• グラストでしか出逢えない「レコードの中のアーティスト達」


    6月末にイギリスで開催された、世界最大級のフェスティバル『Glastonbury Festival 2024』に、フジロッカーズ・オルグの取材チームで参加してきました。今回は取材チームに同行し、フジロックや朝霧JAMでも活躍するDJで鍼灸師のNozomu Kitazawaさんから、グラストで出逢った「レコードの中のアーティスト達」について寄稿いただきました。

    Photo by Keiko Hirakawa

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    グラストンベリー・フェスティバル(以下グラスト)には、レジェンド・クラスのアーティストが登場する。彼らは決してヘッドライナーではなく、大小無数のステージでパフォーマンスを披露する。

    昨年なら、Cat Stevens、Candi Staton、Gilbert O’Sullivan、Rickie Lee Jonesらが出演。個人的には彼らに対し「レコードでしか味わえないアーティスト」というイメージを持っていた。実際にライヴで観れたことは大きな音楽体験となった。

    今年も数々のレジェンド達が出演した。多くの方の音楽人生に影響を与えたであろうアーティスト達。グラストでしか味わえない至福のラインナップを追った。

    Asha Puthli
    6/28(金)West Holts Stage

    変わらぬキー。インドの伝説的歌姫の宙を舞う歌声

    Photo by Nozomu Kitazawa

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    グラストはステージごとに特色が異なる。中でもレジェンドからニューカマーまで幅広く登場する「West Holts」ステージは、良質なアクトを味わえることで個人的にも注目している。

    そのステージのこけら落としに登場したのが、インドの伝説的歌姫、アシャ・プトゥリ。

    サバービア界隈で作品がピック・アップされたことで、DJや熱心なレコード・ディガーには広く知られているが、まさかライヴという形で体験できるとは思ってもいなかった。

    ステージに現れるや否や、コケティッシュな歌声が辺りを包み込む。「1973年当時と変わらないキーなのよ」とMCでは現役宣言。「DJ Tune」と切り出し、代表曲「Right Down Here」が始まると、重心低めのグルーヴに観客も身を揺らし始める。

    バラードからコズミック・ディスコまで披露した後、ラストはクラシック「Space Talk」。曲紹介のMCからは、この歌をとても大切にしていることが伝わってくる。宙を舞う鍵盤の音色に、タブラやパーカッションのグルーヴ、唯一無二のヴォーカルが、宇宙空間までぶっ飛ばしてくれそうな気持ち良さだ。

    昨年リリースされたリミックス・アルバムでは、若手アーティストをリミキサーに起用。彼女の楽曲に対する支持の強さが伺える。

    現役感を存分に示した、堂々たるステージングにリスペクトを送りたい。

    ◼︎ Asha Puthli – Apple Music

    Lulu
    6/28(金)Avalon Stage

    不老伝説ルル。いまだ健在のミラクル・ヴォイス

    Photo by Nozomu Kitazawa

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    Photo by Nozomu Kitazawa

    Photo by Nozomu Kitazawa

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    ティーンのころから女優、タレントとしてTVやラジオに出演。シンガーとしても60年代から活動を続けるルル。

    DJチューンの「Love Love To Love」のギター・リフは、同フェスティバルに登場するFatboy Slimが、自身のナンバー「Santa Cruz」にて大々的にサンプリングしている。

    ビートルズとも交流のあった国民的スターがグラストに出演する、今回一番驚いたのは彼女のアナウンスだったかもしれない。

    フロアは、彼女の登場を待ちわびる観客で溢れ返っている。登場するなり驚いたのは彼女の容姿。アイドルが現れたのかと思うほど、キュートで背筋もシュッと伸びており、元気いっぱいにステージでダンスを披露する。

    彼女の代名詞「Shout」(アイズレー・ブラザーズのカヴァー)でスタート。リリース当時の弾んだキャンディ・ビートではなく、新しいポップなアレンジで観客をロックしていく。続く「Heat Wave」(マーサ & ザ・ヴァンデラスのカヴァー)、「Good Lovin’」(ヤング・ラスカルズのカヴァー)を筆頭に、ティナ・ターナーなど、リスペクトするアーティストへのトリビュート・ショウがスタート。MCではジョンとポールにまつわるエピソードも披露された。

    サブスク再生回数1位のスロウ・バラード「To Sir With Love」を歌い終えると、鳴り止まない拍手にステージ上で涙ぐむ姿も。「恋のブン゙バガバン」などヒット・チューンを挟んだのち、最後は観客をステージに上げての再Shoutで大円団。

    シンディ・ローパーも影響を受けたであろう、色褪せぬミラクル・ヴォイス、圧倒的なショウビズ感、ステージ裏に入るまで鳴り止まないLuluコールに、彼女は愛され続ける大スターであることを再確認した。

    ◼︎ ルル – Apple Music

    Haircut 100
    6/28(金)Avalon Stage

    司令塔ニック・ヘイワード復活。40年越しのペリカン・ウエスト

    Photo by Nozomu Kitazawa

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    Photo by Nozomu Kitazawa

    Photo by Nozomu Kitazawa

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    好き好きシャーツ、このワードに反応しなければ渋谷系ファンを名乗るなかれ。かのフリッパーズ・ギターにも大きな影響を与えたヘアカット100。

    昨年はデビュー・アルバム「Pelican West」の発売40周年。大量の未発表曲を加えたデラックス・エディションもリリースされたり、ワールド・ツアーも行われるなど、ふたたび盛り上がりを見せている。

