• スマッシュ代表・日高正博インタビュー 


    大変長らくお待たせしました!遅ればせながら、スマッシュ代表・日高正博インタビューの公開です。すべてのアーティストが発表されてしばらくが経ち、あとはフジロックを待つだけとなってはいませんか?例年以上の突飛なアイデアをはじめとして、ウィルコ・ジョンソンとの心あたたまるやりとりやビョーク単独のあれやこれやにいたるまで盛りだくさんな内容です。読めばふたたびザワザワとなってくるはず。まずは2013年度のたくらみからどうぞ!


    お客さんがなにかを見つけてくれれば、俺は嬉しい

    ―まずは「バスカー・ストップ」という新ステージについて。アナウンスこそされていませんでしたが、去年もストーンド・サークルとカフェ・ド・パリの間にありましたよね。

    あったね。今年は正式なステージに格上げだよ。「バスカー」ってのは地下鉄や路上でギターケースを開けて演奏するような、ストリートミュージシャンや大道芸人のこと。バスカー・ストップはアコースティックがメインの簡単なステージになるんだけど、出演できるのは名前が出ている人たち(アーティスト)だけじゃないんだよ。受付を用意してあるから、たとえお客さんであっても空き時間に「やらせてくれ!」と伝えれば演奏できる。ただ、やるからには下手だったらちょっとな。総スカンを喰らったり、ブーイングを浴びせられたりするかもしれないけどね。

    ―誰にでもチャンスがあるステージとは面白いですね。

    ビートたけしの言葉で面白いのがあるんだよ。それは漫才についてだったけれども「1年間ずっと稽古をした人間と、10日間ずっと舞台に立った人間ではどちらが面白いか?」っていう質問があってね、彼は「10日間舞台に立った人間だ」と言い切った。当然だよな、短い期間でも一発勝負をした人間は強いよ。皆が見ている前でパフォーマンスをやることは勇気がいることだし、お客さんがそれをやってくれたら俺としても嬉しい。

    ―2008年のインタビューでは、「ステージを作りたいけれども、もう場所が無い」とおっしゃっていましたね。それからピラミッド・ガーデンができて、今年はバスカー・ストップができた。今後も増えていくのでしょうか?

    今年はないな。

    ―今年「は」ですか?

    思いついたんだけど「時すでに遅し」でさ、俺の中ではもうコンセプトもできてるんだよ。ステージの名前やバンドも決まってるんだけどな。ただ、本当に場所がね…。奥は特に他のステージと干渉しあうからスタッフとも話をしなきゃいかんし。ストーンド・サークルやカフェ・ド・パリもだけど、最初は誰もこないわけだよ。でも、だんだんと評判になって、去年より今年、また次の年…って足を向けるようになるんだよね。ピラミッド・ガーデンなんて(場内からは)もの凄く遠いんだけども、だからこそやりがいがある。そこでお客さんがなにかを見つけてくれれば、俺は嬉しいんだよ。今年もいろいろ考えてるよ。ハードルが高くて実現できるかどうかわからないんだけれども、ピラミッド・ガーデンをプロデュースしているキャンドル・ジュンには「サウナを作れ!」と言った。

    ―サウナ、ですか!?

    どう考えても大変だよな!「どうやってやるんですか?」って言うから「だから、石とか炊いて」って。言ってはみたものの、実際にできるかどうかわからないし、悩みまくってる。「サウナバス」っていうプレハブみたいなものもあるんだけど、そんなものを苗場に持ってきたって面白くもなんともないだろ?見た目にも美しいものを作りたいからね。ピラミッド・ガーデンの工事に入る時に、実現するかどうかがはっきりわかるんじゃないかな。お客さんにとっては苗場に来てからの楽しみになるかもしれない。

    ―それは楽しみですね!そういえばだんだんとキッズランドが拡張されて子供がひとりでも楽しめる環境が整ってきましたね。

    キッズランドは特にスタッフがやる気だね。一昨年くらいからかな、ログハウス・ビルダーが参加したり、山を切り開いたりしてな。次は谷を作ってターザンごっこをするしかないよね。子どもが自由になれる遊び場を大人がみつけて、作っているところだと思うよ。

    ―「作っている」といえばボードウォークの存在もフジロックには欠かせません。

    ボードウォークは基本的に修理だよね。そういえば苗場食堂が少しだけ変わるんだよ。ステージの左側(正面からは右側となる)が谷になってて、ずっと何とかしたかったんだよね。あそこの地面にはカタクリの芽があって、対策を施したらその芽を潰すことになるから抵抗があったんだよ。かわりに木の板でステージを広げて、お客さんのところまで伸ばすことにした。もちろんお客さんが落ちないように冊を立てたりしてね。苗場食堂で思い出したけど、今年は提灯を作るよ。

    ―苗場食堂のオリジナル提灯ですか?

    そう、これが高いんだよ!いくらだと思う?

    ―まったく見当がつかないですね、千円ほどですか?

