いてみたら、ええやん、と(笑)それからZIP-FM主催の篠島フェスや公開収録など色々な所に出演していただいてます。
宮下:ZIP-FMの番組収録で、 平井さんを紹介していただいて。それからもお付き合いさせていただいています。これまでずっとフジロックには行きたかったんですけど、行ける方法がないかと平井さんに相談していて。その過程で、公開収録ならライブができるかもしれない、それなら是非やらせて欲しいとお願いしました。
仕事でなかなか行けない、なら、現地で仕事を作ればいけるじゃん!
─ フジロックはいつから行っていますか?
平井:2003年から行っていて、それからは毎年行っています。
フジロックにはずっと行きたいとは思っていたのですが、職業上、夏は色々な現場があって、なかなか現地に行くことが難しかったんです。
ちょうど2003年のフジロック開催1週間前くらいに、業界の集まりで、名古屋で有名なライターの大竹敏之※さんにお会いしたんですが、大竹さんに「平井さん、ZIP-FMなのにフジロック行っていないなんて、もぐりじゃないですか! プロデューサーとしてそれでいいんですか!」くらいに叱責いただきまして(笑)。実際はそんな感じではなかったんですけど、そこまで言われたら、行かないわけにはいかないと。同じく行ったことがなかった当時のDJと一緒に、彼の車で土曜の夜に局を出発して日曜だけ参加したんです。その年、確かビョークとか出た年なんですけど、金・土とすごく天気が悪かったんですよね。でも着いた日曜はすごく天気が良くて。天気の良いフジロックって最高じゃないですか。「フジロック、サイコー!」ってテンション上がってたんですけど、前日から行っているメンバーからは、凄く冷ややかな目で見られていました(笑)。1日しかなかったけどドラゴンドラにも乗ったりして、もうその時点で、来年も行くよね、と。
翌年からは水曜の夜に出て、月曜に帰る工程でガッツリ、フジロックを満喫しています。これまでキャンプもしたことがなかったのに、ずっとキャンプ生活です。周りにキャンプになれたメンバーがいるので、快適に過ごせているわけなんですけど。
※東海圏の珍スポットやB級グルメ愛好家として、多数の著書を発行する地元密着ライター。
宮下:平井さんには、ZIP-FMでのスタジオライブの後に、ブラジルコーヒーという店でのライブに来てもらったんです。ちょうどそのスタジオライブのオンエアを、ライターの大竹さんが聞いてくださっていて。大竹さんも初めてキネマズのライブを観に、ブラジルコーヒーに来てくれたんです。
平井:大竹さんにしかられなかったら、この年にはフジロックには行かなかったかもしれない(笑)
─ 宮下さんはいつフジロックに行ったんですか?
宮下:去年初めてだったんです。初めてのフジロックなので、どういう感じかわからなかったのですが、とにかく「キャンプ」だと聞いていたので、バンドメンバーと一緒にテントを借りました。
平井:それが去年初めてのフジロックですよ。暴風雨の中、何度もテントが潰れて、何回直しても潰れる。
宮下:テント村みたいなところの中心に、キッチンというかリビング的な環境のテントを張ってあったんです。その中で皆で飲んでいたら、突然景色が外になったんです。テントがぶわっと飛んだんです。一瞬で外になっちゃったんです。他にいろいろなキャンプ道具を後輩から借りてのぞんだのですが、コールマンのキャリーカートを誰かにもっていかれてしまって。わざわざ中の荷物だけ置いて持ってかれてしまってました。テントは飛ぶわカートは無くなるわとすごい大変だったんですけれど、それでもすごい楽しかったです。
今年は自分たちのアクションとしてフジロックに関わりたいなと思って、飲食店ブースに応募したんです。出店担当の方と話した時に、毎年初年度は大変だったって語り草になっているけれど、担当の人の感想としては去年が一番ひどかったと。
平井:ボーイスカウトを経験しているメンバーがかなり厳重に設営したのに、それでも飛んでったからね。僕らのテントはちょうど風の通り道のような場所に設営してたんですよね。それでまともに被害を受けてしまった。
去年の動画とかあったんじゃないかな。
(しばらく動画を見せてもらうことに。暴風の映像に、やばいやばいと叫ぶ声。そして潰れたテント。。。車中に逃げ込んでも、外は暴風雨の惨状です)
宮下:僕とメンバーで2~3人用のテントを使ってたんですけど、とにかくとんでもない強風で。メンバーには、テントから出ると、強風でテントが飛んでしまうから、とにかくテントから出るなと言っていました。虫のようになりながら、「僕も何か手伝いたいんですけど」ってメンバーは言っていました(笑)。初めてのフジロックがこんな過酷で。もうこれ以上過酷な経験はないだろうと思っています。
平井:本当に大変だったけど、意外と忘れているんですよね。フジロックにやられているというか。
宮下:もう怖いものないんですけど今年は出店の店が怖いです。14時間勤務なんです。でも今年は宿が取れたのがよかったかな。
平井:えーっ?キャンプじゃないの?!(笑)
宮下:さすがに休まないともたないです。出店者のキャンプエリアもあるんですけど、すごい遠いところなので、体力もたないかなと。宿まで行くのも遠いんですけれど。
─ 名古屋近郊でも、フジロックに行った事のある人、無い人、いろいろな方がいると思いますが、どんな人に聞いてほしいですか?
