Ghost-Note @ Shangri-La 2025/02/26 ライヴレポート「生きている一瞬を確かめに」
- 2025/03/18 ● Report
昨年のフジロックで、出演したフィールド・オブ・ヘブン一帯の熱量を徹頭徹尾上げに上げまくったファンク集団、ゴースト・ノート(Ghost-Note)が1年も経たないうちに日本に帰還。苗場の野山に解き放たれたようなフジロックのステージを頭に描いて会場に赴いた私の思惑は思いきり裏切られることになった。もちろんいい意味で。前日の東京リキッドルーム公演に続く単独来日ツアー最終日となった大阪公演の模様をお届けする。
GHOST-NOTE | FUJIROCK EXPRESS ’24
https://fujirockexpress.net/24/p_909.html
ゴースト・ノートは、グラミー賞を複数回受賞しているスナーキー・パピー(Snarky Puppy)のメンバーであるドラマーのロバート・“スパット”・シーライト(Robert “Sput” Searight)とパーカッショニストのネイト・ワース(Nate Werth)が中心となって2014年に立ち上げたグループだ。亡きプリンスが最後に活動を共にしたメンバーとして知られる鬼才ベーシストのモノネオン(MonoNeon)をはじめ、スパットとともにTOTOの2023年来日公演のバックを務めたキーボーディストのドミニク・ザヴィエル・タプリン(Dominique Xavier Taplin)といった凄腕ミュージシャンたちで構成。ファンクを基調にジャズ、アフロビート、サイケにヒップホップなどを粋にジャンルを横断し、確かなミュージシャンシップに裏打ちされたグルーヴで連日連夜世界各地で集う聴衆を躍らせている。
本公演の会場は、大阪は梅田にあるライヴハウスのシャングリラ(Shangri-La)。今年の8月でオープンして20年を迎える。ちょうど私が大阪にやってきた頃に開業され、何度も足を運び数々のライヴを目撃してきた馴染みのところ。大規模再開発によって様々な商業施設が立ち並び、うめきた公園という大きな都市公園ができたりと、周辺の変貌を感慨深く感じつつ会場に向かった。
開演時刻の約30分前に到着。外には入場に並ぶ長蛇の列ができていた。かろうじてソールドアウトになっていないもののフロアもぎっしりと埋まっている。これから繰り広げられるライヴが間違いなく盛り上がると確信した。場が音楽がいかにも好きそうな人たちのヴァイブスに満ちていたから。
客電が落ち、鳴り響くオープニングSEはジェームス・ブラウンの“The Payback”。本日のバンドメンバー総勢8名がゆったりと登場し、ボーカルがゴスペルど真ん中なコールアンドレスポンスでオーディエンスをアジテートし問答無用にフロアの熱を上げていく。「大阪にやってきたぜ!」とバンドが手にする楽器を一斉に出力し、最新アルバム『Mustard n’ Onions』のリードトラック“JB’s Out!(Do It Baby)”で完璧過ぎる幕開けだ。バリトンとアルトのサックス隊による軽快なブロウがたまらない。曲間に「ソウルの帝王」(the Godfather of Soul)、JBに捧げるべく“Baby,You’re Right”のいなたいフレーズを入れ込んでくる構成もお見事。込められた自身のルーツに対する愛と敬意にのっけから目頭が熱くなってしまった。
スパットがタイトにドラムビートを刻み“Move With a Purpose”へ。フルートがムーディーに響き、流麗なギターフレーズも絡んでくる。更にはメンバーたちによるオハイオ・プレイヤーズの“Sweet Sticky Thing”のコーラスが、往年のR&B然とした甘く華やかさを添えるのだ。うっとりと油断をしていたらラストで繰り広げられたのはスパットとネイトによる超絶ビートの撃ち合い。ゴースト・ノート創始者である二人のビートマイスターたる真骨頂をこれでもかと見せつけられた。
