折坂悠太(重奏)| KEEP ON FUJI ROCKIN’ Ⅱ
- 2021/01/02 ● Report
来年の苗場に信用できる希望を灯した無尽蔵のシンガーソングライター
2020年、苗場のフジロックで見たかったとつくづく思う、日本のシンガーソングライター、表現者としてパラダイムシフトを起こしたステージだった。民謡や謡曲、ジャズ、セカンドラインやブラジル音楽、果てはカントリー/ブルースなどを飽くまでも個人のフィルターを通して生み出す折坂悠太が世界の音楽が結集するフジロックでどんなリアクションを得るのか?想像しただけで痛快だからだ。
今回は重奏スタイルという京都のミュージシャンとのステージ。折坂もyatchi(Piano)、senoo ricky(Dr、Cho)、宮田あずみ(Contrabass)、山内弘太(G)の4人も、自分の音と向き合いながらアンサンブルを作り上げていくのが信用できる。口火を切ったのは1曲目としては意外な“みーちゃん”。初めての会場、観客のいないフロアに最初は不慣れな様子だ。MCでも「観客のいない舞台の上でやっております」と話し、続けて「コロナがあるなしに関わらず、生きることは踊らされているようなことだと思いますので、今日ぐらいはパーッとやりましょう」と言ったあと演奏した“坂道”のアウトロでボサノヴァ調のインスト・アレンジに展開しバンドに火がつき始める。
そして現在、テレビドラマ主題歌でもあり最も知名度があるであろう“朝顔”。遠くで鐘が鳴るような響きに雨だれのごときピアノのフレーズに鳥肌が立つ。折坂はまるで体の一部のようなギターを爪弾きながら、徐々に熱を込め、サビの《願う、願う、願う、願う》を腹の底から歌う。さらにブラジルのミナス音楽を彷彿とさせる“心”では山内のスライドギターがアブストラクトな音像を作り出し印象的だった。
自然災害に遭った人々とその時間を題材にシンガーソングライターのbutajiと共作した“トーチ”も、事柄は違えど疲れた心に響く。具体的に慰めの言葉があるわけではない。メロディや情景に心が自然と共振するのだ。ゲスト・ミュージシャンのハラナツコ(Sax)も加わった“春”。極めて少ない言葉数――《確かじゃないけど 春かもしれない》という歌詞が、凍ついたり強張った心を溶かすような、春の訪れを感じるようなニュアンスを伝える。どんな種類の希望かはわからないし、生きる厳しさも含んだ希望のような気がする。でも、彼の素朴かつ冷静さも含んだ声が「希望」に説得力を持たせるのだ。
最後の曲の前に折坂は「音楽の好きな友達がいなくて、フジロックには一人で行っていました。そこから見た景色をすごくよく覚えています」と言った後、何かもう少し話そうとしたが、決心したように「来年は面白い年にしましょう!折坂悠太でした」と挨拶し、“芍薬”へ。全員で自由に鳴らす音がつむじ風を起こし、そこに謡いや漁やカウボーイの掛け声のような折坂独自の「歌」が乗り、鬱陶しい気持ちを跳ねのけていく。痛快に《春は来ぬ!》と歌い、来る年への祈りを昇華し切った。
SETLIST
みーちゃん
悪魔
坂道
朝顔
心
トーチ
炎
春
芍薬
※Spotifyで配信されていない曲は含まれません。
Text by 石角友香
Photo by 平川啓子