アンクルオーウェン船長・松井聡太インタビュー(前編)〜「にぎやかし」バンドのフジロック出演裏話 〜
- 2012/07/01 ● Interview
フジロック開催前には話題にならなかったアーティストが、終わってみたらばやたらと会話に絡んでくる。そんな、新たなアーティストとの出会いも、フェスのひとつの醍醐味ではないでしょうか?
ここ最近のフジロックには、「出演しまくる」アーティストがいたかと思います。スウェーデンからやってきたレーヴェンに、ポマードでぴっちりキメて、ロカビリーをかき鳴らしたムスタング。彼らに共通することは、フジロックの幕が開くまでまったくの無名だったということ、そして、『アンクルオーウェン(UNCLEOWEN)』というレーベルに所属するアーティストだということ。
その、アンクルオーウェンのレーベルオーナーにして「船長」を自称する松井聡太氏に、レーヴェンとムスタングの裏話、彼らにまつわる新たなたくらみ、今年のフジに出演させるオンダ・バガのことや、レーベルのこだわりなどを訊いてみました。
いかんせん長くなりましたので、インタビューは前編と後編の2部構成となっています。前編となる今回は、過去のフジ出演者(ムスタング、レーヴェン)に関してのお話です。最後には、レーヴェンの新譜、そして、そのドラマーに関する面白そうな情報が初公開されていますので、くれぐれもお見逃しなく。
まずは、6月に日本ツアーがあったばかりのムスタングから触れてみた。ツアーの皮切りは、横浜赤レンガ倉庫で行われたグリーンルーム・フェスティヴァルだった。
ヘブンのようなゆるい雰囲気の中で、キメまくったロカビリーが鳴っているのは面白かったですね。もちろん、しっかりと盛り上げてくれましたし、出演させて良かったと思います。ツアーも、フジロック好きの方だけじゃなくて、ロカビリー好きの方、あとはフランスの音楽そのものが好きな方もいて、どこの会場も良い雰囲気でした。それに、飯田橋に「日仏学院」というフランス政府の公式機関があって、そこでもライヴができましたからね。あいつらにとっても大きなことだと思います。
「あいつら」とはなれなれしい、と思うかもしれないが、彼はレーベルのアーティストと友達のような関係を築いている。インディーレーベルは好きでないとやってられない……そんなことがよくわかる言葉と表情だった。ライナーノーツも、ディスクユニオンで手書きのPOPを作っていた経験を活かし、ユニークな文体で自ら書いている。
ふと気になったのが、ムスタングの名前だ。シンプルな名前は覚えやすいが、ネットの上では埋もれやすい。そもそもの意味である「馬」が出てきたり、アメリカの車が出てきたり、他にも同様の名前が無数にある。どのようにして知り、レーベルに迎えることとなったのだろう?
出会ったきっかけは、スマッシュのクリサワさん(ヘブン、パレス担当)なんですよ。2010年の春、クリサワさんがフランスのフェスに行ったんですけど、ちょうど、向こうにいる時にアイスランドで噴火があったんです。ヨーロッパの飛行機がまったく飛べなくなって、日本でもニュースになりました。足止めをくらってた時にたまたま別のフェスがあって、そこで彼らを見つけたらしいんです。で、すぐに映像を送ってくれて、「かっこいいじゃないですか!」って。即決でした。ムスタングは、普通に検索しても出てきません。僕は “ムスタング(フランス)” でひっかかるように誘導してます。
最初のステージは前夜祭で、しかも1番手だった。ここは、フジの幕が華々しく開ける場所だけれども、無名のバンド目当てに集まっているとは思えない。前夜祭のレッド・マーキーは、オーディエンスにとってバンドが有名かどうかは二の次で、爆音に飢えているだけのような気もする。もっと言うならば、フェス気分を一気にかち上げてくれるような、「熱」を欲しているのではないだろうか。そんな状況の中で、「ムスタングに緊張はあったのか?」と訊いてみた。
