• 今、ケンドリック・ラマーを見なければいけない理由


    先日、ついに発表された今年のフジロック第1弾出演ラインナップ。その中で一番先頭のスロットにエントリーされたのが、ケンドリック・ラマー。アメリカ、カリフォルニア州コンプトン出身のラッパーである。第1弾ラインナップ発表の記事にもあるが、彼がフジロックに参戦するのは2013年以来、5年ぶりだ。

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    KENDRICK LAMAR | FUJI ROCK FESTIVAL’13 | Photo by 平川啓子

    この記事では、「ケンドリック・ラマー、知っていたけれど5年前は見られなかったよ。」「ケンドリック・ラマーってどんなアーティストなんですか?」そんなフジロッカー向けに、彼がどのようなプロセスを経て、今の地位を確立したのか、紹介したいと思う。

    新しいヒップホップ・スターの誕生と逆風

    Kendrick Lamar『good kid, m.A.A.d city』

    Kendrick Lamar – 2nd Album『good kid, m.A.A.d city』

    アメリカで最も危険な地域と言われているコンプトンで生まれ育ったケンドリック・ラマーが、一躍注目の的となったのが、セカンドアルバム『good kid, m.A.A.d city』である。「コンプトンのとある若者が、ヤバイ女に会いに行くその道中であらゆるヤバイ出来事に遭遇し、やがては人としての成長を遂げる。そんなコンプトンのリアリティと希望の物語」を、黒人社会の状況を写実的にラップするギャングスタ的要素と、浮遊感のあるトラックに脱力フロウでラップするクラウド・ラップ的要素を持って表現している。

    このアルバムは、アメリカの各メディアで大絶賛を浴び、2014年のグラミー賞でも7部門(最優秀アルバム賞、最優秀新人賞、最優秀ラップアルバム賞、最優秀ラップパフォーマンス賞、など)でノミネートを果たしたが、結局1部門も受賞することはなかった。

    ケンドリックの代わりに「最優秀新人賞」「最優秀ラップアルバム賞」「最優秀ラップパフォーマンス賞」、これら3部門を受賞したのは、マックルモアー&ライアン・ルイス(白人2人組のポップ・ヒップホップ・ユニット)だった。この結果が物議を醸し出した。ここから改めて明るみになったのは人種差別的な問題。確かに、マックルモアー&ライアン・ルイスも商業的にも成功を納めているし、賞を受賞するに相応しいアルバムを作ったユニットであることは間違いないのだが、この年に関してはケンドリックが受賞するものだと誰もが思っていた。それだけに、この受賞に関しては賛否両論が渦を巻いた。ちなみに、主要部門の一つである「最優秀アルバム賞」は、Daft Punkの『Randam Access Memories』が受賞をおさめている。

    Kendrick Lamar “Swimming Pools (Drank)”

    Kendrick Lamar “Bitch, Don’t Kill My Vibe”

    肌の色も国籍も超えて生まれた共感

    Kendrick Lamar『To Pimp A Butterfly』

    Kendrick Lamar – 3rd Album『To Pimp A Butterfly』

    『good kid, m.A.A.d city』のリリースから2年後にリリースされたのが、3枚目のアルバム『To Pimp A Butterfly』だ。このアルバムで、彼は全世界において大ブレイクを果たした。その要因としては、ジャズやファンク、ソウル、LAビートなど、ブラック・ミュージックの歴史を辿るようなそのサウンド・プロダクションの素晴らしさもあるが、それ以上に世界、特にアメリカの人々の共感を得たのは、彼の現在アメリカで起きている問題を的確に指したリリック(歌詞)に他ならないと考える。

    このアルバム、一説には2014年にUSミズーリ州で起きた白人警官の黒人青年射殺事件に端を発したアルバムとも言われているが、アルバム冒頭からラストまで通して聞こえてくるのは、人種差別や奴隷制度の現実と、それを踏まえた上でのケンドリックからアメリカ国民への「自分たちのルーツを自覚し、アイデンティティを保ち続けろ。そして自分を愛せ。」というメッセージである。このメッセージは、肌の色や国籍など関係なく、様々な境遇にいる人たちの共感を得た。

