【LIVE】TOMOO@日本武道館 2025/5/23 (金) – 武道館という「うつわ」に注がれたもの
- 2025/05/30 ● REPORT
今年フジロックに初出演を果たすシンガーソングライターのTOMOO。昨年「アジア版グラミー賞」を目指し発足された『MUSIC AWARD JAPAN』で、「最優秀国内オルタナティブ楽曲賞」と「最優秀国内オルタナティブアーティスト賞」の2部門でノミネートを果たし、さらに勢いに乗る彼女。
そんなTOMOOにとって、初めての日本武道館ライブは、彼女にとっても、ファンにとっても、間違いなく記念すべきライブであり、記憶に残るライブとなった。彼女が「シンガーソングライター」という一括りにできないアーティストであることを改めて証明した。そんな日本武道館ライブの模様を、TOMOOファンたちに向けて、彼女のことをまだ知らないフジロッカーたちに向けて、レポートしていきたいと思う。
アーティスト紹介記事(2025/05/07公開)
・【FRF’25 ARTIST PICKUP vol.1】TOMOO – 7/25(金)出演
イントロダクション
・開場前のファンダムの温かな交流
・TOMOOのバックボーンを感じる場内BGM
ライブ本編
・”Friday”の武道館に温かい高揚感をもたらしたオープニング
・ようやくこの日が来た!5年越しに叶ったコラボレーション
・初々しさと成熟さが同居したような初期の楽曲たち
・みんなわかっていた、今日がいい日になるということを
・武道館に風が吹いた
・公演名にテーマとなるライブタイトルがなかった理由
・武道館という名の「うつわ」に見えたもの
・TOMOOのポップネスが炸裂したラストナンバー
・TOMOOの次なる舞台はフジロック!
開場前のファンダムの温かな交流
ライブの当日朝、Xのタイムライン上を覗いてみると、たくさんの “YOU YOU”(TOMOOファンクラブの名称でありTOMOOファンの呼称 / 以下「ファン」) たちによる、思い思いの言葉がポストされていた。
地方から遠征してくる人、朝まだ誰もいない武道館の光景を写真でポストする人、駆け出しだった頃の彼女のライブを思い出しながら感慨深さに浸る人、そして「今日はみんなで楽しみましょう!」と行間を空けながら想いを込めて伝える人。それらの様々なポストからは、そこにファンたちの想いがパンパンに詰まっている。
会場に着くと、グッズ売り場があり、ファンクラブ専用テント、CD/DVD/Blu-Ray売り場があって、さらには、この日公開された今回の武道館公演の新メインビジュアルのフォトスポットもあったりして、ファンはまだ開演までまだ何時間もあるにもかかわらず、とても穏やかな表情を浮かべながら、その空間と時間を存分に楽しんでいるようだった。
中でも印象的だったのは、武道館の前で、ファン同士が積極的に交流していたこと。X上から事前に合流を約束していた人がいたり、グッズで売っていたランダムキーホルダーの交換が行われていたり、とても温かみのある光景で、TOMOOファンの人柄が垣間見れたような気がする。
TOMOOのバックボーンを感じる場内BGM
武道館に入って、真っ先に驚かされたのは、360度全開放されたステージセットだった。ここ日本武道館で初めてロックバンドのライブを行ったザ・ビートルズの初来日公演(厳密には320度ほどだった)をはじめ、ポール・マッカートニーや、オアシスのノエル・ギャラガー(ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ名義の公演)などのレジェンド・アーティストたちが名演を残してきた、この武道館の360度ステージ。最近では、センターにステージがセッティングされることが多いが、やはり武道館の北側にステージがある360度ステージには、どこか趣がある。
そんな360度ステージの光景も最高だったが、場内に流れていたBGMもまた最高だった。何故なら、そのBGMセットリストには、彼女の音楽感性を育んできたアーティストの曲が、ぎっちりと詰まっていたからだ。
日米レジェンド・シンガーソングライターの松任谷由実にキャロル・キング、ジョニ・ミッチェルから、現在のポップ・ミュージックシーンの最前線にいるプロデューサーでジャック・アントノフによるユニット プリーチャーズの曲まで。極め付けは、彼女のSSWとしての成長に寄与しているブラック・ミュージック系の選曲。中でもプリンスの ”I Wanna Be Your Lover” は “らしくもなくたっていいでしょう” の曲作り中に彼女がよく聴いていた曲だし、ウルフベックの ”Animal Spirits” は “Ginger” 以降のTOMOOに影響を与えた特別で大切な曲である。
開演前BGMプレイリスト
※武道館公演後にTOMOOのインスタに流れていたストーリーを参照。
そんな開演前の胸アツな選曲に浸っていると、曲のフェードアウトと共に、アンビエントなストリングスサウンドが武道館に流れ始め、TOMOO初の日本武道館公演が開幕した。
”Friday”の武道館に温かい高揚感をもたらしたオープニング
ストリングスSEが流れる中、まず始めにバンドメンバーたちが入場してきたのだが、いつもと比べ明らかに人数が多い。そのメンバーは、”バンマス”大月文太(Gt/BM)、勝矢匠(B)、幡宮航太(Key)、河村吉宏(Dr)ら”いつメン”に加え、パーカッション、ストリングス隊、ホーン隊、コーラス隊が加わった・・・総勢21人という、TOMOOライブ史上最多人数のバンド、その名も『武道館スペシャル』(TOMOO命名)!
