• フジロック映像チームに聞く、アフタームービーとその裏側


    会場へ向かうバスに乗った瞬間、入場ゲートをくぐった瞬間、大好きなアーティストが目の前で最高のプレイを見せてくれた瞬間──フジロッカーなら、いやフェス好きなら誰しも共感するあの気持ちを可視化した、フジロックフェスティバル’17・アフタームービー。その映像を手掛けたのが、映像ディレクター・藤井大輔率いるチームである。ドローンを駆使した空撮や、チームプレーをフルに生かしたアーティスト映像など、制作への想いと裏話を語ってもらった。

    FUJI ROCK FESTIVAL’17 アフタームービー

    ─ まずは自己紹介をお願いします。

    藤井:フジロックのオフィシャル映像のディレクターをさせていただいています、藤井です。フリーで映像制作をしておりまして、2010年頃から一眼レフのカメラで動画を撮る事が多くなりました。その流れで写真も少し撮るようになったとき、フジロッカーズ・オルグのメンバー募集があったので参加しました。フジロックには97年から17回位行っておりフジロッカーズ・オルグもそれこそ97年のTogetherBBSがある頃から見ていて馴染みがありましたので。オルグではインタビュー記事の写真を撮りつつ、2012年に初めてFujirock Expressのダイジェスト映像をやらせてもらいました。2014年に作った「雨あがりの夜空に~フジロッカーズバージョン~」をきっかけに、2015年からオフィシャルのアフタームービーを作るようになりました。

    藤井さんが2014年に手掛けた「雨あがりの夜空に~フジロッカーズバージョン~」

    ─ 藤井さんのチームの編成を教えてください。

    藤井:昨年のチームは7人組で、ドローンのアシスタントも含めると全員で9人です。全員フリーランスのカメラマンで、普段からお互いに仕事を振ったり、もらったりして、一緒に仕事をしている間柄です。

    映像チームのみなさん(左から黒澤さん、小西さん、折井さん、丹澤さん、藤井さん、小野寺さん、この他に青木さん、ドローンの田中空撮さん) Photo by 白井絢香

    映像チームのみなさん(左から黒澤さん、小西さん、折井さん、丹澤さん、藤井さん、小野寺さん、この他に青木さん、ドローンの田中空撮さん) Photo by 白井絢香

    ─ アフター・ムービーを拝見させていただきましたが、バス乗り場からスタートして、演奏を見ているところなど、昨年のフジロックを追体験している気持ちになりますね。何かテーマは決まっているのでしょうか。

    藤井: 昨年は「ジャーニー(journey)」というテーマで撮影しました。新宿の出発シーンもヤラセとかでなくてホントのお客さんですし、そんなリアルな一面もフジロックの魅力かなと思います。基本のコンセプトは、フジロックのプロモーション映像なので、HPにも毎年書かれているテーマ「音楽と自然を自由に楽しみ、出演者、来場者、スタッフの全員で創り上げていく。それがフジロック・フェスティバルです」を映像化することです。一番重視していることは当然、そのフェスの魅力や感動を伝えること。魅力的なフェスには十分に魅力や感動がいっぱいあって、お客さん、アーティスト、アート、天気、雰囲気などなど、実際のフェスの独特の魅力をいかに感じて共感して切り取ってまとめるかが大事だと思います。昨年のアフタームービーの見せ方として、考えたのは、フジロックのコアなファン、いわゆるフジロッカーが見た時に、納得して楽しんで喜んで貰える事。そこはすごく考えています。自分もかなりコアなフジロッカーなので、結構その気持ちは分かると思うのですが、ネットの反応をみてフジロッカーからの反応が良かったときは、かなり嬉しいです。

    ─ なるほど。毎年テーマはどのように決めるのでしょうか。

    藤井: スマッシュの担当者の方がかなり明確にイメージを持っていて、その指示をいただいて相談しながら撮影計画を考えています。テーマ、コンセプトもそうですし、構成や編集のトーン、色味なども一緒に考えています。スマッシュの担当者のセンスがかなり良いので、そのイメージを具体化するのはチャレンジングで面白いです。昨年の「ジャーニー」というコンセプトは、新宿のバス乗り場から始まる構成もそうですが、自然、アート、天候、音楽、人を含めたフジロックという体験が表現できたらという思いで作りました。

