トクマルシューゴインタビュー 表現のひとつにあるフェスティバル
- 2013/06/25 ● Interview
例えばビョークのように、アーティストに対し「存在そのものが作品」と思う瞬間は少なくありません。アコースティックギターと幻想的な音のつくりで、国内アーティストの中でも特にユニークな音楽家であるトクマルシューゴ。彼もまたそういった存在のひとりなのではないでしょうか。そんな彼にインタビューを行いました。
トクマルシューゴ。彼にはさまざまな顔があるように思います。ひとつには言わずもがな、今年も精力的に活動しフジロックに出演予定というミュージシャンの一面。そしてもうひとつは彼自身によって間もなく開催となるTonofon Festival(トノフォンフェスティバル)の主催者としての一面。さらに日本と海外とを行き来する視点を持つ一面もあり、多様な性質の持ち主、というイメージを私は持っています。その正体について、直接本人にお伺いします。
「トノフォン」という記号とその表現
ではまず、先日ソールドアウトになったばかりのトノフォンフェスティバルの話題からお伺いします。2011年開始のトノフォンフェス、どういった経緯で始めたのでしょう?
自分の観たいアーティストがいて、それらを例えば野外で、こういう順番で観たらどうなるだろう…と考えたのがきっかけですね。
発表時には「ひとつひとつのアーティストを見てほしい」っていうトクマルさんの言葉がありました。ワンステージなのも勿論ありますがいわゆる野外フェスの楽しみ方、ステージ移動しつつ色々見て…といった方向性とは趣向が異なりますね。
レーベルでもないしイベンターでもない、「トノフォン」という、色々なもの発信できる基盤をつくったんですが、そこには「一個一個を大切につくり、一個一個をゆっくり発信する」っていうコンセプトがあるんです。トノフォンフェスティバルも、アーティストや音響、装飾を僕のこだわりで選び、それがお客さんに届き、それがまたいつか自分たちの音楽にも還元されていくようなものがやりたかったんです。それがひとつひとつを大切に届けられるようにやりたくて、それを自分の手の届く範囲で完結できる形で、っていう流れですね。
だからいわゆる野外フェスとは違うかもしれませんね。トノフォンは自分の理想のフェスの夢を実現する、みたいな夢の具現化の話というよりも、もう少し現実的に、何か音楽と自分にフィードバックがあるんじゃないかなと思ったんですね。
フィードバック、ですか。
はい。僕は10代の頃から音楽が好きですが、その「好き」っていうのは、音楽にまつわること全般に対してなんです。トノフォンみたいなイベントをやる、インタビュー記事を出す、ものをつくって販売する…それらが結果的に自分自身に戻ってくるっていうのが僕は好きです。
例えば前回は、ライブを全くやってなく、もちろん見たこともなかった山本精一さんとPhewさんのユニットに奇跡的に出て頂いたんですけど、それを自分が見ることで「ああこういう音楽やりたい」っていう形で自分に返ってきた。そして今も自分が音楽をやるっていう、音楽体験のループをやりたかったというか…。こういったものはビジネス先行的なものと違う、もう少し純粋なところですよね。海外ではこういったものは割と当たり前に行われてることが多いんですが、それを国内でも作れないかなって思ったんです。
そうだったんですね。いや、お話を伺うまで私は欧米で行われるオールトゥモローズパーティーズのような、アーティストキュレーション型フェスという単純な見方をしていたんです。それよりは「アーティスト活動の一環」と言えるものなんですね。
そうですね。トノフォンというものは以前からずっと考えていたもので、11年の立ち上げと同時にフェスという形が合ったのをたまたまやってみたっていうだけなんです。だからもし、自分で「違うな」と思ったら別のものをやるっていうフレキシブルなものにしたいですね。
アーティスト、トクマルシューゴ。レイ・デイビスやジョー・ストラマーが立った夢のステージに
ではここで別の話題に。フジロックに初めて行ったのはいつ頃でしたか?
1999年、初めて苗場になった年ですね。当時19歳で、僕はすでに音楽をしていました。出演は2008年、アヴァロンと苗場食堂に出ましたね。
お客さんとしての参加とミュージシャンとしてでは見え方が違ったりしますか?
僕は地味に、ゆっくりのんびり活動していたという感じもあってステージも苗場食堂だったので、出た時も気持ちは客でしたね(笑)。違いという違いはあんまりない、というかフェスを楽しむっていうことに関してはまるで同じでした。どちらも楽しめる、運がいい感じ。
11年にはそのスケールが大きくなりホワイトステージに出ますね。ただ、当時のインタビューを見ると「すごく色々見ているんだなあ!」と驚きました(笑)。今年はフィールドオブヘブンの出演ですが、色々ご覧になりますか?