その最後に、まるでシンデレラのような白い衣装を身に纏ったTOMOOが登場。場内が大きな拍手に包まれるなか、力強く弾むようなするようなピアノイントロから始まったのは、彼女の名前をオーバーグラウンドへと押し上げた曲、”Ginger” だった。リズミカルに鍵盤を叩き、ポップでキャッチーなサウンドを奏でながら、晴れやかな笑顔で歌うTOMOO。曲が持つポップネスにアクセントを加えるべく、バンドメンバーが軽快なファンクグルーヴを注いでいく。そして、TOMOOにとって”夢”だった武道館のステージに上がる今日を、まるで祝福するようなオーディエンスの大きな拍手に、会場はのっけから一体となり高揚感で満たされた。
続く ”Friday” では、TOMOOはピアノからハンドマイクに持ち替え、カラフルな照明に包まれる中、ステージ全体をゆっくり歩きながらステージを見渡すように歌う。その姿は、まるで「日本武道館」でのライブしていることを噛み締めているようにも見え、思わず「おめでとう!」と心の中で声に出してしまう。そこからサビ前のフレーズ《きっと あと あとちょっと 素直な左手で》を合図に、TOMOOそしてオーディエンスは一斉に左手を上げ、サビで左手を左右に大きく振る。ステージ上では、歌い、飛び跳ね、回る、笑顔のTOMOO。そんなTOMOOとファンたち全員を祝福すべく『武道館スペシャル』によるスペシャルなアレンジが、この曲を一層スペシャルなものにしていた。
「こんばんは!TOMOOです!日本武道館、今日はいい夜にしましょう!」。彼女の思いがいっぱいに詰まった一声から、さらに彼女のポップチューンが連続投下されていく。初々しくもあり、蒼さ溢れる初期のポップチューン ”恋する10秒” では、TOMOOのファニーなヴォーカルに合わせたファンたちの大きな手拍子が会場の温度を確実に上げ、「悪い夢からパッと目が覚め、目の前に朝日が差し込む」そんな情景が浮かぶようなイントロが印象的な”夢がさめても”は、人(ひと)同士の関係と向き合う過程を喜怒哀楽と共に喜劇風に歌う曲だ。「力強さ」と「優しさ」という相反するような二つの要素が混ざり合っていくようなこの曲。特にラスサビの間奏の、優しく温かみのあるホーンとストリングスから続く力強いリズム隊、そしてTOMOOのパッションが弾けるようなヴォーカルに続く流れには、えも言えぬ心地良さがあった。
ようやくこの日が来た!5年越しに叶ったコラボレーション
この日最初のMCが終わって、TOMOOがセンターステージに腰を下ろすと、幡宮のピアノイントロから始まった ”らしくもなくたっていいでしょう” 。彼女が敬愛するプリンスの ”ポップサイドのファンク” をTOMOO流ポップに昇華させたようなこの曲。2番に突入し、ステージ袖から淡いオレンジ色の ”ハコ” を被った人物が登場すると、客席から歓声が起きた。そう、ファンにはご存じ、この曲のMVに登場している、ダンサー兼”しゃかりき”振付師のえりなっちだ。まるでMVを再現するように、2人でダンスすると、そこにMVの独特な世界観とオーバーラップする。そんな情景に興奮してしまい、思わず興奮の声をあげてしまう筆者。
そんな2人の掛け合いをより際立たせていたのが、なんといっても『武道館スペシャル』バンドによる演奏だろう。特に印象的だったのは音源にはない、ブリッジの幡宮の叩きつけるようなキーボードと、河村のグルーヴィーなドラムス、そして大月のプリンス直系のギターフレーズが重なるパートで、そんな強烈なアクセントも相まって、見どころ満載のパフォーマンスだった。
曲が終わり、TOMOOは万感の思いを口にした。「(MVを)公開してから5年越しにやっと叶えました!あらためて、えりなっちに大きな拍手を!せんきゅう!(えりなっちがステージを離れ)なんかね、善は急げって言いますけども、でも5年待って、こうやってこう並んで踊れて、叶ってよかったな、みんなの前で見せられてよかったなって思います」。
