• 4万キャパを豪快に揺るがすフジロックのグリーンステージ、音響の秘密 ─ 株式会社クレア・ジャパン シニアエンジニア西村正衛さんインタビュー


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    ヘッドライナーは時代の先頭を走るアーティストや大物がワンマン並みのセットリストと演出でライブを繰り広げるフジロックのグリーンステージ。どのステージやエリアもそれぞれの楽しみがありますが、やはりフジロックの花形といえばグリーンと言えるのではないでしょうか。最大キャパ4万人のスケールで、しかも音量もしょぼく感じることがなく、どんな位置で見ても楽しめる、あのグリーンステージはどうやって実現しているのか?今回は天神山の初回からフジロックに携わる国内最大級のコンサート・イベントの音響を手がける株式会社クレア・ジャパンのシニアエンジニア・西村正衛さんにお話を伺いました。

    雪が残る状態で決断した苗場開催
    結果的にグリーンステージは最良の場所だった

    ─ まず、西村さんの普段のお仕事を教えてください。

    普段の仕事はPAの機材を出したり、オペレートを様々なライブ会場でやります。ちなみにうちの会社は僕も含めてフジロックは第一回目からやってるんですけど、同時にサマーソニックも1回目からやってますし(笑)、単独公演もいっぱいやってます。

    ─ 西村さんの具体的なお仕事といえば?

    僕の場合はたまたまなんですけど、全部やるんですよ。ハウスエンジニアって言って、表のお客さんに聴かせることと、ミキシングすることと、もう一つ大事なのがモニターエンジニアと言ってイヤモニだとか、モニターをミックスする仕事。それ以外は表立って見えてこないかもしれないけど、全部の機材を組み立てる人間とか、ステージでマイクをつないだりするのも、そういうのも含めて、僕、全部やるので。その内容がクライアントとかバンドによって違ってきます。

    ─ フジロックでのお仕事は?

    フジロックのグリーンステージは一番大きいステージということで、僕は仕切り担当っていうか、会社の中ではクルーチーフって呼ぶんですけど、それが一番大事なんですよ(笑)。何時から何時にこれやって、どういう揉め事が起こったらどう解決するか、僕はずーっとそこをやってますね。

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    ─ 天神山での初回開催の話が来たとき、どう思われました?

    もう、超不安。いわば日本でまともなフェスは多分あれが初めてだったと思うんですけど、僕が一番不安だったのは、天気あんななっちゃったけど、実は天気じゃなくて、全部のバンド、リハーサルなし、ぶっつけ本番でやるっていうことでしたね。今は夜中ちょっとやってますけど、あの頃はなかったので、ほんとにできんのか?と。うちの場合、直接日高さんじゃなくて、舞台監督の岡田さんて方がいるんですけど、岡田さんと話をして「いや、海外はこれでやってるからやりましょう」って言ってやったんです。そしたら結果的にそれ以前に天気の問題とか色々あって。だからフジロックがまともに運営を始めたのは苗場に行ってからなんじゃないでしょうか。いろんな歯車が合い始めた、学習効果がみんな出て来た感じだと感じますね。

    ─ 苗場はフェスをやるのにバッチリだったんですか?

    日高さんが「ここでフジロックやりたいんだけど、どうできる?」って言って、「下見に行きましょう」と。そしたら1月か2月で、全面雪になってて「ここがグリーンステージ?」って言っても全然わかんなくて(笑)。「え?そうなの?これじゃ傾斜もわかんないし、もうちょっと雪が溶けてから」「それじゃ遅い」っていうんで、見切り発車で始めた部分もあったんですけど、まぁまぁうまく回ってますよね。

    ─ 雪が溶けてみたら「これは行けるな」と?

    そうなんですよ。話には聞いてたんですけど、グリーンステージの舞台のあるところ、元はプリンスホテルのテニスコートだったって言ってたかな?だからステージ側はアスファルトになってると。でも見えないんですよ?で、お客さんの方が芝生になってて「ああ、これはいいや」と思いましたね。

    苗場での初開催となる1999年のPA。 まだラインアレーが出てくる前で、S4 を片側63本積み上げてた様子。S4 とはクレアのオリジナル PA box。

    苗場での初開催となる1999年のPA。 まだラインアレーが出てくる前で、S4 を片側63本積み上げてた様子。S4 とはクレアのオリジナル PA box。

    開催週の火曜日はグリーンステージ裏で
    スタッフ大集合のバーベキュー大会が!

    ─ 西村さんたちは何日前から現場に入るんですか?

