• フジロック延期について今大将は何を思うのか。SMASH日高氏ロングインタビュー


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     みんな、どこかで想定はしていたと思う。それでも、今年は「苗場でフジロック」を体験できないという現実を目の当たりにしたとき、なんとも言えない虚脱感に襲われなかっただろうか。毎年、ここを目指して生きているといえば大げさかもしれないが、フジロッカーにとって、これが1年の軸として存在しているのは間違いない。「延期」という決定が届けられたとき、文字通り、ガックリと肩を落として、呆然とした人も多かったのではないだろうか。

     スマッシュのスタッフもきっとそうだろう。なにせ、これだけではないのだ。予定されていたコンサートがことごとくキャンセルや延期を余儀なくされ、先も見えない状況に追い込まれている。きっと落ち込んでいるんだろう……、と想像しつつ、日高氏とのインタヴュー前に事務所を訪ねたんだが、そこに暗い雰囲気はなかった。新型コロナ・ウイルスのこともあり、中に入ることなく、開けはなたれた窓から顔を覗かせるスタッフと軽く言葉を交わしただけなんだが、なにやら明るい。吹っ切れたのがどうか、いつもと変わらないのだ。

     そこからスタッフに連れられて、日高氏の自宅に移動。迎え入れてくれた彼も、いつもとな〜んにも変わったところはなかった。

    「行くとこまで行くつもりだったよ、最初っから。でも、(結論を出すのは)最悪で6月末かなぁ… でも、もう待たない方がいい、見込みも立たないしね。仮になんとかできたとしても、何万人も集めてみろよ。一方では「叩き」に入ってくるわ、一方ではとんでもない金がかかる。なにもかも清潔に消毒して… 『2m距離おいてください』って、客に言えるか?(笑)俺らがそんなことのために柵を作ると思う?」

     と、笑いながら、話し始めていた。当然ながら、アーティストが日本で公演をするにはヴィザが必要になる。その取得には2〜3ヶ月の時間を要するのだ。しかも、海外からの入国規制がどう転ぶかも不透明。それはアーティストのみならず、海外からやって来るフジロッカーにも重たくのしかかってくる。それを考えればわかるだろう、最後の最後まで予定通りの開催を目指したのだが、現実的に無理があるのだ。

    一番大切なのはお客さんの健康だもん

    「励ましのメールもらったよ。『フジロックは日本の文化的財産です』とか。『絶対にやめないで』とか。ありがたいと思う。お客さんと会うたびに、言われるんだよ。『この一年間をずっと待ってました』とか。俺、何人も会ったもの。このために金を貯めているとか、このために休暇を取るとか……。 フジロックの日に合わせて働いているとかさ。そんな人たちのことを考えると、つらいなぁってのはあるさ、もちろん。でも、『いつか来ること』なんだよ、結論は」

     と、なによりも彼の頭の中にあるのは、毎年フジロックを楽しみにしているフジロッカーのことだというのがよくわかる。とはいえ、そこでいろいろなものが沸騰しているんだろう。このあたりから彼の話が本筋から少しずつ逸れて行くようで、そうでもないという微妙な流れに入っていくことになる。

    「人類ってぇのはな、ぼけてるって。文明や技術が発達すると、行ってはいけないところにまで行っちゃうんだ。アフリカの奥地、入っちゃいけないような原生林の奥の沼やらなんやら、触っちゃいけないものにまで触れて、それを持って帰ってきたり。昔からそうさ。コロンブスはアメリカ大陸から性病をヨーロッパに持ち込んで、ナポレオンは地下水道を作って川にばい菌を垂れ流した。スペイン風邪だって第一次世界大戦でアメリカがヨーロッパに兵士を送り込んだことが発端だしな。そんなのが積み重なって、爆発しかかってんだよ。いろんなものを乗り越えてきたよ、ペストとか疫病もな。でも、『もういい加減にしろよ』って言われてんのさ、地球から。そのうち、宇宙かどこかから、なにか持ち帰って『はい、それまで〜よ』(植木等風に..っても、わかんねぇか?)ってなことになるんだろうな。ずっと、そう思ってきたから。3月ぐらいかな。これが大きな騒ぎになるとは誰も思っていなかったかもしれないけど、「来たなぁ… ノストラダムスの大予言だな」って。(これもわからない?1973年のベストセラーで1999年7月に人類が滅亡すると予言した書)北極でも南極でも氷が消えてきて、温暖化だってぇのに、そんなこと知ったこっちゃねぇって、中国もアメリカもやってるわけだろ? そりゃぁ、罰が当たるわな。それを考えたら、人類がこの状態を創造したようなもんだよ」

