フジロッカーが作り上げた野外フェスティバル! ~『hoshioto』代表者藤井裕士氏インタビュー~
- 2018/04/10 ● Interview
「日本で2番目に星が美しい町」として日本三選星名所の一つにも選ばれたこともある岡山県井原市で「最高の星空の下で最高の音楽を」がコンセプトの野外フェスが開催される。そんなフェス『hoshioto』の代表者である藤井裕士氏は生粋のフジロッカーでもある。今回は藤井氏にhoshioto開催のいきさつ、そしてフジロックがhoshiotoに与えた影響についてインタビューを敢行した。
─ まずはフジロックとの出会いを教えてください
大学生のころにCDショップでアルバイトをしていて、とても音楽が好きな社員さんがいて、その方が色んな音楽を教えてくれる方で「フジロックも行きたい」ってずっと言っていました。それでフジロックの存在を知りました。
でも当時の僕は洋楽を全然聴いていなくてJ-POPばっかり聴いていました(笑)
─ J-POPからどうやって洋楽やフジロックに興味を持ち始めたのですか?
ある日その社員さんに洋楽のおすすめを聞いてみたら、ヒップホップや女性アーティストと共にThe Verveの『URBAN HYMNS』のCDを渡されたんです。聴いてみるとヴァーヴが気に入ってその社員さんに「ヴァーヴいいっすね!」って言ったら「だったらこれも聴け」と言われて青いジャケのアルバム(Manic Street Preachersの『This Is My Truth Tell Me Yours』)を渡されて「(CDショップの店舗に置く)ポップを書け」って言われたんですよね。それで聴いてみたら「The Everlasting」って曲がめちゃめちゃ良くて。それでマニックスにのめり込んでいったら「マニックス好きならオアシスを聴かないといけないだろ」ってその社員さんに今度はオアシスを聴かされて…そうやってUKロックにどんどんのめり込んでいってたら、2001年のフジロックに大好きなマニックスとオアシスが出演が決まって「これは行くしかねーだろ!!」みたいな感じでフジロックに行きましたね。他にも大好きだったTravisも出演して、あの年のUKロック3連発は素晴らしかったですね。
─ アルバイト先で洋楽やフジロックに出会ったんですね。実際にフジロックに行ってみてどうでした?
とにかく圧倒されてカルチャーショックを受けました。なんか色々自由だなって。今ここが日本の音楽の中心地じゃねーかって錯覚しましたね。
─ その年からフジロックには毎年行かれるようになったのですか?
そうですね。2年ほど仕事の都合で行けなかった年もありましたがそれ以外は行っていますね。2009年以降は毎年行っています。オアシス最後の来日の年ですね。
─ 毎年フジロックはどのような交通手段で行っているのですか?
車ですね。学生時代は福井に住んでいたのでまだ近かったんですけど、岡山に帰ってきてからも相変わらず車で行っていますね。片道12時間ぐらい。でも楽しいですよ。そこでしか会えないヤツらもいるんで、苗場までの道中で「この1年間どうだった?」とか「フジロックで何聴きたい?」みたいなことをグダグダ喋りながら向かうんですけど楽しいです。
─ 今まで見た中でフジロックのベストアクトって誰ですか?
選ぶのが難しい(笑)。2009年のオアシスも良かったんですけど2003年のビョークですね。ビョークの前がプライマル・スクリームでその前がコールドプレイとめちゃめちゃ並びが良かったんですよね。あの時のHyperballadは未だに耳に残っていますね。他には忌野清志郎のトリビュートライブで泣きましたね。本当にガンガン泣いていました。あとベストアクトって言っていいか分からないんですけど、Jリーグ苗場支部もいいですね(笑)そこで仲良くなった仲間はたまに飲み会とかもやっていて、遠くて参加出来ませんけどね。共通の話題が2つもあるのって素晴らしいです。
─ 藤井さんのフジロックの楽しみ方はどんな感じですか?
アーティストはあまり見ないっていう楽しみ方ですかね(笑)。あと個人的にはDaydreamingで遊ぶことですかね。僕あそこで10年ぐらい大縄跳びしているんですよ。最近オフィシャルもはじめましたけど、オフィシャルより先に大縄跳びしてました(笑)。毎年のようにFUJIROCK EXPRESSに大縄跳びで載っている気がします(笑)。
変に自分のタイムテーブルをガチガチに決めずに歩いていて、たまたま良さそうな音楽が聞こえてきたらそこに行っちゃうとか、そうやって新しい音楽に出会うのも面白いですよ。
あとフジロックに毎年行っていると、名前も知らないのに同じ場所で毎年1回だけ会う人が出てくるんですよ。大縄跳びで仲良くなったやつがいて、毎年1回苗場のどっかで会うんですけどお互いに名前はあえて聴かないよって。そういう出会いも楽しいですよね。
─ そんなフジロッカーである藤井さんが自ら『hoshioto』という野外フェスを立ち上げたきっかけというのは?
