• 行き渡るホスピタリティ。グラストが長年愛され続ける理由とは?


    6月末にイギリスで開催された、世界最大級のフェスティバル『Glastonbury Festival 2024』に、フジロッカーズ・オルグの取材チームで参加してきました。今回は取材チームに同行し、フジロックや朝霧JAMでも活躍するDJで鍼灸師のNozomu Kitazawaさんから、グラストのホスピタリティについて感じたことを寄稿いただきました。

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    グラストンベリー・フェスティバル(以下グラスト)に参加した。歴史的背景や概要はすでにあらゆるメディアで紹介されているためここでは割愛する。昨年はオーディエンス、今年はプレスとして参加した筆者が、異なる立場を通じて感じたグラストの在り方に触れていく。

    運営の根底に根付いたホスピタリティ

    グラストのメインアクトは金土日。ただし入場ゲートのオープンは水曜日に設定されている。フェスティバルの開催中、観客は誰もがキャンプをして過ごすためいい場所を確保する必要があるが、早めに来場するメリットはそれだけではない。

    すでに大小無数のヴェニューにおいて、ライヴ、DJ、サーカス、大道芸、ダンス教室など、枚挙にきりがないエンターテイメントが華やかに繰り広げられている。

    今年フジロックに出演し話題を呼んだフィンランドの新星「US」も、昨年の本編スタート前に目撃している。メイン・ステージがクローズしているにも関わらず、その人だかりと熱狂は本編そのものと変わらない。

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    表向きは観客への前夜祭だが、実はこれらの催しは「スタッフのために」開催されていると聞く。このコンセプトが実にグラストらしい。

    清掃スタッフだけで約3千人、関係者も含めればその数はトータル約6万人と言われている。本編が始まると忙しくなるから、あなた達もしっかり楽しんで良い仕事してね。そんな言葉が聞こえてきそうな、なんとも粋なはからいである。

    土曜日にはヘッドライナー「COLDPLAY」が、ピラミッド・ステージ(グラストのメイン・ステージ。最大約20万人収容)で熱狂のステージングを披露した。翌朝のゴミの散乱具合は夜の時点で想像に容易かったが、朝一番から清掃ボランティアによる作業が始まっており、みるみるうちにキレイな地面が姿を見せていった。

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    ボランティアの待遇面もしっかり考慮されている。シャワールームや寝床、はたまた従業員用のバーまで完備。仕事が終われば観客同様に過ごしていいそうで、楽しんで仕事にあたる姿が印象的だった。同行した取材班が、次はボランティアで参加してみたいと言ったことにも頷ける。徹底したねぎらいが、フェスティバルへの自発的な協力を生み出し運営を支えている。とても素晴らしい仕組みだと感じた。

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    現場の声を活かしたユーティリティの改善

    昨年に比べてユーティリティが格段に向上しているように感じた。ホスピタリティ・チケット(専用のキャンプ・サイト、専用チル・スペース、混雑回避の専用ルートが利用可能、金額は割高)保持者に限った話かもしれないが、シャワー・スペースの利便性は格段に向上していた。

    昨年は、5部屋ほどの個室を備えたコンテナが2台設置。前室とシャワー・ルームは混同。男女共用。排水トラブルが起こりやすく、部屋全体に水があふれると復旧までに時間を要するケースもあり、結果的に利用者は長時間待たざるを得なくなっていた。

    今年は男女別々。前室を設け、共用のロッカー・ルームに変更。個々のロッカーにはダイヤル・ロックを完備。シャワー室は、真ん中に通路、左右に10室ずつほど。床を硬質なプラスチック製のメッシュにすることで排水トラブルを回避。利便性はもちろん、利用者の回転率も格段に向上していた。現場の声を活かし素早く対応。利用者目線に立った運営に好感が持てた。

    キャッシュレスの光と影

     
    イギリスは韓国、中国、アメリカと並ぶキャッシュレス大国。地下鉄もタッチ式のクレジット・カードで乗車可能。現金を使うのはマーケットくらいと言われている。もちろんグラストの会場ではすべての支払いにおいてキャッシュレス決済が可能だ。