平井:名古屋からフジロックに行くというのは、それだけでもかなりエネルギーを持っている人だと思うし、それだけ音楽が好きな人が多いと思います。ぜひそういう人たちに聞いてもらえたら、そういう人たちと直接つながれたらいいな、と思っています。もちろん全国の音楽好きにもZIP-FMって洋楽にしっかり取り組んでるステーションなんだと思ってもらえたら嬉しいなと。
海外でライブをしているような。フジロックはそんな不思議な空間
─ 昨年初めてフジロックで公開収録をしてみて、他のイベントとの違いはありましたか?
宮下:初めてだったので、現場の事も公開収録の場所もどういうところか全く分からなくて当日を迎えたんですが、現地に着くとステージも近いし飲食店も多くて、ほとんどの人が通るオアシスエリアにスタジオがあったんです。世界的に有名な人がたくさん出演して、コアな音楽ファンに支持されてるイベントだと思っていたので、もしかしたら演奏しても相手にされないのかなと思っていました。
自分の音楽は、洋楽テイストというよりも日本のポップスを基盤にしているので、受け入れられないんじゃないかなと不安に思いました。せっかくの機会なんだし、なかなか来られないイベントなので、思い切ってリハーサルでボブ・ディランのカバーを1曲やってみたんです。見てる人からしたら、リハか本番かはあまり関係が無くて、リハですごい喜んでもらえて。僕は日本だけじゃなくて海外でもライブをしてるんですが、見てる方の雰囲気が海外でライブをやっているような、そんな感じですごくよかった。有名無名関係なく、海外の方って盛り上がってくれるんですけれど、そんな感じがあったんですよね。先日、札幌でライブをしたんですけど、そこにフジロックで見てくれた人がお客さんで来ていてくれたりして。あの公開収録の時間で、演者の側面からフジロックに関われたことが、自分の好きな海外のような感覚で関われたことがとても嬉しかったです。
それからもっとフジロックを掘り下げようと思って、フジロッカーズオルグの記事を結構読みました。苗場20周年企画で、関わっていた人たちのインタビューとかそういうのも読んだんですけど、海外のような解放的な気持ちにさせてくれるイベントなんだなと。日本のライブハウスのスタンスよりもっと、マインドがオープンになっていると言うか。
平井:札幌で会うのはすごいね。
宮下:ですよね。それと、公開収録に出させていただいたことがきっかけで、台湾のフェスへの出演が決まったこともありました。フジロックを掘り下げているときに、フジロッカーズバー台湾を開催したって記事を読んで、すぐにfacebookで調べて、フジロッカーズバーに出演したいって連絡したんです。そうしたら、東京でフジロッカーズバーがあるから来ないか、と誘っていただいたので、名古屋から参加してみました。
そこで、フジロッカーズオルグの花房さんにお会いして、いろいろお話しを聞かせてもらったんです。海外での経験とかフジロックでの経験とか、すごい色々な体験をされていて、かっこいいなって思ったんです。自分もそういうことに関わりたいと、強く思うようになりました。そこで色々調べているうちに、内側からフジロックに関わる方法として、フードの出店って選択肢があったので応募したら、受かっちゃったんです。
─ 出店するのって難しいですよね??