    そして、その翌年。2016年のグラミー賞ではなんと11部門(主要部門含む)にノミネートを果たした。これはマイケル・ジャクソンの『Thriller』の12部門ノミネートに次ぐ、グラミー史上2番目に多い記録である。結果としては「最優秀ラップソング」「最優秀ラップアルバム」など5部門の受賞は果たしたものの、主要部門の受賞は叶わず。そして、この結果にもまた「なぜケンドリックじゃないのか?」という議論が巻き起こった。

    その授賞式のオープニングで、ケンドリックは本作に収録されている”Alright”のパフォーマンスを披露した。その内容は、鎖に繋がれたケンドリックとそのバックダンサーたちが軟禁から解放され、自由にダンスしラップするケンドリックとバックダンサーたち・・・というもの。

    「一生戦わなきゃいけない。けど、俺たちは大丈夫だ。心配することはない。俺たちは大丈夫なんだ。俺の声が聞こえるか?言ってることもわかるよな?みんな心配することない。俺たちは大丈夫だ。」

    「自分たちが置かれている過酷な状況に屈してしまったとしてもおかしくない。しかし、そんな状況でも、自分たちは大丈夫なんだ。」という強い意志が込められたそのパフォーマンスに、多くの人が胸を打たれた。

    Kendrick Lamar “Alright”

    Kendrick Lamar “i”

    分断するトランプ・アメリカにリアルを投げつけた新作

    Kendrick Lamar『DAMN.』

    Kendrick Lamar – 4th Album『DAMN.』

    2017年、アメリカ・トランプ大統領就任の前後。数々のミュージシャンが、それぞれの視点・表現で音楽に反映しアルバムをリリースしてきた。U2、ゴリラズ、N.E.R.D.、LCDサウンドシステム、フリート・フォクシーズ、ファーザー・ジョン・ミスティ・・・そしてエミネム、と挙げだしたらキリがないほど。そんな中でケンドリックがどう動くのか。そして何を語るのかが注目された。

    そんな中リリースされたのが最新作『DAMN.』である。そのジャケットには、虚ろな目をしたケンドリックの姿が写っている。トランプ大統領が正式に就任し、より混沌としてきたアメリカの状況を冷静に受け止めつつ、そんな現在のアメリカ・コンプトンのひとりの男が、どんな体験を経て、今どんな風景を見つめているのか。

    このアルバムは、「道端で困っている盲目らしき女性に声をかけるが、銃で撃たれ死んでしまう」という語りから始まり、最後に銃声音から逆回転音声で冒頭曲”BLOOD.”の語りに戻るという、ループ構成になっている。この繰り返しに込められているのは、「どんなに厳しく辛い事実が目の前にあったとしても、逃げずに立ち向かうことが大事なんだ。」というケンドリックからのメッセージなのではないだろうか。

    『To Pimp A Butterfly』の外向きのベクトルで語られていたメッセージから一転、事実にそして自分に向き合うという意味で内に向けられたベクトルの『DAMN.』。どちらも手法こそ違えど、言っていることは事実に基づいた言葉である。サウンド面においても、前作のようなジャズ、ファンク・・・など”ブラック・ミュージック”というスコープで捉え作られたものとは異なり、Gファンクやネオ・ソウルなどをベースにした至ってシンプルなプロダクションになっていて。より本作におけるケンドリックのメッセージを際立たせている。

    このアルバムにあるメッセージを、聞き手である僕らはどう受け止め、どう未来へ向けて足を進めるのか。そして、このアルバムを”世間”はどう受け止めるのか?その結論のひとつが、今年のグラミー賞だったのだが、結論から言うとノミネートを果たした7部門中5部門を受賞。しかし、それらは主にヒップホップ部門のもので、結局今回もまた主要部門での受賞はならなかった。これまでのグラミー賞は、主要部門を黒人のヒップホップ・アーティストには受賞させない傾向にあり、結果的に今年もこれまでのそういった傾向が踏襲される形となった。

    Kendrick Lamar “HUMBLE.”