緊張してましたねー、当時、あいつらはめちゃくちゃ若かったんですよ。21か22歳のはずです。初の日本公演が前夜祭で、大きいテントを埋め尽くすほどの人が、異常なテンションで待ち構えてるんです。ステージに出て行くまでは、「これ、どーすりゃいいんだ?」って、ずーっとテンパってましたね。結果として最後までお客さんは減らなくて、大成功でした。
フジ全体では、公式のライヴが5回、非公式を含めると7回になりました。ライヴのペースそのものはレーヴェンと同じだったんですよ。実はあいつら、フジの最終日には苗場にいなかったんですけど、皆さんそんな気はしないでしょう(笑)
「たて続けに出演しまくる」のは、前年のレーヴェンが最初だった。人が人を呼ぶこととなったのはなぜか? いちいち語るよりも写真を見てもらうのが早いかもしれない。
アンクルオーウェンのフジ初仕事だったのがレーヴェン。「にぎやかし」として、フジロッカーズに鮮烈な印象を与えただけでなく、苗場における物販CD売り上げ記録まで打ちたて、それは今なお破られてはいない。そもそも、彼らをアンクルオーウェンでリリースすることとなったきっかけは何だったのだろうか。
「フジに呼ぶからリリースしないか?」っていう流れで話が回ってきたんです。もっと言うと、ウチに話がくるまで、ずっと日本のレーベルに断られ続けてたんです。日本では、「インストはあまり売れない」というジンクスがあるんですよ。でも、僕は聴いた瞬間に、「いける!」って思ったんです。賑やかなんで、言葉がいらないじゃないすか。ライヴを体験してくれれば……って感じでした。
今ではアンクルオーウェンの色ともいえる、「出演しまくる」というアイデアは、いったいどこから来たのだろう。
あれはただの悪巧みですね。いっぱい出そうという話がきたのはスマッシュからですよ。スマッシュUKのジェイソン(・メイオール)たちがグラストンバリーでたまたま見たんですよ。その時にライヴをたくさんやってて、「こういうやりかたもあるんだ」みたいなことを言ってましたね。フジロックは、公式が8つで、非公式を含めると11回。最初はこちらも前夜祭のマーキーでした。
レーヴェンの前夜祭は、人波をかきわけての「練り歩き」から始まったという。
もう勝手にやっちゃおうと思って(笑) 普通にステージの袖から出てきてもつまんないじゃないですか。レッドが開く前に、オアシスのフジテレビブースでインタビューを受けていたんですよ。じゃあ、その流れでレッドまで、って歩いて行きたかったんですけど、大雨だったので予定を変更したんです。なんで、ドラゴンドラに続く道のところから、正面きってレッドのステージに突っ込んでいくという形になりました。
「勝手に」という言葉に、怒られたのかどうか気になってしまった。さすがにもう時効だろうと思ったけれど、念のため、「本当に書くよ?」と前置きしてから訊いてみた。
書いても大丈夫ですよ(笑)「あれはマズかった」っていう話は聞きました。誰の確認もとってませんからね。スタッフさんだけじゃなく、レッドのお客さんも驚いたと思います。ガイジンが突っ込んできて、「こいつらはなんだ?」って思ってるうちに、そのままステージに上がっていくんですからね。結果としてお客さんが喜んでくれてたので、良かったと思います。正直なところ、レーヴェンが話題にのぼったのは、前夜祭の力が大きいと思ってます。フジロック期間中の物販CD売り上げ記録の更新までは考えてませんでしたけど(笑) やっぱり、「生のライヴ」と「口コミ」の力は強いです。一番信頼できますよ。
レーヴェンのライヴはまるで酔っぱらいの宴会みたいな感じで、凄いのだけれど、なかなかうまく説明できない。実際に見てみないとわからないから、友達を誘いたくなる。そんな、一連の流れを見越したかのように、ライヴが組んであった気がする。レーヴェンというバンドが持つ要素の全てが祭りを体現し、フジロックにハマっていたと思うのだ。その仕掛け人だった船長自身の中に、「レーヴェンが人気者になった」という感覚が生まれたのはどのタイミングだったのだろうか?