    ─ ライヴ映像から始まるのではなく、お客さん目線でのフジロックのスタート=バス乗り場から始まるのが、フジロックらしいなと思いました。

    藤井:基本的に、お客さんが楽しんでいるところを見せたいんですよね。フジロックが「自然がきれいなところ」ではなくて、お客さんが楽しんでいて、アーティストが演奏しているという画になるように、心がけています。

    ─ 上空から撮影されているシーンもありますが、ドローンを使われているようですね。

    藤井:フェスや大きいイベントには、その会場全体を見せるために、ドローンで空撮をするのが1番早いので、使われることが多いと思います。ただし、空撮に限らず映像を見てる人が「この撮影編集技術すごい」という感想で終わってしまってはダメだと思っていて。見た人にちゃんとテーマを伝えるためには、どのように撮ったかはわからないけど意味のある映像になるのが大事だと思います。主役はフジロック──お客さんだったり、アーティストだと思うので、ちゃんとテーマに沿った内容を撮影したいなと思って。空撮をお願いしている田中空撮さんは、そういう撮影ができるカメラマンなので毎年お願いしています。

    ─ 見た人の感想が「この撮影編集技術すごい」だけにならない工夫は、具体的なシーンで言うと、どのあたりでしょうか?

    藤井:一見、ドローンには見えないけどドローンじゃないと撮れないような撮影の仕方をしているところなどですね。映像前半にお客さんが橋を渡って、グリーンステージへ向かう姿を映しているシーンがあるんですが、実は川の真ん中からドローンを飛ばして撮影しているんです。そのシーンはぱっと見ると空撮だとは、気付かないと思います。お客さんの会場に入っていく動きと合わせてカメラが縦に動く、空撮ならではの動きは、空撮なりのエモさがあって、お客さんの「ジャーニー」に寄り添ったよい演出だと思ったんですよね。ほかにも、ボードウォークをカップルが歩いている映像。ボードウォークの森の中からドローンを飛ばしています。それは会場の魅力を表すすごくきれいな映像ですし、お客さんがメインの映像にもなっているなと思っています。

    ─ 狭いボードウォークをあえてドローンで撮ることで、自然とお客さん、フジロックの空気感すべてを見せてくれていますよね。

    藤井: 藤井:そうですね。ドローンで撮ると会場や風景写真のようなものになりがちだと思うんですけれども、なるべくそういうのは避けて、お客さんが楽しんでいる魅力的な空間として映し出すようにしています。ドローン以外にも、小型のカメラにアームを付けて高い位置などから撮影できるようにしたり、移動撮影できる機材を使ったり、フジロックのいろいろな側面を最大限切り取れるように工夫しています。また手持ちのカメラでも、ライヴを見て盛り上がっているオーディエンスの中に飛び込んで一緒に踊りながら撮ったり、お客さんとコミュニケーションを取りながらチルアウトしている様子など撮ったり、より表情に迫って感動や楽しさが伝えられるように心がけています。

    ─ なるほど、フジロックの4日間を凝縮したような、あらゆるカットが織り込まれていますよね。どのくらいの時間をかけて作られているのですか?

    Photo by リン

    Photo by リン

    藤井:打ち合わせは1月ごろから始まって、編集はフジロックが終わって1~2週間ほどで完成させます。当日は、ライヴを撮る人、お客さんを撮る人など、役割に分かれて行動します。またフジロック開催期間中から現地で編集作業を始め、各日ごとのダイジェスト映像なども作りましたので、撮影だけでなく現地で編集する人もいます。

    ─ 制作中の裏話や、何か印象的なエピソードがあれば教えてください。

    藤井:昨年のビョークの終わりの花火は印象的でしたね。どのタイミングで打ち上げられるかわからなくて、みんなグリーンステージにスタンバってました。いろんな方向から撮ったほうがいいと思っていたし、アフタームービーの最後は花火で終わりたかったから。LINEグループで「花火いつ上がるの?」ってやりとりをしながら待ってましたね(笑)。

