FUJI ROCK FESTIVAL'06 感動記
フジ・ロック・フェスティヴァル感動記第六弾

足元も見えない暗い山道を、大勢の人々が巡礼者のごとくひたすら目的を持って歩いていく。灯りを少し逸れただけで、そこは本物の闇だ。私たちの行く手にある広場は四方を真っ黒の山影に囲まれている。
無心に足を進めていた人々がふと足を止め頭上を見上げる。信じられないことにその山肌の上には流れるように無数の光がきらめき、あたかも星が降りてきたかのようだった。まさに天国の名にふさわしい。FIELD OF HEAVENで見た大自然の闇とミラーボールの光の乱舞を私は生涯忘れないだろう。ライブが始まり、人々が沸き立つ。音楽と光に全身が包まれている。テンションは上がり続け、熱狂しつつふと静かに陶酔して夜空を見上げる。闇にあってこそ光の意味を知る。日が暮れてから以降、こんなにも人の気持ちが沸き立つのは何故だろう。そうか、これがお祭りというものなんだ、と思う。闇の中、山の稜線がそれより一回り濃い闇となって浮かんでいた。闇が原始的に濃ければ濃い分だけ、光の美しさは格別だ。しかも光はミラーボール。雲にまで広場の光が反射している。ありえねー。一瞬頭がクラクラする。処理能力のキャパを超えそうである。一体これは何がどうなってる風景なんだよ。頭の中と外が逆転してしまったかのようだ。まるで走馬燈。人々の上にも、私の上にも光が繰り返し通り過ぎてゆく。
初めてのフジロック。素晴らしい体験は数えきれないほどしたが、今でも脳裏に浮かぶのは深い闇と光である。街から遠く離れた苗場の闇は本当に恐ろしいほどに美しかった。底知れない闇に抱かれて演奏するアーティスト達。何の比喩でもなく、こんなにもロックな体験が他にあるだろうか。もっとも印象的だったのは先に書いたFIELD OF HEAVENでのミラーボールをはじめとするライティングアートだが、他にもオレンジコートでの夕闇(矢野顕子氏のライブはまさに逢魔が時。あの静寂。絶対山から何か神様が降りて来ていた!)、一番深い夜の時間を過ごしたPALACE OF WONDERでの、いかがわしくもワクワクする深い闇など、魅力的な暗がりがたくさんあった。苗場では、真昼の太陽の光でさえ、森の影と同居しているのだ。

全身で音を、光を闇を、雨を土を感じた3日間。五感を持っているということをこんなにも幸福だと感じたのはいつの日以来か。苗場に来てから、普段使っていない脳の部分がガンガン刺激されているのがありありと分かった。足の痛みも疲れも雨や泥の不快さも、もはやその全てが新鮮である。こんなにあっさり感化されている自分にも笑えたが、都会人コンプレックス万歳。この体験に比べれば、全てが小さなことだった。どうせ山奥に住む根性はないし、戻ればまた電磁波に囲まれて暮らすのだからせめてこの体験を焼き付けなくては。ああ、せめて今この瞬間だけでも…
貪欲に五感をむさぼった3日間はあっという間に過ぎ去ったが、今でも目を閉じればそこは苗場の闇。心はまだ、あの興奮の中に置いてきたままである。夢の中で私はまた、光を目指し、暗い山道を行く。
photo by ORG-suzuki, ORG-naoaki
text by Tomomi Kajitani
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