周りに「フジロック最高だから行こうよ」って言っても、地元から行くやつって少ないんですよ。苗場って岡山から遠いじゃないですか。「仕事が休めない」とか「お金がかかる」とか。だったらあの空間みたいなことをこっちでやってみたいなぁって思って。
やるなら地元でやりたいなぁとか思って、キャンプ場とか色々ロケハンをしていたんですよ。そうしていたらある時、先輩の知り合いが最初の会場となる(岡山県井原市)美星町の星空感で働きはじめて「あそこで簡単なアコースティックライブでも出来ないかなぁ
とか言ってたから「一回行ってみよう」って流れになって、実際に行ってみたら「野外イベントできんじゃね?」ってなって。次に仲の良い地元の音楽仲間を連れて行って「野外イベントやってみたい」って言ったら「やろうやろう」って盛り上がっちゃって。そこからスタートしましたね。
─ じゃあスタートは結構偶然的なものだったんですね。
そうですね。始める時にかなりインターネットで調べましたね。「野外フェス 手作り インディペンデント」とかって検索したり(笑)。
─ 野外フェスの始め方がインターネットに載ってるんですね!(笑)
音の問題とか色々書いてありましたね。あとは野外フェスではないですけど「廃校フェス」っていうのをやっていた方が「廃校フェスへの道」というブログを書かれていて、それがめっちゃ勉強になりましたね。最後のブログ記事に「いつか、このブログを参考にしてイベントを開催した、なんてメールが来たら嬉しいです」なんて書いてあったから、本当にメールしてみたんです。もちろん返事なんてこないと思っていたらやっぱり返事が来なかったんです。それから一ヶ月ぐらいしてネットで検索してみたら、僕がメールを送る一週間ぐらい前にその方が亡くなっていたんです。せっかく書いた文面なので僕のブログにアップしたら、その方の意志を受け継いだ方から「電話で話がしたい」って連絡が来たんです。その方とは今でも連絡を取り合ったりしています。その方のおかげもあって全国のローカルフェスの繋がりが凄くできているんですよ。業者を紹介し合ったりとか、お互い助け合ったりしています。
─ フェスの主催者の方たちで繋がり合ってるんですね!藤井さんはhoshioto以外にもmachiotoやJOKA FESも主催されていますが、hoshiotoとの棲み分けってどうされてるんですか?
以前は、hoshiotoもmachiotoもそんなに意識した区分けはしていなかったんですけど、最近のmachiotoとJOKA FESは地元をフックアップというか、岡山や福山にも良いバンドがあるっていうのを伝えたり、岡山や福山に来たことがないバンドを呼びたいって感じですね。hoshiotoは僕のエゴでフジロックで得たものをぶつける場ですね。今は全国でライブサーキットって多いんですけど岡山には無かったんです。何故かというとライブハウス同士の距離が遠かったんです。そこで考え方を変えて「主要ライブハウスを使わない」ことにしたら出来るんじゃないかって思えたんです。岡山で誰もやらなかったから僕がやったって感じです。(SMASHの)日高さんが昔マジックロックアウトっていうオールナイトのイベントをやったんですけど、「誰もやってないから俺がやった」みたいなことを仰っていて、それと同じだなぁと。日高さんは独創性も凄くて、とても尊敬する方です。
─ そのような棲み分けだったんですね。machiotoはhoshiotoのスピンオフってイメージを抱いていました。
最初はそうだったんですよ。でもそれじゃ発展性がないなって気付いて。
─ なるほど。よく考えたら藤井さんって3つのフェスを主催されているから一年ずっとお忙しいですよね(笑)
そうですね(笑)。でも最初に手がけたhoshiotoが大変なんで、それに比べたらあとの2つは楽なんで。会場も最初から場所もあるし音も出るし(笑)
─ hoshiotoは木を切って会場を作るところから始まっていますもんね(笑)
だから他の二つはhoshiotoに比べるとめっちゃ楽です(笑)
─ そうは言っても実際には3つのフェスを抱えるのって大変だと思います。
何回も心は折れますね(笑)。やっぱりインディペンデントなんでブッキングとか大変ですね。
─ ブッキングの話が出ましたが、ブッキングする時にどんなことを考えられていますか?
