「ホワイトステージ、脅威の音像の謎に迫る!」〜第2回 サウンドエンジニア・佐々木幸生さん サウンドエフェクト・中村宗一郎さん
- 2015/04/12 ● Interview
ノーチェックのアクトで思わぬミラクルを体験したオーディエンスも多いであろう、ホワイトステージ。その音響の良さの謎を探るシリーズ第2弾は、ゆらゆら帝国やOGRE YOU ASSHOLEなど、ホワイト好きのフジロッカーの語り草になっているライブを具現化してきた、サウンドエンジニアの佐々木幸生さんとサウンドエフェクト・中村宗一郎さんが登場。佐々木さんはホワイトのみならず、全ステージのオペレーションを経験しているだけに、まさに”フジロックの音響”を作っている人とも言えるでしょう。そして第7弾発表アーティストであるBOOM BOOM SATELLITESのフジでのステージも手がけてきた辣腕でもあります。今回も舞台裏のエピソードをお訊きしました。
オーバースペックとも言えるサウンドシステムを暴力的にならず、
きっちり鳴らしきるのが醍醐味
─ まず、前回登場いただいたトライオーディオ東さんからの伝言で、佐々木さんの才能に大いに嫉妬していると(笑)。
佐々木・中村 : (爆笑)。
─ 佐々木さんはフジのほぼ全ステージでのミキシングを経験しているんですよね?
佐々木 : はい、主なステージでのミキシングは。で、ホワイトに関しては、たぶん日本のエンジニアの中では一番多くやってると思います(笑)。
─ ホワイトステージってどんな位置づけですか?
佐々木 : ラインナップ的に言うと、グリーンほどメジャーではないけどダンスアクト、HIPHOP系、アブストラクト、ハードコアなど濃いアーティストが多くて、若干アンダーグラウンドな中でもコアな人たちが出る、面白い人たちがいっぱい出る場所ですよね。サウンドシステム(※注1)に関しては、若干、過剰というか、「すーごい音量出るな!」っていう(笑)。
※ 注1 ステージ備え付けの音響機材
─ サウンドシステムがある意味、過剰だということですか?
佐々木 : ある意味オーバースペック(※注2)とも言えるサウンドシステムを暴力的にならず、きっちり鳴らしきるというのがホワイトの醍醐味ですね。暴れ馬を乗りこなす的な(笑)。
※ 注2 求められている仕様以上である状態
─ (笑)。なるほど、その中でも未だに記憶に新しいライブと言えば?
佐々木 : けっこう何回もありますよ。それこそ、ゆらゆら帝国のライブ(2008年)もすごく良かったし、去年のOGRE YOU ASSHOLE(以下、OGRE)ももちろん、THA BLUE HERB(2012年)の時もそうだし。あそこのサウンドシステムをマックスに使えるんで(笑)。
─ 音響の環境としてはどうなんですか?
佐々木 : ホワイトの音響を担当してるトライオーディオ東さんが、割と最近までアナログミキサーに拘ってて。
─ 2013年までですね。
佐々木 : そうですね。最近まで頑張ってたんですけどさすがに去年はヘッドライナーのオーダーもあったんでしょうがデジタル卓に変わって。スピーカーもホワイトは昔から、ファンクションワンってスピーカーで通してきて、また、あれはあれの良さがあって。ちょっとファットな低音というか、低音の量感は厚みがあって、すごくいい感じなんです。ラインアレイ(※注3)では出せない感じですね。それのファンもけっこういたんじゃないかなとは思うんですよね。自分がやるときも、割とダンス系のバンドが多かったり、低域に音が集まることが多かったので、すごく気持ちよくできる、そういうのはありました。
※ 注3 大規模ライブで主流になっている吊り下がったPAスピーカー
─ 私も東さんにファンクションワンのことを伺ってから、ライブハウスのスピーカーを見るようになりました。渋谷WWWもそうですね。
佐々木 : そうですね。ほかは名古屋のダイアモンドホールとか、O-WESTがそうですね。
中村 : DOMMUNEもそうでしたね。
佐々木 : そうですね。どっちかって言うとクラブ系も多いかな。もともとアンダーワールドとか、あの辺のアーティストが使ってて。今はさすがに違うかもしれないですけど。
─ 他の要素はいかがですか?フジの中でもホワイトってどういう場所ですか?
佐々木 : フジはどこに行っても全ステージ、素晴らしいですけど。エンジニアにとってもやりやすいんです。転換時間も割と長くとってあるし、バックステージのクルーがみんなプロフェッショナルで、大体、知り合いで話も早いし。他のフェスに比べると、ホーム的というか。自分の居場所もありますしね。
実は私レッドマーキーの音響を担当していまして本来の持ち場はそこなんですけどね(笑)
─ そうなんですね。中村さんは印象的なステージというと?
中村 : 僕、そんなにやってないんですよ。ゆら帝かOGREだけ。
─ その2バンドがホワイトの印象を強力なものにしてると思うんですが。
佐々木 : 白日夢的な(笑)。
中村 : (笑)。
─ なんなんですかね?今日の取材場所はリキッドルームの上ですけど、ここで見るときもじわじわ下から低音が来て、身体を通って行くような感じがありますけど、野外ではなかなか体験できないことがホワイトでは起こるというのは。
佐々木 : 自分的にはシステムに慣れてるというんですかね。去年も3日間いた中で、初日に高橋幸宏さんのステージをやってて、大体、感触が分かるというか、どこまで行ける、出せるっていうのも分かるんで。そうするともう、OGREをやる時には「ここまで行けるな」って分かってるんで、その中でやり放題っていうか(笑)。現場のスタッフもよく知ってる人達なので割と気軽に乗り込んで行きつつ、本番は気合を入れて。そうできる安心感はりますね。
担当しているバンドがやっていることを100パーセント以上伝えたい
─ いつもは他の場所、ライブハウスなどで担当しているアーティストに対しては、どういうふうに接しているんですか?