    ひとつ五千円なんだよ!昔ながらの油紙と竹の骨で作る提灯はそれくらいするんだよ。もっと安いやつにしたけれども、苗場食堂で限定数だけ売り出されることになる。そもそもなんで作るかといえば、お客さんに買ってもらって歩いて欲しい、というのがある。フジロック開催中はトーチとして使えて、終わったら土産になるようなものだね。丁寧に持って帰れば、朝霧でもどこでも使えるよ。ロウソクも一日や二日くらいもつような寿命の長いものにしようと思ってる。

    ウィルコ・ジョンソンとのやりとり

    ―なるほど。それではアーティストの話に移りましょう。まず、ウィルコ・ジョンソンの復活から聞きたいなと。

    ウィルコと俺は30年くらいの仲でね、もう家族と言ってもいいくらい。去年の終わりにガンが見つかったのはみんなも知ってるよね。その前の朝霧で「じゃあ来年な!」って言って別れたんだよ。そのこともあって…年明けごろかな、フジロックでのライヴも考えはじめてね。そんな時に突然ウィルコから「日本に行きたい」という連絡があって、1月の終わりに来たんだよ。彼としては「日本は第二の故郷」というのがあるんだろうな。

    ウィルコはいっさいのガン治療を受けないんだけども、一緒に食事したときに「あ、投げやりになってるな」とも思ったんだよ。あんまり酒を飲まないんだけど、ウイスキーを飲むようになっていたりしてな。もちろんライヴの時には飲まないんだけども。

    ―そんな裏話があったんですね。

    そう。青山のレッド・シューズでライヴをやった時に「もう会えないかな…」とも思ったんだよね。だから俺は「4月か5月ごろにイギリスのお前ん家まで行くよ」って言って、1月は別れたの。そしたら4月か、突然「京都に行きたい」って日本に来たのよ。それで俺も京都に行って、馴染みの店に連れて行って食事をして…その時にウィルコにはひと月やふた月ほど先の「目的」が必要だと思った。だから、とりあえず温泉に誘った。彼は何回も来日しているのに、温泉に行ったことなかったんだよ。さらに「6月は温泉だろ、その次はフジロック」って言ったら「えーっ!」って驚いてた。「やるだろ?」って言ったら「うん、やるやる!」ってな。

    ―いい話ですね。

    ただ、「発表はしないでくれ」って。というのも、イギリスやヨーロッパからのオファーが多いんだって。5月の段階でフジロックに出るという発表があれば、他のフェスからもオファーが来るから。じゃあ、ってことで7月のあたまに発表ということになった。今月の終わりには来日するんだから、その時にまた、少しだけ先のことを考える。あまり先の目標となると難しいからね。

    さっきも言ったけど、ウィルコにはベンジャミン(・テホヴァル)という友達がいてね、今年のバスカー・ストップにも出る。ギターにハープ、足下にはドラムを置いて「ひとりバンド」をやる人なんだけど、ウィルコがどこかへ行くときは彼がいつも一緒なんだよ。去年の朝霧も、1月も、4月にも一緒に来たよ。6月の温泉にも来て、一緒に苗場のグリーンスター(宿)でジャムをやったんだよ。ウィルコがギターで、俺がハープを吹いて、ベンジャミンが合わせてね。ウィルコにはね、とにかく目的意識を持ってもらいたい。目的があれば乗り越えられることもあるからね。

    金曜の朝一番に「起きろー!」

    ―今年は「ルート17ロックンロール・オーケストラ」というアクトが初日グリーンの朝イチに追加されましたね。これについて教えてください。

    これは話さないといかんよな。実は、会場が苗場に移ってからずっと考えていたアイデアなんだよ。本当は地元(苗場、湯沢)のバンドが欲しかったんだけれども、実際にフジロックのメインステージに出られるようなバンドがなくて行き詰まっていたんだよ。でも今回は池畑(潤二。ザ・ルースターズ、苗場音楽突撃隊のドラム)に編成や音の感じを伝えることで実現できた。編成は名前の通りオーケストラで、音は「パンキーなロックでファンキー」でいきたいと。

    ―パンキーなロックでファンキーに…凄そうだ。

    ファンキーっていうのは「土臭い」っていう意味で、リズム&ブルーズだよね。カバー曲中心だけど「パンキー」だから速い。要するに、金曜の朝一番に「起きろー!」っていう感じだよな。俺が指定した曲は一曲目と最後の曲だけで、それぞれのアレンジも伝えてある。そこにいろんなゲストが入ってきて、最後にはちゃんと落としどころを用意している。これは是非見にきてくれ!

    ―楽しみですね!名前はひょっとして…?