実感したのは初日の苗場食堂でしたね。明確な区切りのないステージで、「入りきらない」っていう表現は変なんですけど、グリーンに続く橋のところまでお客さんがいて、想像以上でした。あと、最終日のパレスも凄かったんですよ。1回終わって、DJがあって、パレスを閉める時間になったんですけど、お客さんが帰らなくて、「レーヴェン!」コールが生まれて。で、やっちゃいましたね(笑)チョー盛り上がりました!
レーヴェンのライヴを見た人は、音源を手に入れても、満足はしないかもしれない。音楽ではない部分がやたらと面白いのだ。冒頭の写真にある肩車も驚きだが、特筆すべきはフラフープ。こちらは、素人の目で見ても、いわゆる「ミュージシャン」のレベルではない。
マーティン(サックス)は、元々はサックス奏者じゃなくて、サーカス団のメンバー。その時にフラフープの技を磨いてたそうです。しばらくして音楽にも興味を持って、バンドを結成したっていう流れなんです。もっと言うと、彼の友達はシルク・ドゥ・ソレイユに参加してるんです。レーヴェンが代々木公園でライヴをやろうとしたことがあったんですけど、警備に止められて、仕方なく公園の外に出たら、たまたまシルクのテントがあったんですよ。それで、「友達がいるから」と連絡してみたんですけど、突然だったせいか繋がらなくて、結局はそのテントの前で勝手に演奏をやってました(笑)
レーヴェンにとって、ゲリラライヴは日常なのかもしれない。地元のスウェーデンでは、彼らが中心となってフェスも開催しているそうだ。それは一体、どんなフェスなのだろうか。
フェスは2、3年に一回くらいのペースでやってますね。バンドだけじゃなく、マーティンのつながりでサーカス団も呼んでるんで、そこらへんで火を吹いたり、仮面舞踏会のような女の人たちがいっぱいで(笑)
これを聞いて、「パレス!(・オブ・ワンダー)」と思わず口にしてしまった。
そうそうそう、ほんとそうなんですよ!
アンクルオーウェンが中心になって、サーカスっぽいイベントの企画をやらないのかも聞いてみた。
やりたいですね! 実は今、レーヴェンのパー(ドラム)が、向こうで「コモド」というパーカッショングループを組んでて、『ストンプ』や『ブルーマン』みたいなことをやってるんですよ。メイクして、けっこうコメディの要素がちりばめられていて。国が全面的にサポートしているんで、向こうではものすごい人気になってます。今度ウチでDVDを出します。これは変わった形で出そうかなと。
(……あれ、これってオフレコか?)と内心思ったのだが、すかさず船長が次のように言ってくれた。
このインタビューで解禁です。ノリです(笑)
ごちそうさまです(笑)
アンクルオーウェン船長・松井聡太インタビュー(前編)、いかがだったでしょうか? 思いがけずリリース情報が出ましたが、これは年内をメドに、ということだそうです。こちらにコモドの動画がありますが、かなり面白そうですよ。
後編は、レーベルのこだわりと、今年の「にぎやかし」として白羽の矢がたった、オンダ・バガについてのインタビューとなります。ひきつづき、フジ気分を盛り上げてお待ちください。
(後編を読む)
名作RPG音源を酒飲みアーティストがカバーするコンピレーションアルバム『Beer SQ』がスクウェア・エニックスより、7月4日に発売。レーヴェンの担当は、”ファイナル・ファンタジー・メインテーマ”となっています。
詳細はこちら→スクウェア・エニックス『Beer SQ』
アンクルオーウェンの所属バンドを集めたコンピレーションアルバム『JOLLY PIRATES〜海賊の宴』が、ヴィレッジ・ヴァンガード限定発売。※レーヴェンは既存曲が2曲収録されています。
発売中 アンクルオーウェン公式よりリンク先へ。
アンクルオーウェン公式サイト:http://www.uncleowenmusic.com/
写真:直田亨(ムスタング)
前田博史(レーヴェン)
西野太生輝(インタビュー)
執筆:西野太生輝