• 「ワールドミュージックの現場をサラーム海上氏と解く」Vol.2


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     2017年の年末。「ジャジューカの夜、スーフィーの朝 ワールドミュージックの現場を歩く」がDU BOOKSから発売になった。この著者である、ワールドミュージックの伝道師、サラーム海上氏には前回のインタビューで、中東の音楽について語ってもらった。今回は、去年に引き続き、今年も出演を予定しているフジロック、ブルー・ギャラクシーでのDJについてと、もうひとつの肩書き、中東料理研究家について迫る。

    ぜひ、サラーム海上氏によるYoutubeプレイリストを聞きながらインタビューをお読みください。

    ・ブルー・ギャラクシーでのDJ

    ─ 去年に引き続き、今年もご出演予定と伺いました。去年の出演の経緯について聞かせてください

     それが面白いんですよ。僕はJ-WAVEで番組を持たせていただいているんですが、それはクリス・ペプラーさんの番組「Tokio Hot 100」に以前からゲスト出演させてもらっていたのがきっかけなんです。そして、クリスさんはSmashのボス、日髙正博さんと仲が良くされていて。ジム・ウェスト(Jim West)さんがもともとあの場所(現在のブルー・ギャラクシー)で20年近くやっていて、去年からブルー・ギャラクシーとして大きくなった。その際、ジムが日髙さんにもう一人DJが欲しいと頼んだんです。そして、日髙さんがクリスさんに相談したところ、クリスさんが、ワールドミュージック系なら、ということで僕を推薦してくれたんです。

     去年の7月中旬に、クリスさんが、僕に紹介したい人がいると麻布のイタリア料理屋に呼び出されて、その場に日高さんが現れて。なぜだか僕には最初から英語で話しかけてこられて(笑)、日本人だとわかってるはずなんですけどねえ。その一週間後くらいに正式オファーが来たんです。

    ─ 唐突だったんですね!

     そう。それも開催の三週間くらい前(笑)。それで、現場がどういう場所かって全然聞いてなかったんですよ。フジロックはもう10回くらい行っているので、だいたいの場所的な感覚はあったんだけど、それで行ったら、案の定アナログしか回せない場所で(笑)。僕も行くまで知らなかったんだけど、実はブルー・ギャラクシーはアナログ盤専用のDJブースとして考えられていたんです。僕も行くまで知らなかったんだけど。僕はアナログなんて一枚も持っていないし。

    Jim West at BLUE GALAXY | Fuji Rock Festival '17 | Photo by MASAHIRO SAITO

    Jim West at BLUE GALAXY | Fuji Rock Festival ’17 | Photo by MASAHIRO SAITO

    ─ え!? そうなんですか? 意外です!

     だって、アナログなんて先進国と一部の国のものですよ。僕が行く国にはアナログなんてないですよ。昔はもちろんあったけど、今は全くないです。

    ─ それは当日に発覚したんですか?!

     うん(笑)。でも僕は大きなトラクター・コントローラーを持って行くので、ステレオのライン入力一系統があれば問題無いんですよ。それは伝えていたの。でも、現場に着いたらそのコードすら無くて(笑)。それで別の場所から借りて来て繋いだんですよ。

    ─ 現場感のあるお話ですね(笑)。それで実際あの場所でのDJはどうでしたか?

    面白かったですよ。僕は金曜の午後に到着したんです。現場でジムに初めて会ったら、「前夜祭も朝まで回していたよー」なんて(笑)。「マジかー」って(笑)。

     その場で、ジムとは三日間、とりあえず2時間交代で回そうと話し合いました。それで、金曜の夕方、約束の時間に戻ると、ジムの友達のアナログ盤を抱えたおっちゃん達が次々と現れて、回して行って、もうプレイ時間なんて決まったものは無くて、「悪いけど、サラーム2時間後ね」なんて感じ。それで深夜に僕が始めたら、ジムが「クリスタル・パレスに呼ばれたから、明け方まで一人で頼むわ」ってアナログの箱持って行っちゃったんですよ(笑)。「マジ? これから5時間連続ー!?」ってなって(笑)。それで初日からいきなり5時間 DJですよ(笑)。 

     一日目はイスラエルやトルコの古いサイケデリック・ロックをたくさんかけようと決めて。それでかけていたら、イスラエル人とかトルコ人が遊びにきて、「なんでこんなの知っているの?」って話しかけられたり、逆に僕も「イスラエルから何しに来たの?」なんて聞いたりして、なんかもう完全にインバウンドの交流の場所になっていましたよ(笑)。 