まずは、僕が好きなアーティストさんを呼ぶってことが一番ですね。他にスタッフが見たいって言うバンドもライブやYouTubeでチェックします。基本的にブッキングって僕が全部やってるんですよ。だから僕がオッケーだったらいいんじゃないっていう基準ですね。それだけプライドや責任を持ってブッキングをしています。実際にhoshiotoに出て何年後にドーンって行くバンドも出て来ています。例えば感覚ピエロなんかは結成して4か月で出演ですしね(笑)。ココロオークションとかBrian the Sunとかはメジャーまで行きましたし。machiotoも夜の本気ダンスとか岡崎体育とか出ていますし。もちろん若手だけでなくてベテランもそうです。今年はGOING UNDER GROUNDも出てくれますけど、それも僕が観たいので(笑)。まだヘッドライナーは発表していませんけど、2日前に決まりました(注:取材当時時点。4/9に出演アーティスト最終発表済)。今年のラインナップは勝負かけてます。既に発表しているバンドでもScoobie DoとかLITEとか盛り沢山です!
─ 鶴は毎年出演していますよね?レギュラーですね(笑)
鶴はレギュラーです(笑)。今年のラインナップは個人的には面白いと思うんですけどね。
─ 私個人としてもそう思いますし、色んな年齢層の方が楽しめるラインナップだと思います。
プライドを持ってブッキングしています。僕フジロックのブッキングの信念が好きなんです。スタッフが好きなアーティストを呼んでいる感じが好きです。
─ 動員を増やすことを目的で選んでいない。
だから僕のフェスも好きなアーティストしか呼んでいないです。そういうところはフジロックの影響を大きく受けていますね。フジロックの素晴らしさは行ったら分かるんです。最高なんです。
─ まったく仰る通りです。
最初にフジロックに行った時に考えたことって3つだけなんです。「次どのアーティストを観るか」「次に何を食べるか」「いつ寝るか」。
─ あぁ!それは確かに!
それが自由だなって思いました。余計なことは考えなくていいっていうか。あとhoshiotoとフジロックが共通していることとして、ヘッドライナーがトリ前にやることがあるってことですね。日高さんのやり方って面白いなって思います。去年のhoshiotoでもヘッドライナーの中村一義の後にココロオークションだったりとか。そういうのはフジロックから直接影響を受けています。
─ 確かに他のフェスでクロージングアクトってあまり聞かないですもんね。
そうなんです。hoshiotoは毎年必ずクロージングアクトを決めるわけではなくて、どの形が一番綺麗にその年のhoshiotoが締められるかっていうことを重視してタイムテーブルを考えています。
─ フジロックと他のフェスとの違いってどんなところだと思われますか?
自由ですよね、あとはDIYの精神とか。あと音楽以外のアクティビティがあったり。「フェスティバル」ってお祭りじゃないですか。音楽以外にも楽しめる要素を充実させることができたらhoshiotoも他のフェスと差別化出来るんじゃないかって思います。
─ なるほど。
僕はこだわりがあって「フェス」って言わないんです。「フェスティバル」って言う。
─ それはなぜですか?
日高さんが「フェスティバル」って言うからです(笑)
─ なるほど(笑)
僕アホでしょ?(笑)。日高さんって海外で自分が見たものをフジに持ってくるでしょ?あの方の発想は凄いなと(笑)
─ 今年もキューバから自転車タクシーを導入するみたいですしね(笑)
僕は海外から持ってくることは出来ないですけど、フジから持ってくることはできますので、予算は限られていますけど出来る限りチャレンジしたいです。あとは今年ファミリー層っていうのを強く意識していて、子供が出来たからライブハウスに行けなくなったっていう方も多々いらっしゃると思うので、「ライブハウスは無理だけど野外フェスなら行けるか」って環境を作れたらいいなって思いますね。hoshiotoは会場と駐車場が近いからお子さんに何かあってもすぐに帰れますし、キッズランドとかボルダリングが出来るようにしたり、絵本の読み聞かせが出来るようにとか色々考えています。
─ そういうのもあってクラウドファウンディングをされているのでしょうか。あ、達成率100%突破おめでとうございます!(注:現在は受付終了)
有難うございます!スポンサーを取らずに運営しているので、予算が限られているのでクラウドファウンディングの支援っていうのは凄く大きいです。
─ スポンサーを集めるという選択肢はなかったのでしょうか?
フジロックみたいにイベントが強くてスポンサーが入るのは良いんですけど、僕らみたいにイベントでスポンサーが強くなっちゃうと何だか怖いなぁって思うんです。例えばステージの後ろに大きく企業名が書かれたりすると違和感を感じるんですよね。せっかく野外フェスっていう非日常な場所に来ているのに、企業名が大きくバーンって書いてあるのって何か違うなって思っちゃいます。
─ クラウドファウンディングは昨年度から始められていますが反対意見は出ませんでしたか?
