• 三度の苗場降臨!今こそフジロックでトム・ヨークのパフォーマンスを体感しよう


    Photo by Alex Lake

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    先日ついに発表されたフジロックのタイムテーブル。「中村佳穂とレッド・ホット・チリ・パイパーズが…」「ミツキとティコが…」「クルアンビンとジェームス・ブレイクが…」とかとか… 時間帯被りに悩まされるのもこの時期の醍醐味だけど、その中でもケミカル・ブラザーズとトム・ヨーク・トゥモローズ・モダン・ボクシーズが被ることにドギマギしているのは、僕だけではないだろう。だって、どっちも絶対最高だもん。ケミカルも観たいし、トムも最初から観たい。というかルミニアーズも観たい… 贅沢な悩みだよね。

    さて、どう選ぶかはそれぞれの自由なので無理強いはしないが、一つだけ言っておきたい。今回のトム・ヨークのステージは絶対に観るべきだ。中には「レディオヘッドは好きだけど、ソロだし今回は観なくていいか、レディオヘッドの曲やらないんでしょ?ケミカル観たいし」なんて人もいるかと思う。あるいは「2015年の来日公演はなんだかよくわからなかったし、今回も似たようなもんでしょ?ルミニアーズにするよ」みたいな人。

    いやいや待ってくれ、それは誤解だ。むしろそういう人こそ今回のトム・ヨークのステージは絶対に観るべきだ。ソロだからいいやなんてとんでもない。ではそれはなぜなのか?

    大前提として書くと、先日リリースされたソロ3rdアルバム『ANIMA』は素晴らしい内容だった。内省的な密室感と肉体が奏でる生々しい躍動感、シームレスに前景が移り変わっていく幽玄なサウンドスケープ。それらが絶妙なバランスで融合していて、小難しいことを考えなくともなんだか踊れる、そんなアルバムだ。『ANIMA』を聴いておけば、あるいはまったく未知の状態で現地に行ったとしても、衝撃的な体験になることは間違いない。ビリー・アイリッシュも言っていたように、今この瞬間を全力で楽しめばそれでオーケーだ。

    だから以下の文章はお節介のようなものかもしれないが、トム・ヨークがここに至る道筋を考えることで、今回のステージがいかに意義深いものなのかを示したい。というのが本稿の趣旨。悩みが増えるだけになるかもしれないが、タイムテーブルを考える一助になれば幸いだ。

    ANIMA〜Tomorrow’s Modern Boxesプロジェクトの完成形

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    アーティスト名にも冠されている『Tomorrow’s Modern Boxes』。2014年リリースのソロ2ndアルバムは、トム・ヨークの頭の中をラフに描いたスケッチのようなアルバムだった(先日期間限定でリリースされた『OK Computer』期のデモ音源をイメージするとわかりやすいかもしれない)。そして2015年にスタートしたトゥモローズ・モダン・ボクシーズ・ツアー。レディオヘッドからの盟友ナイジェル・ゴッドリッチ、オランダの映像作家タリク・バリをVJに迎えた3人でのミニマルなセットは、この時から現在まで一貫している。4年前のことだ。

    ところで、この年のHOSTESS CLUB ALL-NIGHTER(SUMMER SONIC内の深夜イベント)で、彼らのステージを観た人はどれほどいるだろうか?ツアー2公演目の大阪、3公演目の東京という、最初期段階のパフォーマンスは、クリエイティヴな実験性が刺激的ではあったものの、あえて悪く言えば、淡々としていてよくわからなかったという感想を持った人もいるかもしれない。しかし、それはある意味当たり前。「ここでこうしたらどうなるのか、オーディエンスはどう反応するのか」観ている僕らを、あるいは演奏する自分自身をも試すかのように、じっくり時間をかけて繰り広げられたステージは、拡張された「スタジオワーク」とでもいうべきものだった。もしかしたらトゥモローズ・モダン・ボクシーズとは、世界各地のライブに散らばったこのスタジオの名前なのかもしれない。

    そして、それから4年。レディオヘッドの『A Moon Shaped Pool』でのポストクラシカルなアプローチ(ここで導入されたロンドン・コンテンポラリー・オーケストラによるクワイアやストリングスは、後の『Suspiria』『ANIMA』にも色濃く反映されている)、更に映画音楽という新たなフィールドに挑んだ『Suspiria (Music for the Luca Guadagnino Film)』を通過する中でも、断続的に繰り返される「ライブ=スタジオ」ワークは、彼の創造のターミナルとなっていた。一番気持ちいい音、一番踊れるグルーヴ、一番鮮烈な映像効果。ライブをする中で、最高の空間デザインを模索する日々が、ついに結実したのが『ANIMA』だ。

    レディオヘッドが好きな人はご存知の通り、ライブとスタジオワークのインタラクティブな相互作用は彼らの創作のメインエンジン。別に特別視するものでもない。しかし、4年もの長い歳月をトムとナイジェル(+タリク)という最小単位で、彼の自由度を最大限に担保したまま作り上げてきたという事実は、彼のキャリアの中でも特異なことといえる。

    “Not The News”や“Twist”などの『ANIMA』の核となる曲群は、前述の来日で世界初披露されたものだし、おそらく今回のフジロックでも、似たようなセットリストにはなるだろう。しかし、その練度はまったく違う。あの時あの場にいてなんだかよくわからなかった人にこそ、今回のパフォーマンスを観て欲しいのだ。トゥモローズ・モダン・ボクシーズが未だ冠されているように、『ANIMA』の完成すら次へのセーブポイントに過ぎないこともまた確かだが、4年前のステージが鮮やかに更新されていくことは間違いない。

