• 沖縄の戦前と戦後をつなぐ紅型作家〜染千花 知花幸修さん


    先日公開された今年のアトミックカフェのテーマの一つに沖縄があります。NGO村にはうちなービレッジができることになり、普段なかなか見ることのできない沖縄のアートに触れる貴重な機会ができました。今回ご紹介したいのは、うちなービレッジに展示および一部の作品が販売される紅型工房染千花の知花幸修さんです。

    作品を説明する知花さん|Photo by Masaya Morita

    作品を説明する知花さん|Photo by Masaya Morita

    “紅型(びんがた)”という言葉を初めて聞く方もいると思います。紅型は沖縄の型染めの(伝統)工芸で、紅が色を(紅と書いても赤色の紅ではなく色そのものを示しています)、型は様々な模様を表しています。

    紅型の起源は13世紀ごろ、14世紀ごろには現在の形になっていたと考えられています。長い歴史を持つ伝統工芸ですが、薩摩支配、そして太平洋戦争の沖縄戦で大半の文献などが消失したと言われています。知花さんが取り組んでいる紅型は長い歴史と地続きでありながら、戦後以降の文化を組み込んだモチーフ、そしてこれまでの紅型の技法を用いながら、新しい表現方法を模索し出来上がったアートです。今年のフジロックのNGOビレッジにできるうちなービレッジでは、知花さんが代表を務める染千花と画家のDENPAのコラボレーション作品も展示されます。

    7/26Gypsy avalonに出演予定のKACHIMBAのMV撮影の際にお会いした紅型作家の知花さんの第一印象は好青年。私が挨拶をすると、もともとバンドをやっていたので、フジロックでの展示の機会を頂き光栄です。音楽をやっている人間にとってフジロックが一つの到達点みたいなところがあるので、と話していました。紅型作家ではありますが、その枠に収まらず多様な活動もしており、ライブハウスや沖縄のフェスの旗も作成しています。

    下地が知花さんの紅型|Photo by Masaya Morita

    下地が知花さんの紅型|Photo by Masaya Morita

    今回のインタビューでは、紅型の歴史と、彼の作品、そして今回のコラボレーションに関して話していただきました。紅型の作成過程やそれに対する取り組みを聞くと、知らずに見るよりもより鮮明に見えてくるものが多いと思います。

    紅型の歴史と技術、そして発展

    知花:県立芸術大学で型染めは色々学んでいたんですけど、紅型の教授はいなくて大学では1ヶ月しかやれませんでした。母が紅型工房をやっていたので、卒業してから本格的に始めました。ですから、母が紅型の先生でした。大学で型染めの基礎を学んでいたので、紅型にも型染めの技法を流用しています。紅型という名前は全国区で、むしろ世界的にも有名だと思っていたのですが、意外に知名度は低く、私の友人はビン(瓶)を作っていると思っていたらしいです(笑)。

    ─ ええ!そうなんですね(笑)

    知花:紅型って予備知識があっても実際やるとだいぶ違うと思います。工房では体験もやっているんですが、知識がある人も来ます。そういった人でも実際に手を動かしてやると持っていた印象とは違うようですね。

    紅型で使用する型紙には和紙を用います。この和紙を切る作業には豆腐を乾かし固めたルクジュウというものを下敷きにして、カッターの歯を立てて切ります。この作業を突彫りと言います。

    ルクジュウと突き彫|Photo by Masaya Morita

    ルクジュウと突き彫|Photo by Masaya Morita

    知花:紅型の伝統的な柄(古典柄)も多く染めますがそれ以外にヤンバルクイナや幾何学模様をつかったオリジナルの型紙もあります。実はヤンバルクイナなどは古典柄ではありません。代表的な紅型の古典柄は菖蒲(ショウブ)や燕、そして枝垂れ桜など沖縄に生息していない動植物が多いです。紅型と言えばハイビスカスやデイゴなどのイメージを持たれている方も多いと思いますが、実はこれらすべて戦後に生まれたデザインなんです。