    苗場を貫くのが「国道17号線」だから、それで行こうって。「ルート66」っていう曲もあるしさ。実は「初日のメインステージの始まりを誰にするか」というのが一番気をつかうんだよ。それは97年の天神山のときから変わらない。もちろんヘッドライナーも気にするけれどもね。

    ―この「ルート17ロックンロール・オーケストラ」は今後も続いていきそうですね。

    ゲストシンガーは変わると思うけど、毎年金曜日の朝一番にやるよ。

    ヘッドライナーにまつわる裏話あれこれ

    ―ヘッドライナーですが、ナイン・インチ・ネイルズはフジがワールドツアーの幕開けとなります。

    ナイン・インチ・ネイルズは「是非ともフジロックで」という形で話がきた。ビョークもそうだった。キュアーは前回のフジロックの感触が相当よかったのか、特にオファーが凄かったね。「2時間やっていいか?」とか言われて「もう日曜の夜だから好きにやってくれ」って言って。どのくらいやるかわからないけど、とりあえずクロージング・アクトは外したんだよ(笑)

    ―ふふふ、2時間と言われるとそうなりますよね。マムフォード&サンズはイギリスやアメリカではヘッドライナー級ですが、フジロックでは控えめな位置づけとなっていますね。

    世界中どこでもヘッドライナーになれるバンドだけども、日本ではどうしてもそうなるね。俺も売れてない頃から好きなバンドで、単独での来日はもちろんだけれど、フジロックや朝霧も含めて2年ぐらいずっと話をしてたんだよ。とにかくツアーをするバンドだから、今までスケジュールが合わなかったんだけれども、今回は向こうがフジロックに合わせてくれたことで実現したんだよ。マムフォードからヴァンパイア・ウィークエンド、そしてキュアーっていう流れは面白いと思うよ。

    ―ヘッドライナーのビョークは単独も発表されましたが、いろんな意味で度肝を抜かれました。そうそう話が聞けるものでもないので、単独とフェスでの違いなど少しだけ教えてください。あと値段設定のことも…よければですが。

    彼女はただ詞や曲を書いて歌うだけじゃなくて、アーティストでありクリエイターでもあるんだよな。服はこれで、照明はこれで…と、全ての面で自分の世界を表現するという人だからね。単独は一昨年くらいに話が持ち上がっていたんだけれども、とにかく彼女の世界に合うような会場探しが中心だった。小さいところをあっちこっち見て、最終的に「みらい館」になった。そこのマネージャーの人はビョークを知らなかったんだけれど、マンチェスターまでショウを見に行ったらもの凄い気にいったみたいで「是非とも協力したい」って言ってくれたんだよ。

    ―そんなことがあったんですね。

    ヘッドライナーで来るアーティストの単独が発表されるなんてことは、通常ならあり得ないんだよな。ただ、ビョークは違う。フェスと単独では明らかに違った世界が表れるからね。決定して最も悩んだのは…やっぱりチケットの値段だよね(笑)

    ―おっ!

    説明すると、ビョークのバンドだけでも30人くらいいて、照明や音響や仕掛けとかすべてがもの凄いんだよ。それをさ、800人しか入らないところでやるっていうことは、はっきり言って彼女にとっても俺らにとっても一円のお金にもならないんだよ。そんな中でどうやってチケットの金額が出てきたかって言うと、簡単なことだよ、日本に滞在する一週間にかかる経費をキャパシティで割った。そうすると、どうしても二万二千円になるんだよ。あの金額は俺にとってもありえない数字だから…今でも抵抗はあるよな。言いたかったことなんだよ、これは!

    ―なるほど、ありがとうございます。そのビョークの後には、二日目のスペシャルゲスト枠がありますが、過去のインタビューにおいてクリス・カニンガムが最初で最後と仰っていましたよね。

    これはビョークとずっと話していたこと。ヘッドライナーには、ある程度アーティストを決める権利があるわけよ。彼女の前は、違うアーティストで話していたんだけれどもスケジュール的にダメになった…ブライアン・イーノね。

    ―おお…。

    そしたら、アンダーワールドのカール(・ハイド)に新しい動きがあるってことで、ビョークに伝えてみたら「それは嬉しい」ってことで決定した。そこからまた「ビョークの後をどうやって締めようか?」って話になったんだよ。というのもビョークの出番はヘッドライナーにしてはちょっと早いんだよな。彼女としては最後をDJで締めたいというのがあって、誰でいくか揉めたよ。

    ―カール・ハイドからバトンを受けて、フィード・ミーへと繋げる流れをビョーク自身が望んだということなのですね。出演者すべてがお勧めだとは思いますが、最後に、日高さんの中で思い出深いアーティストを教えていただけたらなと。

    ザ・バンドのガース・ハドソンというキーボード奏者かな。最初に来日した時にうち(smash)でプロモートしていてね、バンドのメンバーが国に帰って、ガースは残ってミックスしていたんだよね。俺はその場に立ち会っててさ…もう宇宙のどこかにいるかのような面白い人だよ。彼はその時のことをいちいち覚えちゃいないだろうな、とは思うんだけれど。

    あとはそうだね…ブリンズリー・フォードは見てもらいたい。彼がいたアズワドは70年代終わりから80年代にかけてのイギリスで、パンクとレゲエが一緒くたになっていた時代の代表的バンドだった。「ブリティッシュ・レゲエ」とも言われているね。この間、新しいアルバムも聞いて、これがいいんだよ。ホーンも連れてくるから10人くらいの編成になるのかな、オススメだね。

    ―ありがとうございました。

    写真:藤井大輔
    執筆:西野太生輝

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