    Thom Yorke “Not The News”

    ソロプロジェクトの集大成

    RADIOHEAD | Fuji Rock Festival '12 | Photo by 前田博史

    RADIOHEAD | Fuji Rock Festival ’12 | Photo by 前田博史

    そもそも彼のソロアーティストとしてのキャリアは2006年のソロデビュー作『The Eraser』から始まる。ラップトップ上に断片的なアイディアを散りばめた趣味性全開の作品は、レディオヘッドという巨大なモンスターから一旦完全に自由になろうとするような、トム自身どこに向かうかわからない冒険の始まりだった。

    そんなチャレンジをライブの場で表現したのが、2009年に結成されたアトムス・フォー・ピース。レディオヘッドではない方法論を模索するこの過渡期に、FUJI ROCK’10のグリーンステージで彼らのパフォーマンスを観られたのは、今思うととても貴重な体験だった。
    FUJIROCK EXPRESS’10 ATOMS FOR PEACE ライブレポート

    この時期の彼らは、キャリアの中でも最もフレキシブルに、外部の血を取り入れようとしていた。『The Eraser』の全編リミックス『The Eraser Rmxs』に続いて、その後のリズム方面での礎となるレディオヘッドの『The King Of Limbs』でも『TKOL RMX 1234567』をリリース。Four TetやJamie xx、SBTRKTとの音楽を介した交流が、トムのエレクトロ/ダブの視座を大きく広げたことは想像に難くない。そんな中FUJI ROCK’12にレディオヘッドが初登場。今や伝説と語り継がれるこの夜も、そんな変革の真っ只中のことであった。
    FUJIROCK EXPRESS’12 RADIOHEAD ライブレポート

    そして、アトムス・フォー・ピースは翌年に『AMOK』をリリース。部屋の中で重ね合わせた無機質なピースを、トライバルな肉体感を伴って4万人のステージに現出させた彼らの試みは、ここに一旦の完成をみる。それを「デフォルト」にして始まったのが、前述のトゥモローズ・モダン・ボクシーズ・プロジェクトな訳だが、この時期の成果はしっかりと『ANIMA』に息づいている。

    ジョーイ・ワロンカー(アトムス・フォー・ピース)とフィル・セルウェイ(レディオヘッド)のドラム音源を加えた重厚なリズムに、ミニマルなセットだからこそひときわ輝くギターやベースの生音は、フリーからトムやナイジェルの手に移って、より洗練された響きを放つ。『The Eraser』が生まれた小さな部屋の壁を取り払ったのが『AMOK』だとすれば、それらを再構築し血肉化することで、『Tomorrow’s Modern Boxes』の密室をそのままスタジアムクラスまで最大化したのが『ANIMA』といえるかもしれない。

    詳しくは書かないが、今ツアーのセットリストも現在のところ『ANIMA』を中心としつつ、『The Eraser』以降のトム・ヨーク/アトムス・フォー・ピースのレパートリーから、満遍なく披露されている。過去2回のフジの経験も糧としながら、ソロキャリアの集大成がかたちになる場所、それが今回のフジロックなのだ。

    「Kid A以降」の帰結点

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    レディオヘッド史どころかポップミュージックの歴史を語る上でも重要なターム「Kid A以降」。断片的なアイディアをぶちまけてコラージュしていくという、ソロ以降スタンダードとなった制作体系が確立したのもこの頃だ。新たな「レディオヘッドの音」に仕立て上げた『Kid A』はやはり見事という他ないが、バンドの枠にとらわれず、趣味的な実験要素をかたちにしていこうという、ソロ以降本格的に花開くトムの趣向の源泉をここにみることができる。それが巡り巡って結実したのが『ANIMA』ということもできるだろう。

    そう考えると、レディオヘッドの全盛期がいつなのかは議論の余地があれど、シンガーソングライター/トラックメイカーとしてのトム・ヨーク個人のトップフォームは、今現在にあるとみても過言ではないはずだ。

    勿論、後から見たら『AMOK』や『The King Of Limbs』も通過点に過ぎなかったように、これを完成形やら集大成やらと言ってしまうのは早計かもしれない。きっと『ANIMA』すらも通過した、更なる飛躍が待っていることだろう(来年は『Kid A』『Amnesiac』の20周年企画があるとの噂も)。しかし、少なくとも「レディオヘッドのトムのサイドプロジェクト」を越える瞬間は、間違いなくここにある。ぜひともその歴史的なパフォーマンスを体感しようではないか。

    そしてフジロック2019、ホワイトステージ

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    『ANIMA』のリリースから1ヶ月、ツアー14公演目。駆けつけるオーディエンスはもとより、トム自身にとっても『ANIMA』リリース後のウォームアップを十分に済ませた、絶好のタイミング。トム本人が希望したという、音響に最も定評のあるホワイトステージ。さらに疲れもみえる夜22時と、夢世界を描いた『ANIMA』にもぴったりな、最高のシチュエーション。天候がどうなるかはさすがにわからないが、仮に大雨でも、それすらも糧にしてくれるであろう期待感に満ちている。状況はすべて揃った。

    ミツキやティコから流れるのもいいし、ケミカルやルミニアーズから合流するのもいいだろう(それができるのかは保証できないが)。どんな流れだとしても、最高のハイライトの予感… というわけで、7/26は1日の終わりにホワイトステージに集合だ。それでは、また苗場で会いましょう。

    Text by Hitoshi Abe

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