序盤から色とりどりなポップソングを歌いあげてきたTOMOO。ここからは、ミドル〜スローテンポな曲中心のパートに突入していく。
彼女のピアノ奏者としてのルーツであるジブリ映画の劇伴をほのかに彷彿とさせるような”地下鉄モグラロード”。『TOMOO Acoustic Tour 2024 “Mirrors”』で披露され、今回の『武道館スペシャル』によるスペシャルなアレンジで、圧倒的な深みと存在感が増した”ナイトウォーク”。そしてアコースティック・アレンジの “17” では、中盤から入るストリングスが、この曲にあるティーンの頃のノスタルジックさをより感じさせるようで、オーディエンスはどんどん曲の世界観に引き込まれていく。
続いて、「(初夏のこの時期に”夏の匂いがした”と感じて)なんか、自分の中の何かのハコの蓋が開きそうな気がするんですよね」というTOMOOの言葉と共にスタートしたのが”コントラスト”。この曲はTVアニメ『アオのハコ』の第二期エンディング主題歌で高校生の恋愛模様がテーマになっている。この曲を、2人のヒロインのうちの1人蝶野 雛の心情と重ねて聴くと、年齢・性別問わず胸を締め付けられずには聴けない曲である。実際、彼女もこの曲の曲作りについて「29歳の自分が10代の彼らとシンクロさせながら作ったら、10代の時みたいな曲の作り方になった」と公言していて、その言葉も相まって、より胸にくるものがあった。そんなハートフルな感情に、まるで寄り添うようなバンド伴奏が包み込み、より曲の感情を濃くしていたような気がする。
初々しさと成熟さが同居したような初期の楽曲たち
今回、TOMOO自身初の武道館ライブを迎えるにあたり、彼女は武道館に向け準備する心境を、彼女の公式X上の動画で、以下のようなニュアンスの言葉で話していた。
「これまで自分がやってきたライブの中の、どれとも比べものにならないぐらい、(武道館ライブに)準備に時間をかけたいなというのはすごく思ってます。その中で、今までの道のりで培ってきたことを、一番ギュッとしたいなって思ってます」
その「一番ギュッと」という言葉、そこから武道館のセットリストが「TOMOOオールタイム・ベスト的」なものなのではないか?と思わずにはいられなかったし、それとは別に、まだ彼女が初々しさ万歳だった頃に書かれた曲を、たんまりやってくれないだろうかという期待もあった。今のTOMOOが、初期の頃の曲をここ日本武道館で歌うと、一体どう見えるのか?そしてどう聴こえるのか?YouTubeのライブ生配信ではわからない何かが見えるんじゃないか?そんな期待があったからだ。次のパートでは、まさにそんな願いを叶えてくれたような、初期の3曲がピアノ弾き語りで披露された。
琥珀色の照明に包まれながら歌った”あめ玉”は、ノスタルジックな空気を作りつつも、現在のTOMOOが歌うことで、ただのノスタルジーではなく、より成熟した曲へと変化を遂げていた。すると、メロディの中から、今までだったら感じ得なかったものが見えたような気がしたのだ。それは「あめ玉自体を構成する小さなカケラたちに小さな光が反射することで見えたカラフルな光景」──。そんな新しい感覚が得られたこともまた、彼女の「現在」がもたらしてくれたものなのかもしれない。
“あめ玉”終わりのMCで、TOMOOは「自分に音楽を続けさせてくれた人」について話した。「私がちょっとよろけそうになった時、その時々に、いつも音楽を続けさせてくれた人たちがいて、その人たちのことを『友人』と呼ぼうと思うんですけど、例え傍(そば)にいなくなっても、私は『あなたがいるまま、歌っているよ』っていう。今、その人たちのことが浮かんできていて、それで歌いたくなった曲をこれから歌います」。
