• 苗場からグラストに牛窓をつなぐもの


     きわめて高品質なオリーヴの産地として知られる、岡山県南東部の町、牛窓。穏やかな表情を見せる瀬戸内海を臨む、なだらかな丘でまぶしい太陽の光を浴びながら、数え切れないオリーヴの木々が育てられている。その樹園で産声を上げたのが、おそらく、関西から中四国地方のフジロッカーにはお馴染みだろう、牛窓ナチュラル・キャンプと呼ばれる小さなフェスティヴァルだ。が、繊細な木がダメージを受けるというので、この丘で祭りが開催されたのは2回のみ。3回目からは、そこから見下ろす海の中に浮かぶ小島、ほぼ無人島に近い黒島に場所を移し、毎年9月中旬に開催されている。

    © Shinya Arimoto | Ushimado Natural Camp 2015

    Fujirockersさんの投稿 2015年10月6日

     その発端となったのは「中国地方でもフェスティヴァルができないか」と会場探しを始めた地元の方で、それを手伝ったのがフジロッカーの一人。以来、紆余曲折を経て、現在は数人のスタッフで構成される実行委員会が運営をしていて、そのひとりが03年からほぼ毎年フジロックに通い続けているフジロッカーの北島琢也氏だ。

    「地方で学生だった頃は金がなくて… なかなか行けなかったんですけど、東京で社会人になって『行ける!』となって… 毎年休みを取ってというか、休むんですけどね、フジロックのために。それでずっと行ってます」

    「もっとフェスティヴァルに行きたい」と、脱サラして岡山在住となった今もフジロックに通い続ける彼は、結局、今年、オレンジ・カフェのスタッフとしてフジロックに関わるようになっていた。そして、もうひとりが岩田洋史氏。

    「僕は亡くなった忌野清志郎のトリビュートをやった09年… かな?それが最初で、その数年後にもまた行ってますね。それに朝霧も… ステージよりもワークショップだったり、そういった雰囲気が好きなんですけどね」

     と、なによりも独特の「雰囲気」に惚れ込んだのが両者。だからだろう、そこにこだわって創られているのがナチュラル・キャンプだ。今年も同じ会場で9月17日から、初めて3日間の開催を控えているのだが、それを前に彼らが目指したのが、フジロックに大きな影響を与えた英国最大のフェスティヴァル、グラストンバリー。それが彼らの目にどう映ったのか… そこからフェスティヴァルの魅力が見えて来るような気がするのだ。

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    「初めてのイギリスでロンドンからグラスト周辺の素晴らしい田舎町を訪ねて、のんびりと会場入りしたんですけど、とっても長く、青い夕方がすごく気持ちよかった。なんか時間の流れがスローモーションのような感じ?」と語り始めたのが岩田氏だった。

     体験した人にしかこの感覚は理解しづらいかもしれないが、これはグラストが開催されるのが、夏至に重なることに起因している。言うまでもなく、1年で最も昼が長く、日本的な感覚で言えば、夜9時を過ぎてもまだまだ夕方のように感じるのだ。実は、アヴァロン伝説の舞台になったこの地域が、最も神秘的な空気に覆われるのがこの時期。それもこのフェスティヴァルを象徴する側面なのだ。

     といっても、彼らと共に筆者が会場入りしたのは一般にゲートが開かれる前日の夕方。プレス関係者のキャンプ・エリアで、まだぽつぽつとしかテントが張られていない状態だったからこそ、のんびりとした雰囲気を味わえたのかもしれない。が、実は、とてつもない祭りがすでに始まっていたのを、その夜に体験することになる。フジロックのパレス・オヴ・ワンダー仕事をしている人たちがいる場所、アンフェア・グラウンドを訪ねた時のこと。

    「えぇ?なんでこんな人がいっぱいいるの?もう、始まってるでしょ?みたいな大騒ぎパーティでしたもんね。何人いるのって、尋ねたら57,000人ぐらいって… フジロックより大きいやん。まだゲートが開いてないのに。なんか、ここで働いている人がまず遊ぶところを作ってから、仕事しているのかなぁと思えるぐらいに、充実している感じでしたね」

     と、驚きを隠せないように語ったのが北島氏。が、それは序の口で、彼にとって最も強力な印象を残したのは泥沼だったらしい。今年は開催を翌週に控えた頃、大洪水に襲われたことに起因しているのだろう。フジロックでもオレンジコートのあったあたりのどろどろが有名だが、その比にならない泥が会場中を包み込んでいるように見えたとか。

