• アラバキロックフェスティバル主催者インタビュー 〜「2011年」「東北」そして「これから」〜


    「協議検討を重ねた結果、ARABAKI ROCK FEST.11は延期開催を決断致しました。」東北地方太平洋沖地震から数日、それまで閲覧できない状態だった荒吐(アラバキ)ロックフェスティバル公式サイトの震災後初となる更新は、こんなメッセージから始まりました。

    皆さまのフェスティバルライフを応援するフジロッカーズオルグ、今回はアラバキロックフェスを主催する株式会社GIP・菅真良さんのインタビューを掲載します。春フェスの代名詞アラバキが、震災によって夏開催に変更された2011年、そして今はどんな気持ちとともにあるのか。あの日から1年、ご覧ください。

    震災後、延期開催アナウンスに込めた「希望」

    ――まずは2011年3月11日当日、そして延期開催までの経緯についてお伺いさせてください。当時たしかチケットの一般発売やアーティスト発表を直前に控えたタイミングでの震災発生でしたね。


    震災が起こり、私たちはまず会社のスタッフや家族の安否確認を最優先に行いました。それから、被災地に住んでいらっしゃる方々は皆さんそうだったと思うんですけど、1週間くらいはライフラインの復旧や身の周りのことに追われましたね。当然コンサートやチケットの一般発売など全て中止で。各コンサートの中止や延期の対応に一通り目処がついた頃に、アラバキについていろんなことを考え始めました。

    ――アラバキについては、仙台という立地に加え、震災直後からサイトがしばらく閲覧できない状態が続いていました。そういったことで「どうなるんだ…?」と、当時とにかく心配になっていました。

    そうですね。なのでまずホームページの更新をしないとなと思っていて。ただ公式サイトを公開していたサーバーが被害の大きかったエリアにあった関係で公開できず、復旧まではしばらくツイッターで情報を発信していました。それから数日後の復旧見込みまで、色々な方からご連絡をいただいたのですが、その内容が延期や開催の希望よりもまず「大丈夫でしょうか」という心配のお声だったんですね。なので、第一声は大変ですが元気でやっていますよという意味も込め、「日にちはまだ未定ですが延期します」というメッセージにしました。

    ――不安定な状況下での決断だったと思います。

    当時、とにかくあのタイミングで「中止」という言葉を使うことが、すごくネガティブにうつってしまうんだろうなと思ったんです。だから自分自身も含め、スタッフや関係者はもちろん、出演される予定だったアーティストの皆さん、そしてお客さんにとっても共通のポジティブな言葉が必要だなと思ったんです。なので「延期」、リスタートというか、先が見える形でのメッセージを伝えました。まずは「やるぞ」っていうことを伝えたかったんです。

    ――そして6月、夏の開催が発表されました。

    実際は震災後しばらくしてから色々調整し、開催自体3月中にはあらかた決まっていたんです。ただ発表できなかった理由があって。会場が国土交通省の持ちもので、震災当時に国が娯楽に対して施設を貸し出すということを伝えられる時期を待った形です。これは仕方ないと思います。その間は会場の下見などをしましたがそれもガソリンがなかった関係で震災から1ヶ月後くらいになりましたし、みんなアラバキだけでなく色々なこと、とにかく目先のことに対応する必要がありましたからね。

    ――開催に向けて、各地各方面からさまざまな支援や協力もあったのではないかと思います。

    そうですね。延期開催の日程についても、時期的に重なってしまうフェスティバルの主催者の皆さんに連絡をさせて頂いて、協力して頂いたり。それと同時期に、名古屋のイベンターの方からもフェスティバル同士のコラボレーショングッズの提案を頂いてタオルを作りました。それまではフェスそれぞれに個性があって、別々のものであるべきという考えが強かったんですけど、その考えが変わったきっかけではありましたね。

    特別な想いと共にあった2011年

    ――そして8月の終わり、歴代最高の動員数と共に2011年のアラバキが開催に至りました。この年はいくつか特色があったと思います。まずはフジロックにゆかりの深いアーティストに忌野清志郎さんのマスコット的存在・ヒトハタウサギのバルーンロボットが磐越(ばんえつ)ステージにいましたが、ああいったアイデアはどこから?


