沖縄在住アーティストの静かな想い〜KACHIMBAリーダーTaroさん
- 2019/07/05 ● Interview
沖縄の宜野湾市、普天間の大きな通りに面した古い二階建てのコンクリートの建物にスペイン語で千のキスという意味のmil besos(以下、ミルベッソ)というお店があります。ミルベッソは、今回Gypsy Avalonに出演予定(7/26 金 14:30~15:10)のウチナーバンドの中核をなすグループ KACHIMBAの本拠地で、お店のフロアで水曜日と金曜日に様々な形で演奏します。私がお邪魔した日は、今回お話を聞いた、リーダーでパーカッションを担当するTaroさんのDJによるキューバ音楽が流れており、店員のバンドメンバーからは、サルサなどのステップも教えてくれるアットホームな雰囲気でした。お酒を飲み、ほろ酔いの中キューバ音楽に身を委ねる、メンバーに誘われて店にいるお客たちが楽しげに踊りだす..。そんな素敵な空間でした。今回は、Taroさんに音楽や沖縄に対する想いを聞いてきました。
自衛隊からキューバ音楽へ、そして沖縄の子供・若者たちへの思い
Taro:元々は、自衛隊にいて北海道でも勤務していたんです。キューバ音楽に魅せられてKACHIMBAを始めるんだけど、音楽をやりながら沖縄に対する想いが強くなっていきました。例えば、基地を反対!と言うのは簡単なんだけど、賛成派も反対派も色々事情もあるから、と考えてしまうんです。そして、その基地に関わる活動をした若者が、なんか潰されるって言うのは変なんだけど、表に出てこなくなってしまったりして。本当に才能がある若者だと私は思います。今は、他の人のプロデュースみたいなことをやったりしてはいるけど、表に出てこない。そういったのが本当に残念で。僕は音楽を通じて、もう少し広い意味で沖縄の向かう方向の舵取りをして、もっと若い子たちが活躍できるようにしたい、という気持ちがあります。
日本列島からハワイまでの環太平洋音楽の起源が結構好きで、沖縄の三線は中国本土に起源となる楽器がたくさんあります。アイヌのトンコリは、アイヌのものですが環太平洋の国々には、トンコリに似てる楽器がたくさんあり、元々沖縄にも似た楽器があったのではないかと感じてます。それを結びつける為のAjian Root Trip(アジルー)ミュージックフェスを主催する事で、沖縄〜日本の人々の本来の魂を呼び起こす事が今のモチベーションですね。
機会があって台湾の原住民と一緒に演奏する機会があったんですけど、地理的にも近いからでしょうか、沖縄の音楽と通じるところがあって。根っこはつながっているのかなと思ったりしました。先にもいったけど、僕はキューバの音楽をやっているけど、今回のジプシー・アヴァロンのライブでは、三線の仲宗根創さんだとか、ラッパーのRITTOさんとも一緒にやります。(仲宗根さんもいっているけど)、流れている“血”が一緒だから、やっている音楽はバラバラでも、うまく一緒くたになってチャンプルーされるんですよね。
─ それは、僕もリハーサルを拝見していて感じました。
Taro:今は普天間飛行場のある宜野湾市に住んでいますけど、音楽をやっているとどうしても夜型になってしまって。生まれも宜野湾ですけど、日中をここで過ごすのが辛くなって来ました。小中学の時、本島北部にある水納島に住んでいたんですけど、ご存知だと思いますが、橋がかかっていない小さな島です。この島で、学校に行きながら畑を耕して、ほぼ自給自足に近い生活をしていました。僕を含めて3人の学生に、5人の先生がいてのんびりやっていました。その頃の生活っていうのは、今とは全く違うけど、音楽を好きな気持ちって変わらないし、もしかしたら、今よりも考えようによっては理想的だったのかもしれないです。自給自足って本当に大変だし、どこまで全力でやるべきか、どこを引き算すべきか難しいんですけど。
本当は畑をやったりしながら、さっき言った沖縄の音楽の歴史をきちんと理論的に説明できるような研究もしたいし、楽器も自分で作ったりしていきたいんです。そして、その歴史とか楽器のこととかを子供たちや色々な人たちに伝えたいなと強く考えています。
ちょっとキューバに行っていたことの話をこれと関係して話したいんだけど、僕、9回キューバに行ったんです。キューバって学校が無料だから、やりたければとことん追求できるし、学校も子供にあった学校に行けるんです。例えば、僕は音楽が好きだから音楽の学校に行こうとすると、たくさん学校があって、僕のレベルにあった学校に行けるんです。これと同じように、キューバのミュージシャンにも色々レベルがあって、世界ツアーをするミュージシャン、国内のホールでやるミュージシャン、レストランで演奏するミュージシャンっているんですけど、レストランで演奏するミュージシャンでも滅茶苦茶レベルが高いんですよ。音楽が好きで、それを追求して行くにも、今の沖縄の子供たちって学校に行くのもお金がかかって大変だし、諦めている子供たちも多いと思うけど、キューバは学校に行くためのお金はかからないから思いっきりできるんですよね。
─ 昨年、今年と出演するキューバのInteractivoは本当に良いバンドで、僕自身、感動したんです。僕だけじゃなくて、来場者からもとても評判が良くて。太郎さんの話を聞いて納得できました。
Taro:先ほど畑ー農業の話もしましたけど、キューバは有機農法も随分進んでいて、この野菜とこの野菜を近くに植えると農薬が要らないとか、研究が進んでいて。僕が初めて行った時は、キューバには葉野菜がなくて、沖縄でいうとゴーヤーみたいな瓜系しかなかった。ところが、この20−30年で葉野菜も食べられるようになって来たんです。元々は、農薬を買うお金がないというところに起因するんだけど、お金がなくてもやり方でなんとかやっているんですよね。できるようにしたんですよね。研究して。
話は、キューバのミュージシャンの話に戻りますけど、ツアーをやっているミュージシャンでも医者でも、やはりキューバではそんなにお金はもらえませんから、他の国へ亡命することもあるんです。でもね、お金で逆にダメになっちゃったりするんです。とっても良いアーティストだったのにダメになってしまったりして..。それが非常に残念ですね。
─ やはり、多少苦労しててもそれに伴って良いものが生み出せるみたいな感じですか?
