特別な一瞬を切り撮るために〜株式会社ニコンインタビュー
- 2013/07/16 ● Interview
毎年、フジロック開催期間中の速報をバシバシとお伝えしているフジロック・エキスプレスですが、そこでやはり多く目にすることになるのは、大量にアップされるインパクトある写真の数々。
それらを生み出すのに必要なのはやはりカメラとレンズ(とその他諸々)であり、その業界ではニコンという会社を知らない人はいないんじゃないかと思います。
そして、そんなニコンとフジロックとは、実は密接な関係にあるってご存じでした?
今回は有楽町にある株式会社ニコン本社にお邪魔し、会社に関わる全般を把握されているブランドマネージャーさんに直接お話を伺ってきました。
なぜ、フジロックなのか
―そもそも、フジロックに関わるようになったキッカケは、なんだったのですか?
弊社はニューヨークにも拠点があるのですが、そこで現地の音楽フェスティバルに協賛などで参加することによって、色んな面で良い効果がでているという話を聞いたんです。若い人に限らず、多くの人たちとの音楽を通したコミュニケーションの手段として音楽フェスティバルをグローバルに考えた場合、他にはたとえばグラストンベリーや日本の場合はフジロックがあるな、と思ったんです。ニコン社員はもちろん映像が好きな人間が多いのですが、同時に音楽が好きな人間も多くてですね。そんなニコンが音楽イベントと組むことによって「音楽と映像の親和性」の観点から何かできるんじゃないかと思ったのが、そもそものキッカケです。
―国内には他にも色んなフェスティバルがありますが、そこで、なぜフジロックなのでしょう?
日本の音楽フェスティバルで関わっているのはフジロックだけなのですが、やはり世界一クリーンな音楽フェスティバルという理由が一番大きかったですね。また、当日会場ではベビーカーを多く見かけるように、まさに「3世代で楽しめる」かのような空気や愛され方などが、95年を超える歴史のある長寿ブランドとしてのニコンと通じるものがあるのではないかと思ったんです。親子で楽しめるフェスティバルも、おじいさんから孫に受け継がれるカメラも、世代を超えた「体験」としての共通項が見いだせるんですよ。
―具体的に、いつからフジロックに?
2010年からですね。フジロック会場にニコンのカメラを持ったカメラマンを何名も派遣し、来場者の皆さんの楽しんでいる景色などを撮影しました。翌年の2011年には震災があり、ニコンとしても仙台の工場が被災するなどあったので、多くの人に写真を通じて会場の「笑顔」を世界に届けようと、その年はそれをテーマに活動しました。それらはWEBを通じて公開していったのですが、お客さんにはいつも喜んで撮影に応じていただけていますね。そういった会場・現場での写真の共有感・ライブ感なんかは、ただ会社としてカメラのカタログを作っているだけでは分からない、伝わらないものがあるんです。なのでフェスに音楽がある空間、フェスにカメラがある空間、いわゆる「空間共有」をメーカーとしても価値をとても感じていますね。
そして毎年同じように写真を撮るだけではなく、その時々の新しいカメラを使っての表現もしています。2012年にはミラーレスカメラのNIKON 1 を使ってプチ動画的なものを撮ってみたりとか。それはモーションスナップショットという2.3秒の動画を撮るための機能なんですが、人が笑顔になる瞬間や、ジャンプしたりする瞬間を残したりして。ですが、技術的には新しい機能を取り入れつつも、会場に来ている「人」にフォーカスを当てているのは変わりませんね。
―フジロックスタッフに機材の貸し出し等も行っていますが(1年あたりカメラ本体30台、レンズ50本以上という貸し出し実績も)
まずビジネス的な観点として、フジロック会場の雨や風など過酷な環境にも耐えうる、ニコン製品の耐久性を是非とも現場で感じてほしいという目的があります。また、私たちのキーワードとして「特別な一瞬」というのがあるんです。全ての人に訪れる「特別な一瞬」それを雨や風、その他環境を理由にあきらめるのではなく、逃さず確実に捉えられるように私たちの機材を提供しています。
―ニコンのカメラは、耐久性では評価が高いですよね。フジロッカーズ・オルグのスタッフに、汚れたカメラを水道水で丸洗いしても平気だったというエピソードがあり…(笑)
そうですね(笑)Nikonのカメラは特にプロカメラマンから、堅牢性を大変にご評価をいただいていますし、それを成し遂げるための様々なテストを入念におこなってから製品化されています。完全防水をうたっている訳ではないのですが、悪条件でも作業が継続できるという声も。ロバート・キャパの戦場写真など、ニコンが有名になったひとつのキッカケで、そのような過酷な環境下でニコンのカメラだけが最後まで動いていたという話もあります。極寒の地やエベレストなどの非日常な環境でもそうですし、それこそNASAに採用されて宇宙まで行ったカメラを作ったメーカーとしても、実績がありますから、強靱性や堅牢性でユーザーの期待は裏切りません。
―先ほどのモーションスナップショットだけでなく、フェスの会場においてニコンのカメラならではの強みや特徴というのは、他に何かありますか?