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    「まぁ、最初は圧倒されたって感じでしたけどね。よくもまぁ、あんな泥まみれになるようなところで過ごせますよねえ。日本じゃあり得ないですよ。あと、フジロックには、フェスティヴァルに必要な店しかないけど、グラストでは『なに、これ?』みたいな変な店とかがいっぱいあって、なんでもあるって感じですかね。でも、トイレねぇ… すごいですね。ホントにできるん?みたいな感じで、フジロックのトイレが汚いとか… 絶対に言えないですよ」

     と、やはりフジロックと比べてしまうのは仕方がないだろう。

    「今回はモーターヘッドのレミーとかデヴィッド・ボウイへの追悼の意味を込めたステージの作りとか… そのものがアートみたいで、あのあと体験したフジロックのステージを見て迫力の違いを感じてしまいましたね」

     といっても、このあたりの変化が生まれたのは、ザ・ローリング・ストーンズが登場した13年のピラミッドが起源だろう。グラスト独特の『異次元の世界』を演出しているアート集団、ミュートイド・ウェイスト・カンパニーが、前年のロンドン・パラリンピック閉会式驚異的なパフォーマンスを展開することで、その存在感を見せつけたのではないだろうか。かつては会場のいちエリアで特異な世界を作り上げていたのに対し、ここ数年はマッド・マックスを思わせる奇妙奇天烈な作品の数々が会場の隅々に出没。フェスティヴァルそのものをアートへと変貌させているのだ。が、これこそが本来のあり方なのだろう。なにせ正式名称はグラストンバリー・フェスティヴァル・オヴ・コンテンポラリー・パフォーミング・アーツと、その名が単純な野外コンサートではないことを雄弁に物語っている。

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     しかも、会場そのものロケーションも大きな違いを生み出している。それを指摘したのが岩田氏だ。

    「抜けているんですよね、ど〜んと。地平線が見えるというか。北海道あたりにでも行かないと、こんな場所は、ないですよね、日本じゃ。フジロックには限られた道しかないけど、ここは縦横無尽で… 知らないうちに会場の外に出たんじゃないかということもありましたもん。それにレンジ・ローヴァーとかディフェンダーが、開催期間中も走り回りながら仕事している姿もすごかったなぁ。道がダメになったら、すぐに修復して…全てにおいて桁が違いますもん」

     さらに広告関係の仕事をしていることから、気になったことがあると、彼はこう続ける。

    「目立ったのはグリーンピースとオックスファムとウォーターエイドなんですけど、あれは企業広告ではないし… 確かに、新聞とかが絡んでいるのはわかるんですけど、馴染んでるんですよね。フジロックでも広告的な部分は抑えているのは知っているんですけど、ここではほんまに広告が目に入らなかったですね。会場で発行されている新聞にもないのは驚異的でしたね。なんでこんなことができるんやろう」

     会場にたどり着いた火曜日から離れた月曜日まで、ほぼ1週間を過ごした彼らと話していた面白かったのは、あまりライヴの話題が出てこなかったこと。渋さ知らズを見ようとステージを目指したのに思った以上に時間がかかってたどり着けなかったことや、コールドプレイが演奏しているときには、ピラミッド・ステージの後方をぐるっと歩きながら楽しんだあたりの話は耳にしたんだが、話題になったのは『フェスティヴァル』そのものだったように思う。そして、尋ねてみるのだ。グラストとフジロックとナチュラル・キャンプにつながるものはなんだろう。

    「規模は違えども、全然別なものという感じはしなかったですね。なんか求めている空気感は同じなのかもしれないと思います。ライヴだけではないというか。まぁ、ナチュラル・キャンプなんか、グラストのピラミッドの裏のバー周辺ぐらいの大きさですけどね」と北島氏が口にすると、岩田氏も「なんか共通してるよね。フジロックもグラストも。直接自然に影響を受けるし… 小さいながらも(笑)、同じ土俵でやってる感じがしますよね。準備段階から楽しいし、スポンサーもないし…」

     と、笑いながら、今年の準備にてんてこ舞いとなっている様子が目に浮かぶ。さて、今年はどんなナチュラル・キャンプが姿を見せてくれるんだろう。なにはともあれ体験してみてはどうだろう。

    昨年、fujirockersによる牛窓ナチュラルキャンプ・レポート
    http://fujirockers.org/?p=9471

    また、まるで天国のように見える瞬間をとらえた写真集はこちら
    https://www.facebook.com/Fujirockers/photos/?tab=album&album_id=1004196249632347

    文:Koichi Hanafusa
    写真提供:北島琢也氏


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    牛窓ナチュラルキャンプ2016
    2016年9月17日(土)・18日(日)・19(月・祝)
    岡山県瀬戸内市牛窓 黒島

    公式サイト
    http://natural-camp.jp/
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