そんな思い出が詰まった言葉から始まったのが、彼女が20歳の頃に書いた曲 ”Your Friend” だった。このミドルテンポなバラード曲は、メロディにおける音の高低差はさほどないものの、TOMOOのヴォーカルからは静かなエモーショナルが感じられる。途中に差し込まれる英語歌詞のパートでは、英語のフレーズを聞いた瞬間に、開演前SEで流れていたキャロル・キングの”You’re Got a Friend”をオーバーラップせずにはいられず、それら二つの曲が重なって、曲に込められた思いがより大きく膨らんでいった。
しばしの静寂を挟み、このパートのラストは ”金色のかげ” 。この曲は、高校時代にTOMOOが出場したYAMAHA主催のコンテスト『The 6th Music Revolution』で見事ジャパンファイナルに選出された時の曲である。そんな思い出あるこの曲を、ピンスポットライトを浴びながら、まるで噛み締めるように歌うTOMOO。そして、そんな彼女の演奏に、ゆっくり体を揺らしながら、じっと聴き入るオーディエンス。曲の後半に入ると、徐々にストリングスが挿入され、ステージ全体を照らす眩い照明も相まって、徐々に目の前が開けていくような曲世界。曲を終えると、万感の拍手が武道館に鳴り響いた。
みんなわかっていた、今日がいい日になるということを
ここでTOMOOは、武道館公演の開催前に自身がX公式アカウントに3つのてるてる坊主の写真をポストしていたことに触れ、そこから武道館の天候・空の色についてファンとまるで友だちのように会話する彼女。時には “TOMOOらしいツッコミ”もあったりして、そこには「確かなファンとの関係性」があり、とても微笑ましくて優しい空間が広がっていた。
そんなMCが終わり、次にスタートしたアップテンポのポップチューン ”雨でも花火に行こうよ” では、オーディエンスの大きな手拍子と共に始まり、サビに入ると右に左に大きく手を振り、武道館全体に一体感を生み出す。ちなみに、ステージ真上に構えられていた円形上のスクリーンには、まるで《窓ガラスに雨が打ち付けられ、雨露がガラスの表面を垂れ流れる》のような映像が流れていたのだが、その映像から「雨」から感じる憂鬱感的なものは、不思議と感じられなかった。それは、曲が持つポジティブなイメージが優っていたからに他ならない。そこに在ったのは、曲前のMCでTOMOOが言っていた言葉──「雨でも晴れでも曇りでも、きっと大丈夫だって思ってましたよ。っていうか、素敵ないい日になるだろうって、信じてました!」へのアンサー、「うん、いい日になるってわかってた!」という感情だったのではないか。
続くファンの中で根強い人気曲、ミドルテンポのポップチューン“ベーコンエピ”は、原曲のハートウォームな雰囲気を増幅させるような壮大なアレンジの伴奏が感動的。曲が終わると、TOMOOはステージから下がり、TOMOO不在の間、長尺の「“ベーコンエピ”オリジナルセッション」が披露された。そのセッションは、原曲の穏やかな曲調を踏襲しつつ、ファンク、ブルース、トライバルビートなど様々なブラック・ミュージックテイストあり、クラシカルなストリングスとホーンもあり、控えめではあったものの『武道館スペシャル』バンドの手練れっぷりが堪能できた時間だった。
スペシャルセッションが終わると、白と黒のドレッシーな衣装に装いを変えたTOMOOが再びステージに上がる。すると、間も無く、スペーシーでアンビエントなSEが流れ始め、さらにSEに散りばめられるように小さな煌めくような効果音が加わると、徐々に次の曲の輪郭が見えてきた。”Grapefruit Moon”──アシッドなシンセのイントロから始まるこの曲で、TOMOOは歌詞の中にある《乾き》という感覚と、満たされている《潤い》の感覚、その間をゆらゆらと行き来するように、抑揚あるソウルフルなヴォーカルワークで表現していく。そして、ミニマムなバンドアレンジは徐々に心を拡張していくようなアンサンブルを生み出し、気が付いたらTOMOOの頭上に映し出された「満月」が温かくTOMOOを温かく照らしていた。