Taro:やっぱり、苦労すると、そのぶん魂が磨かれるじゃない。少し強くなれるというか。
僕ってやりだすと、一気に全力でやり過ぎてしまって体調を崩すことも多いんです。見た目からはそうは見えないかもしれないけど、バランスが難しくて。
─ よくわかります(笑)。
Taro:一番好きなのは音楽だし、それを追求しているけど、それとともに、さっきも言った通り沖縄の子供たちのことか考えてしまいます。やはり、色々な理由で損をしてしまっていると思うんです。僕は音楽しかできないから、音楽でなんとかできないかなとは思いますよね。
さっき、橋のかかっていない水納島で過ごした話をしました。本島の瀬底島、古宇利島、宮古島なんかもそうだけど、今の沖縄の島って橋がかかって便利になったんだけど、それと引き換えに大切なもの、それが何かってはっきり言えないんだけど──を失っている気がします。理想論かもしれないけど、もう一度沖縄で本当に大切なものってなんだろうって考えたりします。
日本ってお金がないと何もできないじゃないですか。姉がスペインにフラメンコで留学して、そのまま現地の男性と結婚したんです。スペインって滅茶苦茶貧乏な人々も居るんです。姉の家も本当にお金がない、もう中流以下なんです。でも、別荘は持っているんですよ。スペイン人って。洞窟に扉をつけて、煙突つけて。もう簡単な別荘。お金がないのに本当に幸せそうで。余裕があって。
姉の住んでいるグラナダはスペインの南端の都市で、15世紀末まではイスラム教も多かった。そこにいたイスラム教徒を、(レコンキスタ=再征服で)キリスト教徒が追いやったんですよね。グラナダが最後の砦で。フラメンコなんかその抑圧された歴史の影響を強く受けていて、もともとモロッコから来ている音楽なんだけど──、その抑圧を情熱的な音楽で昇華しているんです。
音楽やっている人って、僕なんか特にそうなんだけど、ほら、引きこもりだった男性が子供を通り魔的に殺してしまったりする事件があったけど、あの犯人と同じような人間だと感じるんです。これは、バンドのメンバーにも良く言ってるんです。何にも変わらないよ、俺らはって。そして、その犯人に対して“一人で死んでくれ”っていうのは、あまりに冷たいと思うんです。もっと手を差し伸べることができるんじゃないかって。僕なんかは、音楽やっているから昇華できているけど、なかったらわからない。
さっきも言ったけど沖縄の基地問題って一枚板ではないから、複雑で。その状況に沖縄って象徴されている気がします。なんか、色々な考え方の人がいるから文句を言って振り向かせるのではなくて、別のやり方でできないかと思います。例えば、“ああ〜そうなんだ〜、じゃ、そうしよう!”っていうことをできないかなって思います。
─ そうですよね。皆が同じ方向を向くのは難しいかもだけど、そういう考え方って良いね。というのは素晴らしいですよね。
Taro:僕はね、そういったことを音楽を通じてやりたいんですよ。
Taroさんの姉さんのスペイン土産というラム酒を片手に、まっすぐな眼でそして陽気に話をされるTaroさんは、決して”屈辱”とか”全ての武器を楽器に”とか、強い言葉は使いませんでした。なぜなら、その言葉を話すことで傷つく人がいるとわかっているからでしょう。おおらかに愛情深く音楽と向き合い、そして沖縄のことを深く考えていることが伝わってきました。そして何よりキューバ音楽を通じて、世界と繋がりたい、理解したい、そんな強いけれど押し付けがましくない真摯な想いを感じることができました。
Taroさんの出演するKACHIMBA feat. RITTO, 仲宗根創 (special guest 伊丹英子)はGypsy Avalonにて7/26 金 14:30~15:10出演予定です!
Text by Masaya Morita
■KACHIMBA
KACHIMBAは、様々な形態で演奏し1998年にTaroの呼びかけにより誕生した。彼らの音楽は、「キューバ音楽」と「沖縄」のオリジナリティーを絶妙なバランスで融合させた音楽で、高く評価されている。活動は地元だけでなく、キューバ、アメリカ、カナダ、 香港、台湾など、世界各国で公演を行うなど、オキナワンラテン音楽を海外に広めている。
文化面では、キューバ日系移民を題材にしたドキュメンタリー映画「サルサとチャンプルー」の音楽を担当。また、県内の小中高の音楽鑑賞会や大学でのラテン音楽教育など、学校教育支援活動も10年以上続いている。海外ではキューバ•シエンフエゴス芸術学校にて公演。ラテンのリズムと沖縄の手踊り(カチャーシー)で子供達がノリノリに盛り上がり、参加型の公演として大変喜ばれた。近年ではルーツ音楽として台湾の原住民族「Suming」との音楽交流を実現し、その活動が認められ、2015年 3月に「TIFA 台湾国際芸術節」のプログラムに出演。2日間 SOLDOUT の公演が大成功に終わった。
http://kachimba.com/
KACHIMBA4 島豆腐
ウチナーバンド 海ぬちんぼーらー