• オレンジ・コートを振り返る


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    オレンジに「色」はない

    「オレンジ」という色の名前を冠した主要ステージでありながら、「決まった色のない」ことが特色だったオレンジ・コート。このステージは、フジロックそのものの懐の深さを見せつけていたように思います。名を連ねたアーティストは、ひとクセもふたクセもある強者ばかりで、そのタイムテーブルは例外なく、バラエティに富んだものでした。「奥地」と呼ばれるエリアの筆頭といえるオレンジを通りすがり、浴びてしまった音に足が止まる。音楽世界の広がりをいやおうなしに思い知らされた人もいたはずです。

    例えば、マグマゴングといったプログレ系アーティストや、ゴジラ・放射能・ヒカシューといった面々が複雑怪奇なライヴを繰りひろげたこと。彼らは、奥地の環境を楽しんでいたように思います。多くのアーティストに影響を与えたスパークスもオレンジに出演していました。「アーティスツ・アーティスト」としての影響力を考えればホワイト・ステージでも良かったのかもしれませんが、奥地まで詣でにいくことそのものが似合ってしまうのだから不思議なものです。

    SEUNKUTI&EGYPT09フェラ・クティのバックバンド、「エジプト80」を従えた、「正統後継者」シェウン・クティの全身からほとばしる熱気に鳥肌を覚えた方もいることでしょう。同じアフリカ絡みでは、コンゴの民俗音楽と新進気鋭のアーティストが正面からぶつかり合った、コンゴトロニクスvsロッカーズが。彼らは混じり合わないはずの、「水と油」が融合していくかのような音楽体験を与えてくれました。ソロモン諸島からはるばるやってきたナラシラト(パン・パイパーズ)は、”マウント・フジ”という日本語曲を用意し、大合唱を巻き起こしていました。

    また、チェ・スダカオブリント・パスタルコ、マヌ・チャオの盟友フェルミン・ムグルサとその弟子エスネ・ベルサなど、パチャンガにクンビア、スカ、レゲエ、そして、パンクの要素が渾然一体となっているラテン系ミクスチャー・ロックを紹介してきたプロモーター、ジャポニクスの存在も忘れてはなりません。ちなみに、ジャポニクスはフジロック直前の7月22日(水)に、15周年を記念するイベント『RADICAL MUSIC NETWORK 2015』を開催。フェルミン・ムグルサ、チャランゴ他の出演が決定しています。

    さらには、もはやフジロックの名物レーベルとして認められたアンクルオーウェンにも触れなければならないでしょう。レーヴェンが雨中の練り歩きを敢行し、オンダ・バガは、彼らなりのサプライズ、日本語バージョンの”デイ・ドリーム・ビリーバー”に、”ミスター・フジロック“という銘をつけ、「キヨシロー」へのリスペクトたっぷりに演奏しました。この時、日高大将が気にかけていた「音かぶり」が、おとなりのヘブンで麗蘭(チャボこと、仲井戸麗市)の登場を待っていたオーディエンスを呼び込むという、出来過ぎな偶然もありました。

    king_all_stars_14かたや、「音かぶり」に悪態をついたのが、憂歌団なぎら健壱です。酒が好き、音を鳴らせば空気を一変させてしまう両者の照れ隠しには、多くの人がニンマリしたのではないでしょうか。国内の大物でいえば、加山雄三率いる、ザ・キング・オール・スターズ。贅沢すぎる、まさにオールスターの名にふさわしい面々が、モズライトの響きに導かれる形で、山でありながら海の香りをあたり一面に振りまいていました。若大将の「ノッてるかね?」は、コアなフジロッカーの流行語ともなりましたね。

    忘れてはならないのが、渋さ知らズオーケストラに赤犬。渋さは「ダンドリスト」不破大輔が酔っぱらったように指揮をし、バナナやしゃもじを振りかざす女子にフンドシ&ハッピの熱血漢、スパンコールの踊り子、白塗りの暗黒舞踏家たちが入れ替わり立ち替わり、まるで北斎漫画か、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の百鬼夜行のごときパフォーマンスを繰り広げて度肝を抜きました。赤犬は、メタルにクレズマー、歌謡曲などをチャンポンした音楽性に、親だったら真剣に心配してしまう——オーディエンスとしては抱腹絶倒の——ライヴを行い、見た者にトラウマを植えつけました。面影ラッキーホールが、たまたま遊びに来ていた田口トモロヲをステージにあげて、ばちかぶりの曲を演奏したり……なんてこともありました。

    極めつけは、大友良英スペシャルビッグバンド・フェスティバルFUKUSHIMA!オールスターズ大盆踊り大会でしょう。大会? もうアーティスト名として並べてよいのかどうかといったところですが、オレンジならば通ります。似合ってしまうのです。

    最後に

    今年は、ボードウォーク、あるいはフィールド・オブ・ヘブンから続く道を抜けたらば、どのような光景が広がっているのでしょう。さら地なのか、それとも本来の姿、「サッカーのグラウンド」として、フジロックを横目に誰かしらがボールを蹴っているのでしょうか。それはそれで、すんなり受け入れられる気もしないでもない。だけれども、あそこで体験したライヴの数々は、普段は見られないものばかり。いつもと違う状況を見てなにを想うか、それは実際に当日を迎えてみなければわかりません。

    オレンジのさらに奥からヘリコプターで飛び立って空撮を行った翌年、日高大将は、「ヘリは失敗だったな!」と言い放ちました。その時のように、豪快かつ快活に手のひらをクルっと返し、「オレンジ・コートの廃止は失敗だったな!」と言ってもらえることを期待してやみません。

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    【Fujirock Express オレンジ・コート写真展『Groove & Swing』】

    今年のフジロッカーズのブースでは、例年と同じく、カメラマンが撮ってきた過去のフジロック写真を展示します。その一角で、改めてオレンジ・コートの魅力を伝えるべく、『Groove & Swing』と銘打ち、オレンジ・コートのライヴ写真を展示いたします。是非、足を運んでみてください。



    文 : 西野 太生輝
    写真 : 前田博史, Masami Munekawa, Julen Esteban-Pretel, Koichi Hanafusa, 岡村直昭, 府川展也

     

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