     では、いつから「今年の開催が難しくなる」ことを考え始めたのか。

    「何ヶ月も前、とっくの昔から考えてはいたよ。いつもそうなんだけど、一番いいことと悪いことを想定して、そのうえで判断していくんだ。他人がどう言おうと、絶対に無理だって言おうと、やるときはやるよ。なぜかって言えないけど、まぁ、俺の性格だろうな。ただ、(今回)判断するのが、難しいとは思わなかった。そりゃぁ、心配はしているよ、地元のことは。去年から今年にかけて、雪が少なかったろ、苗場では。つぶれてる旅館もあるし……。当然、この段階でフジロックでホテルや旅館は全部売り切れてるわけさ。だから、なんとかなりませんかね……ってなるだろ? それはあったよ。それに直接関わってくる業者の方々にはもろに影響があるし、税金や経済効果って政治や生活の面を含めて、単に音楽イヴェントってだけじゃなくて、影響は大きいから。それを含めて判断しなきゃ。でも、一番大切なのはお客さんの健康だもん」

     一方で、自分の会社は? フジロックの延期によるダメージが小さいわけはないだろうし、ここ数ヶ月、全くライヴができない状態が続いているのだ。当然、なかには「スマッシュ、やばいんじゃない?」と心配している人も多いはずだ。ところが、それを話題にすると、「喜んでるな、スタッフは。仕事しなくていいから(笑)」と笑い飛ばすのだ。同席したスタッフが「喜んでいないッスよ」と口を挟むのだが、お構いなし。

    「一番心配したのは……、ステージ諸々の設備関係。考えてみろよ。あれ作るのに大変なお金がかかってるよ。それがぽんとなくなっちゃったわけだろ。だけどもね、全然苦情もなかった。『残念です、うちのスタッフもただの仕事じゃなくて、楽しみなんです』って感じでね。ありがたいなって思うよ。関係者のみんな、ミュージシャンも。いろんなプラン持っている人がいるじゃない。フジロックに合わせてアルバムを出すとか……。それが全部パーになっちゃうんだから。しかも、よそじゃできないわけさ。2m離れろとか。今はライヴもできないんだから。そう言えば、今日のニュースに出てたけど、加藤登紀子さん、えらいよ。ライヴやるってね。会場も応援してくれているみたいだけど、赤字とか黒字とかじゃないんだよ。こうゆう時にこそ、音楽が人を励ますんだっていう、あの人の心意気だよ。えらいなぁとホントに思った。こんな状況が続けば、席のある会場はキャパシティを半分ぐらいにして、できるようにはなるだろうけど、スタンディングでやっているところは、たいへんだろうね」

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    これも『試練』のようなもんだと思う。

     自分の会社のことは「なんとかなるさ」と軽くスルーして、話はいろいろな方向へと転がっていく。

    「世の中にあるものは、いいものであれ、悪いものであれ、なくてはならないものであれ、ろくでもないものであれ、自然にいつかどこかで淘汰されると思ってんだ。いつ、どれが? わからん。けど、15歳ぐらいから世の中を渡ってきて身についたのは……、全部自分でやれってことだな。人がビルを作ってくれるから、そこに入るってんじゃなくて。フジロックでもそうさ。雨が降ったら、勝手に濡れてろ。自分のことは自分で面倒見なさいとかしか言えない。それができないんだったら、来ない方がいいとさえ言ってきたしな。人間ってさ、そんなに悪いと思ってないんだよな。絶対に自分で自分のことを立て直せるし。そういう意味で言えば、これも『試練』のようなもんだと思う。おい、お前たち、のぼせ上がってんじゃねぇか?ってな。成功したとか、今までなんとかなったからとか……。そんなもんじゃないよ」

     その『試練』という言葉で言えば、ここ2年のフジロックだろう。一昨年は台風にやられ、去年は史上最悪の豪雨に見舞われていた。あの時、現場で働いていた我々でさえ、主催者がぎりぎりの判断を迫られているんだろうと察していたし、対応に追われて動き回っているスタッフの姿も目撃していた。が、幸運なことに、事故もなく、翌日の晴天が『試練』を乗り越えたご褒美のようにも思えていたものだ。

    「俺にはそうは思えなかったな。去年の土曜日からの大雨に関しては、確かに判断を迫られた。で、スタッフには夜の12時まで待てと言って、それまでに雨脚が収まらなかったら、今日はこれで終わり。明日やるかどうかは、それまでに決めるってな。足場の問題やら、いろんなことがある。なによりもお客さんの安全が大事だから。その時、なんか「勘」ってのがあって、ひょっとして、これよりもよくないことが来るかなぁってことも考えた。心配しすぎかもしれないけど、感じるんだよ。そうしたら、どうなった? 3ヶ月後の朝霧ジャムさ。台風でぶっ飛んだろ。あん時は、覚悟してたもんね。朝霧入りしてなかったんだけどね。ずっと『どうしますか、どうしますか』って、現場から連絡が来るんだ。で、あの週の火曜か水曜だったかな。決めたら、電話するって言ってたんだけど、状況は変わらないというので現場の方から中止の連絡さ。で、『明日行くから』って言ってるのに、明くる日現地から入った連絡じゃ『撤収は終わりました』だからな(笑)。早いのなんの、うちの連中。お別れ会もできないし、ご苦労さんとも言えなかったよ」

