• ジャズ界の巨匠、ボブ・ジェームスが魅せたピアノ演奏と次世代への希望


    2025年1月10日(金)、Zepp Sapporoにてボブ・ジェームスのニューイヤー公演が開催された。コンテンポラリー・ジャズの巨匠が札幌のライブハウスに招聘されること自体が稀なためか、この日は全席完売。指定席は勿論のこと、2階奥の立見席も客で埋まっていた。

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    艶やかな衣装を身に纏った4人が登場し、いよいよライブがスタートする高揚感に包まれる。ボブの生誕85周年記念コンサートということもあり、長いキャリアの中でリリースしたシングル・アルバムのどれもがセトリに組み込まれてもおかしくはない。オープニングは一体どの曲で攻めてくるのだろう?とオーディエンスが予想を膨らませるなか、“AVALABOP”が飛び出した。ボブのみにスポットライトが照らされ、ソロパートがスタート。この曲は1990年、ボブを筆頭に結成されたバンド、Fourplayの人気曲でもあったことから、生で聞きたかった!と嬉しそうにしている客も見受けられた。

    今回、筆者が注目したのは前回の来日公演にも帯同したマイケル・パラッツォーロ(Ba)、ジェームス・アドキンス(Dr)、ウクライナ出身のアンドレイ・シュムット(Saxophone)。サポートメンバーの遊び心をもたせた演奏により、まるでおもちゃ箱をひっくり返したようなワクワク感のある楽曲に仕上がっている。ボブが時折、若手メンバーを後ろから見守る姿は、次世代ミュージシャンへの期待を露わにしているようだった。それを特に感じたのは、3曲目“NIGHT CRAWLER”。私は当初、キャリアの長いボブが、フレッシュなメンバーを先導するイメージであったが、曲中にアンドレイがボブの演奏を手で招き寄せる場面があり、煽るような仕草をとっていたことから、-相手がレジェンドだから-と萎縮するのではなく、純粋に音楽に対する熱意のぶつかりあいがあるからこそ、原曲とは一味違ったアレンジを生み出せる。またMCでは、自らのことを「Old ages」と笑いを誘う場面もあったが、アンドレイがウクライナ出身であり、今日の情勢を受け、アメリカに移り住んだことに触れていた。私的にはこれこそがボブの伝えたかったことではないかと思う。MC後にスタートした“Moving Forward”は、アンドレイの想いが直接心に問いかけてくるような熱い演奏により観客は固唾を呑んだ。その後、“ONE AFTERNOON”では、演者だけを際立たせる暗い照明と重みのある演奏により、まるで深海に沈んでいくような悲壮感が漂っていた。周りを見渡すと、ステージを見つめながら何かを熟考するような人、頭をユラユラさせながら演奏に聴き入っている人など多種多様。ただ、ここで補足しておきたいのが、この曲が暗いだけではなかったこと。荒廃した大地に一輪の花が咲いているような美しさ、力強さも併せ持っていた。MCでアンドレイを紹介した後にこの2曲を持ってくるのは、やはり何かしらの意図があったに違いない。

    “CARAVAN”と“SECRET DRAWER”は本公演のフィナーレが近づいていることを示唆するようなアッパーチューン。ジャズ王道のリズムパターンにより自然と手拍子が発生し、ピアノを弾く真似を行う客まで!「Yeah!!」「Foo!」など観客からの歓声が止まらない。ここでのスターはドラム担当のジェームス。どのような動きをしているか読み取れないほど超速かつ精巧なドラムさばきに今日一番の拍手が巻き起こっていた。本編ラストは“WESTCHSTER LADY”。繰り返されるキャッチーなメロディは、まるで時計の針がクルクル回るような感覚に陥る。ライブが終わってしまう寂しさを忘れるくらいに、皆それぞれリズムに乗っていた。アンコールで披露された“ANGELA”は1978年にリリースされた6枚目のアルバム『Touchdown』に収録。アメリカの人気コメディ番組『Taxi』のテーマ曲に起用された名作で、ボブの名刺代わりといっても相違ない。“ANGELA”をラストに持ってきたことにより、改めて彼が築いてきた偉大なキャリアを五感で味わうことができた。

    終演後、ボブに「今年、もしくは来年以降に日本公演&ツアーを行う予定はあるか?」と尋ねてみたところ、「もちろん戻りたい。とくに札幌に!今日、僕たちは良いショーをできたと思うけどどうかな?また是非戻ってくるね。愛しているよ、ありがとう!」と前向きな返事を貰うことができた。レジェンドの再来を期待できることはこの上ない喜びだ。そして、もし今後フジロックへの出演が起こり得る場合、アンドレイ・シュムットも帯同させてほしいと筆者は考えている。社会問題を提起するフジロックの根底は“LOVE & PEACE”だ。自分で行動を起こせないにしても、一つのきっかけにより視野を広げることができれば、世界にとっての大きな進歩となる。

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    Bob James Quartet 85th Anniversary Celebration Japan Tour 2025
    2025年1月10日(金) Zepp Sapporo
    <セットリスト>
    AVALABOP
    FEEL LIKE
    NIGHT CRAWLER
    MOVING FORWARD
    ONE AFTERNOON
    CARAVAN
    SECRET DRAWER
    SO MUCH IN COMMON
    TOPSIDE
    SEA GODDESS
    WESTCHSTER LADY
    (EN1) ANGELA

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