    Kendrick Lamar “DNA.”

    エド・シーランやテイラー・スウィフトを超えるセールス

    彼が支持を集めているという一つの証拠として、アルバムのセールスもあることにも触れておきたい。昨年リリースされた最新アルバム『DAMN.』は、アメリカで最も権威のある音楽チャートである「Billboard Hot 100」の2017年間部門でナンバーワンを獲得している。

    1位 ケンドリック・ラマー『DAMN.』 2,603,000
    2位 エド・シーラン『➗』 2,448,000
    3位 ドレイク『More Life』 2,161,000
    4位 テイラー・スウィフト『Reputation』 1,897,000
    5位 ブルーノ・マーズ『24K Magic』 1,546,000
    6位 ポスト・マローン『Stoney』 1,409,000
    7位 ミーゴス『Culture』 1,384,000
    8位 ザ・ウィークエンド『Starboy』 1,353,000
    9位『MOANA』サウンドトラック 1,200,000
    10位 カリード 『American Teen』 1,112,000
    ※こちらはCD・レコード・ストリーミングセールス全て含んだ数値となっている
    ソース元はこちら

    今、飛ぶ鳥を落とす勢いのエド・シーランやテイラー・スウィフトなどを抑えての年間1位獲得。他にも、Rolling Stoneをはじめとする多数の音楽メディアで『DAMN.』は「2017年ベストアルバム」に選ばれている。

    ジャンルレスなアーティストとのコラボレーション

    そんな物議を醸し出しているケンドリック周辺だが、楽曲面においては、大物、若手、ラッパー、ポップバンド・・・ボーダーレスにコラボレーションを多数果たしている。

    彼の主戦場であるヒップホップ界からは、ドクター・ドレー(元N.W.A.)、ジェイZ、カニエ・ウェスト、ドレイク、MCエイト、スヌープ・ドッグ、スクールボーイQ、N.E.R.D.、ファレル・ウィリアムズ、フューチャー、トラヴィス・スコット、ダニー・ブラウン、アンダーソン・パーク・・・など。

    さらに、ロック&ポップス、ソウルミュージック界からは、U2、ジョージ・クリントン(パーラメント、ファンカデリック)、ロナルド・アイズレー(アイズレー・ブラザーズ)、メアリー・J.ブライジ、リアーナ、マルーン5、ジェイムス・ブレイク、ザ・ウィークエンド、サンダーキャット・・・など、錚々たる顔ぶれである。

    U2に関して面白いのは、昨年リリースされたそれぞれの最新アルバムで相互コラボを果たしているところ。U2の最新アルバム『Songs Of Experience』収録の”American Soul”と、ケンドリックの最新アルバム『DAMN.』収録の”XXX.”である。

    U2 feat. Kendrick Lamar “American Soul”

    Kendrick Lamar feat. U2 “XXX.”

    そんな彼のステージを今見なければいけない理由

    今年のグラミー賞授賞式で、ケンドリックは数曲パフォーマンスを行った。”XXX.”のイントロである「America♪」の歌い出しと共にバックのスクリーンには大きなアメリカ国旗がなびく映像が映し出され、ケンドリックが「今のアメリカにおける分断」と「地元コンプトンなどに見られるアフリカン・アメリカンが住む地域で横行する暴力の実情」について力強くラップした。そしてバックのスクリーンにフラッシュバックで「これは、ケンドリック・ラマーの皮肉だ」の文字が映し出された。こんなにも痛烈なシーンを(ディスプレイ越しではあるが)目の当たりして、凄まじいほどに胸が高鳴った。

    グラミー賞でケンドリック・ラマーのパフォーマンスを報じたニュース

    言語もシチュエーションもロケーションも違うが、これと同じ体験と生の熱量を苗場でもきっと味わえるはずと信じて、その時を待とう!

    文:若林修平

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