    昨年は通信環境が悪いこともあり、端末で決済できなかった場合は、現金で支払いをすることもあった。しかし今年はアンテナを増設したのか、通信環境が大幅に改善。ノー・ストレスですべての支払いをキャッシュレスで行うことができた。

    ただし注意点もある。あまりに気軽に買い物ができてしまうため、お金を使っている感覚が薄い。イギリスの物価は日本の約2〜3倍。何も気にせずお金を使える方は良いが、一般的な生活を送っている方は、少し気をつける必要があるかもしれない。

    キャンプ・サイトでは、限られた調理器具での自炊が可能。朝霧JAMに親しみのある方なら感覚的におわかり頂けるだろう。我々取材班も、TESCOなど地元のスーパーや商店で、食材から調理用のカセットボンベを事前に調達した。滞在中は自身の状況にあわせて、工夫して過ごすのがベターだ。

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    キャッシュレス決済は、深刻な課題も抱えている。それは「キャッシュレス決済時に生じる店側の手数料」だ。

    日本でも同じことが言えるが、この手数料がかなり高い。フェス会場の出店者は「スモール・ビジネス」がほとんど。おそらく出店料も割高だろう。列をなすような繁盛店でさえ、現金での支払いを希望する看板を掲げていた。

    暮らしが便利になることは決して悪くない。ただその便利さ故に、悩みを抱えている人がいることは忘れてはならない。

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    _フェニックス

    互いを思いやる、平和と共存のホスピタリティ

    グラストは平和へのメッセージを強く発信している。前夜祭では平和を祈るセレモニーが行われ、パレスチナや広島からもメッセンジャーが訪れていた。

    そのメッセージやマナーは、訪れる観客にも浸透しているように感じる。誰もが自由気ままにフェスを楽しんでいるように見える反面、対人マナーが抜群に良い。30万人が会場にいるのに人とふつかることが無い。万が一ぶつかったり、相手の邪魔をしてしまった場合はかならず「Sorry」と言う。

    日本はどうだろう?無視、無愛想、最悪の場合は喧嘩。フジロックでも注意喚起されていたが、未だに椅子を頭に乗せて持ち運ぶ人もいる。周囲への配慮があれば、このような行動は決して取らないはずだ。自分だけ良ければそれでいいのか?フェスへの参加をきっかけに、無関心、無頓着は卒業し、周囲を見渡せる「ゆとり」を持ってほしい。

    グラスト滞在中は見知らぬ観客と沢山の言葉を交わした。「Hello」「Have a good day」「Take care」「Safe travel」。日本に帰り電車に乗ると、皆同じ顔をして、スマホを触り、無関心をキメ込んでいる。時間が経てば自分もこうなるのだろうか?少しでも良いと感じ得たことは、意識的に日常に還元したい。

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    随所にホスピタリティを感じるグラストだが、決して会場のすべてに行き届いている訳ではない。

    車椅子やカートに乗った人専用の客席は各ステージごとに備わっており、メイン・ルートのバリアフリー化も見られるが、まだ改善の余地があるように感じる。それでも杖や義足、カートに乗った人は、笑顔でフェスを楽しんでいる。仮に困っていればきっと周囲も協力するはずだし、来年以降のさらなる改善にも期待したい。

    平和へのメッセージを強く発していたビリー・ブラッグ、ジャック・ジョーンズらのライヴでは、手話を取り入れたステージも披露されていた。

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    私は、多くの日本人にグラストに参加することを勧めたい。

    自身の在り方を見つめ直すには、うってつけの環境がここにはある。恥ずかしがる必要はない、誰もあなたのことを知らないのだから。

    ここにいる限り無関心ではいられない。目の前や隣にいる人は、決して他人ではない。参加するあなた自身が率先して、ホスピタリティの一端を担い、フェスを作り上げる一員になればいいのだ。

    人同士が心を通わせることは、他でもない平和への近道てある。生きていることを実感するために大切なことを、世界最大の祭りは教えてくれているような気がした。

    Text and Photo by Nozomu Kitazawa

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