    ああ、あれはまあ単純に、僕が清志郎さんを好きだからです(笑)。実は、アラバキを足がかりにして、磐越ステージのある「風の草原」という場所を活用して復興コンサートをやりたいとおっしゃってたアーティストが何組かいらしたんですね。でもそれは、やっぱり地元の町の人がいろいろなことを受け止めなければならないわけです。それでその前に、アラバキの前夜祭(荒吐宵祭)として、町の人を無料招待してコンサートをやろうと企画したんですよ。で、大々的には出来なかったんですけど、テーマを清志郎さんしばりにしたんです。

    ――それで「ABKサクセション」(笑)

    怒髪天の増子さんに「RCサクセションみたいなのをやってください」ってお願いしたら「ABKサクセションでいいか?」っていうメールが届いてそうなりました(笑)。

    実はABKサクセションって、春開催時にはみちのくステージのトップバッターとして出演する予定で、ロゴも3月初旬にもともと手配したんです。で、ロゴはクリエイターの箭内道彦さん(風とロックetc)にお願いしていたんですが、それができたというメールを震災後、3月12日に「使うかわかりませんが、とりあえず送ります」といただきました。

    実はそのデータ、あとから箭内さんのスタッフの子に聞いた話によると、使われない(=中止)と思うので送らなくてもいいかとスタッフが箭内さんに聞いたら、「それはこちらではなくアラバキの方で決めること。起用されてもされなくてもこれからのきっかけとしてデータを送ろう。」というやり取りがあったそうで……。震災翌日にロゴをメール頂いたことはとても心強くて、アラバキを開催しようというきっかけのひとつになりましたね。

    ――出演されたアーティストにとっても、特別な想いがあったと思います。

    そうですね。ひとつは池畑潤二さんに音頭をとって貰った「ARABAKI BLUES」というセッション企画、もうひとつは主に僕が中心となって企画してTHEATRE BROOKとGRAPEVINEに手伝って貰った「GTGGTR祭」というのがありました。

    この企画に参加してくれたアーティストさん達で、終演後打ち上げをしたんです。たぶん、ステージ上で、皆さん今年のアラバキに対しては意気込みが強いというか、緊張していたと思うんですよ。その反動なのか、打ち上げではいつもより多く呑んじゃってます、みたいな感じになってましたね(笑)。

    ――ステージの中で、菅さんの印象に残っているのものは?

    アーティストの皆さんそれぞれにメッセージを持ってステージに向かってくださっていたので一概に限定しにくいのですが、演奏以外のことで言うと地元クリエーターの人たちにデザインしてもらった津軽ステージの装飾ですね。これは、デザインテーマを探していたときにちょうど僕がCHABOさんと一緒に東北ツアーを廻っていたのですが、彼が10代の頃に寺山修二さんの「天井桟敷」で劇中歌の生BGMを演奏していたという話を聞いたんです。それを「いいな」と思い、クリエーターの人たちに「寺山修二さんのことを思い描いて、ステージ作ってくれ!」って頼んで(笑)。で、結果的に寺山修二さんの叙情的な雰囲気と、みちのくのフンワリとしたイメージをセッションさせたらこうなりました、みたいなステージを作ってくれたんですよ。

    セッション企画についても、やるからには「負けないんだぞ」みたいなエネルギーをさらに盛り込みたいと思って、思い切ってゲストギタリストとしてU2のボノに声をかけたんですよ。そしたら、直接ご本人の参加は難しかったんですけど、コメントをくれることになったんです。そのメッセージとともに”ONE”という曲を歌ってくれたビデオが届き、セッション企画GTGGTR祭のオープニングに使うことになりました。そういう広がりも印象深かったですね。

    東北の村祭り、アラバキ。

    ――ラインナップやその雰囲気など、アラバキは東北という地元文化を積極的に反映させたフェスティバルだと感じますが、いかがですか?

    そうですね。実は目指しているモデルケースがあって、僕が20代だった時にニューオーリンズでJazz&Heritage Festivalというフェスティバルを見に行ったんです。それは街全体が自然にライブハウスとして連なっているような感じのフェスで、ステージとかも雑なつくりだったり田舎っぽい雰囲気でしたけど(笑)、それが良かったんです。そこの一番大きなステージで、地元の商工会議所のおっちゃん達とかが組んでいるバンドのライヴが、すっげえ盛り上がっているんです。それを見て、「地元が主役になる」ってすごくいいことだなと思って。

    ――なるほど。それがアラバキの、食べ物には玉こんにゃくやイワナの塩焼きがあり、ステージで津軽三味線の生演奏や地元のプロレス団体があったり…という、自分たちの土地のものを使った「日本の祭り」としての形を目指しているわけですね。
    要はそれで、日本の郷土芸能の文化を知った方々が、文化の根底の場所に行ってくれる、その二次的な広がりが凄くいいなと思っているんですね。僕は根っからの東北人なんですけど、東北の人っていうのは、ちょっとどこか遠慮がち、奥ゆかしさがあると思うんですよ。それは個性として伸ばしたいと思っているので、例えばフジロックは日本初のワールドワイドなロックフェスだと思うんですけど、アラバキはワールドワイドというより村祭りでいいじゃないか、みたいに思っています。で、そんな村祭りを世界中の人が見に来てくれるっていうのは嬉しいなと思いますし、それが目標です。

    ――これからも継続開催を目標にしつつ、最終的なゴールみたいなものはありますか?