やはり高感度、高精細というところですね。花火のある前夜祭もそうですし、夜にメインイベントが多いと思いますので、暗い場所でも撮ることができるというのは強みかなと思っています。
そして、ニコンはもともとはレンズで始まったメーカーなので、その圧倒的な描写力にも自信があります。デジタルの時代になって、センサーは時代に応じて画素数がどんどん上がってきていますが、やはりレンズに関しては光学的なものなので、職人芸がより活きる世界なんです。
いくらコンピューターが発達しても、いまだにレンズの大事な部分の研磨は手作業。製造している全てのレンズというわけではないのですが、高性能が必要とされるレンズに関して言えば、ニコンには職人のなかでも特に「レンズマイスター」と呼ばれる人間が数名いて、彼らが手で触り、仕上げるんです。そう言った点から「元祖光学」としては秀でていると思っていますね。
―プロ機材としての観点以外、たとえばフジロックに遊びに行く人などに、カメラとしてオススメできる点はありますか?
「夜撮りキレイテクノロジー」とうたっているだけあって、コンパクトなカメラでも変わらず暗い場所に強いという点でしょうか。スマートフォンなんかでは絶対撮れないよ、といった場面でも簡単に写せる強みはありますね。
Nikon 1 などのようにコンパクトでも操作性を追求したものから、重いカメラには抵抗のある女性向けにS01という世界最小のコンパクトデジカメなどもあります。これに関してはカラーバリエーションもありますし、山ガールやフェスガールではないですけど、ファッション的にも自然にフェス会場に合うと思いますよ。
―フェス会場では、自然な感じというのは重要ですね。
フジロックの会場では、来場者もアーティストも自然にその場に溶け込んでる「気取らない平等感」というのがあると感じてて。そういう所はニコンとしても通じるものがあると思っているんです。
そんな中で、フジロックの来場者が会場で音を楽しんでいるのが「音楽」だとすると、ニコンは会場で光を楽しむ「光楽」というものをより追求していますね。
―フジロックの会場を歩いていても感じるんですが、「写真」というものはプロに限った話ではなく、本当に身近な存在になりましたね。
最近では確かに、一般の方でも良い機材を持ってバシバシと撮られていますね。ブログやPinterestなど、撮る機会が増えて敷居が下がったというのも理由だと思います。
とある学者の一説によると、10年前に比べて世の中でシャッターを押されている回数が500倍になっているとか。
ご飯を食べる前にまずは一枚撮るのが最近では普通ですよね。「おいしそう」「パシャ」って。もうこれは、音楽を口ずさむのと同じレベルの身近さなんじゃないかと感じています。
ニコンのカメラシリーズであるCoolpixでは「Capture more. Feel more.」という世界共通のブランドタグラインがあるんです。つまり「いっぱい撮って、いっぱい感じて」ってことなんですけど、身近に撮って、身近に感動して、その場にある喜怒哀楽を身近に感じてほしいと思っていますね。
非日常の中にもある、特別な一瞬
―フジロック会場でお客さんがカメラを使って撮るなら、どういった写真が見てみたいですか?
雨でもカンカン照りでも、砂埃の中ででも。明るくても暗くても、「特別な一瞬」っていうのはどんな環境にも存在すると思っているんです。
防水や防塵のカメラなどもありますので、ぜひそういう空間を切り取ってほしいですね。もしかするとそれは笑顔ばかりの写真ではなく、自然の過酷さもあるかもしれないですけど、花火やライブを観ている時以外、たとえば人気のフード店の行列に並んでいるだけのような状況でも楽しめるのがフジロックだと思うんです。
―決まった形ではなく、人それぞれ、ということですね。
人によっては1/8000秒かもしれないし、一瞬と感じる30秒間かもしれない。我々は一瞬を秒数で定義したくありません。全ての人の、全ての特別な一瞬を切り取るために、我々は存在していると思っています。それが原動力となって、より良いカメラを作っていかないといけないという使命を感じていますね。静止画も動画も関係ない「イメージングカンパニー」としてですね。「カメラカンパニー」ではなく。
―最後に、今年のフジロック・エキスプレス2013に何か期待することはありますか?
生きている感じ、会場の躍動感が伝わってくるレポートを期待したいですね。どうしても当日、会場に行けない人もいると思うので…そういった人たちも楽しめるような。
先程の「Capture more.」ではないですけど、ありったけの写真を撮ってもらいたいな、と思います。
あと、せっかくカメラが持ち込めるフェスなので「写真を撮って楽しんでいる人の写真」も観てみたいですね。「撮ることの喜び」を感じているような…。
記事を見た人が「来年のフジロックは自分もカメラを持って行こう!」と思うような感じの、ですね。
その場合は、ニコンのカメラストラップが多いと…(笑)
―なるほど(笑)ありがとうございました!
いかがでしたでしょうか?
今年もフジロック・エキスプレスでは多くの記事を速報としてお伝えしていく予定です。
そんな中で「特別な一瞬を切り取る」ための手段として支えてくれるのが、カメラであり、それらを作るニコンのようなメーカーなのです。
プロとして記事のために写真を撮るのも、個人的に思い出のために大切な写真を残すのも、カメラなくしてはできないのです。