もちろん。
ですよね…!ところで、トクマルさんは19歳で1999年のフジに、という国内の「フェス第一世代」と言えると思いますが、そんな視点からフェス文化が定着したビフォーアフターを感じたりしますか?
実は、その変化をあまり体験していないんですよ。99年のあと僕は渡米して、アメリカでたくさんライブを観ていたんですが、帰ってきたらあまりライブに行かなくなったんですね。で、自分がライブをやり始めた04年頃からまた人のライブに行ったりするようになり、フェスももう一回行ってみたいと思うようになった。でもその頃って既に色々なフェスができていて、「こんなにフェスが!」ってびっくりしましたね。楽しみ方やマナーも出来上がっていて、まるで浦島太郎状態です。
国内フェスで思い出深いものを挙げるとしたら?
やっぱりフジロックに初めて出られた時と一昨年ホワイトステージに出られた時は感慨深いものがありました。初めて行った大型フェスに自分が出るってことで、「自分がやっていたことは間違っていなかったな」というのを実感したんですね。とにかく99年の思い出って強くて、そこと同じところにっていう。僕がすごく好きなキンクスのレイ・デイビスとジョー・ストラマーが同じステージに出ていて、僕はそれぞれ衝撃を受けた。そして同時に、正直こんなところに自分が出られるはずがないって思っていました。そんな夢のステージに、ですからね。
今年はヘブンに出演しますね。ステージや場所、タイミングによって趣向を変えようと思ったりしますか?
基本的に僕はどこででも同じものを出せるようにしようと思っているんですが、ライブのよさってその時どきによって違うものがやっぱりありますね。中でもフジロックは特殊で、僕の中でだいぶイメージが固まっている。ヘブンも99年のイメージのままで、フィッシュがやっていた年だけどそのイメージが抜けていない。まあフィッシュっぽくなることはないと思いますけど(笑)
海外で演るとき、日本で演るとき
先月まで海外で公演をされていたとか。海外だとセッティング時間が短いとか結構あると思うんですが、日本とは違いますか?
セッティングに関しては、知り合いの話を聴くと1曲しか演奏できなかったっていうのもいっぱい聞くから、海外だと起こりうる怖いこと、それに対する教訓はありますし、海外に行っているバンドはみんなストロングになります(笑)。
国内と海外の方を相手にする、ということに違いはありますか?
演奏は変わらないので、MCをするかしないかくらいでしょうね。日本の人は静かで、ちゃんと聴いてくれているなっていうのは本当にある。
海外のフェスで印象深かったのは?
スペインでやっていた、リゾート地の別荘家を使い切る形のフェスが日本とは違う形態だったし面白かったですね。あとチェコのプラハから1〜2時間くらいの小さな観光地で「こんなところでフェスを?」っていうくらいのどかでいい場所だったんですけれど、会場に行ったらめちゃくちゃ人がいっぱいいて(笑)。
ヨーロッパって各地に日本人が知らないようなフェスがいっぱいあって、ライブハウスを選ぶのと同じで、イベントの選択肢のひとつとしてフェスがあるんだなあって思いましたね。そこはいろいろな形があっていいんだなって思います。
そういった感慨は、トノフォンフェスにも返ってくる?
ありますね。自分だったらこういうのをやってみたいなって思うし。
このフェスに出たいなっていうのはありますか?
機会があるのならどこでも出たいです。「こんな場所でも自分の音楽が鳴らせられるんだ」みたいな形で、自分の音楽の限界を知りたいっていう気持ちがあるんですね。
今年のフジロックで楽しみなのは?
同じステージのガース・ハドソンがちょっと楽しみ…いや、見ます!
(笑)今年もくまなく見る予定ですか。
はい。やっぱりフェスの醍醐味として知らなかったものを発見するっていうのが楽しみがありますからね。そういうのを見つけられる機会というか。興味のなかった別のものに「スゲーッ」ていうのが楽しいですよね。フジロックは移動にも距離があって、かつ山の中でっていう特殊な空間。それは世界でもあまりないと思うから、偶発的なものが起こりやすいですよね。
今年も楽しみですね。では、最後にトノフォンフェスティバルに参加する人たちにメッセージを。
トノフォンはとにかく空気が良いです。会場にこないと感じられない空気、それを一緒に楽しめたらこれ以上ない喜びです。
(了)
今週日曜日の開催となるトノフォンフェスティバルは残念ながらソールドアウトですが、フジロックをはじめ今年も数々のフェスティバルに出演し、自分の世界観を披露するトクマルシューゴ。お話にあったような気持ちがどのようにステージに表れるのか楽しみですね。それでは、フィールドオブヘブンでお会いしましょう!
■トクマルシューゴ
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Tonofon Festival 2013
Text : 本人(@biftech)