    これ毎年同じなんですけど、僕らは開催週の火曜日ですね。火曜日に行って、PAなんでスピーカーを吊るっていう作業をやったりして。スピーカー吊ったあと、うちの会社クレアジャパン主催のバーベキュー大会を裏でやってるんですよ(笑)、実は。これがなかなか好評で。基本的に僕の知り合いと、もしくはグリーンステージで働いてて、夜空いてる人間が来て。去年だと50人ぐらい来たかな?すごいいっぱい来て。映像さん、照明さん、道具さん、制作、それにホワイトステージの人間もきたし。盛り上がるんですよ、このバーベキュー大会が。

    ─ これから始まるぞという団結式めいた?

    そうそう。「これからフジロック始まる、俺たちも楽しもうぜ」っていう、そういう決起大会ですね。

    Clair BBQ 全体像。

    Clair BBQ 全体像。

    音響チームの綺麗どころに混じった西村氏。

    音響チームの綺麗どころに混じった西村氏。

    ─ でも逆にそんなに食べたり飲んだりできるのはその時ぐらいなんじゃ?

    その通り。そこから先は昼番・夜番組むんですけど、何かしら仕事が多いと回ってくるので、火曜日の夜だけ時間が取れるんですよね。ちなみに去年、冷蔵庫新しくしました(笑)。(写真を見ながら)この人が舞台監督でAU(アストロノミカル・ユニット)という会社の岡田さん。この会社がフジロックの各ステージの舞台監督をまとめて引き受けてるんですよ。で、この人が自分の会社の社員に「ここ行け」「ここ行け」、で、足りないところは外注を呼んで、「ここ行け」と。例えばどっかでトラックがぬかるみに入って動けなくなっちゃったっていえば飛んで行ったりもします。

    ─ グリーンステージは大体何人でやってらっしゃるんですか?

    PAは12人ですね。火曜日水曜日は12人全員でやって、木曜日の夜、ちょうど前夜祭やってる頃からうちらもリハーサルというかラインチェックというか、前の日の準備が出てきて。だから金曜日のヘッドライナーは木曜の夜やるとかになるんで、木金土とその流れで行って、早番、遅番、早番、遅番で24時間体制で回します。

    ─ 前日リハはヘッドライナーだけですか?

    これはスマッシュさんサイドによるんですけど、仕掛けがあんまり大変だったりすると前の日は一個しかできないんです。でもそんなに大変じゃない場合は明け方5時とか、4時とかに終わると、朝8時開場までの4時間でもう一つやらせてあげたりってこともあるんですよ。最近、二つやることが多くなってきてますね。要は朝4時から8時まで空いてても勿体ないだろうということで。

    ─ 開催前の準備自体はいつ頃から始めるんですか?

    社内の準備は前もって倉庫で壊れたりしてないかとか、実際は2週間前からですね。現場行ってこういうトラブルが起こった場合、どう対処できるか?っていうのをシミュレーションして。具体的にいうと、ハウス=表のPA卓が急遽壊れちゃった、どうしよう、できなくなると困るからスペアでもう一台持って行ってる、そういう考え方をしてるんですね。

    2013年。気持ちいい晴れの中の仕込みの様子。

    2013年。気持ちいい晴れの中の仕込みの様子。

    「金を出すからサブ・ウーハーを出せ!」と
    言った、大御所アクト2組とは?

    ─ 今まで機材的にシビアだったバンド、アーティストって誰ですか?

    誰だろな?去年は割と楽勝だったな。かなり昔の話になるんですけど、ケミカル・ブラザーズとプロディジーが一緒だった年。この二つが一緒に出たのはその年が初めてだったんですけど、どっちもサブ・ウーハーを出せ!出せ!って言ってきて。「これでいつもやってるから問題ないのに」って言ってるのに。

    FUJI ROCK FESTIVAL '02 | Photo courtesy of SMASH

    FUJI ROCK FESTIVAL ’02 | Photo courtesy of SMASH

    ─ 2002年ですね。まぁダンスアクトですもんね。

    どっちも打ち込み系で。ま、どっちかというと再生に近いから、ボンボン出したいって言って来て。「これで行けてるから」って言っても「出せ」と。「金かかる」って言ったら「金なら払う!」(笑)。で、結局この年はこの二組のためにいつもの倍ぐらいサブ・ウーハーを出したんです。

    ─ そういうリクエストはあるんですね。そういうベクトルじゃない危機一髪的な人はいました?

    これは何かで舞台監督の岡田さんが喋ったかもしんないけど、豊洲でやった時ですね。一日目が終わった時にあそこは夜中音出せないので、僕たちホテルに帰ったんですね。夜中のうちに下がぐちゃぐちゃになってたのを重機が入ってならしてって、ホットスタッフさんがマルチケーブルのところにパイロンを立ててたんだけど、重機がそれを無視してうちのマルチケーブルの上をバーって通っちゃったんですよ。

    ─ えー!

