気になる話が盛りだくさん、大将インタビュー ~ 会場編 ~
- 2012/06/12 ● Interview
先日のアーティスト編に続き、後編は、主に会場についてのインタビューをお届けします! 出演者の豪華さやジャンルの幅広さもさることながら、フジロックの大きな魅力の一つは、遊び心あふれる会場作り。奥地のディープなエリアを始め、今年は場所が変わるムーンキャラバン、そしてアトミック・カフェ・フェスティバルについてなど、色々と話を聞いてきました。
気になるチケットの値上げ
― 今年は一般発売の値段が上がりましたが、これはブッキングの影響もあるのでしょうか?※先行発売(〜5/18まで)は昨年同様の値段だが、一般発売(5/19〜)から1日当たり1000円値上げされている)
それは関係ないよ。アーティストのギャラが高いとか、そういうことじゃない。色々なことが大きくなってきているからね。できれば値上げはしたくないさ。でも、しょうがない。納得してください、と言うしかないよね。東電よりもいいだろ?(笑)。
ムーンキャラバンの移動とその理由
― 会場のことついて聞いていきたいのですが、今年何か新しく変わるものってありますか?
まずはムーンキャラバンだね。場所をピラミッドガーデンの方に移すよ。それでムーンキャラバンてオートキャンプだからドッグランも一緒に移す。今度は舗装してある道を通るから行きやすくなると思う。ゴルフ場内の細い道になるから、スタッフの指示にちゃんと従って入っていってね。
今年の春に、雪解けを待ってうちのスタッフが最終チェックをしてきて、改良工事も出来ることになったから、GOすることになった。だから、発表が遅くなったけど、ムーンキャラバンのチケットを購入した人達には、まずその案内を送ったよ。もちろん、もうすぐオフィシャルサイトでも発表するから。
― そうなるとムーンキャラバンの場所は、ピラミッドガーデンの奥になるということでしょうか。
うん、そうだね。ピラミッドガーデンもムーンキャラバンもゴルフ場なんだけど、ピラミッドガーデンの上の段になるから緑が多いところだよ。犬は喜ぶよね。フラットな場所で芝生の上にテントが建てられるし。多少傾斜のところもあるけど、まあそれは仕方ないよね。入場ゲートまでは歩いてだいたい15分くらいで行けるから今までの場所より近くなるよ。ドッグランはプリンスホテルの裏側。去年よりデカくなるんじゃないかな。テニスコートがあるんだけど、そこと隣の芝生を使うよ。
― そもそも今回どうして場所を変えることになったのですか?
あそこはね、サッカー場だから下が砂なんだよね。本番中に何十回も通るからよく知ってるけど、日が照っている時は砂埃だし、雨が降ったら水はけが悪いし、どこにも逃げ場がない。今までオートキャンプをしていた人にもかわいそうだったよ。それで今回ピラミッドガーデンの方へ移すことにしたんだ。普段はサッカー場として使っているから、芝生にするとか勝手にいじれないしね。例えば、ホワイト・ステージには何回も芝の種を蒔いたんだよ。でも石河原が元になっているから草がなかなか生えにくくて、全然芝が育たなかったよ。小石が多いじゃん、あそこ。
進化するピラミッドガーデン。誕生秘話も!?
― なるほど、そういう理由だったのですね。ムーンキャンラバンが近くに引っ越してくるということで、ピラミッドガーデンも何か変わったりしますか?
うん、場所をちょっと広げるよ。もっとお客さんが遊べるような場所にしようと思って。具体的には、ステージを少し大きくして、位置を少し後ろに下げてスキー場の山側に向けるよ。
あと、去年にないものと言えば、色々な世界のフェスティバルでやっている、音が出るテント、っていうのがあるんだけど、それをやるんだ。面白いなと思ってさ。4メートル×8メートルくらいの大きさかな。テントの中にゴングだとかが吊るしてあって、それがグワングワン鳴るんだ。バリ島のガムランみたいな音が流れてくるかもしれないしね。ま、来てみてからのお楽しみ。これがあればのんびり過ごしてもらえるかなと。今、コンテナに乗ってイギリスから運んでる途中だよ。
― 3月のWeSky a Go-Go!の時に今年のフジロックについてチラっと、引きこもれる場所を考えている、と言っていたのは?