    ─ タイミングがわからない中、撮影するのは大変そうですね。

    藤井:結果うまくいって、いい映像が撮れたんですけど、花火だけじゃなくてその時のお客さんの表情であるとか、そのステージの表情とかも撮れてよかったなあと思って。実は昨年のアフタームービーでは、ヘッドライナー3組ともステージを撮る許可が降りていなくて、実はアーティストが写っていないんですよ。にもかかわらず、アーティストが映ってないことを感じさせずに最後まで盛り上がりを演出できた事は、最高のお客さんたちをたくさん撮れたからだと思います。

    ─ 確かにそれは気づきませんでした。中には撮影NGのアーティストもいるとは思うのですが、どういう基準でアフタームービーに選ばれているのでしょうか。

    藤井:それはスマッシュと話して決めていますね。お客さんの盛り上がりとアーティストのパフォーマンスのかっこよさで選んでいます。話題性と、当日の盛り上がりが1番じゃないですかね。撮影OKかNGかは事前にある程度予想していきますが、予想以上の瞬間も多々あり、逃さないように努力してます。昨年だと前夜祭にも出た、DOCTOR PRATSがめちゃくちゃ盛り上がっていたのは、予想外で、そこは映像に盛り込みましたね。

    小西:僕は、Death Gripsのボーカルが、雨の中ステージ上に立ちつくしているシーン。雨で気温が下がっているのもあって、体から湯気が上がっていて。その湯気から熱量を感じましたね。フェスでないと見られない、すごい瞬間でした。あえて「使ってほしい」って言ってなかったけど、映像に使ってくれて。

    Photo by リン

    Photo by リン

    藤井: 他のアーティストでも、そのアーティストの特徴だったり、その時のパフォーマンスのいい瞬間を、フジロックならでは、今年ならではの表情で、切り取れるよう意識しています。

    ─ チームの皆さんの良い仕事が詰まっているなと感じます。あと、ムービーのBGMについても聞きたいです。昨年はThe xxの“I Dare You”だったと思うんですけれども。

    藤井: 映像にメインで使用する楽曲については、事前にある程度の候補を決めていて、その中から当日のライヴ・パフォーマンスだったり、評判だったり、著作権的なことも含めて、スマッシュの担当者と相談して選んでいますね。

    ─ The xxはベストアクトに挙げる人も多くいたと思いますし、昨年のアイコンになっていたと思うんです。曇り~雨が多かった天候も、あの抒情的なサウンドにぴったりでしたし。でも、別のアーティストの曲や、もっと激しめな曲が選ばれていたら、各アーティストの映され方も違ってきて、まったく別の映像になっていたと思います、そのあたりはどうでしょう。

    藤井: いえ、曲とは関係なしに、撮影の段階で様々な良い表情をとってきているので、どんな風にでも対応できますよ。素材自体はアフタームービーだけではなくて、その後のアーティスト発表の映像にも使ったりするので、色んな素材をとっています。

    ─ なるほど。パフォーマンスやBGMを大切にしつつも、そこに引っ張られすぎていないというか、伝えたい要素がブレずに一貫していると思いました。最後に、今年のテーマについても教えてください!

    藤井:具体的なことはまだ秘密ですが、今年はフジロックの会場が苗場に移ってから20年なので、「苗場」がテーマに近いものになると思います。今年もフジロックに参加する予定の人、また行きたかったけど参加出来なかった人たちが、アフタームービーを見て振り返って感傷にふけって楽しんでもらえればと思っています。そして当然、フジロックのプロモーション映像なので、フジロックに来たことない人、知らなかった人、最近来れなかった人などにも訴求する様に魅力的な映像にすることも心がけています。

    ─ それはまた新しいアフタームービーになりそうですね。今年も楽しみにしています。ありがとうございました。

    藤井チーム一同:ありがとうございました。

     

    写真/白井絢香、リン
    インタビュー/梶原綾乃

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