    なにやら、そういった『試練』を楽しんでる? そんな風にも見受けられるが、どうなんだろう? 振り返れば、フジロックなんぞ、その始まりから『試練』の連続だったように思えるのだ。

    「試練とまでは言わないけど、俺はきついことが好きなんだ。だからフジロックをやったんだよ。よそはやらんだろ、こんなこと。考えもしないだろってね。それが大きな理由だったからな。もうひとつは自然のなかでこうゆうことをやりたかった。都会のなかで行儀よく並んで、コインロッカーはあって水洗トイレもあって、なんでも面倒を見てくれる。そんなんじゃないイヴェントをやりたかった。それと、世界中の音楽をみんなに聴いてもらいたかった。こんなに音楽産業が進んだ日本で、これほど他の音楽を聴かない国民ってないよ。ホッキョクグマの演奏を聴けとか、南極のペンギンのダンスを見ろなんてことは言わないけど(笑)、いろんな音楽にも興味持ってくれよってことさ。テレビから流れてくるような、(これは書いてくれよ)バカでもできるような音楽じゃなくて。みんな同じかっこうしてさ。好きなんだよね、ユニホームが。たぶん、人と同じ格好をしていたら、嬉しいんだろうな。安心なんだろうな。ま、逆に言えば、それが美点なんだろうな。弊害でもあるけど。個性がなくなってしまうから。」

    来年はな、ぱぁ〜っとぶち上げてやっからな

     話は戻って、今回の「延期」決定に関して、スタッフで意見は分かれなかったんだろうか。また、どこかでフジロッカーズが感じた「悔しさ」や、それに似た想いはなかったんだろうかと訊ねると、「そりゃぁ、悔しいですよ」とスタッフのひとりが口にして、もうひとりは「通り越してますよね、それ。第一弾発表を遅らせたのも、いろんな事態を想定して、なんとかやろうとしていたわけですから」と話してくれたんだが、日高氏はと言うと……

    「スタッフの意見は割れてはいなかったよ。まぁ、きついとか、心配だとかってのは、もちろん、いろいろあったろうけど、直接、俺の耳には入ってこんな。ま、言っても仕方ないって、みんな思ってるだろうし。それに、俺にはねぇ、悔しいの「く」の字もないね。だって、いつも最悪を考えてっから。今年は中断。でも、来年はな、ぱぁ〜っとぶち上げてやっからな。やるよ、なんでこんなバカなことを考えるんだろ、あの男はって言われるようなこと。もし、これが苦渋の決断だったとすれば、そうじゃないように持っていけばいいんだ。来年もっと楽しめるようにするための決断だったんだってね。まぁ、なんか水戸黄門だな。『人生苦もありゃ、楽もあるよ』ってな(笑)。知らねぇだろうな、若いヤツは。いい意味で、去年は頭から水をぶっかけられて、今年は消毒薬か? ただ、お客さんには、ホントに申し訳ないと思ってるけど、同時に、昔から来てくれているお客さんは来年に向けて切り替えてくれると信じてるよ。きついように考えるのと、いいように考えるのもあるさ。でも、きついのを楽しいものに変えちまおうっての、わかってもらえればありがたい。チケットを持ってる人、楽しいプレゼントするからね。たいしたもんじゃないけど、笑えて記念になるもの。もう、頭の中でデザインできてるんだ。今年のチケットを来年持ってきてくれた人に渡す。はっきり言えば、幻の20ってのかな。『俺は持ってるけど、お前持ってないの』って、ちょっと自慢できるようなものにするから」

     さて、多くのフジロッカーがなによりもフジロックに行くためにチケットを手にするのであって、出演者が理由ではない…‥、とはよく囁かれる言葉ではある。でも、当然、気になる。「延期」であるからにはすでに発表しているアーティストたちの出演はそのままと期待していいんだろうか。

