• 夜月が照らし出すヒューマンストーリー -STUTSの音楽に包まれて-


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    10月13日(日)『朝霧JAM』2日目。17時20分にSTUTSが登場。「STUTSと申します!よろしくお願いします。」観客は待ちわびていた彼のステージに心躍らせ「Foooo!」と呼応する。

    青を基調とした照明がステージを照らすなか、1曲目はジャズ調の楽曲にて開幕した。トランペットの音がSTUTSの演奏するMPCの音と相まって、観客が楽しそうに揺れている。陽が傾き、肌寒い気温となってきたが、周りを見渡すと長袖を着ている人は少ない。横揺れする人や、全身を使って踊る人のテンションに私も充てられて、半袖で一緒にグルーヴを感じた。

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    「生演奏多めのセットで行きたいと思います。豪華なセットで楽しんでください。」MCからスタートしたのは、連続するスタッカートが特徴的な楽曲。リズム隊の音につられて、彼の演奏も軽やかにみえた。今回は前向きなセットリストで構成されているのだろうか?と思いきや、3曲目では日常に起こりうる精神へのダメージを表した楽曲がスタート。「がんばろうか がんばりな がんばるさ」シンプルなワードが鍵盤の音と相まって、突き刺さってくる。最近、自分が仕事の在り方で悩んでいたことを思い出し、思わず涙を拭っていたら、隣の客が肩を組んでくれた。体は冷えているはずなのに、心があたたかくて心地よい気分となる。すっかり夕陽が山に隠れてしまった時間は、辺り一面が薄暗くなってくる。静かなメロディーラインではじまった曲は意外とテーマが重い。例えば、曲中何度も登場する「ロングバケーション サマーバケーション」。この歌詞は、仕事生活が忙しすぎて休みも取れない社会人へのアンチテーゼを謳ったのではないかと思う。だから、「歩き疲れた少年もラッパーになった」というフリースタイルな人的表現へと直結して、より説得力を持たせるのではないだろうか。

    今回のライブは、日本のHIP-HOPシーンよりゲストが3人登場した。1人目は“KMC”。チェックシャツとデニムという飾らないシンプルな服装で、繰り出されるリリックが力強さを醸しだす。2人目は“Campanella”。8ビートにあわせて“自分イズム”を語りながら、2人の掛け合いと秀逸なハモリにより、野外のフェス会場でありながら、一気にクラブのような雰囲気と化した。「踊ることしかできねぇ!!!」近くにいた若い男性が大声を出して、踊りだしたときは思わず笑ってしまったが、ふと辺りを見ると、パーリーピーポーで満ちたフロアで一体感が生まれていた。

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    時刻は18時6分。夜に相応しい楽曲をここで披露。月が美しく輝いて、夜道を一人で歩いているような情景が浮かんでくる。私は「さっきはあんなミスをしてしまったな。自分はダメだな。でも夜が美しいから今だけは忘れられるかも。」走馬灯のように蘇る記憶と戦う自分が見えてくるようで、長い夜(人生)への感傷に浸っていた。そんな中、3組目のゲスト“JJJ”が登場し、イントロからテンションを挙げていく。ここでも引用されるのは「夜道」というワード。ただ、前曲とは少しニュアンスが変わっており「月は遠いけど 朝が来るまでもう少しこのままでいよう」希望を感じるリリックとともに、いずれ長い夜が明けることへの期待感を想像させる。私は正直「明けない夜はない」という言葉が大嫌いだ。だが、JJJが「レッツゴー!」と叫んだとき、まだまだ歩いていける気がしたのだ。彼のカリスマ性によって掌握されたフロアでは、私以外にも明日への希望を見出した者がいたのだろうか。ラストは、STUTSが操る心臓の鼓動のようなリズムとウッドベースの重低音が重なり合い、リズム隊の音が1音1音加速してラストへ駆け抜けていく様子が見事な楽曲で幕を閉じた。

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    最後に。今回とくに印象的だったのはSTUTSの人間性。一曲一曲が終わるたび丁寧に「ありがとうございます」。深々とお辞儀をするアーティストは、最近なかなか見ることがない。加えて、曲の合間に「靴紐が解けてしまって。結んでもいいですか?」と笑いを誘う場面も。膨大な時間をかけながら、丁寧に創りこまれた楽曲。反して、素直で愛らしい性格のギャップ。これこそが彼を惹きつける一番の魅力なのかもしれない。

    Photo by 宮田遼
    Text by YAMAZAKI YUIKA

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