あれはピラミッドカーデンのことだよ。今話したように今年はちょっと変えるからね。もともと会場の中に別世界を作りたい、っていう思いがあったんだ。実際、最初にフィールド・オブ・ヘブンを作った時もそうだったよ。開催2ヶ月前の99年5月終わりまで、会場はホワイトステージで終わっていて、その奥は何も無かったんだ。3月くらいに会場を見に行った時は雪を越えてところ天国からホワイトステージまで行くのがやっとでさ。春に雪がなくなった後で行ってみたら、あれ? こっちに道があるぞ、って入っていったら森の中だったんだ。そこですぐ「フィールド・オブ・ヘブン」て名前も浮かんで、じゃ、こういう音楽をやろう、フィッシュだ! ってなったんだ。その後またオレンジコード、ストーン・ドサークル、カフェド・パリって広げたけど、もう場所がない。行きようがないから。それじゃちょっと味気ないなと思って、今度は正反対のところにいい場所を見つけたから、静かでゆったり過ごせるピラミッドガーデンを作ったんだよ。引きこもれるエリアとして。
ちょうど3年くらい前にゴルフ場が閉鎖になるって聞いてさ、近くでキャンプをやったんだよね。ピラミッドガーデンから2~300メートルほど離れたところでね。そうか、閉鎖するんだ。じゃ、燃やしてやる、って。焚き火したんだ。生木を何十本も持ってきて。二度とゴルフ場として再生できないようにするためにね(笑)。プリンスホテルの人も知ってるよ。本当にやるんだなって(笑)。まぁそれが俺の伏線だよね。営業妨害だって言われたけど(笑)。それで9番ホールを見た時に、フラットで芝生が広がっていてすごく綺麗な場所だから、「ピラミッドガーデン」って名前がひらめいて、こんなエリアにしようって。それでキャンドルジュンに、(プロデュースを)やってみるかい? って言って一昨年から始めたんだ。
奥地エリア、ところ天国、パレスオブワンダー、今年はどうなる?
― では奥地のエリアはムーンキャラバンとドッグランだけなくなって、後はそのままということですか?
カフェド・パリとストーンド・サークルは残るから、あのエリアの中で配置をどうしようかと。朝晩キャラバンも残すから飲食やバーもあるよ。新しく考えてるのは、英語で言うバスキン(busking)だよね。ストリートパフォーマンスみたいなやつ。それができる場所を作ろうかと思ってるんだ。演奏者はイギリスから来てる連中になると思うけど。ちょこっと簡単に楽器を弾ける人達ね。この広場もどこに置こうかまだ決まってないよ。
あとね、多分やるけどボーリング場を作ろうと思ってる。あるんだよね、そういうミニレーンていうのが。だから、あのエリアの配置は今度ボードウォークキャンプへ行った時にもう一回現場を見て決めようと思ってる。ボードウォークといえば、今年はダメージが相当大きくてね。今年の冬は水気のある雪がたくさん降ったし、2002年から作り始めて、もう10年も経ってるから限界が来ちゃった板も多いと思うんだ。だから、みんなにボランティアに来て欲しい。次回のボードウォークキャンプは、6/23(土)24(日)と、7/14(土)15(日)16(月)にやるよ。詳しくはオルグに載ってるから、ぜひ参加してもらいたい。
― カフェド・パリのテントは毎年テーマを変えていましたが、今年は去年に続いて同じなんですね?
あそこは毎年俺の思いつきでやってるからね。カフェド・パリは使いやすいんだ。どうしてかって言うと、パリって世界中の音楽が集まってくるところだからね。ニューヨークやロンドンよりも。要するにマルチカルチャーっていうのかな。パリには、ヨーロッパが15世紀の大航海時代に植民地化した場所の音楽が集まってるから。アフリカやジャマイカ、ドミニカ、南アメリカなんかもね。だから音楽の幅が大きいんだ。
みんなはフランスの音楽っていうとシャンソンをイメージするかもしれないけど、俺はワールドミュージックなんだ。だからカフェド・パリっていうのは俺にとっていいテーマ。何でもアリにできるからさ。今年も色々な国の人達が出るよ。この前、加藤登紀子さんに会った時にカフェド・パリの話をして、「こういうのがあるんですよ、シャンソンだけ歌いませんか?」って話したら「やります」っていうことで、出てもらうことになったよ。あとは、知られてないけど日本で昔からやってるZAZAっていう女性シンガー。絶対いいから聴いた方がいいと思う。ZAZAってアコーディオンも弾くんだけど、パティ・スミスがフランスでレコーディングした時、パティが歌ってZAZAがアコーディオンを弾いたんだ。他にも無名だけど面白いアーティストが出るから、ぜひ見に来て欲しいね。
― パレスオブワンダーは、今年どんな感じになりますか?
基本的にはいつもと変わらないよ。夜のクリスタルパレスでやってもらってるウィリーのバンドはね、今年は1920年代のアメリカ禁酒法時代の音楽をやろうと思ってる。知ってるかな? マフィアの時代だから帽子とかかぶってさ、ギャングスターだよね。禁酒法時代のスラングで「スピーク・イージー(speak easy)」ってのがあって、安酒場、隠れ酒場のことを言うんだけど、そのテーマでやろうかと。パレス全体のテーマじゃなくて、ウィリーのバンドだけね。
― ところ天国が今年ちょっと変わるかもしれない、と小耳にはさんだのですが。
スタッフと話して、今年は「和風」にしようと思ってるよ。一部だけどね。できるかどうかわからないけど、赤い毛氈(もうせん)でもひいてお茶でもやろうかって(笑)。時代劇に出てくるじゃん、街道沿いなんかにある茶店ね。江戸時代みたいな音楽流してさ。そしたら誰かが三度笠かぶってヤクザの格好して出てくるとかさ(笑)。
― いつも次から次へとアイデアが湧いてきますね。
100考えたら99はゴミだよね。思いついたものを即行動に移す時もあるけど、翌日になってもう一回冷静になって考えてみようってこともあるよ。本当に面白いのか、本当に現実的なのか、ってね。だからけっこう現場へ見に行ったりもする。10年前だったらまだ場所に余裕があったから、ここにこんなステージ作ろうとかできたけど。今はもう北から南までギリギリまで広げちゃってるからさ。まぁ、まだもうちょっとスペースがないこともないから、将来的にはどうなるかわからないけど。その代り、歩け歩けになっちゃうけどね(笑)。
フジロックが取り組む震災支援
― 去年は震災復興の希望を込めたフェニックスの巨大オブジェがありましたが、今年も何かやりますか?