武道館に風が吹いた
アーティストのライブを観ていると、必ずと言っていいほど「今からクライマックスに向かっていくんだろうな…」という寂しい感覚を覚える瞬間がある。理由は人によって色々あると思うが、筆者にとってのTOMOOのそれは “Cinderella” が始まった瞬間である。力強いピアノの音色・打音と共に始まる “Cinderella” は、彼女が「ブラック・ミュージックへの憧れを持って書いた初めての曲」である。しかしながら、メロディやアレンジから感じるそれは、ポップを芳醇なものにするためにほのかに香るR&Bという感じで、そこに加わるTOMOOのソウルフルな歌唱とのコントラストが、この曲を極上のポップソングにしていた。
加えて、この曲の歌詞の根幹にある「人間が持つ剥き出しの愛の感情」。そんな彼女の表現と混ざり合うように、曲の雰囲気を深く濃くしていくバックバンドの伴奏は、壮大なサウンドスケープを生み出し、心は揺さぶられ、感情も動かされ、曲が終わる頃には、曲の世界にどっぷり浸り、筆者はただ呆然と立ち尽くしていた。
すると、そこにフッと爽やかな風が吹いてきた。感情が解き解されるような名曲 ”風に立つ”。TOMOOが何年もかけ蓄積された様々な記憶や思い出、それに連なる感情たちの記録的なこの曲はには、喜びと悲しみ、希望と絶望、それら相反する様々なものが詰まっているようで、そこから畳み掛けられる、自らを解放させるようなポエトリーリーディング ──
《興味がないのも 心動かないのも
誰のことも責められないけれど
”世界が勝手に進んでく”
それを窓から眺めてるような感覚はたぶん錯覚で
死んだように生きるのはもうやめようって思いながら
明日にはまたそれを忘れてるこんな日々に・・・》
《風を待ってた》とラスト力強く謳ったその瞬間、目の前に風が吹き抜けいったような気がした。《風を待ってた》その一言で、モヤがかった目の前の世界が一掃されるようなこの感覚は、武道館で体感したこの感覚は、本当に特別な体験で、この曲を今まで以上に特別なものにした。
公演名にテーマとなるライブタイトルがなかった理由
今回の武道館公演のタイトルは『TOMOO Live at 日本武道館』というとてもシンプルなものだった。いつものライブでは、ライブのテーマとなる「ライブタイトル」がついていた(昨年末に行われたパシフィコ横浜でのライブタイトルは “Anchor”(碇) だった)。
ではなぜ、今回のライブタイトルには ”何もなかった” のか。それには理由があった。ヒントは、今回の武道館公演で発売されていたTシャツのバックプリントに描かれていたオレンジ色の「透明なうつわ」の写真。そう、それこそが今回のライブのテーマだった。そのことに関して、TOMOOはMCでこう口にした。
「今日この場所も『透明なうつわ』みたいになったらいいんじゃないかなって思ったんですよ。(中略)今日は、『あなたがみんながここに来るまでどうだったのか?』、みんなそれぞれいろんな近況があって、あるいは何を思い出していて…とか、そういうみんなが思っているものを、この『うつわ』に注いでもらえたらいいなって思ったんですよね。(そして武道館ライブの)この瞬間瞬間で、うつわに注がれたあなたの思い出を持ち帰ってもらえたら、一番嬉しいんじゃないかなって思ってタイトルをつけませんでした」
その言葉には、ファンのことを思うTOMOOの思いが詰まっているようで、ファンが「ここ武道館に来て本当によかった」そう思える言葉だったように思う。
