• 佐野元春インタビュー:満を持してのフジロック初出演は30年前の自分に向き合った真剣勝負。


    フジロッカーのみなさん、そろそろ開催当日のスケジュールが気になるころですね。お目当てのアーティストの演奏を見る以外に、普段は聞く機会のなかった音楽に刺激を受ける可能性がフジロックには大いにあります。

    7/25(金)グリーンステージに初出演が決まっている、佐野元春。彼は、ニューヨーク在住時代の30年以上も前に発表したアルバム『VISITORS』の完全再現のステージを予告しています。ジャズ、フォーク、ロックにヒップホップなど、音楽のるつぼともいえるニューヨークの街で受けた刺激が形となったこの作品が、たくさんの音楽ジャンルのステージが繰り広げられるフジロックで今年、私たちにどのように響いていくのでしょうか。

    先日発行されたばかりのFESTIVAL ECHO’14でのインタビューを、『LJ』編集長の菊池崇氏に再構成していただきました。

    sanomotoharu_2014

    1980年に「アンジェリーナ」でデビューして以来、ラップやスポークンワードまで、さまざまな手法で言葉を音楽に乗せてきたロックミュージシャン。「SOMEDAY」などのヒットナンバーをリリースする一方で、原発問題をテーマにした「警告どおり計画どおり」を発表するなど、音楽の持つ可能性を追い求めてきた。そんな佐野元春さんの30年を超える活動のなかで最高傑作のひとつと言われているのがニューヨークのヒップホップシーンの胎動を伝えた『VISITORS』だ。フジロックにはじめて出演する佐野元春さんが、フジロックのステージに選んだのは、その『VISITORS』の完全再現ライブ。佐野元春さんにとっても、これが初のチャレンジになる。

    ─ フジロックに対して、どんなイメージを持っていらっしゃいますか。

    佐野 87年に昨年映画にもなったビートチャイルドが行なわれました。その後ビートチャイルドに続くロックフェスが、なかなか現れませんでした。フジロックがはじまったことによって、本格的な野外ロックフェスが日本でも行なわれるようになったんだな、という感覚を持ちました。

    ─ そして今年、そのステージにはじめて立ちます。

    佐野 何度かオファーはあったんですけどね。バンドメンバーにスケジュールが合わなかったこともあったりで、なかなか実現できませんでした。フジロックには、いろんな音楽文化が混在している。普段、耳にしない音楽表現に触れることによって、自分が新しい刺激を受ける可能性がある。人々がどの音楽に反応するかも自由。自由な雰囲気が僕は好きで、それがフェスの本来の姿だと思っています。

    ─ 佐野さんは80年代初頭にニューヨークに住んでいました。当時のニューヨークにはさまざまな文化が集まっていたように思います。

    佐野 当時のマンハッタンは、白人よりも、外から来たいわゆる「VISITORS」が文化を牽引していました。黒人、プエルトリカン、中南米やアフリカのミュージシャンたち。ダウンタウンのライブハウスでは、さまざまな文化をバックボーンに持つミュージシャンがセッションして、想いもよらないグルーブが生まれていた。音楽とは、ひとつの形に留まるものではなくて、違う文化が折衝することによって形を自由に変えていくもの。音楽とはそういうものなんだということを目撃した。それが今の僕の音楽の基礎になっています。

    ─ そのさまざまな音楽の折衝のなかから、ヒップホップが生まれていきました。

    佐野 1984年はその黎明期でしたね。50年代のジャズ、60年代のフォークやR&B、70年代のポップやロック。そして80年代のヒップホップ。さまざまな音楽様式が、メルティングポット状態で、あの街には当たり前のように存在している。そしてそれらは常に混じり合っている。音楽だけではなく、文学もアートも。

    ─ いろんなものが混在しているという意味では、フェスも同じような存在かもしれません。

    佐野 僕がクールじゃないなと思ったのは、村祭りのように、みんなが集まってただ踊って楽しく過ごせばいいやという意識。それぞれのバンドやミュージシャンが持っている音楽性をそれぞれが披露しあって、それぞれが讃え合って、音楽っていいな、素晴らしいなと歓びを感じられるようなフェスが、本物のフェスだと思っています。

    ─ 個々のミュージシャンが、フェスにどう向き合い、フェスでどういう表現をするのか。佐野さん自身も自分にそれを課しているわけですね。

    佐野 フジロックは、自分にとっては絵画で言えば白いキャンバスみたいなものなんです。どの絵の具を使って、どういう表現をするのか。その意味で、ひとつのテーマを自分のなかに設けています。

    ─ そのテーマというのは?

    佐野 今年は『VISITORS』というアルバムがリリースされて30年になります。当時、ストリートレベルでヒップホップが炸裂していた。僕と同じくらいの年格好の連中が世界中からマンハッタンに集って、自分たちの文化を使って、ヒップホップを表現していた。僕も東アジアから来たひとりのミュージシャンとして、日本語を使ったヒップホップの音楽を試していた。それまでの日本にはない革新的な音楽というテーマで、ニューヨークで暮らすなかで作ったアルバムが『VISITORS』です。フジロックでは『VISITORS』をまるごと再現しようと思っています。同じアレンジ同じ曲順で。

    ─ 『VISITORS』完全再現ライブははじめてのことですか。

    佐野 はい。フジロックで自分のベストオブをやってもしょうがない。自分にとってエポックとなった『VISITORS』を、今の自分が再現するということに意味を感じています。しかしそれは、昔のアルバムをノスタルジーな気分でやるんだろうというのとはまったく違う。30年前の音楽が、現在にもなり響くんだということを証明できるとしたら、そこに音楽の喜びがあるんじゃないかと思います。

    ─ 『VISITORS』完全再現ライブをやろうと思ったきっかけは何だったのですか。

    佐野 過去に作った作品をじっくり聞くことも少ないのだけど。ずっと探していたんだけど、『VISITORS』のアナログで録音されたマルチテープを発見して聞き直してみた。そこには27歳の僕がそこにいるかのように聞こえてきた。アナログテープに録音された音というのは非常にリアルなんですね。当時のマンハッタンのスタジオの空気感までもがレコードされているかのような音で迫ってきて、非常にインパクトがありました。そしてこれをもう一度、今のバンドでやってみたいという気持ちが高まってきて。フジロックという舞台で表現できるのなら不足はないだろうと。

    ─ 音楽は決して古くなるものではないですし。

    佐野 よい音楽はノスタルジーに留まっていない。いつも新しい時代に機能する。我々ミュージシャンが、ライブをもっとも大切な表現の場としているのはそこです。過去に作った音楽が、今の時代に鳴り響くかどうかという検証をライブを通じて行っている。ノスタルジーになった途端に、自分の音楽は死ぬんだという警鐘を常に自分に鳴らしている。ビートがあり、ハーモニーがあり、言葉があり、それを作った人たちの身体的なパフォーマンスがある。そしてメッセージがそこに立ち上がる。強力な表現があり、完全に自由な場。それがロックフェスなんだと思っています。僕もバンドも、フジロックで演奏できることをすごく楽しみにしています。

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