    「基本的にラインナップは変えない。でも、相手次第だよね。というのは、特に海外のアーティストはワールド・ツアーを考えて組み込んでいるからね。スケジュールが合うかどうか、来年動くかどうかってのもあるし、数年に一度しかツアーをしないってものある。ただ、担当者に確認したら、今のところ、それは顕著に出てきてないし、ノーと言ってるのはないんじゃないかな。もちろん、彼らも心配してくれてるしね。ヴィザやウイルスのことを訊ねてくることはあっても、ネガティヴなレスポンスは一切ないから。それよりなにより、お客さんたちが『今年できなくて、来年になった』というのを理解してくれて、納得してもらえれば……、自分で言うのもおかしいけど、俺は、フジロックを誇れるね。アーティストも。ま、なるようになるさって言ったら、植木等クラスの無責任か? でも、見えないことで悩んだってしょうがねぇだろ。それよりも、今日一日を生きていく方が大事なんだ。そして、将来に対する希望もあればいいんだけど、全部が全部かなうってのが難しいってこともあるじゃん。そうなったら、そうなったで、なんかへんなこと考える。もうすでに場所まで頭に入ってるからな、うちの連中にも、まだなにも言ってないけど。ん? みんなへのメッセージ? 公式で出した声明ぐらいしかないけど、今言えるのはこれだな。「フジロックの楽しみ、倍返しにします」。三倍まではできないけどね。それぐらいだよ。みんな、来年まで楽しく生き延びてね」

     そうはいうものの来年まで14ヶ月。それまでなにもないのもさびしいし、フジロックの森やボードウォークのことも気になる。なんかやってくれないかなぁと思うんだが…‥

    「やりたいこと、やれること……、いっぱいあるよ。苗場でだろうが、どこだろうが。でもな、今のこれ(新型コロナ騒ぎ)が収まらないと、なにもできないじゃん。なんかでかいことをやるってのじゃないよ。楽観的なことはなにひとつ言えないし、なにかわからないけど、フジロックに向けて、いろんなアイデアはあるから」

     実は、SNS上ではすでに今年の8月、フェスティヴァルが開催されている時期に苗場に行こうという動きを見せている人たちがいるという噂も伝わっている。個々人がなにをするのかということに干渉するつもりはない。それもフジロックや苗場への愛があってこそなんだろう。が、なによりも大切なのは地元の方々。彼らの意向や気持ちを優先して考えていただければと思う。

    「俺はね、フジロックが好きでたまらないってお客さんがいっぱいいるってのを身にしみて知ってるんだよ。20年以上、いろんな人と会ってきてるから。うぬぼれじゃなくて。みんな、雨が降っても、日が照っても、本当に楽しんでるんだよ。俺は、そんなみんなの顔を見るのが嬉しいんだ。ニコニコした顔な。譲り合ってくれ、助け合ってくれって、1年目から言ってきたじゃないか。東京だと文句ばっかだったり、人にいらだちを覚えたり…‥。そりゃぁ、フジロックでもすし詰めになったりってこともあるけど、都会で見るような嫌な顔って、見たことないもん。なんたって、1年目のフジ・ショックとな、あの根性があればな(笑)、なんだって乗り越えられるさ。何回考えても、あの時の光景は、自分の経験のなかでもトップクラスだからな。あの中止の決断な、俺は一生忘れんな。あん時はなぁ、スタッフが泣いた、泣いた。しかも、帰ってからも、これほどまでに叩くかってほどに叩かれて、電話が鳴りっぱなし。それを受ける女の子たちが泣いてたんだ。メディアもこれでもかってほど攻撃してたしな」

     でも、それで終わるどころか、逆に『だからこそ、やってやる』という気持ちを持ち続けたスタッフと、あれから23年間、1年たりとも休むことなく続いてきたのだ。フジロックをインスパイアした英国のグラストンバリーでさえ数年に一度は『お休みする』という流れがあるにもかかわらず。

    「普通の人たちからすれば、田舎に4万人(1日)も集まってきて、3〜4日間も踊り狂って楽しんでる方が異様な光景だからな。一時は、オウムのようなものじゃないかって言われたこともあったから。そんなイヴェントが、この日本で20何年も続いてきたんだよ。海外じゃ暴動もあれば、死人も出てるけど、そんなこともなくまだ続いているってのが、奇跡とまでは言わないけど、素晴らしいと思うんだ。で、来年は……、災い転じて福と成すって、なればいいね」

     どこかでフジロックは、年に一度の里帰りのようなものだろう。前夜祭のレッド・マーキーで、最初にみなさんと交わす挨拶は『お帰り!』であり、返ってくるのは『ただいま!』という声。それができなくなった今年、ひょっとすると、その価値や重要性を再認識するいいチャンスなのかもしれないとも思えてきた。有名な詩の一節を思いだしてみればいい。故郷は遠きにありて思うもの。この日の日高氏との会話はこのあたりでまとまったのかもしれないな。

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    Text by 花房浩一
    Photo by 森リョータ

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