     二日目から大雨になってしまって。ブルー・ギャラククシーって大きいテントですから、みんな屋根の下に椅子を広げて雨宿りの場所になっちゃった。フロアだけは開けておいてと言うんだけど、雨が強くなってきたりして、ちょっと大変だった。それで、二日目はインドのボリウッド音楽にしようと決めていて。始める前にTwitterやFBなどSNSで「今からボリウッド音楽プレイします!」と流したら、インド音楽好き、さらにはインド人旅行者まで来てくれて。それでインド人に話を聞くと、シンガポールや香港に住んでいて、団体ツアーでフジロックに来たって人もいて。中には、結婚前のバチェラー・トリップのため、男三人で来たよ、なんて奴らがいて。「それってボリウッド映画の「Zindagi na milegi dobara(邦題:人生は一度だけ)」そのまんまだねー」なんて言ったら、「お! わかってくれた?(笑)」って。

     僕はPCDJなので、曲はたっぷり用意していて、リクエストにも出来るかぎり応えて。音源を持っていなくてもその場でiTunesストアでダウンロードして買ってプレイしますよ(笑)。インド人のリクエストに応えていたら、二日目からインド人達がスパークしちゃって(笑)。「ジャイ・ホー!」とか歌って踊ってるんだよ(笑)。全部ボリウッドの映画音楽だから、彼らは歌えるだけでなく、振り付けまで覚えているんだよ。それで二日目の深夜にすごい盛り上がって。隣のレッド・マッキーでARCAとかが最新の音を出してるのに、その横で、こっちはボリウッド音楽でインド人ととも「ジャイ・ホー!」とか歌ってるの(笑)。それからはインド人やアジア人が次々と来て、ダッさい曲ばかりリクエストしてくるんだよね(笑)。自分でもプレイしながら、「この曲やっぱりダッセーなぁ、それにこんな曲かけてるオレったら、本当に大丈夫か?」って思っていたもん。でも、すごく盛り上がってくれた。それで三日目の夜は、インド人やアジア人のお客さんがいっぱい来ました(笑)。

     そんな感じで三日間やって、すっごい疲れました。トータルで15時間もやっていたんですよ。ジムを除くと、フジロックのDJ最長記録じゃないですか?(笑)。 たいていの出演者は2〜3時間で終わって、一泊で帰るでしょ、普通。僕は、もう八甲田山というか、野麦峠と言うか(笑)。足が血豆だらけで。でも本当に楽しかったですよ。DJとしても勉強になりました(笑)。

    BLUE GALAXY | Fuji Rock Festival '17 | Photo by MASAHIRO SAITO

    BLUE GALAXY | Fuji Rock Festival ’17 | Photo by MASAHIRO SAITO

    ─ そんな勢いでまた今年もお願いします!(笑)

    インバウンド、ウェルカムですよ(笑)。

    ─ 今年はどんな調子でいきましょう?

     まぁダサい曲は任せてください(笑)。基本的には去年と同じですね。できることは全部やります。15時間もあったら、出し惜しみなんてしていられないですよ。

    ─ そうですよね(笑)。だって購入してまで、ですもんね

    うん(笑)。だって、リクエスト来るんだもん。

    ─ 今年はそのインド人を見に是非僕もいきます!

    ぜひ来てください!

    ─ 世界のフェスティバルを経験しているサラームさんにとって、フジロックはどういうフェスだと思いますか?

     フジロックは、うーん、八甲田さ…(笑)。やっぱり辛いですよね。世界のフェスティバルってもっとゆるいものが多いんですよ。フジロックってグラストンバリーにインスパイアされているからでしょ? 泥とか雨とか、ロックは耐えるもんだ! っていうイメージがあると思います。僕は中東や地中海周辺のフェスティバルによく行くから、夏は晴れていて、雨は降らないんですよ。だから暑くて辛いことはあるけれど、それ以外の苦労はない。だから楽なフェスばっかり行っている僕には、フジは辛いことが多いです(笑)。

     二年連続で行った、トルコのカッパドキアの遺跡の中で行うカッパドックスっていうフェスティバルは、京都の寺の中でやるようなもので、遺跡自体にプロジェクション・マッピングとかして、サイケデリックなフェスで。そこでスーフィー音楽やロックやテクノをやるんだけど、去年は珍しく雨が降ったんですね。そうしたら、トルコ人の観客が雨に慣れていないもんだから、みんな凍えそうにしていて(笑)。僕はフジロックで豪雨に慣れているから、全然平気(笑)。防水のコート着て、ウィスキー飲んで、ホッカイロ貼っているからね。フジロックの方が全然辛いよって(笑)。

     だから、フジロックのおかげで、世界中のどこのフェスに行っても負けないようになりましたよ(笑)。フジロックは一つ一つの音楽アクトよりもトータルのフェスティバル経験として覚えていることが多いです。あの年は雨だった。あの年は誰々に再会したとか。だから、一回雨に降られたからもう行かないとか、泥で辛い思いしたからもう行かないとか、そういうのはもったいないと思います。次回は前回とは違うものです!

    ─ フジロックでの食事についてはどうでしょう?