ここから、ファンの「透明なうつわ」を満たしていくように、異なる色(感情)を持つ3曲が注がれた。カラフルなライティングの下で披露されたアップテンポのジャパニーズポップR&Bソング”HONEY BOY”。TOMOOのチアフルなヴォーカルと強靱で弾力性のあるロックでファンクな演奏が合わさり武道館全体を躍らせたメジャーデビュー曲の”オセロ”。そして、”エンドレス”では、再びピアノを弾き語り、TOMOOが持ち続けている「人と人の幸せの在り方」についてエモーショナルにそして壮大に歌い上げた。
武道館という名の「うつわ」に見えたもの
前述のMCでTOMOOは「うつわ」に込めた意味を、ファンたちに向けた言葉として語っていた。しかし、その思いは同時にTOMOO自身にも向けられたものであることを口にした。
「私、歌いたいことがひとりでに出てきて(気がついたら)そこにある(タイプな)わけじゃなくて、その時々で『透明なうつわ』に何かが注がれて、その注がれたものの『色』とか『形』が透けて見えてくるとか、そういう感じなんですよ。
その注がれる何かっていうのが、例えば自分の身に起こった出来事とか、触れたもの、見たもの。景色とか、目の前の人だったり、色々なんですけど。(中略)豊かさとか、もしかしたら心も、私の中の内側に最初からじゃなくて、どっちかというと外にあるんじゃないかと思っていて、外っていうか、間(あいだ)にあるんじゃないか。
そう思えば、いつの日か自分の中の『空っぽかもしれない』って思うものがあっても、それを嘆く必要はないのかもしれないなって、今になってやっと思うんですよね」
TOMOOらしく、思慮深さをもって語られるその言葉は、一見難解に思えたりもするが、その言葉を少し咀嚼してみると「なんとなくだけど、なんかわかる気がする!」と思えてしまう。彼女の言葉には、そんな不思議な魅力と共感性がある。ここで言う「共感性」というのは「ファンの想像」から生まれるもの。彼女の数々の言葉を自分なりに繋ぎ合わせ、そこから解釈が生まれることで、「TOMOOが言いたかったことは、こう言うことなんじゃないか?」と考え、感情移入し、共感する。故に、ファンはみんなTOMOOというアーティストを好きなんじゃないかと思うのだ。
嬉しそうな表情でそう語ったTOMOOが本編ラストに披露したのは、最大のヒット曲であり、ダンサブルなポップチューンの “Super Ball” だった。ポップなメロディにファンキーなギターとリズム隊がグルーヴを加え、ストリングスとホーンがさらに強靱にしたこの曲は、もはや ”無敵感” が漂う。武道館の中には、煌びやかなライトの光を浴びハンドマイクを手に軽やかに歌い踊るTOMOOと、360度の客席には心身を躍らせるオーディエンスがいる。そこから見えたのは、日本武道館という「うつわ」の中で跳ね舞う色とりどりのスーパーボール。TOMOO、バンド、スタッフ、そしてファンのそれぞれの想いが詰まったスーパーボールが曲の終わりと共にパンっと弾け、様々な色・感情が会場いっぱいに広がっていくその心象光景は、ただただ美しく、深く心に刻まれていった。
TOMOOのポップネスが炸裂したラストナンバー
ライブ本編が終了し、ファンの大きなアンコールの声援の中、TOMOOは再び登場し、今の本音を吐露した。
「はぁ・・・なんか、さっき『ホッとする場所な気がする』とか言っていたけど、やーっぱりライブしてきて、この場所が本当に心底あったかい場所だって思うのは、本当でしたねぇ・・・(とても安心げな表情で)」
