Helsinki Lambda Clubと一緒にエスケープ
- 2025/02/08 ● Report
2025年1月25日(土)、LIVE HOUSE CBにてHelsinki Lambda ClubのEP『月刊エスケープ』release tour “冬将軍からのエスケープ” の福岡公演が開催された。冬真っ只中、ホットかつ豊かな旋律で彩られたライヴの模様をお届けする。
オーディエンスに拍手で出迎えられたHelsinki Lambda Club。柔らかなオレンジのライティングのなか、1曲目には”引っ越し”をアクト。”引っ越し”は以前の2ndミニアルバムに収録されている曲ではあるが、「ここで息ができないなら 火星にでも引っ越そうか」という歌詞が、“逃亡”の文脈を思わせる始まり。「こんばんは!Helsinki Lambda Clubです、よろしく!」と笑顔で橋本 薫(Vo/Gt)が挨拶すると、オーディエンスは手を掲げた。「Let’s Dance, Let’s Dance, OK?!」と踊らせる気満々の稲葉 航大(Ba)のグルーヴに乗せられて、3曲目には”PIZZASHAKE”へ。ライヴハウスがまるでホームパーティーのような多幸感溢れる空間になった。小気味よいギターを奏でる熊谷 太起(Gt)のところまで稲葉は出張し、ファンキーなベースプレイで宣言通りフロアを踊らせた。
5曲目には”THE FAKE ESCAPE”。橋本の優しい歌声にフロアは聴き入る。耳に馴染む熊谷のギターのグルーヴが、まるでベースのように支えている。フロアではドリンク片手に揺れる観客の姿があった。Helsinki Lambda Clubの歌詞は生活に寄り添うものが多く、共感を呼ぶが、時に「芸術は空腹には勝てない」、「うれしいよりかなしいに 目を向けてしまうのはなぜ?」といった歌詞に哲学を感じ、ハッとさせられる。
MCでは、13時間かけて福岡に辿り着き、一泊して櫛田神社にお参りしたことを観客に話し、「今日のライヴが盛り上がりますように!だから大丈夫!」と会場を盛り上げた。櫛田神社は博多祇園山笠が奉納される場所で、福岡を代表する神社である。特に地元福岡の観客は、橋本から櫛田神社の名前が出たことに喜びを隠せなかったのではないだろうか。MCが終わると、”Yellow”をアクト。橋本のハイトーンの歌声が気持ちよく伸び、熊谷のコーラスとの調和がとても美しかった。間奏では、サポートドラムの岡田 優佑の圧巻のドラム。
9曲目には”キリコ”。歯を食いしばり感情を露わにした稲葉のベース、橋本のギターカッティングが冴え、異国情緒を纏わせた調べと情熱的なアクトでフロアを歓喜の渦に巻き込む。続いて”Happy Blue Monday”。間奏では熊谷が音を歪ませ、沈ませ、そこから音を浮上させるなどエフェクターを駆使し、ライヴならではのうねりをフロアに届けた。片手だけでは物足りない観客が、両手を挙げて揺らしながらHelsinki Lambda Clubの音を楽しんでいた。
ライヴ後半には2ndアルバム『Eleven plus two / Twelve plus one』のリードトラックであった”ミツビシ・マキアート”を鳴らす。Helsinki Lambda Clubといえば高い演奏技術に加え、アルバムや曲ごとにまるで別のバンドかと思うほど幅広い音楽性も魅力の一つ。今度はガレージロックでフロアを魅了した。「踊れ福岡!」と橋本は叫び、それに両手を掲げて応える観客の姿があった。
暗転し、MCを挟む。「物理的な距離でいったら福岡は遠いけど、たくさん来てくれてありがとうございます!この空間が最高だと思ってるんで、楽しんでいきましょう!」と、橋本が話すと、「ディレイっていうんですよこれ、気持ちいいでしょ。よし!」と、残響系エフェクターを楽しげに鳴らしてみせ、そのまま”My Alien”へ。ゆったりとしたサウンドスケープにドラムのスティックがアクセントになり、ここではないどこかに逃避していくような不可思議な音を、先述のディレイや様々なエフェクターを駆使しながら表現。
15曲目には”たまに君のことを思い出してしまうよな”。この曲を歌う前、橋本は「すべての君に捧げます」と呟き、歌い始めた。一人ひとりの生活に寄り添い、目の前にいる“あなた”に向けて歌っているのだった。私たちはこの曲を聴きながら、もう会うことはない“君”を想う。その“君”に対してもそっと歌ってくれているような、優しくて切ない感情が胸に込み上げた。
最後には”Be My Words”。「ありがとうございました!また福岡でライヴできるように頑張ります!」と4人とも笑顔でアクト。「無駄なことは何ひとつないさ」と穏やかに歌われる歌詞が、そっと観客の背中を押す。アウトロでは、初めて楽器を手にしたときのように無垢であり、楽しそうに演奏する4人の姿があった。いつまでもオーディエンスの拍手が鳴りやまない。
アンコール前にMCが入り、「福岡の喫茶店とのコラボのネックレス、めっちゃ可愛いんでぜひ!福岡はマイホームタウンなんで!」と物販を紹介。福岡出身である橋本は、暖暮ラーメンが青春の味であるという。客席からは「暖暮おいしいよー!」という声が飛んだ。ひとしきりラーメンの話をすると、橋本と稲葉と熊谷がステージ中央に集まり、「私たち、暖暮大好きです!!」と、福岡という土地柄らしくラーメンをアピール。
「アンコール、ラスト1曲!出し切ります!」と橋本が言うと、先ほどのMCのゆるさはどこへやら、メリハリのついた鬼気迫る岡田のドラムソロに目を奪われる。そのドラムに熊谷と橋本のギター、稲葉のベースが加わっていき、”ロックンロール・プランクスター”を全力でアクト!会場はロックでハッピーなアンセムに包まれた。「ありがとうございました!Helsinki Lambda Clubでした!また会いましょう!」と4人はステージを後にした。
筆者がHelsinki Lambda Clubのライヴを初めて見たのは、FXという今は開催されていない福岡のイベントであった。Helsinki Lambda Clubが結成されたのは2013年の夏であるから、結成して間もない頃の彼らを一度観ていたことになる。当時と今とではメンバーこそ違うが、昔からボーダレスな音楽を奏でていた。今や国内に留まらず海外でもライヴを行う彼ら。彼らの音楽で、生活と地続きのままエスケープして、春が来るのを待っていたい。
Helsinki Lambda Club “冬将軍からのエスケープ” 福岡公演 Set list
1.引っ越し
2.テラー・トワイライト
3.PIZZASHAKE
4.KIDS
5.THE FAKE ESCAPE
6.Yellow
7.真っ暗なドーナツ
8.Golden Morning
9.キリコ
10.Happy Blue Monday
11.ミツビシ・マキアート
12.Skin
13.My Alien
14.収穫(りゃくだつ)のシーズン
15.たまに君のことを思い出してしまうよな
16.Be My Words
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ロックンロール・プランクスター
Photo by suguta
Text by Ai Matsushita