キーボードのドミニクが摩訶不思議でスペイシーな音をじっくりと響かせ“Synethesia”がスタート。間奏部は、パーラメントの“Flash Light”や“Up For The Down Stroke”も飛び出す怒涛のPファンクグルーヴの渦の中へ。モノネオンがブリブリと鳴らすベースが下品なグルーヴの肝だ。スパットが「ジェームス・ブラウンを知ってるか?彼に捧げる曲だ!」とファンクカッティングが小気味よく響くギターの音色とともに発進。まだリリースされていない“Be Somebody”という曲だ。特にネイトの巧者っぷりが際立っている。セッションの流れに沿ってタンバリンやシンバルのクラッシュを絶妙に差し込み、コンガやボンゴで生み出すトライバルなビートで聴衆の腰を揺らせるのだ。何と今日が誕生日当日だというキーボード奏者のドミニク。お祝いムードの暖かい締めくくりに、マスタードを喉に流し込み応える(「マスタードショット!」だそうだ)。続く“Slim Goodie”でサイケデリックなソロをぶちかました後、今度は生の玉ねぎをかじりついた。最新作『Mustard n’ Onions』を表しているのは明らか。ステージもフロアも、すべてが笑顔で埋め尽くされたのは言うまでもない。
ここで挟まれた物販セッションが個人的には今宵のセット随一のハイライトだ。後ろのドアを出たらゴースト・ノートのTシャツを、ヴァイナルを、CDを買ってくれと。TシャツのR&Bバラードにはじまり、ヴァイナル怒涛のファンクセッションへ突入すると「あまりにファンキー過ぎる!」と急遽ストップ。「次はConpact Discだ。CDを忘れるな!」と“CD Bluse”と銘打ち、ディープにじっくりと盛り上げるのだ。ブラックミュージックの粋なところすべてを煮込んだようなセッション。最後は「ステッカー(sticker)セッション。「Stick to you, stick to me…」とオーディエンスと楽しいやり取りをして締めくくった。物販告知すらも極上のお楽しみタイムとして提供してしまう様は、お見事!この一言に尽きる。 この後もバンドによる縦横無尽なグルーヴはとどまるところを知らない。スパットを除くメンバーが次々にソロを披露していく。ヒップホップな入りからプリンスの“She’s Always in My Hair”まで飛び出した“Mustard n’ Onions”の極め付きはピーター・クヌーセン(Peter Knudsen)による前のめりにひた走るギターソロ。エディ・ヘイゼルが降臨したかのようだった。全メンバーに見せ場があり、互いに花を持たせ合う。そんなバンドのあり方にまたもや目頭が熱くなってしまう。メンバー紹介セッションタイムでキーボードのドミニクにみんなでハッピーバースデーソングを届けた。「みんなに誕生日を祝ってもらえて光栄だ!こんなにも最高なバンドのブラザーたちと一緒で幸せだ!」と笑顔いっぱいに感謝を伝えるドミニク。あの瞬間は忘れ得ないだろう。
アンコールの新曲“Sugarfoot”で本セット一番の巨大なグルーヴの渦を創り上げ、2時間強に渡るステージの幕引き。瞬間湯沸かし器のような40分間押しの一手だったフジロックのやんちゃなステージも最高だったが、2時間をかけてじっくりと練り上げられた今回のステージはただただ圧巻だった。緩急、抑制、捻り、そして爆発がバランスよく効いたグルーヴ。こんな大人な芸当までできるのかと、ますますこのバンドに惚れてしまった。何より素晴らしかったのは、演者たち自身はもちろん、関わった音響もスタッフも、ここに集ったオーディエンスも全員を笑顔で一つにしたこと。生み出されるグルーヴにただ身を任せ、たった今生きていることを実感し喜びを分かち合う。まさしくライヴならではのかけがえのない体験だった。起きることが起きるこの人生。望んでいることも望んでいないことも。だからこそライヴに行くんだ。
Photo by エモトココロ
Text by 三浦孝文