そんなTOMOOの言葉に湧き上がる大歓声。続いてTOMOOの口から紹介されたのは、次の曲でこの日初公開となる新曲”LUCKY”についてだった。当初演奏する予定のなかったこの新曲。TOMOOは「みんなとリハーサルを重ねていくうちに、今日があったかい日になるような気がしてきちゃって、その景色・場所の中で『この歌を歌わないと、逆に変な気がする』って思っちゃったんですよね」と語り、初公開することにしたという。そんな新曲”LUCKY”は、ミドルテンポの明るいポップソングで、この日はピアノ弾き語りでの初披露となった(オリジナル音源では別アレンジとのこと)。リズミカルなピアノに乗せて歌われた、温かみのあるこの曲。そして歌詞にある《何度でも言いたい》《君がいて嬉しい》《今日も明日も100年後も》という言葉からは、TOMOOから武道館に集まったファンたちへ向けたメッセージもあったのかもしれない。
「ホッとする」感情が満ちた空気から一転、パーカッションのTaikimE(a)nこと山﨑大輝(Per)によるカホンが叩き出す、明るく軽快なリズムが鳴り始め、一気に会場の空気が変わった。TOMOO屈指のアッパー・ポップ&ロックチューン“POP’N ROLL MUSIC”のスタートだ。TOMOOがオーディエンスに向かって「タオルをみんなで一緒に回しましょうか!タオルじゃなくてもいいんですけどー!楽しんでもらえれば一番いいんですけどーー!」と煽り、曲が始まると、タオルを120%の熱量でブン回す武道館のファンたち。テンションMAX状態のオーディエンスを、さらに限界突破盛り上げるが如く、TOMOOは “奥の手” でファンをさらに煽る。それは、TOMOOらバンドメンバーたちがいつもライブ開始前にやっている定番の掛け声を、ファンたちとシェアすることだった。軽い練習から始まり、どんどんテンションが上がっていくTOMOOとオーディエンス。それに負けじとバックバンドも、とにかく武道館全体を上げまくるサウンドアレンジで応戦する。ポップでロッキンで、ファンキーで、トライバルなビートは、武道館のテンションを、まるでポップコーンのようにポーン!と弾けさせた。ロックの聖地、日本武道館に鳴り響く “POP’N ROLL MUSIC” は、とにかくいちロックファンとしても痛快の一言に尽きる一曲になった。
会場内は、このまま終わってもおかしくない満足感に満ちていたが、「いや、まだ大事な曲をやっていないでしょう?」という期待が高まっていたのも事実だ。すると、ドラムのリズミカルなリムショットから、自然発生的に手拍子が発生。そこから始まったのが、正真正銘のラスト「TOMOOのポップネス」を体現するようなライブアンセム”Present”だった。ピュアな歌詞に、ピュアなポップメロディ、踊らずにはいられないグルーヴが最高に楽しい。バンドアレンジも自然と自由なものになり、パーカッション、ホーン、ストリングス、ゴスペル調コーラスと完全パーティー状態。最後はTOMOOの「せんきゅう!ゆー!ゆー!ゆー!」の万感の挨拶と共に、銀テープバズーカが発射され、銀テープが武道館を舞う中、最高にハッピーな雰囲気を作り上げ、TOMOO初の日本武道館公演は幕を閉じた。
TOMOOが日本武道館公演の裏テーマに掲げていた「うつわ」。この言葉について改めて考えると、「透明なうつわって、もしかしたら自分たちにも当てはまるのでは?」と思えてくる。ファンの中には「自分のイメージカラー」などを持っている人もいたとは思うが、「自分の色」というのを「自分という人間の色」に置き換えて考えてみると、その色をパッと思い浮かべられる人は、筆者も含め、決して多くないんじゃないだろうか。
自分の「うつわ」に何か注がれた瞬間、空っぽなはずのうつわの中の透明な空間に何かが生まれ、心が小さく動き、その瞬間の「感情の色」が浮かび上がってくる。そして、その色の浮かび上がりが、日々が積み重なることで、自分の人生が彩っていく──。この日の武道館での体験は、まさにその積み重ねのうちのひとつの「瞬間」で、観客それぞれの心に生まれた感情は、きっと忘れられることはないだろう。それは「自分が観た良いライブ」をずっと忘れられないのと同様に。
TOMOOの次なる舞台はフジロック!
