週刊フジ 〜名場面編⑨〜
- 2016/07/06 ● 週刊フジ
LOU REED | GREEN STAGE | FUJI ROCK FESTIVAL ’04
フジロックの好きなところ。それはいつも絶妙なところをついてくる「レジェンド枠」だ。旬のアーティストのステージを観るのも、もちろん大きな楽しみだけれど、毎年「レジェンド枠(私が勝手にそう呼んでいる)は誰かな?」とラインナップ発表に心を弾ませている。何をもってしてレジェンドかはもちろん人それぞれなのだけれど、私にとってフジロックのそのチョイスはいつも期待を裏切らず、唸らせられる。今でも一番心に残って忘れられないレジェンドのステージは、2004年のルー・リード。その年、私は20歳でフジロックに初参加。キャンプなんてしたことがないアウトドアとは無縁の性格だったし、お金もなかったけれど、どうしてもルー・リードが観たくてなんとかチケット代をかき集めた。少し小雨が降っていて肌寒い夜だった気がする。脳みその10%くらいが彼の歌詞でできていた当時の私は、ステージに現れたルー・リードをひとめ見ただけで本当に感動してしまった。ぼそぼそ呟きながらギターを弾くその姿を見て「自分が死ぬまでに絶対に一度は観たかったアーティストを観ることができた」という喜びでいっぱいだったのを覚えている。
ルー・リードの来日は、結局このフジロックが最後となってしまった。年齢に関係なく、一体いつが最後なのかなんてわからないのだなと、去年のフジロックのモーターヘッドを思い返してまた思う。ジョー・ストラマーもデヴィッド・ボウイも観られなかった。自分を形作ってくれた人たちが過ぎ去っていってしまうのはとても寂しい。だからこそ、フジロックのレジェンド枠は私にとってありがたい。それは「あの時観ておいてよかった」なんて単純な気持ちではなく、その時のことを思い出せばちょっとした辛いことなら乗り越えられるような、自分にとって大切な瞬間であり経験となるから。
ちなみにルー・リードが出演した年の最終日のヘッドライナーは、これまたクセのあるレジェンド、モリッシーだった。いや、そのはずだった。そのクセの強さ故なのか、フジロックの歴史の中でも今のところ唯一の「ヘッドライナーのドタキャン」。タイムテーブルは空欄になっていて、初日から「代打は一体誰になるのか」という話題で持ちきりだったけれど、現れたのはザ・スミスのコピーバンド、ジーズ・チャーミング・メン。あの時のお客さんのざわつきと大移動は忘れられない。私はそのコピーのクオリティの高さに感動して(声が本当にそっくりだった!)かなり楽しんだ。そして数年後、とあるイギリスのライブハウスで偶然彼らを発見。「フジロック見てたよ」と話しかけると「あぁ…あれは俺たちにとって最大のステージだったよ…」と少し遠い目をして懐かしんでいた。フジロックの大トリを務めたコピーバンドはきっと後にも先にも彼らだけ。それもある意味、レジェンドだと思う。
Photo by ORG-nachi
Text by Natsumi Arakawa
「週刊フジ」はフジロッカーズオルグのスタッフがそれぞれの観点で、フジロックへの思いを綴るコラムです。毎週水曜更新!一覧はこちら。