うん、今年もやろうと思ってるよ。今年は木の海賊たちは来ないけど、フェニックス(不死鳥)はやろうと。奥のエリア全体のデコレーションも含めて6月の末に決めようと思ってるよ。あの辺でちっちゃなサーカスもやりたいと思ってるんだ。
― 去年のインタビューで、震災の支援は「やめてほしい」と言われるまで続ける、とお聞きしましたが、今年は具体的にどんなことをやりますか?
基本的には去年と同じだよ。アトミック・カフェ・フェスティバルをやるということもあるし。俺はハッキリ言って30数年前から反原発だから、去年と同じく福島を色々な形で応援していきたい。だから、また募金をやるよ。今年は復興の年が始まったわけだから、金銭的なことはもちろんボランティアに関しても応援していきたいと考えているよ。
今年も開催、アトミック・カフェ・フェスティバル
― 去年フジロックでアトミック・カフェ・フェスティバルを復活させて、手ごたえはどうでしたか?
手ごたえとかそういうことじゃないんだよね。俺にとっては反原発、他の人にとっては脱原発や減原発かもしれないけど。音楽を通じて、これから先、生きていく上でのエネルギーの在り方について考えてもらいたいんだ。みんな知らないことがあまりにも多すぎるんだよ。
例えば、京都議定書ってあるじゃない。CO2を規制しましょうって。そこで、大気中にCO2を出さないエネルギーを作るとなると原発ありきになってしまうんだ。CO2を減らすにはどうすればいいか? って考える時にそういうことが頭に入ってない人が多いからさ。そういったことも含めてエネルギーについて考えるきっかけになって欲しいんだ。だからって、全部一度に知って、じゃ立ち上がれ、なんて一言も言ってないからね。自分の生活がいかに便利で、その便利さがいかに何かを壊しているのかってことを考えて欲しいんだ。徐々に徐々にで、いいから。せっかく1日に3~4万人もフジロックに来てもらってるんだから、何か少しだけでもきっかけを作りたいんだ。
俺たちは、わかってくれ、なんて言いたくないからさ。こういうも考え方もあるんですよって、少しでも知ってもらいたい。だから、フジロックから家に帰ったら忘れてもいいんだよ。俺はそう思ってる。あとは日常生活の中でテレビや新聞、人の話でも何でもいいけど、また何か聞いた時に思い出してくれたらいいなと。これは俺たちだけの世代の問題じゃないから、ずっと後の子供たちの将来にも関わってくることだからね。
去年の3月11日の後、海外の人達と食事した時に言われたんだけど「どうするの? これからの日本」って。俺は「絶対に立ち直る」って言ったよ。それだけは間違いないと思う。時間はかかるけど、やり直せると信じてるよ。日本は第二次大戦で負けた後、ものすごく貧しくて何もなかったけど、戦後10何年で復興の兆しが見えてきたんだ。それくらい努力をした責任感のある国だと思ってる。たしかに未曾有の大災害だったけど、力を合わせて絶対立ち直れると信じているよ。
― 今年のアトミック・カフェ・フェスティバルは、どういう中身になるのでしょうか?
みんなで今いろいろプランを練ってるところだよ。去年みたいにライブ以外のことも考えてるし。YMOがトークショーをやってくれたみたいに、今年フジロックに参加してもらうミュージシャンでアトミックカフェに賛同してくれる人にはやってもらいたいなと思ってる。6月末か7月頭には具体的に発表できると思うよ。
以上で、大将インタビュー~会場編~は終了です。今回のインタビューでも日高さんの色々な思いを聞くことができました。
今年も盛りだくさんな内容になっているフジロック。次々と面白いことを考えている日高さんの話を聞いていると「お客さんを楽しませよう」という思いが本当にひしひしと伝わってきます。フジロックで、どう過ごしても楽しむことができるのは、ちゃんとエリアごとにテーマを決めてしっかり作り込んでいるからだったり、隅々まで遊べる場所があるのはフジロックの元になっているグラストンバリーフェスティバルと共通しているなと、改めて感じました。
知らない音楽や遊びを教えてくれるのはもちろん、アトミック・カフェ・フェスティバルを通してエネルギーの将来という大きなテーマについて考えるきっかけをもらったり、また励まされたりしたインタビューでした。
実は、フジロック以外のことについても話を聞くことができたのですが、これはまた番外編という形でお届けしたいと思います。もう署名したフジロッカーも多いと思いますが、あの件についてです。
写真 藤井大輔
文 近藤英梨子