さぁ、TOMOOの次なる舞台はフジロックだ!彼女がどのステージに出演するかは、この記事が出ている時点では、まだ発表されていないので分からないが、今日のライブを観て確信したのは「どのステージでも、絶対に輝ける!」ということ。その理由は、紹介記事にも書いたように、TOMOOの曲には「曲」「歌詞」「アレンジ」、その全てにおいて喜怒哀楽の様々な感情が込められているからだ。そんな感情を、ポップスを軸に、最高なアクセントとしてブラック・ミュージック的なテイストがあり、時折感じさせるソウルフルなヴォーカルワークをもって歌っていく──。そんな彼女のパフォーマンスを、グリーン・ステージ、ホワイト・ステージ、レッド・マーキー、フィールド・オブ・ヘブン──それら各ステージに当てはめ、想像してみるだけで、その空間に溶け込んでいるTOMOOのパフォーマンスが容易に想像できる。
苗場という広大な「うつわ」には、大自然をはじめ、たくさんの様々なモノやコト、光景、体験、そして参加者各々の”思い”がある。まるで息をするように、大自然の中で音楽を楽しむお客さんもたくさんいる。それらはきっと、TOMOOの「うつわ」にも注がれていくに違いないし、それを受けて彼女がステージで、どんなパフォーマンスを披露してくれるのか、ぜひ注目して観てもらいたいと思う。
text by 若林 修平
<セットリスト>
1. Ginger
2. Friday
3. 恋する10秒
4. 夢はさめても
5. らしくもなくたっていいでしょう
6. 地下鉄モグラロード
7. ナイトウォーク (acostic live)
8. 17
9. コントラスト
10. あめ玉
11. Your Friend
12. 金色のかげ
13. 雨でも花火に行こうよ
14. ベーコンエピ
15. Grapefruit Moon
16. Cinderella
17. 風に立つ
18. HONEY BOY
19. オセロ
20. エンドレス
21. Super Ball
EN1. LUCKY(新曲)
EN2. POP’N ROLL MUSIC
EN3. Present
◆SETLIST PLAYLIST – TOMOO Live at 日本武道館
https://tomoo.lnk.to/LiveatBUDOKANPL
リリース情報
2nd Major Album『(タイトル未定)』
リリース日:2025年秋
※詳細は後日発表
11th Major Single「LUCKY」
京都アニメーション新作TVアニメ『CITY THE ANIMATION』のエンディング主題歌
リリース日:後日発表
※リリース日、他詳細は後日発表
7月6日より放送開始となる京都アニメーションによる新作TVアニメ『CITY THE ANIMATION』は、あらぬけいいち原作の普通の”CITYに住むなんだか楽しい人々の生活を、一文無しの大学生・南雲美鳥やカメラマンに憧れる南雲の後輩・にーくら、ちょっと不思議な女の子・泉わこなど多彩なキャラクターたちを通して描いたガールズ・ラン・コメディ。
公演情報
『TOMOO HALL TOUR 2025-2026』
<ツアー日程>
2025/11/21(金) 栃木 栃木県総合文化センターメインホール
2025/11/30(日) 神戸 神戶国際会館こくさいホール
2025/12/12(金) 北海道 札幌市教育文化会館
2025/12/14(日) 宮城 東京エレクトロンホール宮城
2025/12/26(金) 愛知 愛知県芸術劇場大ホール
2026/01/10(土) 広島 上野学園ホール
2026/01/24(土) 福岡 福岡サンバレスホテル&ホール
2026/01/31(土) 石川 本多の森北電ホール
2026/02/10(火), 11(水) 大阪 フェスティバルホール
2026/02/27(金), 28(土) 東京 東京国際フォーラムホールA
<チケット料金>
全席指定:8,800円(税込)
<チケット販売>
◆TOMOO OFFICIAL FAN CLUB “YOU YOU” 先行販売(抽選)
5月23日(金)21:00 〜 6月8日(日)23:59
※購入枚数制限:1人2枚まで / 複数公演申し込み可
> ファンクラブへの入会・ログインはこちら
> ファンクラブの詳細はこちら
<公演に関する注意事項>
※チケットの転売/譲渡禁止。転売/譲渡が発覚した場合は、いかなる理由があろうともご入場をお断りします。
※ご当選されたご購入者様以外は、いかなる理由でもご入場頂けません。
※チケットの転売/譲渡行為防止の観点から、ご入場時にIDチェック(本人確認)をさせて頂く場合がございます。 ご来場の際は、顔写真付き公的身分証(運転免許証、パスポート等)を必ずご持参ください。顔写真付き身分証をお持ちでない方は公的身分証を2点(学生証、健康保険証、住民票、等)をご持参ください。
※6歳以上有料。ただし座席が必要な場合は5歳以下でも、1名につき1枚のチケットが必要です。小さいお子様にはイヤーマフのご利用を推奨いたします。
>『TOMOO HALL TOUR 2025-2026』特設サイト
<TOMOO公式ファンクラブ詳細>
TOMOO OFFICIAL FAN CLUB “YOU YOU”
ライブのチケット先行予約をはじめ、ここでしかみられない会員限定コンテンツが満載!
◆コース
・月額コース:550円(税込)
・年额コース:5,500円(税込)
◆お支払い方法
・クレジットカード決済
・キャリア決済(月額コースのみ)、コンビニ決済(年額コースのみ)
> ファンクラブへの入会・ログインはこちら
※お使いの端末によっては閲覧できるコンテンツに制限がある場合がございます。
※特典は諸般の事情により予告なく変更となる場合がございます。予めご了承ください。
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