「ホワイトステージ、脅威の音像の謎に迫る!」〜第1回 ㈱トライオーディオ代表 東雅明さん
- 2015/03/22 ● Interview
聴いたこともないバンドに来てほしい。
そこで俺らが仕事するよ、と。
─ ところで東さんが「誰呼んでもいいよ」って言われたらどんなラインナップでやりたいですか?
えーとね…いや、それこそ1回も聴いたことない人で全部ラインナップしたい。ここに発見があるもん。
─ 1回も聴いたことがない人がだんだん減ってきつつありますが。
だから1回も聴いたことがない、来たことがない、でもこれオススメっていうのを誰か教えて、っていう感じ。
─ それをぜひホワイトで見たい、と。
そうそう。そこで俺らが仕事するよ、と。だってシザー・シスターズなんて知らなかったからね。初めてあのライブ見せられて「いやー!」と思ってCD買いに行ったもん(笑)。
─ じゃあ今年も初めて来る人は楽しみですね。
楽しみやね。どんなんが来んのかって。シガー・ロスが来たときは、事前に楽器のリストとか届くんやけど、変わった楽器、「なにこれ?」っていうのがいっぱいあるから、向こうのエンジニアとやりとりしてて、写真とか送ってもらって、もうあまりにも楽しみで「早く来てね」みたいなこと書いてメール送った記憶あるわ(笑)。
─ (笑)。管楽器とかいろいろですか?
いろいろあって。ただ、それこそあの時、「バニラスカイ」(『Untitled4』の4曲目)とかあの辺の曲やられて、ギターをバイオリンの弓でギーってやったときに「うわ、最高や。これめちゃくちゃええやんけ!」って鳥肌立ったん覚えてるわ。
─ 楽器だけじゃなくて、どんな演奏するかも分からないし。
そうそう。ま、ドラム、ギター、ベース、キーボードやったらある程度、想像つくじゃないですか。でもそれ以外に「何、この楽器?」っていうのがあったらもう想像つかへんでしょ。それが「こうくるか…」みたいな、あれは良かったですね。
─ じゃあ見たことのないようなバンドが楽しみですか?
うん。聴いたこともないようなラインナップ、ザーッとしてくれると、みんなが「なんやの?ちょっと行ってみようか」って。それこそYouTubeで調べてみたりとかしてしまうような?ま、今もそうやねんけど、それが望みかな。なんか聴いたことあるバンドが来たら「あれはこうやから」って思ってしまうでしょ?そうやなくて、っていうのが面白いよね。
─ ところで、何年か前からデジタルの卓を使ってらっしゃるんですね。
やっぱ時代の流れに押されちゃいましたね。でもひょっとしたらホワイトやからラインナップ的に「もういっぺん元( アナログ)に戻すか?」って年もあるかもしれへん。
─ でもそれは全部を変えなきゃいけなくなるんですか?
メインのスピーカー変えぇの、ミキサーをデジタルの卓に変えぇの、この二つに対してリクエストが多いから。やねんけど、ひょっとしたらやけど、「今年こういうラインナップやから」って、決めるのはスマッシュのホワイトのラインナップ担当やねんけどね。彼がこういうふうにしたいって言ったのは、「もちろん喜んでやりましょ」って。それを「こっち(アナログ)で行きたいねん」って言われたら、アリやと思うしね。ホワイトやからこそそれはあっても面白いと思うしね。
─ 使ってないと劣化したりするものですか?
や、だって、今、この卓、メンテしようと思って、この前、コンデンサーって中のパーツ7000何個買ってきましたよ。で、これ全部はずして交換して、もう10年使えるようにしようと思って。俺、今、53なんですよ、あと7年は使えるようにしようと思って。引退までは。
─ 還暦で引退予定なんですか?
僕はそう思てる。そのためには7年間使えるようにメンテをしたいと思って。1台で2500個ぐらいあるんですよ。それを交換して、3台分。安くしようと思って中国にパーツ買いに行ったもん(笑)。日本で買うと1個50円のパーツが、1000個で500円。100分の1。
アナログは苺ジュース。デジタルは苺味のジュース
─ デジタルとアナログでアナログの方がいいという理由って何ですか?