佐々木 : OGREの場合、普段からでっかいところでやる感じではないですがやってること自体は変わらない。それはツアーを何回も回って、だいぶかたまってからのあのステージだったんで。いつも通りにやれば、ちゃんとパフォーマンスは発揮できる、こっちは全然問題ないよ的な態度で接してあげればいいんじゃないですかね。
─ 全然マイペースに見えました。
佐々木 : ま、マイペースだったんじゃないですか?(笑)
中村 : あんま変わんないですよね?円陣組んで「やるぞー!」みたいな感じは全然ない。
─ (笑)。初めて見る人も多かったでしょうね。
佐々木 : そうですね。内容はすごくいいんで、どれだけ多くの人に見てもらえるかっていうのもあるし、そこでいいパフォーマンスができれば、また次に話が話を呼んで、人を呼んでくるから、ああいう場所では外せないですよね。「すごかった!」っていうふうに伝わって行けば、さらに次に行けるし。でも、あのバンド自体、いつもそういう場所では人が来るし、そうやって人を集めてきたバンドだから。そこに僕と中村さんが参加して「すごい!」をさらに演出する、みたいな気持ちでしたね。その、「すごい」っていうのは、「このバンドがやってることはこういうことですよ」っていうのを100パーセント以上は伝えたいっていう。
─ より、特徴的に出してらっしゃるのかな?とは思いましたが。
佐々木 : 割とエフェクトとかノイズとかっていうのは、決まったものではなくて、毎回毎回、その場の雰囲気とかタイミングで鳴ってることが多いです。展開がいつも同じなわけじゃないので。大筋は決まってるんですけど、その場に合わせて、カオスになっていったり、引いていったりはありますね。
中村 : なんか変な音出ちゃったってことありますね(笑)。
─ (笑)。そして2012年にはサカナクションがホワイトでフジ初登場を果たしました。
佐々木 : 人、すごかったですよね?「フジでもこんな感じになるんだ?」とか思いましたね。
─ それは他の邦楽フェスで見慣れた風景ということですか?
佐々木 : そんな感じになってました。まぁ、でもバンドはタフなんで。あるバンドにとってはホワイトでやることがすごいハレの場みたいになるし、あるバンドにとってはいつもと変わらない感じなのかもしれない。ただ、自分は極力淡々とやるようにしています。
─ 他のアクトを見る機会はあるんですか?
佐々木 : 面白そうなライブがあれば、もちろん見ます。ただ、自分の持ち場があるので戻らなきゃいけないんですね(笑)。夜間は基本レッドマーキーの音響担当者なので。ホワイトも他のライブまではねぇ…もう自分のやったので精一杯。
─ そんな中での佐々木さん的ベストと言えば?
佐々木 : 毎回、自分の中ではベストなんですけど、2005年のBOOM BOOM SATELLITESで途中から雨が降ってきて、その時のお客さんとの一体感は良かった気がします。あと、ブライアン・イーノ(2001年)が来た時にやらせてもらったんですが、それは割と静寂の中で厳選された音が出てくるというか。自分的には一番アドレナリンが出てたなという。相当気合入ってたんで。たぶん東氏はそれを見て嫉妬したんだと思います。
─ (笑)。イーノはエンジニアは帯同しなかったんですね。
佐々木 : 1ヶ月ぐらい前に当時ホワイトのブッキングを手伝っていたビートインクの知り合いからサウンドエンジニアを連れてこないって話になって。じゃあどうする?日本で誰かいる?で、ちょうど自分のところに話がきて。
─ ライブを頻繁にやるアーティストじゃないですもんね。
佐々木 : そうなんです。その時も事前に録音したものが送られてきたんですけど、特に何の指定もなく好きなようにやってくれって。その時はそういう感じでした。
─ ところで苗場は雨、それも豪雨や雷雨もつきものですが。
佐々木 : 雨ばかりはしょうがない。まぁ、どんなにひどい雨でも音が止まったことはまずないですよね。でもお客さんも雨を除ける場所もないから、中断されてもどうにもできないですからね。こっちも雨がすごくてブースからステージが見えにくいとか、雨の音がすごくてとかはまぁありますけど、雨がいくら降ってもオペレーションできる環境にはなっているので。
─ そこで音が鳴ってなかったら、単に悲惨な状況ですしね。ところで、苗場での開催も今年で17回目ですが、フジロックも変わってきたなと思われることってありますか?
佐々木 : 昔はアーティストもお客さんも一緒になって楽しんでる、フェスと言ってももうちょっとグシャっとしてましたよね。最近はファミリーキャンプが好きな人もいるし、そんなに飲んで暴れる人もいないし。
─ 若干、初期の混沌が懐かしいですね。
佐々木 : ほんとですね。初期にアンダーワールドが来てた頃とかは、バックステージでみんなで酒飲んでたりとか。レッドマーキーだと、アフターパーティ的な要素があったんです。メインアクトで出たあとにダレン・エマーソンがDJするとか、(レッドマーキーに)そういう機能があったので。今は終わったらすぐにホテルに戻りますよね。最近は同じ時期に韓国でもフェスをやってるから、すぐ飛ばないといけなかったりしますからね。ちょっと余裕のあった頃が懐かしいというか。
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