    伝統的な柄(古典柄)の着物|Photo by Masaya Morita

    伝統的な柄(古典柄)の着物|Photo by Masaya Morita

    ─ 私もヤンバルクイナは沖縄らしいので伝統的なものだと勘違いしていました。

    知花:中国の属国だった琉球王朝は、中国文化の影響を強く受けていました。着物として主に王族、貴族に着用されていた紅型もその影響が色濃く、中国で品格の高い吉祥紋などが紅型の古典柄に多く取り入れています。使用される色にも身分による違いがありました。(黄色ー王族、 白ー上流階級の女性、青ー男性)。あとで詳しくお話ししますが、私はこういった古典柄と現代的なデザインとモチーフの融合を目指しているんです。

    次に染めの作業の説明をします。型紙を布に乗せ米ぬかともち粉、石灰を練って蒸すことで出来る型糊を置きます。糊の上から顔料で染色します。その後いくつかの工程をへて型糊を洗い流せば紅型の完成です。かいつまんでの説明になりましたが、この流れが通常の制作工程になります。そこに、私は、複数の型紙を組み合わせた複雑な表現方法を得意としています。この複数の型紙を使う作業には緻密な設計が必要になります。

    布に型紙を置く|Photo by Masaya Morita

    布に型紙を置く|Photo by Masaya Morita

    型紙を置いた上から型糊を置く|Photo by Masaya Morita

    型紙を置いた上から型糊を置く|Photo by Masaya Morita

    型置きした後の布(青い箇所が型糊)|Photo by Masaya Morita

    型置きした後の布(青い箇所が型糊)|Photo by Masaya Morita

    染色後、型糊を洗い流し完成|Photo by Masaya Morita

    染色後、型糊を洗い流し完成|Photo by Masaya Morita

    ─ 一見しただけでその複雑さや緻密さがわかりますね。

    知花:紅型で複数の型紙を使用する技法を朧染め(うぶる染め)と言いますが、私はその技法を応用しています。こういった表現は、普通の紅型ではあまり行いません。大学で型染めの技法を学んでいたので、そちらが活かされています。非常に複雑なので私自身もうまく説明することができなかったりします(笑)。

    新しい表現と戦後の沖縄

    知花:現在の紅型は古典的な表現の延長線上にあるものが多いと感じています。私はそこに様々なジャンルの表現を取り入れ紅型の新たな可能性を模索し、次世代へと発信したいと考えていています。主にグラフティ、ポップアート、漫画/アニメ、そしてタトゥーなどから強い影響を受けその表現方法を自身の作品に反映させる試みをしています。

    Photo by Masaya Morita

    Photo by Masaya Morita

    ─ 街で見かける紅型にはない型だというのは私にもわかります。

    知花:私のデザインはヤンバルクイナ、そしてミサゴなどの鳥から古典柄と幾何学文様をアレンジしたパターン模様があります。そして、手塚治虫などの漫画や、アニメテイストのオリジナルキャラクターや1940~50年代のカートゥーン、そしてタトゥーなども取り入れています。

    このような現代的なモチーフとの古典柄の組み合わせが作品に良い違和感を演出してくれて非常に面白い作品ができるんです。例えば、この作品はMVにも出て来ますが、I.L.という手塚治虫の漫画に出ているキャラクターです。背中一面にタトゥーが入った女性なんですが、背中の模様は伝統的な柄とともに、外国人が漢字や日本語の意味を誤解して入れてしまったタトゥーをイメージしています。また、泡盛の瓶も入っていたりします。この作品は手塚プロにオフィシャルで監修してもらった作品です。

    手塚治虫のキャラクターに伝統的な型と現代的な型が同居した紅型|Photo by Masaya Morita

    手塚治虫のキャラクターに伝統的な型と現代的な型が同居した紅型|Photo by Masaya Morita

    知花:このヤンバルクイナは今回フジロックのために作成しているDENPAさんとのコラボレーションにも使われていますが、胸の模様が迷彩模様になっています。この迷彩は沖縄に駐留している米軍をイメージしており、米軍統治後の文化で育ってきたウチナーンチュを表現しています。もう一つ、ミサゴという鳥のデザインも入ってきます。ミサゴは英語でOspreyと言います。このオスプレイとヤンバルクイナが同居しているというのは、今の沖縄を象徴していますし、今年のフジロックのアトミックカフェやうちなービレッジにも関係しているテーマだと思います。

