• フジロックの変わった楽しみ方 〜「場外」で遊ぶ人々〜


    ■重要参考人3:Tさん(フジ歴17回、うち場外1回)

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    ─ フジそのものは、どれくらい行ってるんですか?

    97年からだから……16回くらいは普通に行ってるんだよね。皆勤ではないから、何としてでも行かなきゃいけないっていう理由もなくて。でも何でチケットを取らずに駆けつけたのか、って考えた時に大きかったのは、ウィルコ(・ジョンソン)。「外(クリスタル・パレス)でやるの!?」っていうのがあって。結局、入場規制で見られなかったんだけど、「とりあえず行くぞ!」って。

    ─ ガンで、「サヨナラツアー」をした頃ですね。

    そうそう。私はお金を持って行っているけれども、若かったり学生だったりでお金がなくても、フジの雰囲気を感じてみたいって人は、路駐とかはせずに、迷惑をかけない形でフジに向かってみるのもいいんじゃないかな。それは工夫次第だと思うんだけど。フジはいろんなことが起こるから、その雰囲気を知ったなら、「来年は中に入ろう!」って気にもなるじゃない。

    ─ 迷ってても、フジに行ってしまえばそれなりに楽しめるし、当日券があれば中に入れる。物販も買っちゃうし。

    そういうのはあるよね。とりあえず前夜祭は解放されてるし、そのまま居残った、という感じなんだけど。

    ─ 他の人にも話を訊いているんですが、みんな、自分なりに考えてフジに来ているんですよね。そこにはもちろん、勢いみたいなものもある。

    やりようはあるよね。行き帰りは友達と一緒だし。朝にフラをやってたりとかするところあるでしょ。チケットを買ってキャンプをした時にあそこを体験して、完全にゲートの中に入らなくても楽しめるかな、っていうのはあって。

    ─ ピラミッド・ガーデンですね。

    それだ。あと、ピラミッド・ガーデン近くのキャンプ・サイトに、オンダさん(オンダ・バガ)が日本人のスタッフもいない状態で勝手にやって来て演奏していたのよ。それでいいじゃん、って思っちゃった。フジには、なにかしらが転がってるんだなって。それで、実際に外だけでフジを楽しんでみたなら、周りの友達には、「(外だけなのに)一番楽しんでないですか?」って言われて。過ごし方としては、子供を苗場まで連れて行って、ゲートの中に送りだした「保護者」みたいな動きなんだと思うけど(笑)

    ─ アンクルオーウェンとは浅くない間柄だからいろいろ聞いているんですが、オンダ・バガがキャンプサイトに行ったのは本人たちの意思で、スタッフはまったく知りませんでしたからね。それきっかけで外に目を向けたということは、今となっては、近隣で時間を潰すノウハウもあるということですか?

    あるよ。一番面白かったのは貝掛温泉かな。日帰り温泉が、午後の二時までで、周りは、「○○のライヴが始まっちゃう」って言ってるのに、私だけ、「温泉が終わっちゃう」ってやきもきしてて。苗場からは路線バス一本で行けるのよね。

    ─ 路線バスが? 期間中も走っているんですね。

    走ってる。貝掛はさ、「流しそうめん」をやってるのよ。道沿いの看板で見たことない? それがずっと気になってて、「ついでに行ったろー」って行ってみたのね。温泉もいいところよ、建物が旧くて、雰囲気があって。それに、おばあちゃんがね…。

    ─ おばあちゃん?

    老夫婦がお店をやってるのね。フジロックのお客さんもちらほら寄るから、その時だけ営業してるみたいなんだけど、私が行った時には店先で寝てて。せっかく苗場まで来たのに、「おばあちゃんは元気かな?」って、気になる存在で。ちなみに私はひとりで貝掛に行きました。だから「(外を)楽しんでるね」って言われたのよ。

    ─ なるほど、ひとりで。

    むしろ、ゲートをくぐっちゃうと温泉に行けなくなるし、流しそうめんもできない。フジロックの中で「『いつもの』流しそうめんが…」って会話を聞いたこともあるから、行く人はきっと毎年行ってるんだよ。

    ─ 外の楽しみも多分にあるということですね。

    私は中の楽しみを知っているから、「外でも楽しんじゃえ!」ってことができるんだと思う。初めてだったら、そりゃあ中がいいよね。去年はちゃんとチケットを買って中に入りました。平常運転。

    ─ 今回のインタビューも中を知ってるからこそ、というのはあると思います。こちらは実行に移したことがないから、単純に興味があって訊いてます。やってみて、去年はまた中に戻ってきているわけですしね。

    でもね、やっぱりルーキー(・ア・ゴー・ゴー)がパレスにある、っていうのがいいよね。だって、なにも考えずにフラッと来ても、エビ(溺れたエビの検死報告書)みたいなのが出てたりするんだよ。横にいた子らなんて、「半端ねぇ、見てるだけで甲殻類アレルギーが出るほどのエビ!」って言うくらいに盛り上がっちゃってて。ああいう訳のわからないバンドが深い時間の場外で演奏しちゃうっていうのがまたさぁ、フジの魅力だと思うんだよね。

    ─ クレイジーな面はどこかしらにありますね。フジは。

    フジはすでに楽しさを提供してもらう場ではないのかも。自分で楽しさを探す場所になっていると思うのね。私は外に飛び出してみたけど、おばあちゃんが気になりだすのも、フジに参加していなかったら無いわけだし。繋がっているというか、「いろんなきっかけとしてのフジ」っていうのはある。

    ─ 同時期に、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」というのもあるわけですしね。そっちも気になりますよ。

    そうそう。長岡の花火とかね。調べれば、湯沢近くまで行く高速バスとかあるし、いろいろ選択肢があるよね。フジだけじゃなくて、いろんなことに広がっていくと思うのよ。自分でなにかを見つける喜びがあるのが、フジの一番良いところかもしれないよね。


    「ハードルが高い」と言われるフジが、思っているほどそうでもなかったり、様々な面で視野を広げてくれるきっかけとなったりと、語らいの中で生き物のように形を変えるのが面白かった。三者三様の楽しみ方がありつつも、ひとつだけ共通していたのが、「(フジに)参加する」、という表現。これは、狙いでも、演出でもなく、各々が自然と発したものだった。フジが持つ魅力を説明するのは骨が折れるし、自分でもよくわかっているかどうか解らない。だけれども、ただの偶然の一致とは思えないのだ。

    Photos and Text by 西野タイキ

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