というか、アナログをシミュレートしてる音でしかないから、デジタルは。簡単に言うと苺ジュースと苺味のジュースの違い。あれ(デジタルの卓)は苺味のジュースに作れる機械。ただ、あっちは種の粒まで作らなあかん。それで、やっと本物に近い。こっちは元から入ってる、苺ジュースだから。
─ 粒的なものを作らないといけないわけですね、デジタルは。
そう。でもデジタルは魔法なんですね、僕から言わすと。余談やねんけど、音響と映像とあるじゃないですか。映像とか照明はね、デジタルじゃないとできないことがある。例えば鉄砲の弾がクルクルまわりながら頬をかすめていくっていうのをアナログで撮ったら何人死ぬか分からない。でしょ?でもその魔法みたいなことをできたのがデジタル。照明って指1000本いることを1本の指でできるように使ってる、デジタルを。でも音響のデジタルって今日、「今年これですよ」って、これしか(デジタル)使えない人がアナログ使えないか?っていうと使えるんですよ。デジタルを普段使ってる人でも「今年はこれやから」「あ、いいねいいね」って言いながら使うん。でもアナログしか使えない人はいっぱいおる。でもデジタルしか使えない人も当然出てくるけど、その人でもアナログを使える。なんでかっていうとアナログの方がベーシックやから。基本に忠実なものやから。そういう良さがある。
─ デジタルで勉強したことはアナログにも?
置き換えることができるから。デジタルは「メモリーをする」っていうことができる。アナログは一個一個ツマミが違うから、全部こうやってメモっていかなあかん。そしたらこれ40フレームあるでしょ?で、ツマミが30ぐらいあるんです。そしたら40×30のツマミ全部メモらなあかん。それを向こう(デジタル)はボタン一つでできる。でも、ボタン一つでできたからって舞台上、できてないんですよ。入れ替わらないでしょ?バンドはアナログやから。それやってるあいだにツマミで調整したらええやんと僕は思うんやね。
─ そうですね。一個一個の音を変えられるわけだから。
そう。今までどおりやったらええやんっていうのがあって。すごいしょうもないたとえやけど、「ハリーポッター」の映画の「アズカバンの囚人」ってあるでしょ。あれ最初の方に3階建バスが出てきてパブに入って、入った瞬間のシーンでコーヒー飲んでる人がいるんですよ。その人のコーヒーの中にコーヒースプーンが入ってて、それを魔法で動かしてるねん。こう指に合わせてスプーンが動いてるんです。その程度の魔法なんです、音響の魔法は。映像とかはその後のシーンとかで、メイドさんがひゅっとやったらイスが全部片付いたりね、そういう魔法に近いことを映像はやってるけど、音響の魔法ってコーヒーカップ、こうやって混ぜてる人ぐらいの程度しかない。「(スプーン)持ったらええやんけ!」と思う程度ぐらいしかまだない。なんでか?って言ったら、素材が、相手が人間やから。アナログやからここ(脳)にコネクター差すわけにいかんから。
─ なるほど。結局、デジタルでは30×40=1200の音を全部バラすことができないんだったら、アナログの方がよっぽど痒いところに手が届くじゃないかと?
だし、全部ツマミはここに出てるしね。あっちはページめくってって、シーン変えなアカンから。
─ 好き嫌いはあるかもしれないですけど、アナログは人間の直接的な感覚に近いってことですね。
そう思う。だってここからスタートしてんねんもん。デジタルは確かに進化やと思うし、音も昔に比べてどんどん良くなってきてるし、操作的にもみんな慣れてきてるけど、慣れないとできなかった。で、もうね、このまんまこれ(デジタル)がOKになったら、5つ星レストランの厨房、全部、電子レンジでもよくなるんちゃうかなと思って。なんか人の手間分の価値観がどんどんなくなってきてる感じはする。だって、5つ星レストランの厨房覗いて、全部、電子レンジやったら腹立つでしょ?
─ 確かにそうですね。では、何が決まってるということはないですけど、今年のフジロックの楽しみというと?