確かに賛否両論ありました。でも赤字を抱えてやるよりは予算を集めてやる方が良いだろうと判断してクラウドファウンディングをすることを決めました。僕はhoshiotoのファンを増やしていきたいんで、そのためにもクラウドファウンディングは必要でした。
─ なるほど。hoshiotoを継続させて行くためにもクラウドファウンディングは必要だったと。
そうですね。僕はフジロックのファンなんですけど、出演アーティストのラインナップに関係なく行くんです。hoshiotoにもそういうファンを増やして行きたいですね。
─ ターニングポイントとなった年ってありますか?
2013年ですね。第一回の2012年は地元のアーティストが多かったんですけど、2013年から全国区のバンドが少しずつ出るようになって、その実績の積み重ねでブッキングの結果がだいぶ変わって来ました。そして僕は今年もターニングポイントになると思っています。
─ 改めて今年のラインナップを見てみると良いですよね。
本当は他にも呼びたかったアーティストがいたんですけどね(笑)。ブッキングは難しいです。
─ だからこそオファーしたアーティストの出演が決まると嬉しさも格別というわけですね。
最近はhoshiotoに出演してその年のフジロックにも出演するアーティストも出て来てめっちゃ嬉しいです。一昨年もスクービーがhoshiotoに出演して、フジロックのレッドマーキーに出演しましたし、去年はDE DE MOUSEとかヒグチアイもそうです。もうめちゃめちゃに嬉しいです。hoshiotoの第一回目を開催した時にまさか自分が主催したイベントに出た人がフジロックに出るなんて夢にも思っていませんでした。
─ 正直なところ嬉しいことばかりではなく大変な思いをされることもあると思うのですが、それでもhoshiotoを続ける理由というのは?
毎年やめようと思いますね(笑)。だけど笑顔とか人との繋がりだったりとか「やって良かったな」って思えるところがあるから続けるんでしょうね。ただ毎年やるっていう保証は出来なくて。もしかしたらいつかやりたくてもやれない環境になるかもしれない。例えばいつか僕が北海道に転勤になったりとか、年齢的なところとか。ただ僕が目指しているところに今は一歩ずつ進んでいる途中なので、それが完成したらもしかしたらやめるっていう選択をするかもしれません。
─ その「完成形」というのは具体的には?
超理想なのはhoshiotoが出演アーティストを発表する前にチケットが完売するようなイベントになることです。「hoshiotoって絶対楽しいよね、絶対外さないよね」っていうhoshiotoそのもののファンが増えたら最高ですね。音楽だけじゃなく、それ以外の楽しい要素を提供していきたいと考えています、今は。もしかすると来年には考えが変わっているかもしれないですけど(笑)。
─ 最後にフジロッカーの皆さんに向けてお願いします。
僕もフジロッカーなんです。hoshiotoはフジロッカーが作り上げたフェスなんです。決してフジロックを真似しているわけではありませんが、フジロックが好きな人なら分かってくれる要素は沢山ありますので、是非体験しにお越しください!
─ 本日はお時間を戴いて有難うございました。
(完)
スポンサーに頼らずにあくまでも自分たちの力で開催される『hoshioto』は正にフジロックのDIY精神。インタビュー中の藤井氏の言葉からは、溢れるばかりのフジロック愛が伝わってきた。終演後すぐに会場を後にすれば大阪や広島へ日帰りが可能なので、フジロッカーが作り上げた野外フェス『hoshioto』に来場して、是非「最高の星空の下で最高の音楽を」体験してほしい。
取材・文:つちもり
hoshioto’18
【日程】2018年5月26日(土)開演10:00/終演21:30(キャンプの方は5月27日 12:00迄)
※時間はいずれも予定
【会場】岡山県井原市青野町 葡萄浪漫館 特設ステージ
【チケット】前売券…5,000円
前売券+場内駐車券…7,000円
前売券+場外駐車券…6,000円
※上記いずれの券種も当日券は+1,000円
学割券(中・高校生)…2,500円
学割券(大・専門生)…4,000円
※当日でも上記価格(前売券売り切れの場合は当日の販売は無し)
※要学生証持参
小学生以下は入場料無料
キャンプタープチケット…2,000円
詳しくはこちらを参照ください。
【出演者】
atelier room
アメノイロ。
大平伸正
8otto
Odile
溺れたエビ!
花月草子
空中ループ
GOING UNDER GROUND
ココロオークション
さとうもか
シンガロンパレード
SCOOBIE DO
DJダイノジ
高井息吹
超能力戦士ドリアン
鶴
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