    で、切れちゃったんですよ。で、こーれはダメだって、夜中4時ぐらいに電話かかって来て、「ニッシーやばい、マルチ、重機で剥がしちゃった」。で、マルチの一部を照明さんにも貸してたんで、照明もつかなくなっちゃった、これやばいつって、その照明のトラック借りて会社に帰って、朝5時ぐらいに別のマルチケーブル積んで持って帰って、2日目の明け方に引きかえて、ま、なんとかやったっていうカツカツの年がありましたね。

    ─ それは現場のコミュニケーション不足からですか。

    そう。あとは重機が入ったのが夜中の3時とか4時なんで、監視の面も甘かったんだと思います。ここ最近は落ち着いて来てますけどね。

    ─ やっぱり苗場で20年もやってると安定してくるというか。

    その通りですね。色々ノウハウもできてくるし、天気のこともわかってくるし。

    私有地ならではの120デシベルOK
    音が吸収される立地も立役者

    ─ 苗場に移った年は、お客さんも「絶対続いて欲しい」っていう熱意もありましたし。

    苗場に移ってから、フジロック全体のことになってくるんですけど、うちはさきほども申し上げた通り、サマーソニックもそれ以外の日本の野外フェスもやっていて、ほとんど野外のフェスって音量規制っていうのが入ってるんですけど、フジロックだけなんですよ、音量規制が入ってないのは。それは私有地だから。周りに民家がない、かなり遠くまでないんで。規制がない、自由にやってくれっていうことなので。そういう意味ではフジロックのグリーンステージのPAのオペレーター、エンジニアの人に「何デシベル下げてください」っていうのがないんですよ。「どうぞ好きなだけやってください」と。

    ─ グリーンステージが広いのにアガるのはそれですね。

    明け方の4時に120デシベルでも構いませんよと、それを責任ある立場、PAなり管理して出さなければ行けないんですね。出せるんで対応しなきゃいけないんです。だから今、野外フェスで音量規制がないの、フジロックぐらいじゃないですか?関東圏なんて全くないですから。

    ─ 120デシベルってすごいですよね。2008年のマイブラの爆音が成立するわけですね。

    もう全然問題ない。それも夜中の3時とかもありなんですよ?それが僕は楽しいんですよ。夜中の3時にバーン!ってやっても文句が出ない。

    2004年。この年からラインアレイにチェンジ。i4 + i4b もクレアのオリジナル。

    2004年。この年からラインアレイにチェンジ。i4 + i4b もクレアのオリジナル。

    ─ あの空間って音響的にもやりやすいんですか?

    やりやすいですね。音響的な話をすると舞台があって客席がある、その一番遠いところが森になってる。コンクリートの壁とか斜面とかになってない、つまり全然音が反射しないんです。森に吸収される。で、人がいても、いなくても下が芝生で音の反射が全くないんですよ。なので、すーごいそういう意味では勝負しやすい、スピーカーから出た音だけで勝負できるんです。

    ─ 当たるものがあったりすると?

    それが邪魔して音が濁ってくるんですけど、それがない。スタジアムとかだといろんなところに平面があるんですよ。宣伝の看板とか。そういうのに音がパーンパーンって反射するんですね。グリーンステージは全然ないんで、そういう意味では恵まれてますね。

    ─ じゃあグリーンステージ関してはスピーカーの設置もそんなに難しくないんですか?

    いや、難しくないことはない。そのぶん、スピーカーから出た音だけで勝負しなきゃいけないんで、言い訳がないんですよ。反射が多いから難しいとか、そういう言い訳ができない。だから全てバンドの力量、うまいバンドか下手なバンドか、いいエンジニアか下手な人なのか、使ってる卓はバンドに合った卓なのか、実際出てる音はどうなんでしょう?っていうのは、全部フェイクなしに出てるシークエンスなので、結果が出ちゃう。やっぱ、下手なバンドは下手ってわかるし。

    ─ 逆にシビアだと。

    グリーンステージに出るアーティストっていうのは、日本人も外国人も気合が入って出演してると思います。3年前に電気グルーヴが出た時は前もってどこかの体育館を借りて、映像込みのリハーサルをして。自分たちのお金で作ってやって赤字だったらしいけど。それはやっぱり気合が入ってきますよね。

    2010年。この年初めて Sub Woofer を吊った。

    2010年。この年初めて Sub Woofer を吊った。

    ─ グリーンステージのPAテント内はどんな感じなんですか?