    迷彩模様(胸の箇所)のヤンバルクイナ|Photo by Masaya Morita

    迷彩模様(胸の箇所)のヤンバルクイナ|Photo by Masaya Morita

    作品の説明をされる知花さん|Photo by Masaya Morita

    作品の説明をされる知花さん|Photo by Masaya Morita

    沖縄とアメリカ

    知花:紅型とタトゥーは表現方法が似ているという印象を持っています。沖縄の女性が戦前は手にハジチという刺青を入れていました。ハジチが広まり完成した時には墨になっていましたが、もともとは、患部に琉球藍を挿して治療する医療行為が起源という説があります。沖縄とアメリカを対比するような作品をいくつか手がける中でハジチという刺青とオールドスクールなアメリカンタトゥーを組み合わせれば面白いのではないかと考えました。ですからハジチのデザイン自体は沖縄のものですが、手やフォントなどはタトゥーをイメージしています。このハジチのモチーフはハジチの起源にちなんで琉球藍で生成した顔料で染めています。そこに、紅型の踊り衣装の伝統的な古典模様を組み合わせています。敷居が高く、古臭いと思われがちな紅型の古典模様ですが、表現ひつでとても現代的で斬新な感じに出来るところが紅型の古典模様の面白さだと感じています。このトートバックは若い世代の方々にも手にとってもらえるような作品になってくれればと思っています。

    ハジチと古典模様が同居した紅型(トートバック)| Photo by Masaya Morita

    ハジチと古典模様が同居した紅型(トートバック)| Photo by Masaya Morita

    *うちなービレッジではトートバックを販売する予定です。

    DENPAとのコラボレーションに関して。

    知花:DENPAさんと僕の表現方法は大きく違っていて、ただただそれをぶつけ合うだけの作品ではなくお互いの良さを引き出しあえたら新たな表現が生まれるのではと考えています。DENPAさんのその場の空気や感情をリアルタイムで表現するような手法と、僕のような緻密な計画の上で成り立つような表現はすごく対極の場所にあると感じています。ですが、コラボレーションをすることで今までになかった感覚や刺激があり、自分の中で新しい表現が生まれる感覚があります。このような試みが工芸に携わる身で経験できることを光栄に感じ、声をかけてくださったうちなービレッジ関係者の方々にはとても感謝しています。

    作成中のDENPAとのコラボレーション作品を前に|Photo by Masaya Morita

    作成中のDENPAとのコラボレーション作品を前に|Photo by Masaya Morita

    ─ チャレンジであり、楽しみでもあるし、将来にも繋がっていく感じでしょうか?

    知花:そうですね。これをきっかけに作風が変わっていく可能性もあるかもしれないです。技法はいつもと同じなのですが、DENPAさんのアプローチは全然違います。私にとってはとても新鮮で。それでも作品として成り立っているから、こういう進め方もあるんだなと面白さを感じてやっています。


    真剣にお話をされる知花さんは、紅型に対する探究心をもち、そして表現方法などを模索している孤高の紅型作家でした。現代的なモチーフを組み入れながらも伝統的なものとの融合を目指し、そしてそれらの表現をアートとして成立させることに執心している方でもありました。フジロックの会場で彼の作品が見ることができるのは、素直に素晴らしいことだと思います。また、今回のコラボ作品を元にデザインされたDENPAさんと知花さんのダブルネームTシャツも販売される予定です。ぜひ、NGO村のウチナービレッジへ足を運んでいただければと思います。

    ■ 紅型研究所 染 千花
    http://somesenka.com

    紅型研究所 染 千花は沖縄の太陽に照らされ鮮やかな色彩を放つ海と空、植物を伝統工芸の”紅型”というフィルターを通し表現しています。「紅型研究所 染 千花」の作品に同じものはありません。同じデザインの作品でも布地によって雰囲気は変わります。合わせて配色も構図も変わっていくのです。一点一点の作品の雰囲気を大事にし、作り上げていくのです。それ故に大きな生産ラインはつくらず、全て手作り、ハンドメイドで行っています。あなたが手にとってくれた私たちの作品があなたにとっての”一点もの”になり、沖縄の伝統工芸”紅型”との出会いになってくれれば幸いです。(染 千花 ホームページより)

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    ■ DENPA
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    Interview & Text by Masaya Morita

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