
photo by Takumi Nakajima
■イントロ
今回のフジには、積極的な震災支援活動を展開しているアーティストの出演も決定している。様々なアーティストが、自分たちのやりかたで支援やライヴを行っているのだが、なかなか全部をとりあげることは出来ない。
ここでは、岩手を拠点に活動している「エル・スカンク・ディ・ヤーディ(以下、エルスカンク)」のカツシ、そして、秋田に住処を移した「踊ろうマチルダ」こと釣部修宏を取り上げる。彼らは、そもそも、新百合ケ丘の「チット・チャット」というバー(今年のアヴァロンのラインナップを見てみれば、このバーの常連がなんと多いことか)で偶然会ったということに、交流の端を発している。
ここでカツシに話を訊いているのは、「東北」を拠点としているアーティストだから、ということだけではない。実は、彼は東北を中心に展開する、古着を中心に扱う倉庫「ドンドンダウン」のスタッフ。その倉庫のスペースを利用し、震災後、真っ先に支援物資を集めに動いていたという。
踊ろうマチルダのHPで支援活動の情報が掲載されていたことを受け、以下の本文の要となる『マチルダ運輸』の発足を知り、「少しでも力になれれば…」と、急遽、踊ろうマチルダ・ワンマン@渋谷BOXXと合わせて設けられた、『支援物資募集』の告知をさせてもらった。
もっとも、その時点では、踊ろうマチルダとエルスカンクがフジに出るといった話は入っていなかった。だが、フジロック云々に関わらず、物販チームの全面的な協力をはじめとして、スタッフの家で使わずに眠っていた過去のスタッフTシャツにタオル、そしてジャンパーを中心に、『マチルダ運輸』に委ねる形で、「支援物資」として送ることとなった。数えてはいないが、Tシャツだけでも100枚はゆうに超えていたはずだ。もちろん、その10倍ほど、お客さんからの物資があったのは言うまでもない。
■震災、そして支援活動の開始
今回、釣部に対しては『マチルダ運輸』発足までの話を、カツシには、岩手で物資を分配している倉庫のスタッフとしての側面から、支援のことを中心に訊いてきた。
震災後初めて迎えた週末、3月18日のこと。踊ろうマチルダは、名古屋の得三で夜のストレンジャーズ(以下、夜スト)との2マンライヴを予定していた。ちょうどその頃、釣部は住処を秋田県に移したということもあって、震災後の状況を肌で感じ、最後までライヴに向かうかどうか迷っていたそうだ。結論を言えば、彼ははるばる得三へとやってきてライヴをした。その時のMCでは、通ってきた道のりの状況を伝えるために、慎重に言葉を選びながら話していた。この頃はまだ、お客さんや繋がりを活用して物資を集めるといった動きは見せておらず、協力してもらうことと言えば、ボトルをひとつ用意し、「義援金」を入れてもらう程度だった。
釣部修宏は、震災を経験してからというもの、初の東北ツアーのアレンジを手伝ってくれたカツシのことを考えていたそうだ。名古屋のライヴへと向かうにあたって、まずは秋田の家にある「物資」を積んで、カツシとコンタクトをとってから名古屋へと車を走らせたそうだ。
釣部修宏(以下、釣):やっぱ、鹿角(かづの:秋田県)にいて、地震もきて…とりあえず俺は岩手のかっちゃん(カツシ)が心配で、物資を持って行こうと思って。そしたらかっちゃん自体は大丈夫やって。でも「避難している人がいるから、そこに持って行ったら良いんじゃない」、っていろいろと紹介してくれたのが始まり。それで俺とかっちゃんが繋がっていって、それこそツイッターとか見ながら、「(岩手は)近いから俺も何かやろう!」って思うようになった。
震災の動揺が混じったツアーの中で、ミュージシャンとして、被災地に対してできることを探していたのだろう。翌日の高岡クローバーホール(富山県)でのライヴでは、終演後に「投げ銭」ならぬ、震災のための「チャリティ・セッション」として、秋田出身のミウラ(夜スト)、チャラン・ポ・ランタンのアコーディオン奏者・小春と3者横並びとなり、ポーグスの”ダーティ・オールド・タウン”をはじめ、ザ・ブルーハーツの”ナビゲーター”、”チムチムチェリー”など、普段演奏しない曲を披露していた。それもやはり、「何か出来ないか」という気持ちの現れだったのだろう。
大きな動きとして、眼に見える形で現れたのは4月3日。踊ろうマチルダ・ワンマン@渋谷BOXX。そこでは釣部修宏による事前の呼びかけにより、大量の物資が集まっていた。釣部は物資を運ぶようになった経緯を次のように語った。
釣:東京とかツアー先から(家のある鹿角に)帰るにも岩手は通り道だし、それだったら輸送をやったら良いんじゃないかな、向いてるんじゃないかなってのはあった。要は、かっちゃんが支援をやってたから避難所の場所とかもある程度は知ってたし、知らないところは教えてもらったりもして。最初は、大槌町(岩手県)ってところに行ったんかな。いざ行くと、いろいろ考える。やっぱり俺に出来ることは、「物資を運ぶ」ってこと。
自走して、ライヴをして、ただでさえ労力を使う旅に、「物資を集めては積む」という動きが加わったのだが、それでも釣部は絶えず東北のことを考えて動いている。カツシはそのワンマンで集まった物資を次のように回想している。『マチルダ運輸』が現地に到着した日のことだ。
カツシ(以下、カ):マチルダ運輸には、ハイエース1台と、ワゴンの軽自動車にパンパンにして、持ってきてもらいました。マチルダ運輸は南三陸に何回か行ってるんですよ。集めた物資を直接持って行くのではなくて、一回僕らの倉庫に立ち寄ってもらうんです。そこで、場所ごとに必要な物資に詰め替えてもらって。行く先々ではかなり喜んでもらえましたね。負けじと僕らも地元で動いてたんですけど…ワンマンの時の量には驚きました!