    みんな高い高いっていうけど、700円程度で軽く一食が食べられる先進国のフェスなんて他にないですよ。

    ─ カレーがお好きと聞きました。

     毎年インドに行ってますからねえ。僕自身は肉食ですが、フジロックにはもっとベジタリアンやヴィーガンに対応した屋台が増えると良いですね。2014年にイスラエルのバンドBOOM PAMのアテンドで行った時には、メンバーに一人ヴィーガンがいたんですよ。一泊二日したのに、彼女は食べられるものがもろきゅうしかなくて……。でも、その後、数ヶ月後にイスラエルに行って、彼女に再会したら、「私、ヴィーガンやめたから、今度日本に行ったら寿司屋に連れてって」と言われました(笑)。

     フジロックのお客さんやアーティストでもベジタリアンやヴィーガンは増えていると思うけど、屋台のほうがまだ対応していると言えないですよね。僕は料理の仕事もするので、屋台で野菜料理を出すのは肉料理より大変だとはわかっていますが、これは早急に解決してほしいと思うんです。

    ・中東料理料理研究家について

    ─ 料理の方でも本を出したりと活躍されていますが、どんなきっかけで始めたんですか?

     子供の頃から料理を作るのが好きだったんです。母がNHKの「きょうの料理」の月刊誌を定期購読していて、僕も小さい頃からページをめくって見ていたんです。だけど、日本のおかずとかのページには全然興味が持てなくて。フランス料理とかエキゾチックなお菓子とか、日常的でないものに惹かれていましたね。最初に作ったのは小学校三年生でアップルパイでした(笑)。

    ─ そんなご経験から、旅先でも学ぶ姿勢が見られるのでしょうか?

     そう、興味もあるけど、やっぱり美味しいもの食べたいじゃないですか。中東でアーティストに取材をしていると、取材の後に一緒に飲みに行こうって言われる機会が多くて、「美味しいところ知っているから」と連れていかれる。それに今はSNSの時代だから、僕が料理の写真ばっかり投稿しているのを初めて会う人でも事前に知っていてくれて、「お前、料理好きなんだろ? このお店を日本に紹介してくれよ」と美味しい店に連れて行ってくれるんですよ(笑)。

    現地でのサラームさんのメモ

    現地でのサラームさんのメモ

    ─ 旅先で習った料理って、日本でも再現できるんですか?

     うん、大抵作れます。新大久保に行けば、食材はほとんど揃います。どうしても手に入りにくいものは現地で買って持って帰ったりしています。

    ─ 料理本も多数出されていますよね

     そうですね。今年は中東料理のレシピ本「MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー」(LD&K)の続編を出します。僕が現地で習ったり、食べたりしたイスラエル、レバノン、トルコ、モロッコの料理レシピを55品目掲載しています。写真も1/3ほどは僕が撮っています。スパイスなんて揃っていなくとも、レモン、にんにく、パセリ、オリーブオイルがあれば、大抵のものは作れますよ。

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    (完)

     二回に分けてお伝えしたサラーム海上氏のインタビューはここで終了する。この取材の後、食事をご一緒したのだが、サラーム氏は話せば話すほど、面白い話が出てくる。外国での話はもちろんだが、食品開発とか…。また違う機会にインタビューできればと思う。サラーム氏からは、とても温かい人間らしさを感じる。サラーム氏自身が世の中に発信している情報は、とても濃く、熱意のあるものばかりだ。それはきっと愛を持って取材し、強い信念を持ってアウトプットしているからだろう。ブルー・ギャラクシーはもちろん、今後のサラーム氏の行動に注視したいと思う。

    取材・文:紙吉音吉 / 野口明裕
    写真:北村勇祐


    INFO

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    「ジャジューカの夜、スーフィーの朝 ワールドミュージックの現場を歩く」
    2017年民放連最優秀賞ラジオDJ/音楽評論家が放つ渾身の世界音楽レポート

    「この音ヤバイ」を求めて世界へ! インドの砂漠古都で、戦車が走るベイルートで、驟雨のエルサレムで――音楽は響いている!

    紹介ページ / Amazon

    PROFILE
    サラーム海上 〜Salam Unagami〜
    音楽評論家/DJ/中東料理研究家/朝日カルチャーセンター講師
    中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽と料理シーンをフィールドワークし続けている。単行本や雑誌、WEBでの原稿執筆のほか、ラジオやクラブのDJ、オープンカレッジや大学での講義、中東料理ワークショップ等、活動は多岐にわたる。選曲出演するJ-WAVE の中東音楽専門番組「Oriental Music Show」が2017年日本民間放送連盟賞ラジオエンターテインメント番組部門最優秀賞を受賞。コミュニケーション言語は英語、フランス語、ヒンディー語、日本語。群馬県高崎市出身、明治大学政経学部卒。
    Website / Twitter / Facebook / Instagram

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