    そうですね、ゴールはまだ見えてないですけど、セッション企画の終演後の打ち上げの時、酔っ払った能野さん(The Birthday等が所属するbase inc社長)から「お前は荒吐を1000年やれるのか!」って言われたので(笑)、ビジョンというのならアラバキが1000年続くことですね。僕がそれを見届けるのは無理ですけど、世代を超えて、「荒吐」という名前でフェスティバルやそういったものの象徴が続いていてほしいなぁと思っています。

    ――チャリティーCDの東日本大震災復興支援コンピレーションアルバム『何ニモ負ケズ』ですが、ああいった企画はアーティスト側から自然発生したものなのですか?

    そうですね。アラバキには洋楽のアーティストにもちょこちょこ出てもらっているんですが、その中でBroken Social SceneのメンバーがいるDO MAKE SAY THINKっていうカナダのバンドがいて、彼らやアラバキに出演実績のある何組かのアーティストが招聘を担当しているフェスのスタッフ宛に曲をくれたんですよ。それがきっかけで、その曲を入れたチャリティーアルバムを作ろうと。ただ、アラバキは邦楽ファンが多いので、じゃあ邦楽サイドと洋楽サイドで2枚作りましょう、という流れになってやってもらいました。

    これからのアラバキ――未来そして“復興”

    そういえば、フジロックでところ天国に石(=ゴンちゃん)が置いてあるじゃないですか。フジロック前夜祭の日に日高さん(SMASHの社長でありフジロック主催者)のところに挨拶しに行ったら、その時の話の流れで「石持ってってくれよ。」って言われて(笑)。で、持って帰ることになったんですけどその時に残ってた石って罰ゲームかって言うような大きなサイズしかなかった上に、そのとき僕は車じゃなくて電車で来ていたんですけど…持って帰りましたよ(笑)。アラバキ会場のどこかに置いてあると思いますので、ぜひ探してみてください(笑)。日高さんは震災後の6月くらいにもこちらにいらっしゃって、時期は分からないけれども震災復興関連で何かやりたいって言ってくださいました。

    ――ぜひ何かコラボレーションできたらよいですね。

    そうですね。僕らがやれることは、さきほどの話にあったように長くフェスティバルを続けると同時に、長く支援をしていくということだと思います。続けていくにあたって子どもたちへバックアップが必要だと思いますし、そこに集中していこうかと考えています。

    ――これからについてですが、その中で「復興」という言葉がさかんに言われ、特に東北地方についてのキーワードになるものかと思います。今、アラバキそして東北での「復興」について、現状をお聞かせください。

    復興、立ち直ったと言えるかどうか。……それは、難しいことだと思います。震災によって大事な人を亡くされた方もいらっしゃいますし、思い出の詰まった家をなくした方もいる。そして、僕の故郷の福島県もたぶんずっと、どこか線を引かれた状態が続いていくんではないかと思います。それはそれで、受け止めなければならないことだと思っています。
    じゃあそれに対して、「みんなでがんばろう」と全面的に出していくかどうかですが、そういうことはあまり好きではないんです。僕の子どもも以前言っていたんです。色々なところに書かれたり言われたりしている「がんばれ東北」がうるさい、って(笑)。だからまあ、なんて言うんでしょう……「復興」という言葉の重みに力まず、元通りにはならない現状を受け止めて、自然体でポジティブに、もっと強くなりたいと思っています。

    だから、これからもアラバキは「復興」というキーワードを大々的に出していくわけではない。チャリティーフェスティバルではない、お客さんからお金を頂戴して楽しんでもらうフェスティバルですから。

    ――では最後に、アラバキに参加しているお客さんにメッセージをお願いします。

    僕は自分の故郷の東北が大好きなんですけど、そういう気持ちを込めてアラバキは続けていくし、次の世代からまた次の世代へと続いていく中でも同じ気持ちで続いていってほしいと思っています。だから、僕らが好きな東北を皆さんに堪能してほしいなぁということと、皆さんのふるさとも大事にしてほしいと思っています。(完。取材:11年11月)

    ―――

    以上でインタビューは終了です。今年も開催されるアラバキ、4月28日&29日という「いつもの日程」にてチケットは本日3月11日より一般発売です。その他最新情報は公式サイトのほかFacebookページでも随時更新されている模様。みちのくステージのトリを飾るセッション曲を投票で受け付けているなど、色々な企画も開催されています。東北のお祭りに、皆さんもぜひ足を運んでみてください。

    ■公式サイト
    http://arabaki.com

    ■公式ソーシャルメディア
    https://twitter.com/#!/ARABAKIROCKFEST/
    https://www.facebook.com/ARABAKI
    https://plus.google.com/109732793282838049383/posts

    Text : 本人(@biftech

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