それこそさっき言うたようにアーティストは関係ないのよ、と。それより初めて聴くバンドとかがあったら、もうどんどん見に行ってほしいよねと思うし。作る側の人間としては「信じて来てよ!」と。「絶対お腹いっぱいにして帰してあげるわ」って。「ここのメニューで一番美味しいのはおまかせ定食やねん」っていうね。そういうイベントやと思ってるから、キャスティングがどうのこうのじゃなくてどんどん来てほしいなと思う。
─ むしろ知らないバンド/アーティストでその美味しさを味わえると。
そう。それ味わえるとに宝物見つけたような気分になるじゃないですか。それが大事やなと思う。
─ あとはその橋渡ってホワイトが見えた時に音がいいということを確認したいです(笑)。
「渋滞困るんですよね」って言われて、でもそれどうにもならへんと思ってたけど「あっ!そうか」と思って、「僕が解消してみましょう」ってちょっと偉そうなこと言うて、やってはみた。
─ でも音で解消できることがあるってことですよね。
うん。今はできてるかどうかわからへんけどね。あの時は確かに減ったような気がしてる。そう信じたいみたいなね(笑)。普通に考えて、歩いてきて「遠いな、遠いな」、で、だんだん音が近づいてきて、ある程度、鮮明に聴こえてきてて、ぱっとステージが見えた時、おおっ!と思ってちょっと足早くなるでしょ?それやったら渋滞は解消できると思う。それがなんか音が遠くて、こもった音してたら、「まだ遠いな」と思って歩くじゃないですか。心理的なもんやと思う。ちょっと前につんのめるような感じになると思います。
─ ホワイトはしかも最大の通り道でもあるという。
道すがら「あ、ええやん!」っていうのがあったらええなと。なんせ僕ら作る側は……スマッシュが作ってるんやけど、僕らもその中の一員やと思ってるし、それならお客さんにほんまに満足して帰ってもらいたいっていうのがね、すごいあるから。それをいかに提供できるか?やし。別に俺らが演奏するわけじゃないし、バンドが不自由ないようにこっちも用意してあげるし、こんだけのもんやるから、ええの作って帰ってね!ってするのが僕らの仕事。
─ シガー・ロスのメンバーからは何か感想はあったんですかね?
やー、どうやろね?普通にやって普通に帰ったと思う。でもそれ一番大事で。なんかやりにくかったとか、ちょっときつかったっていうんじゃなくて「気持よく帰ったよ」って言われるのが一番の褒め言葉やし。「どうやった?」って聞いて「うん。全然普通」。これはほんまの褒め言葉やと思う。いつものようなパフォーマンスができたっていうことやから。これね、ミキシングの仕事してるでしょ。すると何かが出すぎててもダメなんですよ。美味しい料理って塩味が出すぎてもなく、カツオ風味が出すぎるわけでもなく、そのミックス・バランスがすごくいいから美味しいと言われるわけじゃないですか。「どうやった?」って聞かれて「美味しい」の一言しかないっていうのはある意味ほんとに良くて。「塩味が効いてた」っていうのはある意味まちがいやったんちゃうかな?と僕は思ってるから。だからバンドマンが「うん、よかった」、その一言でええと思う。
─ そうですね。ホワイトのお任せ定食最高やったわ、と。
そうそう。というかフジロックのお任せ定食です。もしかしたらめっちゃ良かったライブが木道亭かもしれんしね。それでもいい。なんせあそこにはそういう魔法が落ちてるわ、っていう感じ。って僕は感じてるし、来る人にはそれを感じてほしいし、それを作る側の一員として働かせてもらえるっていうのはラッキーやなぁと思ってる。
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「ホワイトの音の良さ」の科学的根拠という謎はあまり解けなかったのですが、「どんなバンドが来ても、俺らが上手く料理する」という東さんのフジロックが楽してしょうがない!という姿勢とプロの矜持に、がぜんエンジンがかけられた気分です。ぜひ、ホワイト到着時の音像を確認してみてくださいね、ちょっと足早になってるかもしれませんよ。
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文:石角友香
インタビュー写真:森空
ライブ写真:fujirockers.org
「ファンクション・ワン」写真:㈱トライオーディオ提供