一方の釣部はといえば、ワンマンに至るまでの流れを、次のように語っている。
釣:誰かが「やる」って言えば…ほら、心のどっかに「(支援を)やりたい」って気持ちはあるから。でも、「やりたい」ってなっても、「どうしていいんか、わからん」ってなるから、「じゃあ、俺が持ってく」って言っただけ。そしたら、自然とみんなが集まって来て。ワンマンなんて、ジュニア(アイリッシュ・パンクバンド)のゴウさんも手伝ってくれて。想像以上に集まったからハイエースも借りて、物資を満載にして行ったかな。
確かに、現地の正確な情報はあまり入ってこず、支援しようにも、現地で何を欲しているのかは解らなかった。カツシは比較的被害の少ない地域に住んでいて、いわゆる「被災地」にもアクセスできる土地に住んでいるからこそ、様々な言葉や意見を正面から捉えられたのだろう。それならば、と行政の対応なども聞いてみた。
カ:実は、行政レベルでは物資の受付が終わっているところも多いんです。今の状況は、実際に欲しい物はまだまだあるんだけれど、その被災者の気持ちに対応できる受付場所が無い状態なんですね。他に優先されるところがあるから、どうしても行政の職員の方はそっちに行ってしまう…それもまたひとつの動きなんですけどね。でもやっぱり、「かゆいところに手が届く支援」というのは、ただ闇雲に配るだけじゃなくて、「現地に行って、直接話を聞いてから届ける」ってことだと思ってます。今は、地元で動いている人が、必要な物資を教えてくれるんです。
最初は、直接物資を持って行ってました。その中で僕らの動きを伝えて、賛同していただければ以降もお渡しするって感じでした。でも、やっぱり地元の人の意見があることで、僕らもスムーズに動けるんですよね。僕らだけだと、「服を持って行きますよ」ってだけで、「季節に応じた服じゃない」って断られることもあるんです。あとは、被災地域の真ん中にいるレコードコレクターの友達だったり、バンドの友達にも「状況はどう?」って直接聞いてみたりしていますね。
『活動をする中で、「音楽の力」を感じましたか?』 使い古された言葉ではあるが、聞いてみた。
カ:ほんと、「音楽の力」だったんです。間に立ってくれてる人たちも、過去にエルスカンクのライヴを見てくれてたり、「お前ら、ガンバレ!」って応援してくれてた人たちだったんですよ。だから、今まで僕らが応援してもらったぶんだけ、どんどん返していってる感じです。結果として、団結力は前よりも強くなってますね。
現在の支援の状況と、メッセージや今後の支援については次のように答えてくれた。
カ:今は募集するリストを夏物に変えたりして、Tシャツなどが良い感じで集まってきています。やっぱり、現地からの情報を整理して知らせているので、的確な物資が集まってきていますよ。サイトで新しい情報を更新していますので、確認した上で送っていただけたら嬉しいですね。
現在、釣部には子供が生まれ、東北以外でのライヴは減らしている状況だ。だが、夏の終わりから秋にかけて、再び日本列島をツアーするという話も耳に入っている。本人曰く、「子供が生まれたから、稼がんと」とのことだが、照れ隠しだろう。「踊ろうマチルダ=ワルツィング・マチルダ=荷物と共に揺られる」…この名前が示すとおり、どこかで旅芸人を自覚している。ツアーのついでにバンに物資を積みこみ、カツシや被災者の元へと立ち寄って、そして秋田へと帰ってゆくのはずだ。
■関連アーティスト、出演日時情報
・光風&GREEN MASSIVE × EL SKUNK DI YAWDIE【7/29(金)Gypsy Avalon 21:45〜】
エル・スカンク・ディ・ヤーディは2009年の苗場食堂に出演している。今年は、「民衆レベル」を掲げる光風(クール・ワイズ・メン)率いるグリーン・マッシヴに、即興・無茶ブリ・フェイント…何でもござれのエルスカンクという、気心知れた者同士の組み合わせ。何が起こるかわからないけれど「ヤバい!」ことは確か。お酒を片手に、ヤイヤイやれるはずです。
光風&GREEN MASSIVE:http://greenmassive.com/top.php
EL SKUNK DI YAWDIE:http://el-di-yawd.seesaa.net/
・踊ろうマチルダ【7/30(土)Gypsy Avalon 18:00〜】
かつて、ナンシー・ウイスキーというバンドを結成し活動。トム・ウェイツを愛し、しゃがれ声はいっそうささくれ立って、さらに味わい深くなってきている。”踊ろうマチルダ”、”ロンサムスイング”といった代表曲では旅人の一面を、対して、ラストに演奏することが多い”マリッジイエロー”はド直球の「結婚ソング」となっている。先日は、「夏の魔物」にも出演していた。1日の物販でCDを90枚以上売り上げたこともある。
踊ろうマチルダ:http://odoromatilda.com/