週刊フジ 〜名場面編②〜
- 2016/04/13 ● 週刊フジ
フジロックで恐ろしいのは、前からずっと好きだったアーティスト、今とても夢中になっているアーティストが同じ空間に共存してしまうことだ。そんな夢の空間に居合わせているのだから嬉しいはずなのに、稀にこんなことが起きてしまう。
フジロックで恐ろしいのは、前からずっと好きだったアーティスト、今とても夢中になっているアーティストが同じ空間に共存してしまうことだ。そんな夢の空間に居合わせているのだから嬉しいはずなのに、稀にこんなことが起きてしまう。
あれは2012年のフジロックだった。フジロックに行き始めてからずっとずっと待ち望んでいたRADIOHEADの登場。日本のフェスティバル出演は初めてではなかったが、ここ苗場で拝めることというのはフジロックファンであり、RADIOHEADファンである自分にとってとても特別で楽しみにしていた。
ところが、7月に発表されるタイムテーブルを見て驚愕した。当時、気になっていた日本のインディーズ・バンド、片想いの出演が見事に同時刻スタートで被っていたのだ。グリーンステージのRADIOHEADとタイマンを張る片想い・・・場所は音ももろ被りになるであろう苗場食堂だ。「それは見逃せねーな。よし、長年の思いを片想いというバンドに託すとしよう!」片想いの持ち時間は、30分。それが終わったらグリーンステージに移動すれば、どちらも楽しめるじゃないか、頭いいな、それでいこう!
このような選択に迫られた時、道を脱線していくフジロッカーが後を絶たないというのは苗場ではよく聞く話だ。 当時のレポートにもしたためたが、片想いのライブは予想以上に面白かった。RADIOHEADを見たかったメンバーもいたはずで、そんなメンバーたちがMCでは裏番組感を自覚しつつも、あえて自分たちのステージを選んだ稀有なお客を前に偉いパワーを放っていて、そこで生まれた一体感は見事なものだった。
東京のライブハウスやほかのフェスでも、同じものはもうないだろうというほどの衝撃を受けながら、グリーンステージに向かう。この年は○○地蔵という言葉が流行っていたが、このステージもまさしく地蔵待ちするくらい熱烈なファンで埋め尽くされ、歴史的な瞬間が刻まれているというのに・・・。私の頭の中は、直前に見た片想いの衝撃でいっぱい。同じコースで一緒に見ていた友人も同じく、片想いでいっぱい。RADIOHEADを目の当たりにしながらもその世界になかなか浸れない。演奏が終わったばかりのメンバーが近くに見えて、そっちの方が気になる・・・ああ、どうしよう!
友人とワーキャー喋っているうちにあっという間にグリーンステージのライブも終わってしまった。後悔というよりは、大多数の人が知らない体験ができたという充実した気持ちの方が勝る。そういう楽しみ方をフジロッカーはあの3日間でそれぞれ探しているんだと思う。大物アーティストも若手の新人バンドも、みんなが初めて見るようなバンドも同じ土俵!だからフジロックは恐ろしいのだ。
Text by Hiromi Chibahara
Photo by suguta
「週刊フジ」はフジロッカーズオルグのスタッフがそれぞれの観点で、フジロックへの思いを綴るコラムです。毎週水曜更新!一覧はこちら。