    そして昨今の再始動でもっとも重要なことは、脱退していたニック・ヘイワードが再加入し、フロントマンを務めていることだろう。

    2ndアルバム録音時にはすでにグループを脱退していたため、インスタのポストで、グラストのリハーサルを行ったことを目にしたときは胸が高まった。オリジナル・メンバーは彼を含めた3人となっている。

    スタートから2曲目、「Favorite Shirts(Boy Meets Girl)」のカッティングが鳴り響けばフロアは大爆発。ギター・コレクターでもあるニック・ヘイワード。ギブソンやグレッチのヴィンテージ・ギターを眩しいほどかき鳴らしていく。

    アイヤイヤイがキャッチーな代表曲「Love Plus One」、「Fantastic Day」も披露。辺りはこの日一番の大合唱に包まれた。ラストはメンバー紹介を交えての、好き好きシャーツ・長尺ヴァージョン。硬質なファンカラティーナ・サウンドが高らかに鳴り響く。

    最高潮の盛り上がりをみせた素晴らしいアクト。いつの日か日本で観れることを願っている。

    ◼︎ Haircut 100 – Apple Music

    Judy Collins
    6/30(日)Acoustic Stage

    青春の光と影。新作もリリースするナンバー・ワン・レジェンド

    Photo by Nozomu Kitazawa

    Photo by Nozomu Kitazawa

    Photo by Nozomu Kitazawa

    Photo by Nozomu Kitazawa

    Photo by Nozomu Kitazawa

    Photo by Nozomu Kitazawa

    良質なアクトが楽しめることもあり、年配の音楽ファンも足を運ぶアコースティック・ステージ。主催者マイケル・イーヴィスの趣味が、もっとも反映されているステージとの噂もある。

    説明不要のフォーク・レジェンドがグラストに登場した。御年85歳。一曲目から代表曲「Both Sides Now」が披露され、その色褪せぬ歌声に驚いた。

    歌声も去ることながら、何より驚いたのは彼女の記憶力。はじめてイギリスに来たのは1965年で、と切り出し始めると、鮮明なエピソードの数々が口を開く。ときおり皮肉や赤裸々な話で笑いを誘う貫禄っぷり。椅子にかけることもなく、立ったままステージを続ける姿に、安堵を通り越した驚きを感じた。

    どこまでも深淵にいざなう「ノルウェーの森」、そしてディラン・ナンバー「ミスター・タンブリン・マン」では、このアクト一番の大合唱が起こる。

    何と今年に入りアルバムもリリースしている彼女。おおまかな路線は以前と大きく変わらず、ブレないサウンド・プロダクションが素晴らしい傑作だ。

    彼女の原動力は何なのだろう?終始色褪せぬ魅了が漂う美しいステージだった。

    ◼︎ ジュディ・コリンズ – Apple Music

    Toyah & Robert
    6/30(日)Avalon Stage

    妻の職権乱用?コロナ禍に希望を灯した「世界一豪華なカラオケ・ショー」

    Photo by Keiko Hirakawa

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    ここまで「レコードの中でしか出逢えないアーティスト」と題してレヴューを書いてきた。ただ、どうしても紹介したいアクトがもうひとつある。言うなれば「YouTubeの中でしか出逢えないアーティスト」だ。

    キング・クリムゾンのロバート・フリップ(g.)と、モッズ・バイブル「さらば青春の光」にも出演した、シンガー/女優であるトーヤ・ウィルコックス(vo.)による夫婦ユニット、トーヤ&ロバート。

    コロナ禍でロックダウンを強いられ、生きる希望を人々が失いかけた頃、彼らはYouTube上に突如姿を現した。カヴァー・ソングを中心に、ユニークで奇抜なパフォーマンスを披露。ごく一般的な暮らしぶりなど、意外な一面も惜しみなくさらけ出し、全世界に衝撃と安らぎをもたらした。

    そんな彼らがグラストに出演する。恥ずかしながら事前情報が全くない筆者ではあったが、同行した取材班のリコメンで、彼らに出会う機会を得ることが出来た。

    ユニット名での出演のためか、あまり認知されていない様子。おかげで開演まで人は少なく、最前列で観ることができた。10メートル先にはロバート・フリップが確かに居る。

    レニー・クラヴィッツ「Are You Gonna Go My Way」、ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツ「I Love Rock ‘N Roll」など、おなじみのロック・アンセムを、華麗なトーヤのパフォーマンスと、ロバートの神がかったギターで次々とカヴァーしていく。ブラック・サバス「Paranoid」の中盤ソロでは、世界が誇るフィンガー・テクニックを目の当たりにできた。トーヤのオリジナル・ナンバー「It’s A Mystery」も披露。すべての演奏を終えると「今日もありがとう、相棒」といった趣で、ギターにキスをするロバートが印象的だった。

    終始夫を煽り続ける妻、困った表情でそれに応える夫。この既視感ある夫婦漫才スタイルは「イギリス版 宮川大助・花子」と言っても過言ではないだろう。

    話題を呼んだYouTube「Toyah & Robert’s Sunday Lunch」は、現在も定期的に更新中。いつまでもお二人の元気な姿を観ていたい。きっと多くの方の願いだと思う。

    https://www.youtube.com/@toyah

    他にもジプシー・キングスや、スクイーズ、シンディー・ローパーなど、数々のレジェンド達が出演していた。

    ただ、すべてをチェックするのは物理的に難しい。限りあるライヴ・レビューから、本フェスティバルへの興味を持っていただけたら幸いだ。

    Text by Nozomu Kitazawa

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