宮下:キネマズってバンドは京都とか東京にメンバーがいるんですけど、京都のスタッフがお坊さんで、夜は自分のお店でバー経営してるんです。そのスタッフがやっているお店が、京都の祇園祭に出店しているんです。祇園祭って1日で10万人とか集まるお祭りで、出店管理の人にもそれだけこなせるならいけるだろう、と思われたみたいで。出店管理の方に京都のお店まで来ていただいて、僕はフジロックが好きだということをアピールして。もうその時点でいけるな、と言っていただきました。
─ 今年は出店でメインなんですね
宮下:僕はいつでもどこでもライブやれる気持ちはあります(笑)
─ 今年の出演予定はもう決まっていますか?
平井:正式なタイムテーブルが出ていないので確定はしてないんですが。時間によって決まってくるのでそれによって決まるのかなと。それが分からないと誘いづらいところもあって今調整しているところです。
宮下:僕すぐそばにいますんで。店主ライブ中につきとかで店開けて行きますんで(笑)
─ 出演者が出店するのは結構珍しいケースかもしれないです
宮下:いろんな意味で名古屋から殻を破っていきたいですね。まあ出すのは京都飯なんですけど(笑)
同じフジロック好きとして、一緒に楽しめたら
─ 現地の楽しみ方はいろいろあると思うんですが、参加してる人出店してる人が一番楽しんでいますね
平井:フジロック自体、部活の総合体みたいなもんじゃないですか。その一部に参加できるのはやっぱり楽しいです。謎の吸引力があると思います。
宮下:ですよね。フジロックに出たって、ずっと言えるじゃないですか。毎年毎年何かに関わってステップを踏んで行きたいですね。フジロックはキャンプフェスの最たるものだと思うので、バンドメンバーも「ハチ北ミュージックフェス」の勉強で参加してたりします。僕はもう好きっていうモチベーションだけでしか動けないんですけれど、そもそもフジロックまで行って出店するなんてしんどいじゃないですか。今年初めての挑戦なので準備からかなり過酷なんですが、それでも謎な魅力があの国にはありますよね。この先、一生話せる自慢話としても、フジロックには関わってきたいなと。
─ ZIP-FMさんもずっとやってほしいですね
平井:何かしらのかたちでは関わっていくとは思います。スタジオ形式になるかどうか、そこはちょっと分からないですけれど。
─ 最後にメッセージをお願いします
平井:あえて見に来てね、ではなくて、みんながそれぞれの思いをもって迎えたこの非日常の中で、僕らも同じフジロックを楽しんでいるメンバーの1人なので、気取らずにちょっと見に来てもらえたらと思います。一緒に楽しんでもらえたらいいかな。僕らも楽しんでやっているので。そういった気持ちが、リスナーの方にも伝わるような番組にしたいですね。
宮下:是非食べに来てください!
長年のフジロッカーである平井さんと、なんと宮下さんは昨年のフジロックがキャンプ初体験! そして今年は飲食ブースに出店するというびっくりな展開。「フジロックが好き」という気持ちから、「どうしたらフジロックに関われるのか」その方法を模索した結果が実現していました。
現地での公開収録は、ZIP-FMだけでなく全国の放送局が担っています。さまざまな思いが、収録にこめられています。ぜひ、そちらにも足を運んでみてはいかが?
詳しいスケジュールは、後日発表されますのでお楽しみに!
そして、キネマズは今年「万屋×キネマズ」名義の飲食店でフジロックに参加します。京都らしい抹茶かき氷や、汁なし坦々麺を提供予定とのことです。ぜひこちらもチェックしてみてください!
文:古川喜隆
写真:安江正実
■キネマズ
2015年、ボーカル&ギター宮下浩を中心に結成。主に東京・名古屋・京都に在住の、総勢20名程のミュージシャン達によるポップス集団。コンピレーションアルバムの制作や、アジアでのライブなど、活動は多岐にわたる。
http://instagram.com/kinemas/
イベント情報
【FUJI ROCK FAN MEETING 2019開催!】
昨年の映像を観ながら、フジロック運営関係者を招いて、ブッキングや運営の裏側について語るトークイベントを開催します。
【日程】 7月6日(土) START 18:00~
【場所】 LACHIC 1階ラシックパサージュ ZIP-FM TANABATA STATION会場にて
【MC】 澤田修
【入場】 無料