    今、グリーンステージは表の卓が5台ぐらいあるんですよ(笑)。ヘッドライナー用、コ・ヘッドライナー用、みんなが使うA卓、B卓、後は持ち込みで。いろんな種類の卓が並んでたりしますね。用意しろって言われたものは用意するし。

    2008年はモニ卓が5台。

    2008年はモニ卓が5台。

    ─ どういうレイアウトになってるのか知りたいです。

    (図面を見せてもらう)これは去年のパターンですけど、舞台側からゴリラズのPAと照明とビデオの調整卓が最前で、青の後ろがThe xxのPAとT照明、こその後ろががフェス卓1、2。これが一例ですね。フェス卓は自分たちの専用卓を使うお金がないとか、持ってこれない人とかが使う卓。

    ─ シビアですね。スピーカーや卓も20年の間にすごく進化したんでは?

    変わってますよ。最初は全てアナログから始まってます。フジもそうですよ。苗場きた頃もそうです。何年前ぐらいからかな?多分2005年からデジタルに移行しました。それは僕らの会社でそろそろアナログじゃなくてデジタルにしようかって言って、そのデジタルも何年かすると新しい製品が出るじゃないですか。モニターをアナログ卓からデジタルにしたり。デジタルの利点っていうのはどういうことかというと、ちっちゃくなるとかじゃなくて、どっかにあったデータをUSBで持ってきて入れる、それが再現できるのが最大のメリットなんで、1からやらなくて済むっていう。スピーカーも同じで、最初はでっかいスピーカーを置いてたんですけど、それがラインアレイっていうのが出てきて、ラインアレイも一昨年からうちの新しいスピーカーが出たんで、それを吊るようにしてって感じですかね。

    ─ モニタリング環境はどう変化してきたんですか?

    モニターも大きく変わって、イヤモニの時代じゃないですか。イヤモニ勝負が7割、8割ですよね。ま、それも製品がどんどん新しいのが出てくるので、うちは割と新しいものを入れていってますけどね。

    ─ ヘッドライナーは自前で持ってくる機材の量もハンパないんじゃないですか?

    多いですね。今年のケンドリック・ラマーも今、交渉してる最中なんですけど、、日本で彼らが使いたいものをレンタルしたらいくらかかる?っていうのを試算してますね。その前後に例えば中国行く、韓国行くっていうのがあるんだったら、その土地土地でレンタルする方がいいのか、持ち回った方がいいのか、向こうは天秤にかけてますけど。

    ─ ケンドリック・ラマーはバンドなんですかね。

    ステージで見えるのは本人一人じゃないですか。それを囲むようにトラスを立てて、ドラムやベースが囲まれてる外の見えないとこでやるって言ってますね。

    ─ 今更苗場から他の場所に変わったら大変ですよね?

    大変ですよ。1からやるのは。一昨年、一昨々年は天気良くて、去年久々に雨降ったけど、雨が降った時に屋根のどのへんから雨がもってきてどのへんに水がたまるかみんな知ってるんですよ。フジロックは関わるスタッフみんなで作って行ってるんですよ。そこは他のフェスとは全然違う。綺麗事いうと助け合いですし、みんなで作って行って、みんなで楽しもうってフェスなんで、例えばどっかのセクションがトラブル抱えてるって言ったら「待とうよ」と。「うちはこの時間やるはずでしょ?だからやりますよ」じゃなくて、「いやいやそうじゃなくて、このフェスをよくするためでしょ?」って考え方をみんな持ってる。その頂点に立つのがAUの岡田さん、舞台監督の親玉ね。あの人がそういう考え方の人なんで、大変なこともみんなでやって行く、その代わりみんなで楽しむ、なんですね。

    ─ じゃあ火曜日に入ってバーベキューみたいなことは他の現場では?

    ない。一切ない(笑)。フジロックだけ。やっぱり楽しみなんですね。

    舞台監督親玉、AU 岡田さんが Clair BBQ 大会の火おこしを!

    舞台監督親玉、AU 岡田さんが Clair BBQ 大会の火おこしを!

    (完)


    巨大キャパの野外ライブであれほどノンストレス、大音量であらゆるジャンルの魅力を最大限に引き出す理由は、音量制限のなさという“自由”と、素直に伸びていく音をそのままストレートに出せる立地にあったのですね。最近ではヘッドライナーが入念なリハを前日の夜に行っていますが、なかなか単独公演を見ることができない海外アーティストは、彼ら自身にとっても格別に大事なステージであることが、グリーンステージにかける気合からわかります。さぁ今年は誰がどんなアクトでグリーンに新たな伝説を刻んでくれるでしょうか。スタッフの皆さん全力の仕事にも思いを馳せながら楽しみましょう。

    Text by 石角友香
    Photo by 藤井大輔(インタビュー)、その他は西村氏提供

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